なぜ大人は「今どきの若いヤツは……」とイライラしてしまうのか

平賀充記氏:今、僕のZoomの背景が古代エジプトの壁画だと思うんですけれども、なんでこのバッグを使っているかと言うと、実はこれ紀元前5,000年前くらいの壁画なんですが、象形文字で「今どきの若いヤツは……」と彫ってあるという話なんです。

つまり、大人が今どきの若者に対してイラッとしたり、モヤッとしたりするのは、もうこれ人類普遍の課題であるとも捉えられるわけですよ。

なぜなのかと考えてみたら、当たり前の話なんですけれども、人は年齢を重ねれば重ねるほど、自己肯定をしていくために、「自分の今までの経験」を肯定せざるを得ないんです。否定していると、自分が「なんだこれ」みたいなことになっちゃう。

そうした時に、若者の行動を受容する柔軟性は失われていきます。若者を肯定すると、自己否定につながるわけです。「なんでそんなことをするの」という、わからない行動を肯定しにくい脳みそになってきている。だからつい「なんだよ、最近の若者は」となっちゃう。

世代間ギャップを乗り越えるコミュニケーション

もともと世代間ギャップは、互いの価値観を可視化しながら理解しあうことがすごく大事なんですけれども、第一歩は、もともと大人の脳みそがそうなっているということを踏まえて、「自然に否定しちゃうんだ」と自分たちがわかった上で、ちょっと客観的に「そんなに悪くはないかもしれない」と見てあげること。そうすることで、第一歩が踏み出せるのではないかと思うんです。

我々大人世代のほうから若手に少し近づくと、また景色が今までと変わってくるのではないかなという、教訓めいた話です。

では、どうすればいいのか。1つ大事なのは、エンゲージメントというキーワードだと思っています。みなさんもエンゲージメント、ご存知かと思いますけれども、昔風に言うと"愛社精神"みたいな感覚ですかね。

自分が捉えているエンゲージメントは、ここにもありますように、"帰属意識"・"愛着心"。そして、そういうものがベースにあることによって、「会社にお返ししたい」という"貢献意欲"がある状態、いわゆる"絆"ですね。

"絆"が深まっている状態というのは、組織と個がお互いにいい関係であるということ。それが実現できると、その後に"熱意"・"活力"、"自律"・"自走"する気持ちが芽生えてくる。これは、先輩やマネジメントするほうからしたら、きわめて理想的な状況です。では、そのためにどうすればいいか。そこで大事になるのが、"信頼関係"と"成長支援"のコミュニケーションです。

「エンゲージメントツリー」とあるように、木をイメージしています。エンゲージメントが高まることが"葉っぱが青々と茂ること"だと自分としては捉えていて、そうすると、"熱意"・"活力"とか"自律"・"自走"という、彼らがすごくやりがいを持って働いてくれる果実が実ってくる。

そういう葉っぱや果実を実らせるために必要な、幹から養分を送り込むコミュニケーションが、我々からの「信頼関係を築いていこう」とか「成長を支援していこう」というコミュニケーションです。

大切な要素「心理的安全性」

そこに、また大切な要素として"心理的安全性"、そして"サーバントリーダーシップ"。もっと大きい概念でいくと"パーパス経営"。

"心理的安全性"という言葉は、もうこのコミュニティで説明する必要はないかという気もするんですけれども、あらためて言うと、2000年の前くらいから出ていた概念であって、Googleさんによってけっこう世の中に広まってきました。

復習しておくと、「Project Aristotle」というプロジェクトで、Googleさんの中で「どんなプロジェクトが成果を出しているの?」という分析をしたんです。数多あるプロジェクトを解析して仕分けして答えを導きだした。に、そうしたら一番成果が出ているプロジェクトの共通点は、気兼ねなく発言できる、安心して自分をさらけ出せる、雰囲気のあるチームでした。

