退職する際、同僚に送るメッセージの注意点

佐野創太氏(以下、佐野):(「最高の会社の辞め方」を実現するための)循環の最後の「明日への手紙」も大事です。退職のメールは、全社宛てにもチーム宛てにも出すと思います。

退職する時に、「これまでお世話になりました。ありがとうございました」で終わっちゃう人が多いんですよ。過去形で終わっちゃうと、残された人は連絡しづらいんです。みなさんもそういう経験はないですか?

「新入社員時代はこういう経験をさせていただいて、すごくお世話になりました。これからはこうしたいと思います。ありがとうございました」って書かれると、「あれ、終わっちゃったな。連絡しづらいぞ」となりますよね。

そこで、最後は「未来形」で締めくくりましょう。「私はこれからこういうことをしていくので、またみなさんとお会いできると思います。なので、ぜひご連絡くださいね」ということを、メールアドレスでも、SNSでも、電話番号宛でもいいから残しておく。そうすれば連絡しやすくなるんです。ただそれだけです。

最後の手紙を過去形で終わらせるのではなく、「未来形」で終わらせてください。さらに(人間関係の)「つながり」の人には、がんばって手書きで書いてください。僕の相談者さんで、80人に手書きで手紙を書いて独立していった人がいます。その後、10人が取引先やパートナーになりました。大きいですよね?

独立した時、最初に一番大事なのは営業なんです。その時に、仲間が10人いるって大きいですよ。80人に手書きした人はたくさん手紙を書きすぎて、腱鞘炎になったと言っていました。

でも、実は見送る側からはそれぐらい声がかけづらいんです。「あの人はがんばってくれて、社内創業もしてくれたけど、辞めちゃうってことはやっぱり俺は嫌われてたのかな」と思っちゃうんですよね。

「この人は『つながり』だな」と思った人には、しっかり手紙を送ってください。どこかの百貨店で買ってきたお菓子を机の上に置いて終わるとかじゃダメですよ。今はリモートワークが増えたので、お菓子に気づくのは退職してから1週間後になっちゃいます。

オンライン時代だからこそ「手紙の強さ」が発揮

佐野:最後はちゃんと手紙です。リモートだからこそ、オンラインの時代だからこそ、手紙の強さが発揮されるんです。みなさん、退職のあいさつはぜひ「未来形」で締めくくる、「明日への手紙」になっているかどうかを考えていただきたいと思います。

「手紙が大事だな」ということを、あらためて発見した文章があるんです。NiziUってみなさんご存知ですか? 世界的なアイドルグループです。すごく浅い理解なので、誰か後で補足してください(笑)。

そのプロデューサーであるJ.Y. Parkさんのエッセイ(『J.Y. Park エッセイ 何のために生きるのか?』)にすごく良いことが書いてあって。これも読んでみますね。

「人間にはハートで感じたモチーフを永遠に残したいという欲求がある。時間の奴隷として生きる人間の有限性を悲しみ、永遠なるものを求めるから、ある瞬間にふと感じたその感情を永遠に残したがるのだ。その結果として生まれたのが芸術ではないだろうか」。

かっこいいことを言ってますよね。みなさんも心が動くことがあると思います。会社でもいろいろあるし、結果が出せる時もあれば出せない時もあるし、お客さんに怒られたり、上司がガチギレることもある。

感情がすごく動いた時って、手紙の良いネタになるんですよ。それを残して手紙として送ってあげると、上司も部下も同僚たちも「ああ、こんなことがあった」と、また感情が動く。それは5年、10年経っても飲み会でネタにしてくれますよ。

僕の上司は「君、テレアポしてなかったよね」と、いまだに言ってくれますからね。「今もできません」みたいに、今でもリアルな関係を懐かしく思い出します。

手紙を書くと自分の本音も見えてくる

佐野:ちょっと哲学チックな話になりますが、「人はなぜ生まれて、なぜ死ぬのか」ということを誰も答えてはくれないんですよ。何も答えが決まっていなくて、ふわふわした存在であることを、実存主義の人たちは「実存的欲求不満」と呼ぶそうです。それぐらい、人間は弱いんです。

自分が永遠ではないので、永遠に残したいと思って音楽や絵を作り出すんです。この中には映画好きな方もいらっしゃるかもしれませんが、映画もそうですよね。僕らはアーティストじゃないですけど、手紙だったらたぶん書ける。

終活のエンディングノートでも、「手紙を書きましょう」というのがあるんですよ。手紙は、アーティストじゃない僕みたいな人間にもできる芸術です。別れる時には手紙を書いてみる。これを思い出してください。

手紙を書くと、けっこうエモい気持ちになったりしておもしろいですよ(笑)。書いている途中で、自分の本音がわかったりします。

相談者さんからも、「書いている途中で、この人はすごく『つながり』だとわかった」「書いている途中で、この人『しがらみ』じゃない?とフォルダを変えた」などの言葉をいただいています。それくらい本音がわかるので、ぜひ書いてみてください。

