クライアントとは「夢を膨らますこと」を話す

大坪拓摩氏(以下、大坪):多少時間を残してお話させていただいているので、もしデザインだったりキャリアだったり、何でも構わないんですけど、質問をお持ちの方がいらっしゃれば、答えさせていただこうかなと思います。何か聞いてみたいことある方はいらっしゃいますか?

質問者1:大坪さんはクライアントの方とお仕事でお話をされる時に、すごく濃密なお話をされると聞いたことがあります。クライアントさんとどのようなお話をされているとか、どんな意識を持ってお話されているのかおうかがいです。

大坪:最近クライアントさんと話しても、デザイナーの立場を通り越えてしまっている側面があるので、本当にクライアントさんの夢を膨らますということをひたすらしているんですよね。

今日の話で言えば、デザインで知らないだけでこんなに損しているよと知ると、「デザインだけで売上がこんなに変わるよ」という話があったじゃないですか。あれ、ちなみに本当、もっといろんなカテゴリでもあるんですよ。

自分、コピーライターという仕事もやっているんで、文字1文字変えるだけで、売上変わるみたいなことやってたりするんですよね。もっともっと長い文章を全力で書き換えると、本当に売上何倍、何十倍とかなったりするんですよ。デザインと一緒です。

というのと同時に、広告だったり、見せ方、ブランディングとか、あとはビジネスアイデアとかそういういろんな方面でやっているので、「これ知らないだけですごい損していますよ」みたいな話を、よくクライアントさんとしています。だから、「ここまでがんばってここまで行ったらすごいですけど、これ知ってたら、今までの努力で2倍行ってたんじゃないですか」みたいな話はよくするんですよ。

デザインの話を通り越しても「未来」に目をむける

大坪:今日のデザインの話で言えば、みなさんが今までデザインで何か作ったことあったら、「画像とか文字変えるだけで、今たぶん売上2倍になっていましたよ」という話になるじゃないですか。今日の話。あれと同じようなことをクライアントさんにしています。

「え、御社の商品めちゃくちゃいいじゃないですか。これ、見せ方変えるだけで、売り方変えるだけ、販路変えるだけ、ターゲット変えるだけで、売上倍になりません?」みたいな。

「だって今、ニッチな女性層狙っているじゃないですか。切り口変えたらもっとこのカテゴリの女性たちも欲しがりますよ。人口統計見たらこっち2倍いるんで、単純に2倍売れるじゃないですか。今の人たちとそっちのエリアを売れたら3倍ですよ。売上。3倍売れたら生産コストダウンするから、収益何倍になります?」、そんな話をよくしています。

こんなんでいいですか? ぜんぜんデザインの話通り越えちゃいますけど。そんな感じです。デザイナーとして立つ時でも、セールスマンとして立つ時でも、何より大事にしているのは、クライアントさんにより良い未来を浮かべてもらう手伝いをすることだけなんですよ。

そのより良い未来を浮かばせるためのツールが、今はデザインとか文章とかいろいろあるという話ですけど、関わる人たちに「もっといい未来あるよ」という話だけはしています。そんな感じです。ありがとうございます。

「やりたいことが見つからない」と検索する人が多い

大坪:他に何かまだ聞いてみたいことがある方、いらっしゃいますか。何でもいいですよ。人生相談でも。どうぞどうぞ。

質問者2:日本デザインさんの考え方、理念の1つで「日本をよくする」というのがあると思うんですけれども、実際日本にはやりたいことがよくわからないという若い人が多いと思うんです。大坪さんが考える「やりたいことがわからない」とか「やりたいことが見つけ方」って何があると思いますか?

大坪:素晴らしいテーマですよね。無限に話せるテーマだと思うんですけれど、「やりたいことが見つからない」って、自分マーケティングとか大好きなのと、新しいツールとか新しいサービス大好きなので、つい最近知ったサービスの中で、ヤフーさんが検索エンジンに入れたキーワードのデータを売ってくれるというサービスを始めたんですよ。「めちゃくちゃおいしい、このデータ」と思って。

それでいろいろそのツールを使って調べてたんですけど、「やりたいことが見つからない」という検索が今、尋常じゃなく多いんです。そんな感じの空気とかじゃなくて、ファクトで数字がすごい出てるんですよ。「仕事が楽しくない」と調べる人とどっちが多いかと言ったら、「やりたいことが見つからない」のほうがめちゃくちゃ多いんですよね。たぶん就活生とかもいると思うんですけど。

こんなの教えちゃってもったいない話でもあるんですけど、あまり知られていないサービスなので。

そのツールのすごいところは、そのキーワードを調べる前後に、365日間、何を検索したかが見れるってめちゃくちゃなサービスなんですよ。わかります? 人の心の動きが完全にデータで読めるというツールなんですけど。やっぱりその前後結局探しているのって「仕事」なんですよね。