「優秀なエンジニアがいるプロジェクトとか、そういうのじゃなくて、何でも言いやすい雰囲気があれば成果が出るんだ」ということで、ちょっとざわついたわけです。

対人関係の4つの不安

逆に安心じゃない感じがどういう感じかというと、これが組織によくある「対人関係の4つの不安」と言われるものです。まず「無知だと思われる不安」。わからないと言えず、会議の中でも知ったかぶりせざるを得ないとかですね。あと、「無能だと思われる不安」。「やらかしました」と言いにくいということですね。

そして「邪魔していると思われる不安」。自分の発言が意味をなさないんじゃないか、時間を奪っているだけなんじゃないかという不安です。なおかつ、「ネガティブだと思われる不安」。自分の発言がネガティブだったら余計に、「こいつ、悲観的なやつだな」と思われないかなという不安。こういう4つの不安が渦巻いていると言われます。

これは、自分がサラリーマンとして働いている時も、「職場の中にすごくあったな」とか、「自分も感じていたな」と思うわけです。みなさんも、たぶんそういうことがあるでしょう。

これがない状態。「すみません、それ知りません」とか「しくじりました。ごめんなさい、やらかしました」と言ってもOKとか、意見を言っても否定しちゃってもOKとか、なかなかこれが100パーセント担保されている世界観は難しいかと思いますけれども、こういう職場環境がすごく重要なんじゃないかと言われています。

心理的安全性だけが高いと“ぬるま湯のチーム”に

ただこうなると、なあなあの文化みたいな、ぬるま湯みたいな感じにも思えてしまいます。確かに、そのチームであったり、担っているミッションがまあまあオペレーティブだったり、そんなに難易度が高くないチームの中で"心理的安全性"だけが高いと、それはまさにぬるま湯みたいにも言われます。

でも一方で、けっこう重めのミッションとか、新しい事業開発とか、イノベーティブな仕事をやらなければいけないとか、そういうミッションのあるところで"心理的安全性"が高いと、すごくそれが好影響をもたらして、個々の成長・チームの成長に寄与して、結果、成果が出るとも言われていたりします。

だから、ぬるま湯というよりも、けっこう激しいプロスポーツのチームみたいなことですね。例えばサッカーで、同じチームでもフォワードとバックスがけっこういがみ合ったりしながら試合をやっている。

だけど、それって1つのゴールとか、勝利に向かっているという目的の共通性みたいなこととか、「勝ちたい」という、競争の中で日々やっている中でいくと、こういう"心理的安全性"が高いことが成果に結びつきやすいと言われていたりします。

下から支える「サーバントリーダーシップ」

次に"サーバントリーダーシップ"。サーバントって召使いを意味します。今までの上から引っ張っていく強烈なリーダーシップよりも、どちらかというと下から支えるみたいなリーダーシップが大切なんじゃないかということです。そのへんが"成長支援"と、紐付いているんです。

具体的な事例で説明します。、箱根駅伝ってありますよね。最近は青学が、ぐんぐん力が強くなって、今年も優勝しました。この6年で4回優勝している。青学の原(晋)監督は、このサーバントリーダーシップの代表格とも言われたりします。選手との目線が近いしフレンドリー。

彼のマネジメントで特徴的なのは、、最初から目標配布をしないこと。箱根駅伝で、何時間で走らないと勝てないだろうという目算を立てたとします。目標配布型だと、「1走のお前は何分で走れ」「2走は何分で走れ」みたいに割り当てていく感じになると思うんですけれども、彼はまず積み上げでやるんです。

選手一人ひとりに「お前、どのくらいのタイムで走りたいの?」「お前はどのくらいなの?」と、必ず個人の目標を聞いて積み上げていく。積み上げてみたら、当然、自分の想定タイムより遅くなる可能性だってあるわけです。それじゃあ勝てない。そうしたら、もう一回そこから積み下ろしていって、アジャストしていく。

だけど、本人が自己ベストを出せるかみたいなことを含めてどのくらいで走りたいかという、ここを彼は起点にしているところが、さっきの"成長支援"の1つのポイントなんです。

