働き方の研究家が語る、今どきの若手社員のトリセツ

平賀充記氏:あらためまして、よろしくお願いします。35分なので、めっちゃ早口かもしれません。すみませんがお付き合いください。

僕はもともとリクルートに30年くらいいまして、もっぱら求人領域で、いろんな求人メディアの編集長をやっていました。後に人材部門の執行役員をやった後、今は働き方の研究家というかたちで活動しています。

実は名古屋はすごく縁深い土地でございまして、通算でいくと11年くらいリクルートで名古屋勤務をしていました。1回名古屋に行って、1回東京に戻って、また名古屋に行くようなかたちです。

名古屋に「にっぽんど真ん中祭り」があるかと思いますけれども、実は僕はそこの評議員をやっていまして。リクルートでも毎年踊りに出ていたんですけれども、リクルートを辞めた後もまだ踊っていまして、今は史上最年長踊り子としてやっています。

さっそく本題にいきたいんですが、ご紹介がありました新刊『イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ』を書かせていただきました。

『イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ』(PHP研究所)

2019年にも若者関連の本を出したんですけれども、そこから1年経って、コロナ禍となりいろいろと環境の変化がある中で、「若者に対しての接し方もアップデートすべきなんじゃないか」というところで、またフィールドワークなどのいろんな調査をやって、この本に落とし込みました。

生き生きする若手と、気を遣って萎縮する上司

2019年は働き方改革法案が施行された年なんです。どっちかと言うと、「今までのブラックな働き方とか長時間労働とか、そういうことを是正しなきゃ」という時代でした。あと、ハラスメントの問題がかなり取り沙汰されていましたよね。

とはいえ、まだまだ上長がパワーごりごりな感じで、若手のほうがややデリケートで「若手をケアするかたちでマネージすべきですよね」という風潮だったんですけれども、それが一気に変わってきましたね。

テレワークも入ってくるわ、それこそ働き方改革もあるわ、何か言うとハラスメントになるわというので、どっちかと言うと若手のほうが生き生きしていて、上長側、マネジメント側がめちゃめちゃ気を遣いながら、むしろ萎縮しながらやっているという、そういう構造に変わってきている感じがあります。

よりミドルマネジメントの悲哀が感じられる昨今かなという印象を受けながら、この本を書かせていただきました。

反抗的でも従順でもない、Z世代が育った時代背景

まずはそういう若手が育ってきた時代背景をおさらいしておきましょう。そもそも「Z世代」とは、1990年代後半に生まれた人、もっと狭義でいくと1997年以降に生まれた人とも言われています。

(1990年代後半は)どういう時代だったかと言うと、当然、昭和のバブルが崩壊して、平成不況といわれる時代。そんな中で生まれ育っている。

とはいえ、高度経済成長を経て、生まれた時点で日本は貧しくない、わりと豊かな国でした。そういう中で生まれているんだけれども、先々の展望があまり明るくないという状況の人たちです。だから決してイケイケドンドンではない。

それから教育改革について。ここを話すと長いんですけれども、日本の近代教育の根本は、明治維新まで遡ります。あの時代に教育体系が形作られています。そしてそのベースにあるのが富国強兵政策です。どういうことかというと、要は「軍隊を強くしなきゃ」なのに、当時徴兵で若者を集めるんですけれども、まったく統制が取れなかったんです。

「軍隊に入ってイチから教えてる場合じゃねえじゃん」ということで、学校教育からちゃんと統制が取れる状態、いわゆるピシッとした上下関係を、教育の中で教えたほうがいいとなったらしいんです。そこから、150年来ちゃったわけです。

ゆとり教育とは、カリキュラムがゆったりしたというだけではありません。上下関係を律した教育だと、「そうなると個性がない」「イノベーションが起こらない」とかいろんなこともあったので、自主性とか主体性を重んじる教育に変えていこうと。だから「No.1よりOnly one」「キミの個性でいいんだよ」という感じの育て方をしていこうという、教育方針の大転換でもあったんです。

だから厳しい指導も減少する。なんとなく最近の若手は、「すごく反抗的なわけでもないんだけれども、すごい従順な感じでもない」という傾向があるように思います。

結婚観は、理想の“3高”から現実的な“4低”へ

そして技術の進化。まさに「生まれた時からインターネットがあった世代」。これが非常に大きな影響を与えていますよね。

さっき言った「イケイケドンドンではない」というところを示す1つのキーワードとして、“4低”というのがあるんですけれども、みなさん“4低”はご存知ですか。実は結婚観を示す言葉でございまして。

