「偏差値時代」は終わりが近い

内田雅和氏:辻(優樹)さんに本校で話をしてもらった時にもありましたが、社会は変わっています。かつて平成の最初の段階では、時価総額ランキングを下まで見ていくと、日本は本当に好調で50社のうち32社が日本だった。それがいまや1社だけで、トヨタしかいないのが現状です。

けど、本当に社会は変わっています。日経新聞で、「偏差値時代はもう終わっていくよ、その足音が聞こえるよ」という記事があったんです。この記事の非常に大きなポイントは、「学び直し」「生涯学習が重要なんだよ」という部分で、これはすごく重要だと思っています。

子どもたち、生徒たち、児童たちにキャリア教育の重要性を謳うのであれば、大人が生涯学習を意識していくことこそが重要だと思います。

そして、先ほど辻さんからも「教育も変わる」とありましたが、実際に変わっています。本校の通常の授業だけでなくて、いろんな部分で変わっている部分を紹介したいなと思います。

今年の夏期講習なんですが、PBL型・相互通行型・ICTを活用した授業を展開しています。例えば国語の授業においては、かつて音楽関係で働いていたことのある国語の先生がいて、その先生が実際に行っている授業の内容です。

授業担当者の先生がGarageBandというアプリを使ってデモ曲を作って、その曲に合わせて生徒が歌詞を作って最終的に録音する。これを4日間の夏期講習で行いました。

大きく4日間に分かれて授業を展開していくんですが、授業を受けて終わりではなくて。宿題が出されて、最終的に4日目にはフルコーラスのデモ曲を作ってみんなで確認する授業です。ちゃんと録音までしています。

大学受験だけではない、社会での活躍を見据えた教育を

大事なことは正解を学ぶような授業ではなくて、自分で新しいものを作っていくことだと思っています。

なぜやっているのかと言うと、こうした授業を学校で展開していくことで、18歳の時に力を持っている大学受験を意識した指導だけではなくて、20歳、30歳、40歳になった時に社会の中で活躍していくことを目指していきたい。そのために必要になってくるのは、発想力であったり、自分で何かを作り上げていくことだと思います。

私自身も社会科の教員なので、中学1年生の授業を担当しているんですが、「日本は人口減少が著しいんですよ、非常に大変ですよ」という人口減少問題を授業で取り上げています。

ただ、実は東京に住んでいる中学生はあんまり人口減少の実感がありません。なぜかと言うと、東京は減っている感じがしないから。正直、世田谷区(三田国際学園は世田谷区に所在)は若者もたくさんいる状況なんですが、「けど、地方に目を向けてみれば大変でしょ?」という部分を理解してもらう。

そしてその上で、「実際に自分が地方自治体の職員になったら、人口を増やしてくためにどんなアピールをすることができますか?」ということを自分たちなりに考えて、ポスターを作ってくるという夏休みの課題を出しています。「解答を覚える」ではなくて、自分で考えていくことを大切にしています。

キャリアは組織に預けるものではない

続いて、実際に勤務校でどんなキャリア教育・プロティアン教育の実践をしているかのお話に移ります。

変化の激しい時代において、ダグラス・ホールのプロティアンキャリアのポイントは「キャリアとは組織に管理してもらうものではなく、個人で作っていくものなんだよ」「キャリアオーナーシップを自分で持つために、アイデンティティとアダプタビリティを意識していくことが重要なんだよ」と言っています。

実際に中学1年生が入学した後に、講話の中でこれを説明をしていきます。重要なこととしては、「キャリアは組織に預けるものではない」とあるので、僕が教えるものじゃないし、中学校が教えるものじゃないから自分で考えていこうねと伝えています。

大切なのは結果ではなくて、自分がどんな人生を生きていきたいのかというプロセスを自分で考えていくこと。「変化に応じて自分でキャリアは変えていくことができるんだよ」と伝えて、アイデンティティとアダプタビリティを意識してもらうことを目指しています。

アイデンティティとアダプタビリティは20世紀になかったのかと言うと、なかったわけではなくて考え方が違ったんです。

20世紀のアイデンティティは「組織の中で自分は何をすべきか」が重要だったけれども、21世紀のアイデンティティは「自分が何をして世の中を変えていきたいと思うのか」に思いを巡らすことだし、21世紀のアダプタビリティは「どんな会社でも活躍できる力を身につけていこうね」ということです。

なので学校として、狭い意味での職業指導に力点を置いた狭義のキャリア教育ではなくて、人生そのものを広い意味で捉えた「自分らしい生き方」を模索していくところを大きな目標としています。

グループワークにおける「傾聴」の重要性

中学1年生で自己理解、2年生で職業研究、3年生で学問研究をテーマに、総合学習やさまざまな学校行事を通して自己理解を深めていく状況を作っています。特に1年生は自分を深掘りできるように、いろいろライフラインチャートを作ってもらったり、夏休みにはお世話になった小学校や塾の先生へのインタビューをしています。

中学1年生は、入学してすぐにオリエンテーション合宿の中で、グループコーチングを通して自己理解を深めていくことを実施しています。グループコーチングの中では、コーチングの基礎的な考え方やカウンセリングの基礎的な考え方を生徒たちに伝えて、グループの中で自分について語っていき、そして自分の将来の目標を考えていく。