信頼関係・成長支援のコミュニケーションを実現する5つのアクション

この"信頼関係"・"成長支援"のコミュニケーションを実現するためのアクションが、5つあります。

1の「承認の基本3原則」。これは、簡単に言うと挨拶です。挨拶をアップデートしましょう。

みなさん、朝とかに挨拶する時に、「おはようございます」と言われても、パソコンをカタカタとやって、まったく目も見ずに「おはようございます」と言っているようなことも、けっこう経験あるんじゃないかと思うんです。これ極めてもったいないです。

あと、不機嫌な表情。仕事をがんばっている上長とか、職位が上がるほど、ビジネスの鎧を着て、わりと難しい顔をしている人が多いんです。「不機嫌は人間の最大の罪である」とゲーテが申しているんですけれども、不機嫌な顔をしていて、いいことは1ミリもないんです。なので、そういったベーシックな部分を、まずやっていきましょう。

2つ目は、「傾聴と自己開示」です。傾聴って、"心理的安全性"を高めていく上で、直結しているコミュニケーションなんです。なぜならば、言いたいことが言えるというのは、聞いてもらえる環境があるからです。だから、聞く能力を身に付けるということです。

できる人になればなるほど、聞きながら次に何を言うか考えています。だから、"ながら"なんです。なんなら、話している途中から食い気味で「いや、それはさ」みたいな。食い気味のトークを続けていると、それをずっとやられている人はちゃんと聞いてもらえなくて、病んでいきます。

その真逆が傾聴です。まずちゃんと受け止める。ちょっと概念的な話なので、難しい部分もあるんですけれども、まずは間を置くこと。ちょっと頷きとか相槌を入れたり、「まず何か言う」ではなくて、いったん受け止めること。物理的な時間を置くことからやっていく。

もちろん聞いている体だけだと駄目なんですけれども(苦笑)、それが第一歩です。まず、そうやって聞いていく・受け止めていくことができていけば、若者にとって言いやすい環境が当然できてくるわけです。

今どき若手社員もがんばれる「納得感」の重要性

そして、「怒りを叱るに変える」。"怒り"ってけっこう衝動的な、感情的なものですけれども、それを"叱る"に変えるというのは、相手へのリクエストとして客観的・冷静に伝えるということです。

"怒り"の源泉は、理想があって、その理想にうまくフィットしてくれないという、ギャップに対して出てくる感情なので、そこをうまくコントロールしていきましょうというのがアンガーマネジメントの考え方です。このへんが、信頼関係を築いていくポイントになってくるかと思います。

4の「目的を擦り合わせる」、5の「耳の痛いことを伝えきる」というところを、ちょっとだけ深掘りして解説したいと思います。「それって意味あります?」には、目的をどう語っていくかですよね。

"外発的動機づけ"と"内発的動機づけ"、ご存じですかね。両方大事ではあるんだけれども、外からの刺激でモチベーションを高めるよりも、中から湧き出るやる気のほうが長時間もつし、クオリティも高いと言われます。

そのためには、ちゃんと目的を共有する。それによって納得感が持てる。そうするとやる気が出て、自分たちから動いてくれる。いわゆる"やる気スイッチ"が入る。だから、目的共有・納得感の醸成がすごく大切だと。今の若い子はわりと真面目だから、納得さえすればがんばってくれたりするんです。"スイッチ"を入れるポイントが、目的を共有するということです。

今の若者にとって大事なのは「お金」よりも「時間」

また言い方の問題もあって。その仕事の目的を共有する時に、その仕事をやった後に「君にとってどういいことがあるんだよ」というふうに翻訳して言ってあげると、より動き出します。

例えば、「本当に言われたことしかやらないよね」と思ったりする大人も多いと思うんです。でも、若手からすると「言われたことをやったのに怒られるって、おかしくないですか」みたいな。

だとした時の言い方は、「言われたこと以上のことをやったら、そのぶん評価が高まり、"信頼残高"が貯まっていくよね。"信頼残高"が貯まるということは、当然、評価が上がるよね」という流れです。