「やりたいことが見つからない」も、基本的にすべて仕事に絡んでいるということが判明しているので、それに関して言うと、仕事なのでやっぱり「いろんな仕事を経験する」。もしくは「いろんな仕事の人とコミュニケーションを取る」でしか解決策はないんですよね。

自分の強みを見つけるための3段階

大坪:その検索キーワードを狙いに行こうとしていたんで、ちょうどいっぱい調べていたんですけど、「自分の強み」とか「個性」という検索キーワードもその前後にあるんですよ。「やりたいこと」のあと、どうやって生きていくかの時に、「自分の強みってそもそもなんだっけ」って調べ始めるらしいんですよね。データで見る限りは。

ちょうど22日に大阪の蔦屋さんでお話させていただく前に、日本妊活協会という一般社団法人もやっているんですけど、そっちで受講生さん向けに有料で話していた話をそのまんまするんですけれど。

「強みってどうやって見つけたらいいですか?」という話がそこであったんで、その時に自分がお伝えした話が、強みって基本的にその現時点での自分が、自分の特長をまず認知することと、認知したあとに比較対象を求めて、比較対象と比べて認識することと、最後「僕の強みだ」「私の強みだ」と認定する。この3段階のプロセスが必要だと自分は思っているんですね。

今まで何万人かとそういう話を教えて、何千人かとはこういう話をしているので、本人が強みだというのを認定しないと、いつまでたってもその人はものすごく強みを持っているのに、強みにならなかったりするんですよ。意味わかりますよね。

みなさんの周りにいるじゃないですか。「○○ちゃんかわいいね」「いやぁ、ぜんぜんぜんぜん」みたいな、誰がどう見てもかわいいのに何で認定しないの? となるケースありますよね。あれ、強みが認定まで行かないと強みにならないです。人間って。

そもそも認定の前に認知してなかったら始まらないわけですよね。自分にはこういう特長があるという特長をまず知るということと、それを比較対象を求めて、他の人と比べて認識して、「じゃあ今現在勝っているね」と言って認定してやらないと、強みってできないですよね。

自分の強みは、フィールドが変わると強みではなくなることも

大坪:自分のやりたいことが見つからない、何かやりたいことを見つけた時にそれを強みにしたいということであれば、基本的にはいろんな人たちと話して、自分の特長を探して、自分の強みはこれだなと認定が始まった時から、「これやりたいな」と探す。そうするとめちゃくちゃ簡単にやりたいことでうまくいくんですよ。ちょっとロジカルな自己啓発ですけれど、このプロセスをあまり言っている人いないと思うので。

これ、自分が小さい頃に学習塾で受けた仕打ちというわけじゃないですが、受けた悲劇があるんです。小学校、中学校の頃、勉強しなくてもたまたまテストの成績がいいほうだったんですよね。学習塾入る前とかは、本当に授業をただ単にメモ取らずに聞いてたら、テストで100点取れるじゃんみたいな。

私立じゃないですよ。一般の学校。簡単だと思ったんですけど、学習塾に行くじゃないですか。学習塾でもそれなりに点数取れてたんですよ。「学習塾なんて簡単なんだ」と思って調子に乗るじゃないですか。

確かに一般クラスの中で成績がよかったので、先生に「上のクラス行ってみる?」と言われました。だいたい悲劇は予想付きますよね。灘とか四天王寺みたいな日本で1、2番のところを受験するようなクラスに行った瞬間、何が起きたかというと、最下位になったんですよ。

これまで「俺は勉強できる」と認定していた強みが、一瞬にしてフィールドが変わった瞬間に強みじゃなくなったんです。「もうやめたい勉強。帰りたい」となるんですよ。もともと勉強していなかったのでやめたいも何もないんですけど。

強みだと思っていたものが、フィールドが変わった瞬間に変わるんですよ。そうやってどんどんどんどん自分が置かれた環境とか、自分の身の回りにいる人との認識とかがあって、強みって変わっていくので、認知して周りとの認識を擦り合せて、最後これが自分で「そうだ」と決めるというので、強みって決まると思っているんですけれど。

やりたいことは、「できた」の積み重ねの先にある

大坪:デザインなんかもそうですよ。今日こうやってみなさん、簡単な話を聞いて「あ、そうなんだ」となんとなくわかりますけど、この程度の話も知らない人が、日本人の90パーセント以上なわけなんです。そういう人たちからしたら、みなさんはすでにセンスを強みとして手に入れ始めているんですよ。

