ユーザーが「株主」になる世界

馬渕磨理子氏(以下、馬渕):このあたりは柴原さんもご意見や思いがあって、こういったもの(上場やイグジットを目指さない企業)を取り入れていらっしゃるんですよね。

柴原祐喜氏(以下、柴原):実は、概念としてすごく新しいというイメージを持っています。例えば最近流行りのWeb3.0の文脈には、「すべてのステークホルダーに対して利益をしっかりと分配していきましょう」という考えがあるんですね。

今までのWeb2.0の世界だと、読み手が書き手になって、そこに対して利益を分配するというところはまだまだ弱い。すべてのステークホルダーを巻き込んだ利益分配のシステムというよりは、「中央集権型のシステムを用いて管理していきましょう」というものでした。

それがWeb3.0の概念になると、ユーザーさまがステークホルダーになって、そのユーザーさまにも利益を分配していこうと。その代わり「ユーザーと共に何かを成し遂げていこう」という考え方が強いんですね。だから、田中さんが今やられていることは、最先端の事例だと思います。うまく潮流に乗られているなと思いながら、お話を聞かせていただいていました。

我々もそうした株主さまを増やし、共に成長していく。そうすれば、当然その成長の結果を株主さまに、キャピタルゲインや配当など何らかのかたちで利益として分配する形式が作れます。「ユーザーさまが株主さまになる」という世界は、まさにWeb3.0が標榜する世界の、1つの答えなのかなと思いながら活動していました。

その中で今回、田中さんがやられていることが我々の目指している方向性と近しい……と言ったらおこがましいですけども(笑)。本当に近いと思いつつ、共感をして、「ぜひご支援させていただきたい」とメンバーの熱もかなり入っていて。これが今回携わらせていただきました概略になります。

未上場のスタートアップを支援する、FUNDINOの革新性

田中泰延氏(以下、田中):ありがとうございます。FUNDINNOさんがやられていること、取り組まれていること、「未上場やスタートアップに支援をする仕組み」って、今までほとんどなかったですよね。官主導で何か叫ばれることがあっても、実際にみんながお金を持って集まるっていうところまでいってなかったと思うし。もう本当にこれは革命的だなと思ったんですよね。

まったく違う景色を見ようとされているってところが、柴原さんとは今日初めてですけれども(笑)、スタッフのみなさんから共有されて。今日やっと社長に会えたということで、非常にうれしいですね。

柴原:ありがとうございます(笑)。私もいろいろ聞いておりましたので、お会いできてすごくうれしいです。

馬渕:FUNDINNOは「ベンチャー企業を応援しましょう」ということが前面に出ているので、将来的に何かイグジットみたいなものが出てくることが多いんですね。その中で、このようにIPOを目指さず、ずっと存続する企業に資金が集まり、ファンが集まった。まさに何かを体現しているような気がして、私たちとしてもうれしいです。

田中:最初のゲインを少なく張って「これは伸びそうな会社だ、上場目指す」っていって、それが5倍、10倍、100倍になる夢を持つのは非常に健全なことで、当然のことではあるんですけれども。私どものような変わり者もFUNDINNOの扱いとして認めてくださったことが、おもしろいなっていうか。FUNDINNOさんも新しいことを考えてはるんやなぁ、と思いましたね。

定期的に行う「仲間感」を強める取り組み

馬渕:ありがとうございます。実際にたくさんの株主の方に、今日もご視聴いただいています。今後このチームを、株式会社ひろのぶとを、どう発展させていきたいとお考えですか?

田中:募集した時にお約束したんですけれども、来月8月6日に株主ミーティングというものを、東京青山スパイラルホールで開きます。今日もZoomでやらせていただいてますけど、ちょっと世の中の感染状況とかがどうなるか、わからないんですけれども(笑)。とにかくやりたいと。(※この対談は2022年7月に収録されたイベントです。ひろのぶと株式会社株主ミーティングは2022年8月6日に無事開催されました)

今回参加していただいた新株主さまにできるだけたくさんお集まりいただいて、いろんなお話・ご意見をうかがったり。それこそ僕、来られた方全員と名刺交換しようと思ってます。そうやって仲間感を強めていくことを定期的にやっていく。

