なぜ今「退職学」を学ぶ必要があるのか

佐野創太氏:では、ようやく本題の退職学に入っていこうと思います。あと20~30分でガガッといきますので、みなさんもついてきてください。

正直、「なぜ今、退職学を学ばないといけないのか?」と思われるかもしれません。僕からすると、退職が「民主化」されたと思うんですね。つまり、退職について誰もが考えるようになった。

退職というと、これまでシニアだけが考えることでした。あるいは「寿退社」という言葉があるように、主に結婚を機に退職される女性のためのものだった。つまり、ミドル以上のシニアの方か女性に限られていたんです。

でも、「会社に頼れない」「転職大前提の時代」「終身雇用がなくなった」とか、みなさんも聞いたことがあると思います。みんなが転職するということは、みんなが退職するんです。これだけ転職のノウハウがたくさん出てきているように、退職についても考える必要がある。これが退職学の出発点です。

転職や独立を繰り返す中で、一緒に働いた人や会社から「もう一度一緒に働こう」と声が掛かる辞め方を、「最高の会社の辞め方」だと定義しています。「もう一度一緒に働こう」という声をどれだけ集められるかが、これからの働き方にもつながります。

僕らはたぶん70歳ぐらいまで働きますよね。会社にいるとしても、独立したとしても、会社とは付き合っていく。そうなると、1社が暗黙の了解として保証していた終身雇用では、もうきついんです。大手自動車会社も経済団体も「(終身雇用は)現実的じゃない」と言う時代です。

退職後も声をかけられる人になる「セルフ終身雇用」

でも、会社を離れる時やプロジェクトの終わり、こういうサロンを抜ける時など、終わりのタイミングで「もう一度一緒にやろうよ」という声を集め続ける働き方をすれば、複数の人や会社から終身雇用をもらえることになります。

これを集めたら、1社からもらえる終身雇用は期待できないけれど、複数の会社や人とつくる「セルフ終身雇用」は作れると思ったんですよね。

1本足の机ではグラグラしますが、4本、6本、8本と増やしていくと安定します。足を増やしていく働き方をすることが、退職学や最高の会社の辞め方が目指す「セルフ終身雇用」なんです。まさに今、退職はアップデートの時期を迎えています。

これまでは退職と言うと、後腐れなく別れる後ろめたい手続きでした。「できればさらっと辞めたいな」「怒られたくないな」「1ヶ月前にメールで『辞めます』と言えば辞められる」とか、その程度のものでした。

でも、「もう会社には頼れない」「個の時代」と言われるようになってきたので、退職後も声をかけられる人物に成長していくことを退職の定義にしたほうがいいですよね。

「後腐れなく別れる後ろめたい手続き」から、「退職後も声をかけられる人物に成長する技術」にしていく。僕はこれを広めています。34歳の僕が70歳まで生きるとして、あと36年くらい(退職学の普及を)がんばろうと思っています。

退職者=裏切り者という時代ではなくなっている

退職はキャリア戦略であり、個と組織の新しい関係のあり方でもある。このことを、今日のように個人として働いている方にもお伝えしていますし、会社にもお伝えしています。退職者をファンにする過程でピンチに強い組織を作るリザイン・マネジメント(Resign Management)です。「退職広報」をキーワードに組織に提供しています。

今まで「退職者なんて裏切り者だ」と言われていましたが、退職者はもっと活用できるんじゃないでしょうか。こうやって年表にすると社会はすでに動いていることがわかりますし、退職学が夢物語ではないことがわかります。

総務省のデータを見ると、転職者は年間300万人にまで増えているんです。「転職を考えている人」だと、800万人いると言われています。毎年800万人の退職予備軍がいるのです。2021年も象徴的な年で、サントリーの新浪(剛史)さんが「定年制を45歳にしたほうがいいんじゃないか」と言って、賛否両論でした。

特にこういう大きな企業や、これまで経済界を代表してきた人が言うとインパクトがあります。それくらい大企業や経営者の方々は、これまでの働き方や組織のあり方に危機感を持っていて、「どんどん変えていかなきゃ」と思っている。そんな時代になっております。

何歳になっても声をかけられる安心感

ここからは定義っぽくしていきますね。「新しい退職の流儀」、それが退職学です。(スライドにある表は)細かいので後で見てください。「円満退職」という言葉ではちょっと弱い。もっと上の辞め方があるので変えていきたいと思っています。

退職学とは「退職後も声をかけられ続ける人物に成長する、最高の会社の辞め方を研究する活動である」と。最高の会社の辞め方を繰り返すと、何歳になっても声をかけられる自分になっていくわけです。

その先には、60歳になっても70歳になっても、ふと振り返るといつでも「一緒に働こう」と言ってくれる人が5人、6人、7人いる未来がある。だいぶ先行きが不透明な時代となっていますが、これってけっこう安心しませんか? 

