Netflixが「社員と給与交渉しない」理由

藤野英人氏(以下、藤野):「お金と仕事に関して知りたいことは?」という質問に対して、1位に答えが集中しました。418人ですから、40パーセント以上の人が「現在の自分の給与は適切か?」に関心があるという答えになりました。

2位は「将来AIに代替される仕事は何か?」が約30パーセント。AIを恐れたり、怖いという気持ちがあるんですよね。そして3位が「転職したら給与が上がるか?」で、これも3割近い人が答えていました。

1位と3位については、密接なつながりがあるかと思います。例えばNetflixは、時間課金ではなくサブスク型のモデルで、一定のお金を払えばたくさんの映画を見ることができる仕組みで急成長している、アメリカの会社です。Netflixは非常におもしろい給与制度で、「社員と給与交渉をしない」としているんですね。

じゃあ、給与交渉をしないでどうやって決めているのか。答えは、社員の価値を外部のヘッドハンター、要は人材を紹介している会社にお金を払って、「この人の市場価値はどのくらいありますか?」ということを決めているそうです。

3人のヘッドハンターによる平均値を採るんですが、Netflixはその給与の3割増しで提示しています。つまり、「君の給料は1,000万円だよ」と言われた時に、「じゃあNetflixは1,300万円出します」と言われたら、誰も転職しないですよね。

会社と人事部でモチベーションを上げるとか、給与について納得感のあるようなことをするとか、上司が部下に付いて会社への忠誠心を高めるようなことはまったくしないそうです。時間やコストが減る分だけ、逆にNetflixが大きく成長するというケースで、非常におもしろいやり方をしていると思いました。

自分の市場価値を知るために大切なこと

藤野:これはアメリカでも極端な例ですから、同じことが日本でもできるわけではありません。けれど考えさせられるのは、「僕らは何のために働くのか」ということと、「自分の市場価値はどのくらいあるのか」に対する1つの解決の方法が、Netflixのやっている方法だと思うんです。

私がいつも話をしているのは、自分や自分の会社のことを知るためには、よそのことを知らなければいけないということです。よそのことを知るためには、他の職業の人、他の地域の人、それから性別や立場、年齢の違う人とコミュニケーションすることが大事です。

給与のことだけじゃないけれども、その人がどういう生活ぶりをして、どういうことを楽しいと思っていて、給与観はだいたいどれくらいなのかをわかっていくと、自分の力や働いていることについて、だんだんとわかってくると思います。

(自分の市場価値が)適切にわかる方法はなかなかないんですが、常に探索していく。自分が客観的にどう思われていて、自分が転職したらどういう給与になるんだろかということを、自分の得手勝手な考え方ではなく、客観的に見る。認知力を上げるということは、とても大事なことだとと考えています。

「AIに仕事を奪われる未来」を悲観しすぎなくてもいい

――1,000人中3割近くの人が、AIが社会に進出してくることに対して興味があるようです。藤野さんにはどんな未来が見えていますか?

藤野:2位の「将来AIに代替される仕事は何か?」というのは、本当に多くの人が不安に思っていることですし、不安に思う気持ちはよくわかります。

実際、100年以上前から同じことが起きていました。「ラッダイト運動」といって、産業革命があった時に蒸気機関が出て、蒸気機関によって仕事が奪われてしまうことを恐れた労働者が、みんなで棍棒で機械を殴ってメチャクチャにしたことがあります。

要は、「この機械が導入されたら、自分たちの仕事は無くなってしまうだろう」と言われていたんですよね。でも、実際はどうだったかというと、機械が出てきた分手が空いたことによって、別の仕事がどんどんクリエイトされていきました。

結果的にさまざまな仕事が出てきて、社会が発展しているということです。なので、多くの仕事はAIに奪われることになると思いますが、AIに奪われたことによって出てくる余暇や、それによって新しく生まれた生産性の向上が、必ず次の職業を産んでいくと思います。

ネガティブな気持ちになってしまって、「今の仕事にどうやってしがみついていくのか」と考えてしまうと、なかなかつらいし、実際にしがみついていったものはなかなか上手くはいかないでしょう。なので、私たちは新しい社会に対してポジティブに待ち受ける気持ちが大事です。

「将来、AIに代替される仕事は何か?」ということを考え続けることは大事だけれども、世の中の社会の変化に伴って、必ず隙間が出てくるので、新しい仕事や価値が生まれてきます。それはすごくチャンスですよね。