強みとかやりたいことって、こんなに簡単な話なんですよね。やりたいことも、実はやりたいことを見つけるよりも、できることを積み重ねていったほうが手っ取り早いということも事実、データとして出ているんですけど。

やりたいことでも、できないと嫌いになるんですよ。みなさん、小さい頃の学校を思い出してもらうとわかるんですけど、やりたい好きな教科は、実はテストで点数が高かった教科なんですよ。先に「できた」が挟まるから、物事を好きになるんですよね。

やってみたら褒めてもらえた。できたからやりたい。好きというのが完成していくんですよ。みなさん、やりたいことが見つからないって、できないことの中でやりたいことを見つけるって、めちゃくちゃ難易度高いことしてる。

何かやってみてできた。「他の人よりちょっといいかも」とか、この本に書いてあるような内容を知って、他の人に教えたら「○○さん、すごいですね」と言われて、それでできた体験から「これ、やりたい」となって、「デザインやりたい」となったりするんですよね。

やりたいことって、「できた」の積み重ねの先にあると切り替えてもらったほうが到達プロセスは早いと思うので、自分はその推奨派ですね。そんな感じで大丈夫ですか。ありがとうございます。

あと残り9分ぐらいなので、大阪で22日、3日前にお話させていただいた時に、ウケた話があるので、ちょっとスライドに今日はしてきているんですけど、最後それをやって締める流れでいいですか? 質問があったらこのあと聞いてもらってもぜんぜんいいんですけれど。

表紙ができるまでの経緯

大坪:何かというと、「表紙いいですね」と言われて。「この表紙、大坪さんがデザインしたんですか?」と言っていただいたんですけど、ぜんぜん違うんですよ。自分がデザインしたわけじゃないんですけど、表紙がどういうプロセスでできたかということを、その時お話させていただいたらすごいウケたので。

表紙を選定して、表紙をブラッシュアップしていくプロセスって見たことないじゃないですか? タイムリーにシェアできるおもしろい話かなと思って、お話させていただきます。

ちょっと今日、担当してくださった出版社の方がいらっしゃって、すごいしゃべりにくいんですけれど......辛辣な話じゃないんで話しにくいだけなんですけど。この表紙ができるまでですね。大阪で聞かれて、確かにこの話おもしろいと思ってしたんですけど。

一番はじめに出た案、今とぜんぜん違うのわかります? これ。はじめに出たやつです。表紙第1稿、A、B、C案ですね。さっきのデザインのルールで言ったら、文字は基本的にすべて読みやすいですが、イマイチ訴求がパッとしない感じがありますよね。

なので、ちょっとブラッシュアップしたいなという話をさせていただいて、あとは後ろにあるモチーフが、やっぱりデザインセンスと結びつきにくかったりするんですよ。これはスライド見えますか? 

後ろに薄っすら何か絵かイラストか模様が書いてあるんですけど、その中から本の内容とかタイトルにちょっとつながりにくいから、わかりにくいと手に取られにくい。買われにくくなっちゃうんですよ。

パッと見で伝わる本の内容にしたかった

大坪:できる限り、本を書いて、本って木を切り倒して作っているわけじゃないですか。だから同じ本数切り倒すなら、できれば売れてほしいなと思うわけじゃないですか。焼却炉に行っちゃわないようにね。

より手に取ってもらいたいなと思って、もうちょっとわかりやすくしたいなというので、表紙第2稿もA、B、Cがあるんですけど、『見るだけでデザインセンスが身につく本』、フリーペーパーではありそうですよね。この表紙。でもなんか右も左もデザインというのも伝わりにくいですし、「ノマドワーカーの特集です」みたいなフリーペーパーみたいになっちゃっているんですね。

これはパッと見で伝わりにくいぞと。しかも「見るだけ」というのと「デザインセンスが身につく本」というのが、ちぎれちゃっているじゃないですか。これは認識されにくくなるんですね。人間の脳みそでつなげて。

A、B、C案でB案のほうですけれど、これもまだなんとなくA案よりはいいなと思うんですけど、周りになにかアルファベットでいろいろ書いてあるの、わかります? これ、でも何書いてあるかパッと見でわからないですよね。

『見るだけでデザインセンスが身につく本』には、パッと見で伝わる本の内容にしたかったんですけれど、表紙がパッと見で伝わらなかったら「おい!」ってなっちゃうじゃないですか。

メガネのモチーフが選ばれた背景

大坪:なので、グラフ、イラストレーション、レイアウト、カラースキームと書いているんですけど、みなさんカラースキームって何か意味わかります?

