ベストセラー作家と事業家の35年ぶりのタッグ

馬渕磨理子氏(以下、馬渕):御社はベストセラー作家の田中さんと、いろいろ事業を興されてきた事業家の加藤さんがタッグを組んだ会社ですが、お二人の出会いはどういったことだったのでしょうか?

田中泰延氏(以下、田中):これはもう大昔で(笑)、35年前にさかのぼりますけれども。僕が大学1年生で、加藤取締役が大学3年生だったと思います。その時に加藤さんは大阪で学生だけの企業、学生が興した「株式会社リョーマ」を作っていまして。

そこの社長が今KLab株式会社の会長である真田哲弥さんなんですが、その真田さんを中心に、東京・大阪に30人ぐらいの学生が集まって会社をやっていたんですね。

35年前の大学生、今ほど起業ってことをみんな考えてなかった時代に、それぞれが起業しようと。もうすでに株式会社ができたじゃないかと。じゃあそれぞれが起業して、今東証プライムって言いますけど、東証1部に上場するような会社を作ろうってみんなで誓い合ってたんですよね。

馬渕:すごい、35年前に。

田中:そこで誓い合った仲間たちが真田さんのKLabとか、それからGMOとか、それからディー・エヌ・エーとかザッパラスとか、北の達人コーポレーションとか、それから人材派遣の……何だ、もう名前が出ない(笑)。本当に出資もしてもらって今、名前も出ないという失礼さ。あ、インテリジェンスだ。今はパーソルホールディングス。

馬渕:(笑)。

田中:そういうふうにたくさんの東証上場企業が生まれたんですね。そういう出会いがあって、加藤さんと10年ほど前にTwitterで再会して、いつか僕が商売やる時には手伝ってほしいなと思っていたんですが。ぜひにということで、本当に35年ぶりにタッグを組ませていただくと。僕はおんぶにだっこなんですけど。

馬渕:いやいや。すばらしいですね、昔からのご縁が今のこのかたちにつながっている。しかもその当時の方々が今やもう名だたる企業のトップであったり、退かれて次に渡されている方もいらっしゃいますもんね。

田中:企業の実質経営者というよりも、今やみなさん会長になったり投資家に回ったりしている。その時の仲間がさっき言った、個人投資家のみなさんなんですよ。

馬渕:なるほど(笑)。確かに、富裕層のみなさまですもんね。

支援者たちの「こんな本が読みたい」という話が聞きたい

馬渕:まずはその方々の支援があってスタートして、それをベースとしてたくさんの個人の方々が応援してと。本当にすばらしいかたちですね。今後どのような書籍を出版したいといったイメージはありますか?

田中:はい。すでに3冊の予定があります。3期目の会社ですけど、10月には新人女性作家の短編小説集。これが当社の初めての本になります。コスモ・オナンさんっていう、それは作中に出てくる名前で、作者は稲田万里さんという方です。

それから冬には田所敦嗣さんという、これもまったく無名の新人ですが、旅行記ですね。商社にお勤めで世界をぐるぐる回ってらっしゃるんですけれども、その旅先であったできごととか風景について非常に味わいのある文章を書かれる方です。

それから期末頃に出したいのは田口茂樹さんという、医療介護や医療派遣の分野で株式会社エス・エム・エスという非常に大きな会社を創業された方で、彼が創業時の苦労とか思い出をつづったビジネス本のような私小説のような回想録のような、そんな本を出そうと思っています。

馬渕:楽しみですね、すでに3冊が控えているということですね。でもまさに「まだ世に出ていないけれども、こういう世界感を作りたいんだよ」というビジネスモデルに対して応援がつくのがクラウドファンディングの良さですよね。

田中:そうですね、まだ儲かるか儲からないかわからないのにね(笑)。それがありがたい話で。資金に関してみなさんに支えられてるから、不安なく始められるわけですよね。「枯渇したらどうしよう。いやいや、十分先に預けていただいてるから、これを有効に使ってやれば何も怖くない」っていう気持ちで商売を始めることができる。

馬渕:発売を控える3冊をファンの方が購入されたり、どんどん普及していくと、御社の利益にもつながっていきますよね。

田中:うちは「ひろのぶと株式会社」だから、まず社長である私自身がとっても読みたい本を世に送り出すんですけれども。仲間になったみなさんが「こんな本が読みたい」「こんな作家と交渉したらどうか」っていう、その話を聞きたいんですよね。

馬渕:アイデアとかもいただけるとありがたいですよね。

チャレンジャーの夢を支援し、かたちにしていくプロセス

馬渕:ではここから柴原さんにもご参加いただいて、ディスカッション形式で引き続き田中さんにじっくりお話をうかがっていきたいと思います。柴原さん、よろしくお願いします。

柴原祐喜氏(以下、柴原):よろしくお願いします。

田中:実は僕、柴原社長とは初めましてでして。こんなにお世話になったのにあいさつも行かず申し訳ございません、本当に(笑)。

柴原:いえいえ、こちらこそ申し訳ございません。現場のメンバーがいろいろお世話になりまして、本当にありがとうございます。

田中:もう本当にね、FUNDINNOのみなさんめっちゃ働かはるんですよ。そのサポートがすごくて。「田中さんはそういう夢を実現したいんですね」っていうことで、FUNDINNOさんにはセクションごとにいろんなプロがいらして。1回のZoom会議が5時間とかありますから(笑)。

