消滅寸前の「ホボロ島」、その理由は「虫に食べられて」
ハンク・グリーン氏:日本の広島県沿岸に浮かぶホボロ島は、もともと大きな島ではありませんが、少しずつ小さくなっていることがわかっています。1928年には22メートルあった島の標高は、現在6メートルしかありません。
この島が今後どれほど長く存在するかははっきりしませんが、22世紀までには消滅すると言う人もいます。島の消滅は、風化や波の浸食が直接的な原因ではありません。みなさんが思いもよらない原因です。なんと、虫に食べられて消えてしまうというのです。
厳密にはこれは「虫」ではなく、ナナツバコツブムシという甲殻類で、ワラジムシの仲間です。つがいや卵を保護する穴を岩盤に開け、開けられた細かい穴は海水による岩の浸食と流出を後押しします。
ホボロ島は、こうした生物侵食(bioerosion)についての研究が進められる以前は、ほとんど注目されてきませんでした。この研究は、日本沿岸のこの小さな岩の島だけでなく、生態系全般の仕組みを知る上で役に立ちます。
研究の対象とされるべきなのは、木片やサンゴ、岩石などを消化、寄生、化学分解する動植物や微生物などのすべてです。たとえば、植物の根には岩を溶かす力がありますし、カビなどの微生物は鉱物や土壌を分解します。ペンギンが歩くだけでも、何度も踏むことにより、生息地の島の岩が摩耗することがあります。
「生物浸食」が地球に及ぼす影響
生物浸食の例は世界各地で多数見られます。ホボロ島に生息するものに近い仲間で、マレーシアに生息するワラジムシは、砂岩に50センチメートル近くもの穴を掘り、磯の岩石の表面積のうち、50パーセント近い量を粉々に分解します。
ワラジムシの仲間は他にも、植物の根や木造建造物、木製の桟橋に至るまで食い荒らすものがいて、人間に大きな害を与えます。また、マイクロプラスチック汚染の要因となることもあります。
生物浸食が大きな影響を及ぼすのはサンゴ礁の生態系であり、ホボロ島のユニークな生態系と比較して、研究における大きな関心の対象となっています。ウニやカイメン、魚のブダイなどは、サンゴ礁を構成する骨格を食べてしまいます。
ブダイ一匹につき、年間で1000キログラム以上の食害をサンゴに与えることもあります。しかしある意味、人間は観光上の恩恵を被っています。というのも、こうした生物浸食の結果、サンゴ礁が分解され、南の島に美しい真っ白な砂浜が生まれるからです。
サンゴ礁の食害とサンゴ礁の形成との間には、きわめて微妙なバランスが成り立っています。気候変動による海洋酸性化が進むと、バランスが崩れ、サンゴ礁の浸食が進んでしまいます。
気候変動で極端な異常気象が増えることにより、生物浸食で促進されるもの以外でも、さまざまな浸食が進行すると科学者たちは考えています。人間による環境汚染や乱獲、侵略的外来種の侵入により、生物浸食の担い手の個体数は変動します。
だからこそ、気候変動の悪化から生き物たちの生息地を守るには、生物浸食のしくみを解明することが不可欠なのです。