ただ、ここからが問題。「評価が上がったらお給料もあがるよね」。若者にとってのいいことを伝えているつもりなですが、今の若者って、あまりお金は刺さらないんです。お金が"ニンジン"になりにくい。

彼らにとってすごく大事なのは時間です。「信頼されるとどういいことがあるかというと、仕事を任せてもらえる。任せてもらえるということは、チェックが入りにくい。マイクロマネジメントされなくて済む。

仕事を振られて、そこから納品までの細かいチェックなく、「お前に任せた」と言ってもらえるんだよ」と。そうしたら、やりたいように仕事ができる。「今日は残業したくないから、早く帰って明日やろう」とかでもいいわけです。

要は、「キミの仕事がやりやすくなるんだよ」ということ。「だからそのためには、言われた以上のことを返しておくとお得じゃない?」という説明のしかたをしていくと、彼らにとっては「なるほどね」という感覚になっていく。こういうベネフィットの翻訳・目的の翻訳みたいなことができていくと、すごくコミュニケーションが取りやすくなるだろうと思います。

フィードバックで重要なのは「伴走」すること

そして「耳の痛いことを伝えきる」。目的を伝えて仕事がスタートしても、なかなかそれどおりにいかないも多々あります。そこは、進捗確認しながら軌道修正していく必要があります。その時のフィードバックのしかたが難しいですよね。

何にせよ、折れやすいということもあるので。気を使って遠回しに言ったら、ぜんぜん伝わっていなかった。かといって、厳しく言うとすぐ折れる。このへんをどうするのか。

ヒントになるのが、フィードバックの構造を2つに分解してみるということ。フィードバックにはスパイシーメッセージングと、ラーニングサポートというフェーズがあります。

一般的にフィードバックって、きついことを言う、厳しいことをちゃんと伝えるのがメインだと思いがちなんだけれども、実は大切なのはのラーニングサポートだよと。

「じゃあ、その次にどうしていくの?」と、まさに"サーバントリーダーシップ"スタンスで、ここを伴走しながらやるんですね。ここに力点を置いて考えましょうというのが大事です。

なぜならば、後ろの立て直しがメインになってくると、こっちも気が楽になって、最初にきついことを言ったとしても、「後ろで挽回できるよね」という気持ちが湧くんです。それがないと、「きついことを言っていいのかな」と、すごく中途半端な気持ちになっちゃう。それもあるので、ラーニングサポートに力点を置いたフィードバックをまず意識することが重要です。

厳しいことの言い方もいっぱいあるんですけれども、これは「SBIメソッド」を活用しましょう。簡単に言うと、「事実は事実として、きっちり客観的に、あかんことをあかんと言う」ということです。

未来の話をすることで印象は変わる

そして、その後のラーニングサポート。それをやっていく上においては、当然、話の主役はメンバーなので、聞くことに重きを置いて、7割くらい彼らに話をしてもらう。立て直しも、「どうしたい?」「どうしようと思う?」ということを自分から言わせることが、とても大事です。

最近、フィードバックという言葉を「フィードフォワード」という言葉に変えて使っている企業もありますよね。フィードバックと言うと、さっきのスパイシーメッセージングに偏りになりがちなんだけれども、フィードフォワードなら未来の話をしている、立て直しに重きを置いているという印象で伝わりやすいので、ということで言葉自体を変えてみる。これもありですよね。

いったん私のプレゼンテーションは以上です。さっき言いました「エンゲージメントツリー」という概念を、ぜひみなさまに覚えていただければということ、そのための5つのコミュニケーションのアクションを、ぜひ実践されるといいんじゃないですかね。

ちょっと駆け足になってしまった部分もあるので、ここは宣伝チックで申し訳ないですけれども、この『イライラ・モヤモヤする今どきの若手社員のトリセツ』という本にがっつり書いてあるので、よかったらご一読いただければ、さっきの"トリセツ"みたいなところは、よりおわかりになっていただけるかと思っています。

ご清聴ありがとうございました。