だって不思議ですよね。こんな疫病が流行り、戦争が起き、暗殺まで起きるようになった。たぶん、これまでは1世代では経験しなかったことだと思うんですよ。その中で人に頼れるって、かなり安心すると思うんですね。そんな働き方を作っていきたいんです。

「終身雇用なんてないない」と言われると、不安じゃないですか。僕は独立して今年で5年になりますが、「終身雇用がない」とか「安心がない」なんて言っていると、本当に社会が崩壊しちゃうんじゃないかと思っています。

退職は「逃げ」でも「裏切り」でもない

仕事に集中できる人ばかりじゃないし、仕事よりも大切なものがある人がたくさんいます。そういう人が社会を支えているわけです。「終身雇用はもう幻想だから、みんな自己責任で個の時代を生き抜け」は、一部の人しか生きられない不完全な社会デザインなんです。

だからこれまでの悪いところは減らして、良いところを残してアップデートするのがいいんじゃないかなと思い、イノベーションよりはアップデートという考え方で退職学を捉えております。

これまでの退職は、すごく無味乾燥でした。(広辞苑によると)「勤めている会社などを辞めること」。さらに終身雇用が強く信じられていた時代は、「裏切りである」「逃げである」とかって言われていたんですよ。

ちょっと前までは、転職してくる人に対しても「まあ、あの人は前の会社で続かなかった人だからね」という感じでした。でも、そんなことはぜんぜんなくて。前の経験を活かしてがんばって結果を出した人がいるので、「転職する人ってすごいよね」となり、今では「即戦力人材」と言われているわけじゃないですか。

確かに今は「逃げ」と言われちゃっていますが、「そんなことはない」と言う人がどんどん出てくる。退職に関しても、そんな流れになるんじゃないかと思っています。

誰も教えてはくれないが、退職学は「必修科目」

退職については誰も教えてくれないんですが、必修科目なんです。転職エージェントでも転職サイトでもあまり教えてくれないんですが、誰もが経験することなので必修科目です。

みなさんも、退職した瞬間に本当の人間関係があぶり出された経験はありませんか?良い面としては、「辞めたから声をかけやすくなった」と言ってくれる人もいる。一方で、会社の看板が外れるとぜんぜん声をかけてくれなくなる人もいる。

僕は最初の企業(一社目)がいい企業で、次の会社が小さい企業だったので、けっこうわかりやすく人間関係があぶり出された経験がありました。辞めた瞬間に「友だち減ったな~」と思いましたもんね。

でも、残ってくれた人とは今でもすごく仲がいいです。こんな感じで、退職や別れの瞬間は人間関係が更新される。だから、実はチャンスなんです。敵もわかったりするんですが、味方もわかる。

退職を大事にすると働き方もすごく変わるし、人間関係も良くなります。自分がどう思われていたかが、退職によってわかっちゃうんですよね。

退職とは“最後の通知表”である

今日もこうやって話をしていますが、みなさんが後からかけてくれる言葉やアンケートでの言葉が僕の評価になります。いただいた声は佐野のTwitterですべてお返ししますね。

それと同じように、退職した瞬間に「自分の今までの存在期間の評価」がわかるんですよね。なので、退職とは“最後の通知表”であるという考え方を持っています。

まとめたものをスライドに表示しました。個人に対しては「セルフ終身雇用」、法人に対しては「リザイン・マネジメント」で、退職者もファンにする組織作り、ピンチに強い組織作りをしていきましょう。

僕の家の近くのスターバックスは1ヶ月ぐらい営業を停止していたんですね。今はウイルス1つで年間の売上の12分の1が急に飛ぶ時代ですから、ピンチに強い組織を作らないとヤバいじゃないですか。こういうことを、法人向けにやっています。

社会に対しては「蝶々結び」ですね。蝶々結びっていいですよね、固く縛れるのにまたほどけるんですよ。角度を変えたり、裏にしてみたりできるんです。もう一回挑戦ができたり、個人と組織の関係を何回も更新できる社会になったらいいなと思って活動をしております。