あとこれも募集の時にお約束したんですけれども、さっき言ってたような「こんな本読みたい、こんな本出して」「こんな本が今売れてるんだから、ちょっとこういう方面で攻めてみたら?」っていう意見交換会は、年2回必ずやろうと思っています。

馬渕:なるほど。今ご覧いただいている投資家のみなさま、8月の株主ミーティングにリアルでご参加いただけるといいですね。これは本当にすばらしい取り組みですよね。

田中:あとはFUNDINNOさんにIR、インベスター・リレーションズはちゃんと出せよって言われてるのも励みになりますね。今夜このZoomが終わったあと、書かなくちゃいけません(笑)。

柴原:ぜひお願いします(笑)。株主さまは、「みんなで何かを作っていこう」という気持ちで集まっています。だから、「代表の声をいっぱい知りたい」「いっぱい感じたい」とみなさま思っていますので、何卒よろしくお願いいたします。

田中:ちょっと内向的で無口な私ですが、みなさんよろしくお願いします。

馬渕:え、本当ですか?(笑)。

(一同笑)

すごく社交的な感じがしますけど(笑)、ぜひぜひコミュニケーションよろしくお願いします。

株主に期待すること

馬渕:では、ここからはみなさんからの質問コーナーです。事前にたくさんのご質問をいただきまして、すごく温かいお言葉や、おもしろいコメントもありましたのでご紹介いたします。

まず最初のコメントですね。「株式投資募集のタイミングに電話がかかってきて、携帯が使えず、対応している間にキャンセル待ちになってしまいました。自分のタイミングの悪さに後悔しまくっています。次回の募集も、ぜひよろしくお願いします」ということです。開始27分で募集終了ですからね。

田中:そうですよね。三百数十名の方に新株主になっていただいたんですけど、その日に300名近いキャンセル待ちの方がいらっしゃったということで、なんという申し訳ないことだと思ってて。これはまたFUNDINNOのみなさんとも相談しながら、次にまた株式募集できるようなかたちを考えていけたらいいなと思っておりますので。

すぐにではないので、「こんな本を本当に出したんだな」とか、「がんばってるな」っていうのを見守りながら、お待ちいただけるとうれしいなと思います。

馬渕:作品をご覧いただきながら、ということですね。続いてのコメントです。「印税のダイナミックプライシングなど、『良い本』『売れる本』を出すための仕組みに共感しています。いろいろと協力できることがあればうれしいのですが、株主に期待していることがあれば、おっしゃってください」ということです。心強いですね。

田中:ありがとうございます。出版というものはなんだかんだ言って、好き嫌いと当たり外れの世界なんですよね。つまり代表である私とか、それから一緒に仕事をする編集者、それから当然本を書かれる著者が「好きだから出す」っていう側面が1つあります。

ところが「好きじゃないけど売れそうだから出す」っていう本のジャンルも当然あるわけで。さっき言ってたような毎日200冊出る中には「好きじゃないけど売れそうだから書いてるな」っていう本も見受けられるわけですよね。そこのバランスが難しくて。

「儲かりそうだから、みんな良しとは思ってないけどこのジャンルの本を出してみよう」とか。例えば僕、ゴルフにまったく興味ないわけですけど、ゴルフの本が売れるとなったら「ゴルフの本も出さなくちゃいけないのかな、でも俺わかんないよ」ってことがあるわけですよね。

そういう時には、ゴルフが好きな人がうちに意見を届けてくれたらいいじゃないですか。どう好きなのか、どう迫ればゴルフ好きの心に響くのか、ぜひ教えていただきたいなと思います。

馬渕:わかりました。みなさまぜひ、たくさんのご意見をいただけたらと思います。

「口は出さずに金を出す」という、ファンによる応援のかたち

馬渕:続いてのご質問です。「『ファン』『スポンサー』『お客さま』という意識を持ちながら、書き手が自由に自分らしく、あるいは今までにないユニークな表現ができるのでしょうか。クリエイティブであるということは、時に孤独や孤立感といった感覚が必要だと思います。

経営を継続しながら、顧客や社会とつながりながら、どうクリエイティビティを高めていくのでしょうか? 読み手に媚びない、でも読み手が喜ぶものを生み出す。このあたりはどのように考えていますか?」と、非常に深いご質問をいただいています。

