顧客の共感を得る「3つのWhy」

中村昌雄氏(以下、中村):私たちが作った、ひな型の提案書がこれです。

もっと細かくあるんですけれども、大まかにこんな建て付けです。

「今日は何々の提案をさせてもらいます」と。はじめに「Why Now」。「今、お客さんは、いろいろとしんどい時期ですよね。それはお客さんが悪いわけではなくて、今お客さんを囲む業界とか世の中がこうなっているからですよね。私は今、お客さんを取り囲む環境をこう見ています」と共感する。

「今はこんな世の中ですよね。だからしんどいですよね。だからこういうソリューションを入れなければいけないんですよね」と言いたいんですけどね。

そのあとで「Why Me」。「そんな中で私たちはこういう思いでこういう商品・サービスを提供しようと思って取り組んでいるんです」という「Why Me」。「私たちはこういうふうに」「ああそうですか」と、ここでも共感を得る。

あとは「Why You」です。「そんな中でお客さんは、こういうものに取り組んでいらっしゃいますよね。よく存じております。お客さんのこの取り組みに対して今日は提案を持ってまいりました」。

1つ目の提案は、お客さんの「Why」、お客さんの今の取り組みに対しては、そこに対して「How」と「What」を提供する。「こうすればこれが実現できます」と、実際にエビデンスを示す。

2つ目の提案は「お客さんのこういう課題、こういう取り組みに対して、こういう提案をします。実際にできます。具体的には……」というのを3つ並べます。3つというのはみなさんもご存じだと思いますが、魔法の数字で確証率という、アメリカの大学で研究されたやつらしいです。

「何々です。理由は3つあります」と言って、1、2、3とやると信憑性が8割にいく。理由が1個だけだと60パーセントの信用度で、2個だと74パーセントになって、3つ並べると80パーセントの信用度になるらしいですね。

4つやると84パーセントになるらしいんですけれども、4パーセントしか伸びないし、4つもやるとややこしくなるので、3つが魔法の数字と言われています。だから私たちも、どうしてもネタがない時は2つになったりもしましたが、3つ出すようにしていました。

16億円の大型受注を可能にした提案書の建て付け

中村:「うーん」とうなるような、「なるほどな」というド本命の提案が1つズドンとあります。1本ド本命の提案を作らないと、なかなか採用されません。そこにあと2つ、「これも、これも」とたたみかけてやります。

あとは、「将来は、こういう姿も目指せますよ」と、ここで夢みたいなものを一発入れたりもしました。サポートがキーになる時は、不安を取り除けるよう、手厚いサポートを提案の中に入れました。

そして、「今日の提案はお客さんのやりたかったことを実現できますよね」と言って、ノーが言えなかったらもうあとは注文をもらう。その条件を整えていくだけです。

大きくお見せできませんけど、実際に(スライドの)これは、さっき申し上げた16億円の切り替えに至った時の提案書です。

たぶんモリイさんとかはよくわかると思うんですけれども、私は自動車会社さんへの営業を専門でやっていました。自動車会社さんが新しい溶接ラインを1つ入れるといった時に、その度に競合メーカーが1.5億円ぐらいの採用をされるのを、20年も30年もずっと指をくわえて見ていたわけですけれども、そこに切り込みました。

そんなに簡単ではなかったですね。提案書を作るまで1年かかったし、その前に初期採用してもらうのに半年、1年かかっていたりとか。時間はかかるんですけれども、誰が見ても一生変わらない、切り替わらないと思われたところを切り替えたんですね。その時の提案書ですが、まさにこの建て付けです。

法人営業で「Why」が大切な理由

中村:課題はいろいろあるんですよ。担当者さんが持っている課題があって、部長さん、課長さんが持っている課題も、経営者さんが持っている課題もあって、それぞれちょっと違うんですよ。

担当さんが持っている課題はこの「How」に当たる場合があります。「どうやったらええんやろう。いいやり方がないかな」とか、「失敗しないやり方がないかな」というのがここです。

部長さん、課長さんが持っている課題は、「自分はこれをやらなければいけない」という課題なんですよ。自分の仕事として、「今年度はこれを導入しなければいけない」とか「今年度はこれを何パーセント下げなければいけない」とかね、そういう仕事があるわけですね。それは「What」に当たる場合があります。

法人営業で言うところの「Why」は、経営者さんの課題です。経営者さんが思っていらっしゃる「こんな会社にしたいんだ」とかなので、抽象度は非常に高いです。会社をつぶさないことが目的なので、会社をつぶさないとか売上を上げる、大きく成長させるとか。

もっと抽象度を高く言うと「SDGsにつながる、地球の持続的な」みたいなこととか。あとは「ステークホルダー、取引先とか株主さんとか社員さんを大切にします」とか言われる。

こういうかなり抽象度の高いところをもう一段落とした時に、例えばそれによる人材戦略や経営戦略を実現させるためのグローバル戦略とか、そのための財務戦略やブランド戦略、事業戦略とか。提案をそこと結びつけることができるんですよ。

「提供しているものがお客さんのここの事業戦略に結びつきますよね」「この事業戦略は、お客さんが会社方針で出されている、本当に会社さんの経営理念そのものを実現することにつながりますよね」と持っていく。

こんな提案を持ってくる競合メーカーはないんですよ。大概「How」と「What」、言われたことに対して「じゃあこうしたら実現できます」。他のところが持ってくるのは、さっきのピースを埋めるような提案ばっかりです。それが「なんやと? うちの経営方針を実現するような提案をもってきてるんかいな」となると、お客さんはビクッとするんですよ。そこまで考えてくれているか、と。

