面接で「直接的に聞く」のは難しい

ハヤセ氏(以下、ハヤセ):今、お話の間に新しい質問が入ってきたので、確認していきたいと思います。

これから1次面接に臨む現場のマネージャーの方からの質問で、「ふだんは人事担当者じゃないのですが、直接的に聞きたいことをうまく聞くテクニックはあるのでしょうか?」。

先ほど直接的に聞くとかたくなになるので、婉曲的に聞くテクニックを1つご紹介いただきましたが、もし他にもありましたら、お話しいただけないでしょうか。

曽和利光氏(以下、曽和):直接的に聞きたいことをうまく聞くのは、むしろ僕はやめたほうがいいかなと思っています。例えば、やりきる力がある人に対してどんな質問をしたらいいですかとよく聞かれるんですよね。

なんでそんな質問をするかというと、おそらく、こういう能力を聞きたかったらこういう質問を、こういう性格を聞きたかったらこういう質問があるという質疑の1対1対応が前提にあると思うんです。でも例えば「今までのキャリアの中で誇れる仕事ってなんですか」という質問の中からでも能力や性格は聞けると僕は思っています。

つまり「学生時代に力を入れたことはなんですか」という質問から、どんな性格でも能力でも引っ張り出せるので、質問と聞けることは1対1対応じゃないと思う。

むしろどんな質問からでも(必要なことを)聞いていかなきゃいけない。だからすごく簡単に直接的に聞くのは難しいことかなと思います。

そんなに工夫して質問する必要はない

曽和:むしろ、「直接的に聞かないほうがいい」と言ってるのは、直接的に聞こうと思ったらどうしても誘導尋問みたいな感じになるからです。

例えば好奇心であれば、「今まで好奇心を持って何かにトライした経験があったら教えてください」と言うと、そういう話が聞けるわけです。ただこう言ったら相手がその質問によって、どの能力を見ようとしているのかが事前にバレてしまうので、話を作られたり盛られたりしてわかりにくくなるような気がするんですよね。

ですから、別に直接的に聞くのではなくて、質問は、むしろジェネラルに、いろんな場面のいろんな行動をちゃんと聞いていけばいい。それぞれのエピソードからどこに光を当ててジャッジをしていくのか、トレーニングをしたほうがいいんじゃないかと僕は思います。

そんなに工夫して質問する必要はないと思ってます。例えば新卒だったらガクチカで何個かエピソードを聞いて、あとは会社を選ぶ基準と、うちの志望動機、自分の強みを最後に聞いておけばいいと思うんですよね。むしろその中から何に、光を当てて聞いていくのかに注力したほうがいいんじゃないかと思います。

ハヤセ:はい。ありがとうございました。ご質問された方、いかがでしょうか。

面接の基本中の基本は「事実ベースで聞くこと」

ハヤセ:質問の話に関連してなんですけれども、本書でもフェルミ推定の話が出ましたが、変な質問をするケースも最近増えてきているのかなと。例えば「あなたを動物に例えたら何ですか」「植物に例えたら」「無人島に何を持っていきますか」みたいな質問です。ああいうのってどう思われますか。

曽和:なんと言うんでしょうかね。もう時間が無限にあれば別にそういうのも違う切り口でありかな……。普通の切り口でわかりにくい時の飛び道具みたいに使うのは、なきにしもあらずかなと思います。

大抵の場合、面接ってものすごく限られた時間の中でやっていかなきゃいけないので、優先順位の高い質問だとはあんまり思わないですよね。

面接の基本中の基本は事実ベースで聞くこと。事実から性格・能力・価値観を推定していくのが基本だと思うんですね。候補者の方は事実情報もしくは解釈された主観的な話のどっちかを言うわけです。主観か客観か、または事実かそういう解釈かみたいな感じで聞くわけなんですけど。

基本、彼・彼女が言った事実情報から、性格・能力・価値観を推定していかなきゃいけないのに、「好きな色は何ですか」ってなんでも言えるじゃないですか。本当かどうかもわからない中で、信憑性が高い評価情報となり得るかというと、まずならないと思うんです。

ですから、(そういう質問は)やめたほうがいいんじゃないかと、僕は思います。

人事の専門家が考える「大喜利型質問」の是非

曽和:まぁ、だいたいそういう奇抜な質問をすると、学生さんもすごく戸惑って、「あれで何がわかったんだろう」というふうに決していい印象はないですし。

いい印象もなければ、面接の精度を高めるわけでもないと考えると、そこに奇抜性を求めるのはどうかなというのもあります。「大喜利型質問」と言って、うまいこと言ったら座布団1枚みたいな感じで対応していくのは、僕はやめたほうがいいんじゃないかなと思っています。