この「明日への手紙」と「退職成仏ノート」、「人間関係の仕分けノート」のさらに詳しい書き方は『「会社辞めたい」ループから抜け出そう! 転職後も武器になる思考法』に載っているので読んでみてください。

「3.5パーセントの人」を動かすと社会は変わる

佐野:では、最後に「退職学が(全労働者の)3.5パーセントに広まった未来」の話をして終わりたいと思います。ちょうどいい時間に終わりそうで良かったです。

全労働者が6,860万人ぐらいいるので、3.5パーセントというと約240万人です。これが、僕が退職学や最高の会社の辞め方を届けたい人数なんです。「3.5パーセント」って聞いたことある方いますか? (視聴者のリアクションを見ながら)お、いるぞ! では、説明しますね。けっこう勇気が湧くんですよ。

「3.5パーセントルール」というものがあります。フィリピンのピープルパワー革命や、グルジアのバラ革命という、市民が動かした革命があります。

これ、すごいんですよ。3.5パーセントの人が非暴力的な方法で本気で立ち上がったら、ああいう革命が起きたんです。政治学者のエリカ・チェノウェスらが発見したとされています。つまり、3.5パーセントの人を動かすと社会は変わると言っていいんですね。みなさんも、「こうなったらいいな」ということは何かないですか? 

それこそ、日本人は自己肯定感が低いんですよね。儒教の文化の国は低いと言われています。でも、もし3.5パーセントの人の自己肯定感が爆上がりしたら……3.5パーセントなら、いけそうな気がしません?

自分で属性を決めちゃえばいいんですよ。例えば、「女性を支援したい」「ミドルの支援をしたい」とか、対人支援をするのなら、その方たちの人口を出す。女性だったら6,000万人ぐらいいて、かつ30代で働いている人だったらもっと少ないですよね。

その3.5パーセントに対して自分のメソッドを届けられたら、「社会が変わった」と言っていいんですよ。3.5パーセントならいけそうな気がしませんか?「社会を動かす」と言うと漠然としちゃうけど、3.5パーセントでいいんですよ。僕は3.5パーセントをけっこう意識しています。

目標を細分化すると、意外と達成できることもある

佐野:最後におさらいをしますね。退職学を3.5パーセントの人に届けられたら、「退職の定義が変わった」と言って、僕は余生に入ろうと思っています。

僕はこれまでに本を1冊出して、退職学の考え方を届けました。あと36年ぐらい生きるとして、3年に1回くらい出したら、けっこう本を出せるんですよ。1個1個はたいして売れなくとも、「いけるかも?」と思っているんですよね(笑)。

こうやって、細かくすると目標ってけっこう達成できたりするので、みなさんもぜひ3.5パーセントを意識してください。

3.5パーセントの人に退職学が広まった未来は、たぶんこんな感じです。最高の会社の辞め方をすると、辞めたところから「また働こう」と言ってもらえる。つまり、超安心できる。安心すると挑戦できる人って、たくさんいるんですよ。

みなさんはどっちですか? 「退路を断つと気合が入る」という人もいれば、「逃げ道があるからがんばれる」という人もいる。僕が尊敬している社長さんは、けっこう後者の人が多いですね。

ある社長さんに、「すごくでっかい額を投資していますけど、なんでそんなに挑戦ができるんですか?」と聞いたんですよ。そうしたら、「え、だって自分の会社が潰れても親父の会社があるから」と言うんです。ずるくないですか?(笑)。

「なんだよ! 逃げ道あるじゃねえか!」って、僕はすごくがっかりしたんですが、これは真理だなと思いました。逃げ道があると大胆に出られる人もいると思うんですね。僕もけっこうそっち側です。

「退路断ちたい派」or「逃げ道たくさんある派」

佐野:みなさんはどっちですか? 「退路断ちたい側」ですか? 僕は「逃げ道たくさんある側」です。そういう人は、たぶん好きな仕事もできるし、好きな暮らしもできるし、僕は音楽が好きなので趣味とかガンガンやっていますよ。

法人側は「アルムナイ」です。ご存知ですか? 大学でいう同窓会ですね。会社でも同窓会を作っていこうという動きがあるんです。もう、アルムナイも大量発生ですよ。(これからの時代は)「辞め方コンサルタント」も確実に出てきます。これは今、名乗った者勝ちですね。

それから「退職BAR」もできますね。僕は確実に行きます。退職BAR、良くないですか? 前向きな話よりも、本音の話をしたいじゃないですか。本音で辞めたい話ができたり、なんで辞めたいのか突き詰められる安心の場があったらいいなと思うんですよ。そういう退職BARや、退職カフェが激増してきますね。