その際に大事なことは、目先の目標を決めるのではなくて、「最終的に自分はどんな人生を送りたいのか」を考えていく上での目標を考えていこうねということで、合宿では目標設定シートに記入してもらいます。

大事なことは目標を考えることではなくて、自分について深めること。そして、グループの中での話の聞き方についても、「傾聴することが大事だよ。クラスメートの話にしっかりと耳を傾けて対話をしていこうね」と、かなり時間をかけて生徒に伝えています。

学園祭では「自己理解」をテーマにしたプレゼンを実施

心理的安全性が確保された空間の中で、自分の過去・現在・未来について語って自己理解を深めていってもらう。また、クラスメートだけではなくて教員とも話し合ってもらうんですが、決して上下関係ではなくて、生徒の目標設定に向けてサポートしていくという立場を大事にしてもらって、このコーチング・合宿を実施しています。

初年度は自分も学年部長を兼担任していたので、生徒の話に耳を傾けていきました。他者の視点を受け入れることで、新たな自分と出会うきっかけにもなっていきます。深めて終わりではなくて、クラスメートに自分のことをプレゼンしたり、クラスメートの話を聞くことで、自分をより深めていくことにもつながっていきます。

そして合宿で終わりではなく、自己理解を深めるための総合学習の時間などを通して、10月の学園祭の10分間の中で自己理解をテーマにプレゼンに挑戦してもらっています。

コロナが起こる前までに実施した頃は、プレゼン会場は非常に熱気に包まれていました。ここ2年は来客を制限をしているのであまりお客さんが多くないんですが、このプレゼンは話をして終わりではなくて、対話型のプレゼンを目指してもらっています。質問して、答えていくような形式ですね。

先ほど国語の授業の中で歌を作っていた彼女のプレゼンテーションでは、「将来は誰かの生きる希望になるような詩を書ける歌手になりたい」という目標を掲げている彼女が、夏期講習や冬期講習でああいう講座を取って、歌を作っている状況があるんですね。自分が大切にしたい価値観をちゃんと人に伝えていく中で、より自己理解が深まっていきます。

学生自身がアポイントを取って企業訪問

2年生になると、今度は自己理解というテーマではなくて、職業研究をテーマにプレゼンテーションをしてもらうんですが、「将来なりたい職業について調べなさい」ということではないんですよ。「キャリアプランを立てなさい」ではなくて、「『働くとは何か』をちゃんと深く考えていこう」ということを目標にしています。

学校で準備した企業をグループで訪問することもするんですが、個人で興味のある会社にアポイントを取って訪問することも行っています。ただ、これもコロナがあってここ2年はあまり推奨していないんですが、コロナが起こる前までは8割方の生徒が自分でアポイントを取って企業を訪問していました。

3年生になると学問研究ですね。「行きたい大学を探しなさい」ではなくて、「自分がどんなことを学びたいのか、学問を深めていくことが大事だよ。そのために、自分の興味のある大学や教授にアポイントを取って訪問してこようね」と言っています。

ちなみに会社は8割方受け入れてくれるんですが、大学の教授はけっこう受け入れてくれなくて(笑)。オープンスクールに参加して終わってしまうケースも多いんですが、強者はノーベル賞を獲った大村(智)先生にインタビューに行ったりしています。

ちなみにこれ、北里大学に電話したら断られているんです。「じゃあどうすればいいのか?」と考えて、自宅を探したりしたんですね。最終的には訪問して、ちゃんと話を聞いてきました。

教師や保護者も、生徒とともに学んでいく

最後に、自分で自分の人生に向かい始めた生徒たちがどんなふうに変化していったのかについて、話をさせていただきます。ポイントとしては「関係性アプローチ」です。相互依存的な人間関係において、互いに学び合っていく中でキャリアは発達していくんだということを、ぜひ最後にみなさんに聞いてもらえたらなと思います。

ちなみに、僕も「指導している」という立場ではなくて、「生徒と一緒に学んでいく」というスタンスを大事にしています。生徒には「学問について学ぼう」と伝え、そして生徒のプレゼンを聞いている中で、僕も触発されたので、法政のキャリアデザイン学部を受験するに至っていたりします。

また、本校の保護者の中には「キャリア教育を積極的にサポートしたい」とおっしゃってくれている方がいるので、高校1年生のオリエンテーション合宿では保護者に講師をお願いして、PBL型で「○○をプロデュースする」という授業をしてもらいます。

また、第一線で活躍されている保護者に30人ほど協力いただいて、キャリア座談会というかたちで、グループの中で話し合いもしてもらいました。

PBL型の授業は、働いている方に実際に講師をしていただいてプロデュースをしてもらいます。全体のプロデュースをされている方は以前リクルートで働いている方だったので、最後に生徒に贈る言葉として、かつてのリクルートの社訓をメッセージとして贈っていたりしています。

僕もリクルートでこの言葉はすごく大事にしていたので、こういう保護者の言葉を聞くと、ぐっとくるものがありました。そして重要なこととしては、保護者も上から伝えて終わりではなくて、生徒たちと話すことによって、社会人として・保護者として学ぶものがしっかりあることが大きなポイントだと思っています。