もちろん、広告代理店さんなどクリエイティビティや、言葉の能力、そこでの当意即妙なやり取りをものすごく重視される会社であれば、それはもうぜんぜん別ですよね。ある意味変な質問というよりはワークサンプルなわけです。

入ってからの日常的なコミュニケーションの中でもそういう当意即妙な、おもしろい切り返しができるかどうかが重要な仕事なんだったら、ある種の適切な試験とも言えるわけです。一般的に人となりを知ることにおいては若干邪道な質問かなとは思います。

ハヤセ:極力やらないに越したことはないという。

曽和:うーん。と思うんですけどね。私はすごくオーソドックスな面接しかしてこなかったという気がするんですけど。それでも十分いろんなことが聞ける。それでもというか、そのほうが十分いろんなことが聞けると思うんです。

いろいろな面接の手法をやっていったんですけど、自分の中では全部不発に終わった感じがありました。

ハヤセ:そうでしたか。ありがとうございました。

ガクチカやES、職務経歴書から深掘りする4つのポイント

ハヤセ:今、新しいご質問をいただきました。「面接前の書類チェックで、どのように見立てられているのか(どの部分をどう見ていらっしゃるのか)をお聞きしたいです」。

曽和:まぁ、あれですかね。ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)やES、職務経歴書ってことですよね。

ハヤセ:そうですね。

曽和:まず、基本的に何を一番聞くかと言ったら、できるだけ長くやったことを聞こうと思ってます。要は、長い間発揮された能力じゃなければ再現性が高くないと思うので。すごく短い期間の中で打ち上げ花火みたいに立派な業績が出てたとしても、そこを深掘ってもラッキーパンチかもしれない。順番としては劣後する感じですかね。

まず1つ目は、長期間にわたって何かやってきたこと、それも地味なことでもいいので習慣化されてることを聞きたいです。例えばESでも職務経歴書でも見た時に時間的に、「あ、これはけっこう長くやってるな」ということから聞いていきますね。

2つ目は仕事にもよるんですけど、ほとんどの会社で仕事は基本的にチームプレイだと思うんですよね。そのチームプレイの中で、その人はどんな能力を発揮するのか、どんな役割をするのかを知りたいと思うんです。

ですからあまり自己完結したようなテーマの話は避けて、「チームの中や人との関係性の中で何をやったか」を優先して選ぶようにしてます。

「一番苦労したものは何か」という質問をする理由

曽和:3つ目は、向こうに話す内容を預けちゃうと、成果が立派だったものばかり言ってくるんですよね。仕方ないと思うんですけど、成果自慢大会みたいに思っている候補者が多いので。

でも、すごく成果が出てることは、意外と人となりがわかりにくいと僕は思うんです。例えば、売り上げが2倍になったと言われても順風満帆の時には人となりはなかなか出ない、なんなら力を持て余してたりとかして。

うまくいったのはわかったけれども、その仕事、その話を聞いて人となりはわからんと。むしろピンチの時に、人は能力を出す。やばい時にはもう手を変え品を変え持てるものも全部出す。最後は失敗に終わったとしても、そういうプロセスを聞かせてもらうといろんな要素がわかるような気がするんです。

ですから、結果が良かったものより、苦労したものを聞く。人事でも「一番苦労したものは何か」を聞く人、けっこう多いんですよね。

僕も苦労したものはよく聞いていました。一番成果が出せたものよりは、一番苦労したものや試行錯誤したものを聞くほうがいいのが3つ目ですかね。

ハイパフォーマの共通点は、人が嫌がる仕事も楽しんじゃうこと

曽和:あとは誰がやってもおもしろい仕事よりも、義務でやったり、トラブルに巻き込まれたり、普通の人が嫌がるルーティンワークのことを質問で聞く。

仕事って、もちろんおもしろい仕事もあるんですけど、おもしろいばっかりの仕事なんてないと思うんですよね。人事コンサルティングをやらせていただく中で各社の、いろんな仕事のハイパフォーマーを分析する機会がめちゃくちゃ多いんですけど。もちろんそれぞれ違っても、共通する部分があってですね。

いくつかあるんですけど、そのうちの1つにハイパフォーマーは、普通の人だったら嫌だと思うことを意味付けしたり、セルフモチベートしたりして、その仕事を楽しんじゃうことがあります。どうせやるんだったら転んでもただでは起きないみたいな感じで学ぼうと楽しんじゃったりもする。

ハイパフォーマーの中でそこがすごく多い気がするんですね。だから、好きなものや今までやっておもしろかったことを聞くよりも、つらそうなところを聞く。さっきの苦労話に似てるかもしれませんけど。