イラストレーションはイラストってわかりますね。カラースキームってわかります? 配色なんですけどわからないじゃないですか。わからないものを積み重ねると何が起きるか。

買いたくなくなるので、ちょっと違うなとなったのと、虫眼鏡というモチーフのアイデアは悪くはないんですけど、虫眼鏡ってどういう時に使うかというと、パッと見るんじゃなくて「よく見る」「観察する」になっちゃうじゃないですか。

パッと見るだけでデザインセンスがわかる本のメタファー、モチーフとしては、「研究」になるので不適切になっちゃうんですね。デザインセンスを徹底して身に付ける本とかだったら、別に虫眼鏡でもあり得るんですけど、パッと見で身に付く本になるとちょっと違うねとなっちゃったんですね。

今回これに近いやつですけど、A、B、C案のC案ですね。『見るだけでデザインセンスが身につく本』の肝として、この本の自分の考えていたテーマとしては、デザインセンスってこんなに簡単なんだという、メガネを掛け替えてもらうということができれば、より多くの人にデザインの価値が伝わるなと思ったので、メガネはいい案だと思ったんですよね。

自分もずっとメガネ掛けているんで、メガネの人という印象が強くなるわけですよ。なので「これ、いいな」と思ったんですね。右と左、さっきまでのルールでわかりますよね。どっちの文字が見やすいですか? 左ですよね。左一択となるわけです。この3案の中で、説明が簡単に付くもの、わかりやすいもの、文字が読みやすいものとなったら、これ一択となったんです。

「人にどういう印象を与えるか」を考える習慣をつける

大坪:じゃあ今度、左なんですけど、帯は帯で読みにくいのわかります? 読みにくいですよね。「デザインは左で、帯をブラッシュアップしたいです」と言ってできたのが、この第3稿のA案とB案があるんですけど、デザインの本だったらこっち(3稿B案)なんですよ。わかります?

一番はじめ、冒頭に言いましたよね。この本はデザイン書ではなくビジネス書なんですよ。ビジネス書にパステルのグラデーションはないですよね。でもデザイン書で中身が完全にデザイナー向けだったら、こっちにした可能性はあります。

今回はあくまでビジネスマンに、デザインについて簡単に学んでほしい。入門書として手にとってほしいと思ったので、こっちになったんです。ちょっとした違いですけれども、最終的にこれになったという感じです。

この本の表紙を決めるプロセスも基本的にそうなんですよ。見た人がどういう印象、イメージを持つか。どういう意図が伝わるかというのをすごく考えていくと、こうやって選択していけるんですよね。

自分からすると答えは1個といつもなる感じなんですけれど、見た人にどういう印象を与えるかを考える習慣を付けていくと、比較的みなさんもどんどんデザインがうまくなるんじゃないかなと思います。

デザインを学ぶメリットで伝わる力が付くという話もさせていただきましたけど、こんな感じでみなさん自身がコミュニケーション、どんどんうまくなっていくんじゃないかなと思いますかね。

デザインに興味を持ってもらうための最初の1冊に

大坪:おかげさまで、なかなか自分が要領悪いのと、会社経営をやりながら書いていたので……ちなみにライターさんとか入れずに全部自分で書きました。はじめの消え去った12万文字も自分で書いたんですけれど、本当にお待たせしまくって、始めの企画からどれだけ経ったんだというくらい、時間かかったんですけど。

できあがったものとして、やっぱり今自分が出せるベストとして、すごい良いなと思っていますし、これをきっかけにこの本でデザイナーになれるとは、当然思ってほしくないんですけど、でないとデザイナー商売あがったりになっちゃうんで。

ただ、デザインをやりたい。興味を持つ。デザインって大事だなと思ってもらえるきっかけになる内容は、すべて入っているかなと思うので、読んでデザインに興味を持ってもらえたら、それだけでここまで18年デザインに関わってきた価値があるかなと思います。そんな感じでこれからもみなさんにお役立ちできれば、うれしいなと思っているので。

ぜひこの本をきっかけに、今まですでに損されてしまっていると思いますので、その損を取り戻すということをまず第一にやってもらって、さらにブラッシュアップすれば、今までと同じ労力でもっといい結果が手に入るというのが、デザインの、見せ方の一番おいしいところなので、ぜひそれを享受していただけたらうれしいかなと思っています。

ぴったり9時半ですので、今日はこんな感じで終わろうかと思います。最後までご清聴、応援いただきありがとうございます。引き続きこの本をデザイン書として勘違いして買った方が、星1を付けてくださっているので、ビジネス書として買ってくださったみなさんが、「ビジネス書的にはいいぞ」とレビューで書いてもらえたらありがたいなと思いますんで、今後ともよろしくお願いします。今日はご清聴いただきありがとうございました。

(会場拍手)