今日ご参加の方の中で、カフェをやっている方がいたらぜひ言ってくださいね。僕、コンテンツ作るのだけはうまいので、退職BARを作れますから声をかけてください。

それと、僕は「OR研究所」というものを作ろうと思っています。これはOrganization Relationshipの略で、個と組織の関係について考える機関です。

これまでは、誰も契約書を作っていないのに「終身雇用ありますよ」「定年まで働けますよ」ということで、一見「組織」と「個」が強い関係を作っているように見えました。入ってくる人も、別に言われてもいないのに「長く働かせていただけますよね」という、なんとなくの関係でやってきた。

でも、「(終身雇用は)ちょっと現実的じゃないんですよね」と大手企業や経済団体が言い始めると、個としては「じゃあなんで僕らはそんなに会社のためにがんばるの?」となってしまう。

「退職」という言葉は、いずれ過去の遺産になる?

佐野:このように信頼関係がなくなっちゃうと、会社も人材に投資する気がしない。「こいつどうせ1年後には辞めるし」と思う人に、投資もマネジメントもしたくないじゃないですか。そうなると、会社は弱くなってしまいます。個人も、僕ら一人ひとりは弱いですよね。会社も弱いし個人も弱いとなると、けっこうヤバいです。

なので、こういうOR研究所のような「個人と組織の関係を考えようぜ」というところに、就職希望が殺到する。そんな世の中を描いております。けっこう楽しそうですよね? 辞めるとか、そういうネガティブなことを安心感を持って話せるのはいいですよね。

そして、そんな世の中になったら「退職」という言葉はなくなると思っています。今はまだ、退職という言葉はネガティブな意味とポジティブな意味のどちらもあると感じていますが、最終的には「『退職』なんていう言葉、昔あったよね」ぐらいになると思います。

たぶん退職しても働くし、働いている意識がなくても活動している。そうやって、「退職」という言葉が過去の遺産になってくれるといいなと思います。

僕が生きてるうちになくなるかな? 別にこの言葉がなくならなくてもいいんです。僕の言っていることを「おもしろいな」と思った人が、「佐野が退職学とか言っているから『ポジティブ退職学』という言葉を作ってみよう」となってくれたらいいなと思っています。

心理学とかも、どんどん「〇〇心理学」と派生してきますよね。あれが楽しくて、僕は「退職学」と名付けたところもあるんです。「退職学」はシンプルなので、そこから「ポジティブ退職学」「組織退職学」とか、どんどん派生していくイメージです。

僕が言っているでっかいことを、僕がいなくなった後に誰かが叶えてくれたらいいなと思います。別に夢は僕の1世代で叶えなくてもいいので、「退職」が消滅していく世の中を描いております。

退職後も声をかけられる人になる「最高の会社の辞め方」

佐野:ラストにおさらいをしますね。退職学とは、退職後も声をかけられ続ける人物に成長する「最高の会社の辞め方」です。最高の会社の辞め方は4ステップありました。「退職成仏ノート」「人間関係の仕分けノート」「社内創業」をやって、最後に「明日への手紙」を書く。これをぐるぐる回していきます。

退職に限らず、人と別れる時やプロジェクトを抜ける時にこれを繰り返していけば、気がつけば「また一緒に働こう」と言ってくれる人がたくさんいる状態になる。これで、セルフ終身雇用になります。

「退職成仏ノート」でモヤモヤを書く。「人間関係の仕分けノート」で、最高の人間関係を手に入れてください。「社内創業」で仕事を創れる自分になる。仕事をもらう・譲られるじゃなくて、創れる自分になる。そうすると、たぶん自己肯定感も爆上がりします。

「明日への手紙」で、関わる人すべてを仲間にしていく。今日も僕はいろんな引用をしました。神谷美恵子さんの本を引用したり、「上田(昌美)さんにこういう声をもらったよ」とか「『学習学』の本間(正人)先生から影響を受けてます」と言ったりしました。このように、自分の根をたくさん作っていくんです。安心しませんか?

退路を断つ系の人は、安心できなくて「ぬるい」となっちゃうんですが、僕みたいに退路がたくさんあるほうが大胆に出られる方は、自分の後ろに守護霊をたくさんつける感じですね。

僕の後ろには、上田先生もいるし本間先生もいる。それに、会ったこともないしもう会えないんですが、神谷美恵子さんもいるんですよ。J.Y.Parkさんも、勝手に僕の師匠なんですよ。誰の許可も得ていませんが、師匠は作れるので(笑)。

このように、自分をパワーアップさせていく。古いけど、「俺の後ろには元気玉がある」という感じで、この不安定すぎる世の中を一緒に楽しく生きていけたらいいなと思っております。

司会者:もう、めちゃめちゃおもしろかったです。ありがとうございました。