義務でやったことやルーティンワーク、トラブルシューティングなどの話を聞くほうがいいんじゃないかと思います。このあたりが、書類やESをぱーっと見て「あ、ここらへんちょっと突っ込んで聞こう」って思う時の観点ですかね。長期・チーム・苦労・義務。この4つが重要だと思っています。

候補者が質問しやすくなる、面接官側の自己紹介

ハヤセ:ありがとうございます。あと別の質問で「よく面接の最後に、面接官から受けにこられた方に『最後に質問はありますか』というくだりがありますが、会社側と応募者、相手に良い印象を与えるポイントはありますでしょうか」と。

曽和:これは冒頭で言ったことでもあるんですけど、質問する時に、面接官のほうが自己紹介が足りてなくて、質問しようにも「お前誰やねん」状態になってるというものですね。

ハヤセ:(笑)。

曽和:そういうことってあると思うんですよね。だから、冒頭でリラックスさせるために自己紹介をある程度するのもまぁありですし。タイミングとしてもう1つは質疑応答の段階で、「じゃあここからはみなさんのほうからぜひ聞いてください。こっちばっかり聞いちゃったんで」と言う。

その時に、「ちなみに僕が何者かわからないと、なかなか質問がしにくいと思うので」と言って、「実は私はこんなキャリアで、こういう部署を転々として、今はこんな仕事をしてる人間です」とか「うちの会社に入ったのはこんな理由で、今はこういう仕事をやってます」と自己紹介するといいかもしれません。

自己紹介をすることによって、向こう側が聞きたいことが自然と出てくるわけですよね。何も知らない人に対してなかなか質問はしにくい。そういう状態だと、結局一般的な質問が来て答えるほうも答えづらいんですよ。

例えば面接官に「御社の10年後のビジョンはなんですか」って聞いても、「いや、俺、社長でもないし、ちょっとあのまぁ、なぁ……」みたいな感じになる。

でも、それは自分の正体をばらしてないから、(相手も)会社一般に関する質問になるのは仕方ないと思うんです。

もし自己紹介をちゃんとやっていれば自分に対して聞いてくれます。例えば職場の魅力、自分にとっての仕事の魅力、この会社の魅力を語れると、もっと地に足のついた話ができますし、相手の共感性も高まります。

ですから、質問の前に、自己紹介をして最低限何者かを知っておいてもらわないと、「なんか質問ある?」でいい質問が返ってくるとは思わないですね。

リファラル採用で重要視すべきは「紹介者からの情報」

ハヤセ:ありがとうございます。もう1つ質問があります。「会社の社員が紹介をして応募をしてもらう、リファラル採用について、会社側が応募者の本質を見極めるポイントがありましたらお聞かせください」。

曽和:面接って言っても新卒でも中途でも2回か3回で、1時間とかで人を見極めるって、実は無茶な話なわけです。それでもやらなきゃいけない。リファラルって、例えばその候補者と3年付き合ってきたとか「同じクラブでやってました」「前職で上司でした・後輩でした」という人がいるわけです。

その人から事前情報、もしくは先入観が入らないように事後でもいいんですけど、紹介してくれた人からの情報はすごく重要だと思います。

ややもすると面接官や面接こそが一番信憑性の高い情報だと思う人もいる。でも何十年も前からリクルートで死ぬほどリファラル採用をやってきて思うのは、例えば後の定着を考えても、リファラルで入った人のほうが定着しますし、評価の信憑性は当たり前ですけど完全に高い。だからミスマッチも起こりにくい。

もしめちゃくちゃいいって紹介されて会ったけど、面接ではうまくいかなかったとしても、その結果をすべてとするんじゃなくて面接後に紹介者からの情報を聞く。「いや、俺はこう思ったんだけど、紹介者としてどう?」と、中で話を聞くと、同じ現象でも、違う光が当てられて解釈が変わってくるかもしれませんよね。

「俺、あの人があの場面でこれをやったのは、だめな部分の表れだと思ったんだけど、本当は優しさの表れなのか。確かに他のところでもそうしてるんだったら、この人は優しいからやってるんだな。あ、見方変わったわ」みたいになることってあると思うんですね。

ですからリファラルをやるんだったら、紹介者からの情報をもっともっと引き寄せることが大きなメリットの1つになります。ぜひやってみるのがいいと思います。

コロナ世代の「ガクチカ」の難しさ

ハヤセ:ありがとうございます。そう言えば、ちょっとおうかがいしたかったことがあります。先ほど書類のところでガクチカの話がちらっと出たんですけれども、この数年、なかなか学生たちは課外活動がまともにできないような状況で。