提案書のブラッシュアップの仕方

中村:提案書を見せる人が担当者さんだったり、部長さんだったり、課長さんだったりすることもあるんですけれども、みなさん「ええ?」とびっくりするんですよ。で、教えてくれるんです。

バキンと作って持っていくのは最終的なものですけども、完成する前に途中で見せに行くんですよ。「今こんな提案書をここまで作りました」と言ったら「へえ」となって、「いや、それやったらな、うちの役員は今こういう言葉で言っているで」と聞いて、「そうですか。ありがとうございます」と。

またブラッシュアップした提案書を持っていって、担当者さんとか課長さんとか部長さんと、ずっとやりとりをしていくと、役員さんに見せることのできる提案書ができあがってしまうんですよ。その人たちも自分の仕事を超えた、上層部の考えまで反映した仕事になるから、一目置かれる。

従来採用されていたところがリピートの提案書を出してくるのと、新たに横から入ってくるところがこんな提案書を持ってくるのを比べたら、今まで箸にも棒にもかからなかったところがかかってくるんですよ。

ここまでのまとめは、「誰が見ても採用せざるを得ない提案を作る」ということで、その中身は、期待価値100を超えた200の提案をする「Why」を理解してお客さまと合意する。そして「Why」を実現するストーリーで構成するという、こんなことですね。

この建て付けを覚えておくだけで、お客さんとの接し方が違ってくると思います。

「今日はこんなのを持ってきました」ではなくて、その前に「お客さんのやりたいことはこれですよね」「そうやねん」という、お客さんとの合意があって、「じゃあそれをどう実現しようか」という話になると、自分の提供するソリューションがお客さんにとって受け入れやすくなります。

これが3つ目でした。以上で今日の話は終了になります。

受注までの営業プロセスを知る

中村:「お客さんの欲しがっている未来の姿を売る」ことと、「複数人の意思決定プロセスを徹底的に追う」と、「誰が見ても採用せざるを得ない提案を作る」というところになります。

時間が少なくなってきたので、次に進みます。私は1年前から「法人営業をお手伝いしますよ」と言っていますが、法人営業の全体像を私なりにまとめた「5つのステップ」というのがあります。

実はその5つのステップの前にステップ0があって、それが「営業の理解」です。

さっきの営業とは商品を売るのではなくて、お客さんの手にする未来を売るんですよ、とか、あとはマインドセットみたいなところで、どういう気持ちでやるのか、とかですね。

(スライドに)お客さんとの関係性モデルと書いていますけども、営業はただ売りまくるのではなくて、まず関係性構築をするというのが、営業のプロセスの40パーセントを占めます。

これはモリイさんも聞かれたこともあると思うんです。私も当時は考えたことがなかったんですけど、後から思うと、「なるほど、そうやったな。成功した自分の営業経験からしてもこうやったな」というのを見事に言ってくれたなっていうのがこれです。これはブライアン・トレーシーさんの例ですね。

信頼関係の構築が40パーセントだと。信頼してもらえたら、お客さんはやっと本当にやりたいことや悩み、困っていること(スライドのニーズの把握)を言ってくれる。ここまで聞いたら、営業プロセスの70パーセントまで来ている。その後は「じゃあその問題を解決する方法はこんなのがありますよ」とは、いかないんですよ。

お客さんの課題の裏にある、「問題の原因」の解決策を提案してあげるのが、プレゼンのところに当たります。あとはクロージング。強く売り込むのではなくて、注文をいただく条件を作っていくのが営業の基本のかたちです。

法人営業の「5つのステップ」

中村:あとはステップ1の「売れる仕組みづくり」。

根性論でもないので、まず自分の事業を理解して、マーケティング戦略を作り込む。

その上で、「組織的な営業活動」。

営業戦略を作り込んで実行していく。ここは目標の作り方とか、プロセスの作り方とか、PDCAの回し方とかがいっぱいあります。僕も部下を100名ぐらい持っていた時期がありましたが、こういう組織戦でやっていました。

あとは「重要顧客を新規獲得」。

今日は「アカウント営業はこういうものですよ」と言って、すぐに提案書の中身に行きましたが、お客さんと接する中で、何をしないといけないかとか、何を聞かないといけないかとか、やり方とかね。そういう細部のいろいろなプロセスがあります。

あとは「採用せざるを得ない提案」ですよね。

今日は建て付けと考え方をお伝えしましたけども、これも実際にやっていくことになると、細部に大変なノウハウがあります。

あとは「働きがいと業績の両立」。

ここは自分も反省があるんですけど、私はがんがん引っ張る型のマネジメントをずっとやってきたんですけれども、辞める3年ほど前にキャリアコンサルタントの資格を取ったのもあって、そこでの勉強もあったりとか。

営業マンというか、サラリーマンとして働くしんどさも自分はよくよく知っていたので、「業績だけ上げるマネジメントじゃダメやな」と思って、メンバーと一緒に彼らの働きがいが業績を支えるような構造にしなくてはいけないなと思っています。

今で言う従業員エンゲージメントとか公益資本主義とかね、パーパス経営とか言っていますけれども、これから関わるお客さんとは、そのあたりも一緒に考えたいなとも思っています。「売れればいい」という考え方ではないという思いがあります。

このスライドでは、今話した5つのステップを25のチェックリストにしてまとめています。

今日メインでお話ししたのは、この中の一部(ステップ4 採用せざるを得ない提案)をピックアップしてやらせてもらいました。

どうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。