バブルの頃はそれこそ“3高”と言われて、僕の青春時代は、女性は「こういう男をつかまえなさい」と躍起になっていたわけです。「高学歴・高身長・高収入」。まあ、高身長が関係あるかどうかはわからないですけれども(苦笑)、とにかく「こういう男をつかまえたら人生安泰よ」ということでした。ただ、この時代は専業主婦が前提で、そういう価値観ではあったかと思いますが。

今、これが“4低”と言われているんです。「低姿勢」、偉そうにするなよ。「低依存」、家事も分担してね。「低燃費」、でもお金使わないでね。「低リスク」、クビにだけはならないでね。高学歴・高収入の時代からすると極めて現実的というか、ちょっと夢がないというか......。

僕なんかがこれを見ると、「女の子、本当にこんなのでいいの?」って思ったりもするんですけれども、このくらい現実的な価値観に変わってきている。ちょっと極端な事例ですけれども、こんなことがあります。

フラットな関係性を好むデジタルネイティブ

そして、「デジタルネイティブ」について。Z世代と言われる1997年から線を引いてみると......。も、「Google」や「Amazon」が日本に上陸したのが2000年。Z世代は産まれてすぐインターネットがあったわけです。

そして幼稚園くらいの時には、SNSというサービスがあった。今の若者はだいたい中学校くらい、塾に行き始めた時からもうスマホなので、日常がSNSを駆使したコミュニケーションになっていくわけです。こういう世代なんです。

そんな世代の特徴をまとめてみます。これも自分の本にも書いているんですけれども。まずは「なんだかビミョーに上からだよね」という特徴。上下関係にすごくアレルギーを示すんですね。フラットな関係性を好みます。SNSでは肩書きとかそういうのでつながっていくのではなくて、基本は横の関係性です。だから「友だちの友だちの友だちに孫正義がいた」みたいな、そういうかたちです。

肩書きとは関係なく、フラットにお付き合いできる関係性が基本なので、「課長、そのアイデア、普通にいいっすね」みたいなことを言う若手がいるんです。こっちはそう言われると内心イラッとするんだけれども、そこで声を荒げるのも器が小さい感じもするから、なんとなく言いはしない。でも釈然としない。

「若手は褒めて伸ばす」時代ではない

それから「すぐに折れるし、褒め方も難しい」という特徴。当然ながら。折れやすいというのは、みなさんもご存知でしょう。

最近よく言われているのが「褒める」ことについて。「若手は褒めて伸ばす」という話があったんだけれども、実はこれも違うと言われています。最近『先生、どうか人前でほめないで下さい』という本が流行ったりしていますけれども、人前で褒めるのを嫌がるところがあるんです。悪目立ちしたくないから。

あと極めて合理的なので、すぐ「それって意味あります?」と聞いてきます。本当にこの言葉はよく聞きますよね。昔は「とりあえずやれよ」「いいからやれよ」と言っていたというか、我々はそう言われて育ったわけですけれども、これはもう今では禁句に近しいところがあります。

それから、「人生100年時代なのになぜか生き急いでいる」。寿命は伸びているんですけれども、「若い時に成長しなきゃいけない」「あれをやったら次はこれをやらなきゃいけない」という感覚がすごく高まってきています。

そしてデジタルネイティブなので、「ITに疎いと露骨に嫌な顔をする」。世の中にハラスメントはいっぱいありますけれども、パワハラに代表されるように、だいたい上から下へのハラスメントが多いんです。

でも最近は「テクノロジーハラスメント(テクハラ)」という言葉がありまして、これは下から上へのハラスメントが組織で起こるようになったことを表しています。ITに疎いおじさんたちが、若手に「チッ」と舌打ちとかされながらやっているような、すごく生きにくい時代になってきています。

24年卒は「真性リモートネイティブ」世代

もう1つ新しいキーワードとして、「リモートネイティブ」という言葉があります。2022年卒、つまり今年の新卒の方々は、大学3年生になった時にコロナに出会ったんです。日常のキャンパス生活と授業を、オンラインで受けることが当たり前になってしまった時代です。これを「リモートネイティブ第1世代」と言っています。

2021年卒の人たちも学生時代にコロナに出会っているんだけれども、もうこの時は就活だったんです。これはこれで大変だったと思うんだけれども、ある意味、非日常のイベントをコロナの中で乗り切ってきた人たちということで、日常がオンラインになったのは2022年からなんです。

