「チャレンジ」がしんどくなる理由

松本利明氏(以下、松本):よく「チャレンジする」と言いますが、今の現場を見てみると、「高い目標を達成すること」あるいは「たくさんの仕事をやること」のどっちかをチャレンジと言っていることが多いんですね。これではだんだんしんどくなります(笑)。

しかも、それは経営者や人事、上司が本来求めていることとは違っているはずなんです。でも、現場が忙しいと「たくさんの仕事をやらなきゃいけない」とか「難しいことをやらなきゃいけない」としか考えられなくて、「しんどいだけじゃないか」となって、損しちゃうんですね。

では、「意味のあるチャレンジ」を見つけるにはどうしたらいいか。少し因数分解してみましょう。「手段」と「難易度」に分けています。まずは、チャレンジとしてよくやる手段をスライドに書き出してみますね。

「改善する」「難しいことをやる」「質を上げる」「範囲を広げる」「納期を短くする」などの一般論を書いてみました。

これに何をするかというと、「逆から見てみる」といいのです。例えば、「改善する」ではなくて「前例がないことを思いっきりやってみる」。あるいは「やめてみる」。「難しいことをやる」ではなくて「簡単に、シンプルにやる」ことを考える。

「質を上げる」ではなくて「仕組みで質を担保する」。個人のがんばりじゃなくて、仕組みでなんとか楽して速くできないか。「範囲を広げる」ではなくて「まとめてしまう」。「納期を短くする」のではなく「外部委託を増やして、もっと効率化する」。自分が一生懸命スキルアップするよりも、「思い切ってステップ減らさね?」と考えていくんです。

このように、ありがちなチャレンジの手段を「逆から見る」ことで置き換えてみると、意外と新しい視点が出てきます。この新しい視点で考えていくと、本当に意味のあるチャレンジが見つかりやすくなるんですね。

井上和幸氏(以下、井上):なるほど。

松本:難易度についても同じように因数分解し、逆から見るといいでしょう。

本質的で新しいアイデアの見つけ方

松本:本当にそうなるかどうか、ここで例を出してみましょう。「『給与計算と勤怠業務管理をミスなく遅延なく実施する』ということを、よりチャレンジングな目標にしなさい」と言われたら、井上さんだったらどうされますか?

井上:そうですね……。まあ一般論だと、ダブルチェック、トリプルチェックを入れるとか、そういう話になりますよね。

松本:なりますよね。いきなりすごいことを思いつく人はいないので、「今の仕事を真面目に一生懸命やる」という既存の延長路線は、絶対最初に思いつくんです。

例えば、「高さ・広さ・量」を拡げる視点で「シェアードサービスによって国内外の関連会社もまとめてみよう」と考えたり、逆に「打刻機とか打刻カードをやめよう」と考えてみたりする。

井上:確かに。「やめてもいいんじゃないか」という発想ですね。

松本:人間の手が入るから間違えると仮説をたてる。だから、質を上げていくには、ダブルチェックではなくて、思い切ってシステムを入れ替えてしまう。システムにやらせちゃおうと。じゃあ「思い切ってアウトソーシングでやってみよう」「ペーパーレス、ハンコレスにしていこう」など前例がないことをやっていくんです。

真面目に考えると、井上さんがおっしゃったみたいに「ダブルチェックしよう」「効率よくチェックリストを作ろう」となるのが当たり前なんです。でも、それをチャレンジにしてしまうと、なんだかしんどくなる一方なんですね。

井上:そうなんですよね。

松本:こう考えていくと本質的で新しいアイデアが見つかりやすくなります。日本人は真面目に考える人が多いので、チャレンジを真面目に考えれば、考えるほど、だんだん暗く、大変になっていきます。

事態を前進させる「逆算」の視点

松本:もう1つ、前向きなチャレンジを考える視点としては、「なぜ、これをやらなきゃいけないんだ?」ではなく、「どうすればクリアできるのか?」と考えていく。そうすれば、本質的で新しい道筋が見つかりやすくなります。

例えばスマホの画面が割れたら、「我慢をするか」「正規で入れ替えるか」「非正規で安く入れ替えるか」しかないですよね。

モノならいいんですけど、今の組織の中って、単純に問題解決しないことが多いですよね。なので、まじめに全部をやるとパンクしてしまいます。大事なことは全ての問題を潰すことではなく、事態を前に進めて、よりよくすること。逆に事態を前に進めること以外は全てムダとも言えます。なので、「どうすればクリアできるか?」という視点で考えて、それ以外のものは、「これしかやらない」と捨てることです。

要は、たくさんの可能性があるかもしれないけど、すべての可能性にあたっている時間はないんです。「どうすれば、一番いい筋道でいけそうか」と考えて、立ちはだかる壁をどう越えていくか。そこに絞ればいいんです。

アポロ計画もそうだったんですよ。当時アメリカは宇宙開発に関して、ロシアより遅れていたんだけど、「10年後に人類は月に立つ」という無謀な計画を立てた。そこから「人類が月に立つにはどうしたらいいか?」という視点で逆算していって、「この方向しかない」と潰していったら行けたと。

井上:ムーンショットってことですよね。

松本:結局、飛行機のエンジンを改良したらしいんですが、日々カイゼンしていては絶対にたどり着けなかったそうです。「ここに行くには、これが必要なんだ」というところから着手したからこそ行けた。このように、「どうすればクリアできるか?」に絞っていくんです。

遅刻の言い訳をいっぱい思いつくように、チャレンジする時にも「できない理由」がいろいろ見つかってしまって、かえってしんどくなってしまう。だから「どうすればクリアできるか?」ということ1本に絞ることが大事です。これは「ソリューション・フォーカス(解決思考)」といって、世界では当たり前の考え方になっています。

「なぜ?」の繰り返しで、課題を解決できるとは限らない

井上:松本さんの本にも書いてありましたが、その考え方はビジネスで生きる我々にとって、すごく生産性が高まるし、効率的ですよね。「なぜ? なぜ?」と原因究明しないといけない時もありますが、そこを突き詰めても辛くなることもあって。突き詰めた上でソリューションが出てくるかというと、そうでもなかったりしますもんね。

だから、「じゃあどうすればいいかな?」というほうに向かうのは、すごく未来的な発想だと思います。

松本:そして、筋道がよそうさうなものを選択した上で、その筋道上での障害だけを掘り下げて、「何が原因だ?」と潰していけば意味のない場所を掘る必要もないですよね。すべてを掘ってもきりがないですし。

井上:そうなんですよね。いい加減なことをやっちゃダメだとは思うんですけど、決してすべてにパッチワークを当てる必要はないってことですよね。別に整っていなくても、「今回の件についてはこれが達成されればいいんだ」という。

松本:はい。特にやったことのない仕事とか、チャレンジングな仕事はまさにこれで考えていかないと、ドツボにハマっていきます。

クレーム対応などは、即座に対応しなければいけません。ただクレーム等は、ある程度パターンは決まっていて正解がみえるので、即原因を探って対応できるのです。私が申し上げているのは、「やったことがないこと」「チャレンジングなこと」をやる時には、「どうクリアするか?」と考えていかないと小さく終わってしまったり、単に苦しくなってしまったりするということなんです。

井上:ありがとうございます。これ、本当におもしろいんですよね。