田中:良いご質問ですね。これは僕の経験がすごく大きくて、僕はものを書くっていう仕事を電通で24年間、コピーライターとしてやってきたわけですよね。コピーライターの仕事って、クライアントがいて「この商品の良いところを考えて書きなさい」、つまり100パーセント依頼の世界ですよね。それは逆らうことは許されないし、裏切ることは許されない。

ところが文芸とか創作の世界で、本を自由に出版するっていうことは、作家と編集者が創る、基本的には自由な世界であるべきなんです。誰かから言われたから書くということではなく。そこで作家が萎縮してはいけないし、みんながあれこれ言ってくるから文章を曲げるってことがあってもいけない。あくまでその人が自分の書きたい、書くべきものを書くということ、それで当たるのが理想なので。

株主のみなさんも当社としても、それを支えるんだと。ファンとしては口を出すんじゃなくて支えていく。株式募集に応じるということは、実はもうすでにお金で支えてるっていう側面がありますから、これは実は「口は出さずに金を出す」っていう応援の、1つの良いかたちであるんですよね。

だからうちで何かを書いてくださる作家には「たくさんの人がお金を出してくれてるんだから、プレッシャーに感じなさいよ」って言うんじゃなくて、「お金の面で支えてくれているからこそ、安心して書きなさい」っていうふうに伝えていきたいと思うし。ファンのみなさんもそういう目で見ていただいたほうが結果として良くなる、おもしろくて売れる本ができるんじゃないかと思っています。

馬渕:わかりました。ありがとうございます。

メディアミックスは最初から計画せず、「結果的」に

馬渕:それから、「今後どうするんですか?」というご意見もたくさんいただいていまして。「現在出版予定の田所・稲田両名の作品はnoteでも発表されていますが、今後メディアミックスも想定されていますでしょうか?」「文章以外で、ドラマや動画などでも味わってみたいな」といったご質問・ご意見もあるようです。このあたりはどうでしょうか?

田中:ありがたいご意見ですね。このご質問者の方がテレビ局やNetflixの方だと一番うれしいんですが(笑)。

馬渕:なるほど、そういうことですね(笑)。

田中:最近は最初から計画されて、メディアミックスされてヒットする作品っていうのもありますけど。これに関しては僕はちょっと違う考えを持っていて。つまりシンプルな文芸、小説であったりエッセイであったり、文章だけのコンテンツが良ければ、いろんなところから声がかかって、結果的にメディアがミックスされるはずなんだと。

うちは例えば、メディアミックスが得意な大手の集英社さんとかKADOKAWAさんとかじゃありませんから。最初からこの人の小説を映画でも企画する、連続ドラマでも企画するというような、最初からパッケージでものを売り込むというのはなかなかできないと思うんです。

できないし、またそれが僕はベストな方法だとは思っていません。すごくシンプルな本1冊が出て「これ良いな」っていう人がたくさんいて、その中に映画監督がいれば「これ映画化してみたい」とうちに連絡がくるはずだし、「これをドラマにしてみたい」ってNetflixの担当者から僕にメールがくるはずだと思ってますので(笑)。結果的にメディアミックスは、良いものができれば達成されると思っています。

馬渕:まさに、ひろのぶとさんの世界観を表していますね。たくさんお話をうかがいたいのですが、最後の質問とさせていただきます。「『読みたいことを、書けばいい。』、すばらしいと思いました。しかし1冊あたり75円しか田中さんの手元に残らない逸話の悲しさ、なんとかできないのでしょうか。何かキャラクターグッズなど、グッズ展開されるのはいかがですか?」というご意見ですね。

田中:さっきの75円というのは、定価1,500円の本だから印税は150円なんですが、まとまったお金が入ると所得税率がバーンと上がりますから。最後、残る現金を計算すると75円くらいだなということなんですけども。

グッズといっても、当社のロゴが入ってるからってそんなに売れるとは思えないんですけど(笑)、おっしゃるとおりで、当社のグッズも今、いろいろ企画して販売する予定です。書籍ごとに例えば、その作家さんとか作品の世界観を表すグッズっていうのは、必ず何か作っていこうかなと考えています。

馬渕:そうなんですね。たくさんお話をお聞かせくださって、ありがとうございます。田中さんのご登場はここまでとなります。ありがとうございました。

田中:みなさん、ありがとうございました。柴原さん、馬渕さん、ありがとうございました。