2024年卒、今からインターンシップをやって就活する大学3年生の子たちは、大学1年生の時にコロナに出会っていますから、彼らは「真性リモートネイティブ」です。

キャンパスに行ってないから、サークル勧誘のビラをもらうこともなく、仕方なく自分でTwitterでサークルを探すような、そんなことを強いられた子たちです。いずれにせよ、こういう世代が社会に出てくるんです。

知人の大学の先生は、ハイブリッド授業(「教室に来てもいいよ」「オンラインでもいいよ」という授業)をやってみたら、誰一人来なかったとこぼしていました。

一応「リアルでもやるよ」と言っているから、先生はリモートというわけにもいかず、130人の大教室で、誰もいない机に向かって、1人紙芝居のように90分講義をするという、極めてシュールな体験をしたらしいです。めちゃくちゃ切ない感じの光景が広がっていたりするんですよね。

2022年卒のある大学生のコメントを紹介します。「リモートを1年間経験したら、大学生活において最低限求められることは、すべてリモートでも滞りなく行うことができる」「対面でやることの必要性が揺らぐ大きなきっかけになった」と。これを僕は「リモート脳が覚醒した」と言っています。今後は大きく変わってきますよ。

若手のみなさんは、「テレワーク当たり前じゃん」という感覚で入社されています。そのうちに「出社するって意味あります?」と聞いてくる子たちがでてくる可能性があって。「会社に行くってこういうこと」って、そこから説明しなきゃいけない時代がやってくる可能性があるんです。

SNSで生まれた「デキるキャラ」の強迫観念

こういうイマドキの若者たちとの職場の中での残念なすれ違いを、事例としてお伝えしていきましょう。まず、さっきの「すぐに折れるし褒め方も難しい」という話。

もちろん、我々、大人側がつい強く叱責してしまって、折れることもあるけど、期待してプロジェクトを任せてみたら、折れて会社来なくなったりするりすることもある。「なんで?」と思ったりするんですけれども、実は本人たちもなんで折れたか分かってないケースもある。自分は「もっとデキる」と思っていたのに、折れたということが多いんです。

実は彼らには「意識高くないといけないんじゃないか」という強迫観念があるんです。その背景は何かと言うと、やっぱりSNSなんですね。

自分の同期とか大学の友だちとかが、めちゃめちゃいい投稿を上げるわけですよ。だいたいSNSっていい話しか上げないから、「チーフになった」とか「お給料増えた」とか「こういうプロジェクトに入った」とか、そういう投稿や写真を上げていたりするわけです。

そうすると、「自分だけ置いてけぼりになっているんじゃないか」と感じてしまう。そもそも承認欲求だけは高いので、そういった意味で「がんばんなきゃ」と思う。そうすると、つい無意識のうちにも「デキるキャラを演じる」というか、素の自分よりも5ミリくらい何か被っているような感じに、ついなってしまうんです。

途中で折れてしまうのは「違うキャラ」を演じているから

どんなイメージか説明すると、その昔、芸能人運動会に元SMAPの木村拓哉さん、キムタクが出ていたんですよ。で、キムタクが徒競走で必死こいて走って、1位でゴールしたんです。

その時に、本当に必死でギリギリで1位になったからか、感極まって「伊達にキムタクやってんじゃねーぜ!」と叫んだんです。「いやいや、キムタクはあなただし、あなたそもそもキムタク本名じゃないですか」という感じなんですけれども。

何が言いたいかと言うと、もうおわかりのように、彼は「キムタク」というキャラを演じているわけですよね。ファンから求められている“キムタク”を演じるということを、日々彼はやっているから、そんな格好いい“キムタク”が徒競走で2位というのは、ありえないわけですよ。だから本当に必死こいて、なんとか1位でゴールしたんです。

こういうのと同じような感覚が、今の若い子にもあるんだろうなと思います。キムタクほどではないにせよ、ちょっと芸能人的な、違うキャラをまとっている。そんなことがあったりするわけなんです。

今、Twitterにしてもインスタにしても、アカウントっていろいろ複数持てたりするんです。なので普通の素のアカウントもあれば趣味のアカウントもあるし、なんなら裏アカといって、もうどす黒い話ばかりするアカウントもあったり。

キャラクターを使い分けることとか、本人から幽体離脱したキャラクターになることが自然になっている部分もあるので、意識してキャラを演じている場合もあれば、無意識的に違うキャラクターになっていることもある。

プロジェクトを任されたらうれしいから、最初はがんばるんだけど、背伸びしているキャラだから、やっぱり途中で折れちゃうんですよね。こういうことが起こっているんだろうなと考えています。