曽和:コロナ禍でバイトもできないですよね。

ハヤセ:アルバイトや仕事先も募集がないという話でしたけど、ガクチカがないことを質問してしまっても大丈夫なんでしょうか。

曽和:はい。実は私、ボランティアで「コロナ世代の就活を応援する会」をやっています。ぜひよかったらみなさんも入ってください。大企業90社ぐらいを中心に有名企業の方々も賛同してくださっています。ググっていただくと出てくると思います。

明日、実はその賛同者を招いたイベントをやるんですけどね。コロナ禍でいろんな活動ができなかった学生さんは、確かにガクチカがしゃべれずに困ってる。

じゃあどうするか。学業は確実にやってるわけですよね。実際履修データセンターというところで僕も一緒に調査をして、いろいろデータや結果を教えてもらったんですけど。

学生自身は自分の履修行動や学業でやってきたことから、自分の人となりが表れてると感じてはいるものの、ただインパクトがない、相手から評価されないんじゃないかと思っている。

例えばGPA(成績指標値)が上位5パーセントみたいな人でもめちゃくちゃがんばってるし、そこからでも聞けば人となりがわかるのに、あえて言ってなかったりするんだよね。そういう人は「アルバイトやサークル、課外活動しか言っちゃいけないんじゃないか」「そういうのしかインパクトがないんじゃないか」と思って言わずにもったいないことをしてるわけなんですよ。

就活生は、高校時代や学業の話をしてはいけないと思い込んでいる

曽和:だから先入観を砕いてあげるために、率先して「学業でもぜんぜんいいですよ」と伝えてあげる。なんなら学業と課外活動の話で分けて、その二本柱で聞いてあげる。コロナ禍でも学業はみんながんばってやってますので、そういったことをまず1つ気をつけてあげるといいと思いますね。

もう1つ、これはその会の賛同者の方々の中であった話が「大学であんまりないんだったら高校時代の話でもいいですよ」と言ってあげると、学生さんの中でもうれしがる人が意外なくらい多くて。

「いや、学生時代入ってからコロナ禍だったんで、ずっと我慢してました。でも実は高校時代はいろいろやってきたんですよ」という人が、この24卒(2024年卒業見込の学生)とかめちゃくちゃ多いんですよね。高校時代や学業の話とか「これを言っちゃだめだ」と勝手に思っちゃってるんです。それを、「いやここも含めていいよ」と言ってあげるだけで、だいぶ違ってくると思います。

ハヤセ:なるほど。じゃあ、そのあたりは遠慮なくどんどん聞いてしまって構わないということですか。

曽和:はい。もう喜ばれるだけだと思いますね。選択肢が増えるだけですから。

ハヤセ:ありがとうございます。

何回やっても正解がわからない、面接のノウハウを一冊に

司会者:まだまだ聞いていたい話なんですけれども、そろそろお時間が近づいてまいりました。それでは最後に曽和さん、本日ご参加いただいたみなさまにメッセージをお願いいたします。

曽和:はい、ありがとうございます。本日は本当にお忙しい中、こちらに集まっていただきまして、ありがとうございます。面接って、どこの会社でもやられてるものだと思います。(面接を)何回も何回もやっていらっしゃる方もすごく多いと思うんですけど、何回やっても正解がわからない。私自身もこんな本を書いておきながら、後書きでも言い訳のようにいろいろ書きました。

『人材の適切な見極めと獲得を成功させる採用面接100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)

2万人の面接をやったらものすごい面接の神様みたいになってるかというとまったくそんなことはなくてですね。むしろ自分の失敗記録や、面接が下手くそな自分がいろんな先人から教えてもらったことを書きました。

まぁ逆に言うと僕みたいな凡人でも、こういう工夫をすればなんとか一応面接官としてやってこれた、その集大成と思っています。

よろしければぜひ手に取って読んでいただければと思います。面接は、いずれにしても精度が低いと言われることもありますが、人が人を採っていく以上なくなることはないと思うんですね。そうなってくると、日本や世界において、面接は人が適在適所に配置されていく社会システムの中のすごく大きな関門だと思ってます。

ちょっと大きなことを言いますが、私も含め今日お集まりいただいたみなさんが、いい面接ができるようになることで、社会の適材適所が実現できるんじゃないかと思っています。「ぜひ一緒にがんばっていきましょう」ということで、締めの言葉とさせていただきます。ありがとうございました。

司会者:曽和さん。ハヤセさん。ありがとうございました。

曽和・ハヤセ:ありがとうございました。