(一同笑)

でもそんな中でかたちにしていってくれるんですよね。創業者の僕なんて夢しか語ってないですから。数字とか会社の進め方とか、将来どうするか、5年後どうするかとか、大して考えがないところをFUNDINNOさんが1個ずつ「ちゃんと考えましょう」と(笑)。これがありがたかったですね。

馬渕:FUNDINNOへのお褒めの言葉をいただきましたけど、柴原さんどうですか?

柴原:私が言うのもおこがましいですが、すごく自慢のチームでして。一人ひとりが社会性もあって、ベンチャー・スタートアップなどのチャレンジャーを成長させたいという強い思いを持っているんですね。そのために「自分たちの力をどこかで提供できないか」と、真摯に取り組んでおります。

お時間をいただいてしまって申し訳ないと思う反面、その分いかに価値提供をしていくかということを、みんな真摯に考えて活動していて。そのように言っていただけると、みんな本当に喜ぶと思います。ありがとうございます。

田中:こちらこそです。FUNDINNOさんの今まで作り上げてきたノウハウというか、もやもやとしたベンチャーの夢みたいなものを、具体的に「みなさんに株式を募集するならこうしなくちゃダメだ」っていうメニューがめっちゃ考え抜かれてて。できあがったものが信用があるかたちになっているのがありがたかったですね。僕一人だと「何言ってんだかおじさん」ですからね(笑)。

柴原:(笑)。いえいえ、ありがとうございます。「夢を実現しよう」と取り組まれている田中社長の姿勢は、チームのメンバーに響いているんですね。我々も、「そういった方々をなんとかご支援できないものか」という思いでやらせていただいています。

1人の願望には限りがあるからこそ「世のため人のため」

田中:FUNDINNOもどんどん大きくなってる最中ですけど、ベンチャー、スタートアップとして始められたわけじゃないですか。僕はもう逆に、どうやったらああいうやる気のある人たちが集まってきて(笑)、組織していけるのかっていうところをすごくおうかがいしたいですね。

柴原:ありがとうございます。珍しいことがあるとしたら、初めの50人ぐらいまではリファラル採用(社員の知人・友人を紹介する採用方法)で人が増えていったんですね。これの何がいいかというと、初期のステージにおいて「誰がどういうつながりでこのビジネスに携わってくれるのか」ということがすごくわかりやすい構図になっている。それが結束力やカルチャーが生まれた理由の1つかなと思っています。

今はその倍以上の人が入ってきてくれていますが、創業当初から一貫して「挑戦をされている方々をご支援すること」に真摯に向き合う姿勢は変わりません。そうしたことから、まとまりが出ているのかもしれません。

もう1つ、そもそも入社してくれる方が社会性を持っていて。「世のため人のため」という思いが念頭にあって、「何かを起こすんだ」という人たちなんです。そういうところも、熱量が高い会社のカルチャーになっているのかなと思いますね。

田中:なるほど。今「世のため人のため」ってCEOがおっしゃいましたけど、本当にそこで。僕が35年前に身を投じたリョーマの面々もみんなそう言ってたんですよね。つまり、自分個人の「こうなりたい、こうしたい」という願望とか欲望には限りがあると。

満たされちゃったら、そのあと昼寝して暮らす生活にすぐ突入しちゃうかもしれない。贅沢って限りがありますからね、1人の人間ができることなんて。そうなってくるとやっぱり事業を突き動かしていくのは「こんなふうに世の中ちょっと変わったらおもしろいんじゃない?」っていうことかなと思いますね。

柴原:まさにおっしゃるとおりですね。個人の利益や目的を追求していくと、すぐ終わってしまう可能性もあるし、チームでやる意義もなくなってしまいます。我々はビジョンを達成するため、社会性を持ち、「世のため人のため」という思いを常に念頭に置いています。だから飽くなき挑戦ができるのかなと思っていますね。

会社として上場を目指すより、守りたいものがある

田中:当社の場合もやっぱり出版の業態、やり方を変えようってなった時に、最初に力を貸してくださった個人投資家のみなさんが「じゃあちょっと景色変えてみせて」っておっしゃってくれたし。

それから今回FUNDINNOで集まってくださった投資家のみなさんも、この株式募集に応じて一緒にやることで、何か変わればいいと思っている方だと思うんですよね。だからその思いが消えなければ続いていくし。まぁなかなか「儲かった」って言えるかどうなのかは、これからなんですけど(笑)。

馬渕:株主のみなさまと一緒に本を作って、ファンクラブ的な組織を目指すことを掲げていらっしゃいますよね。これからどんどん層が厚くなっていくのが楽しみですね。

田中:馬渕さんにご紹介いただきましたけど、当社はIPO、上場を目指さないというのを最初から申し上げていて。これもFUNDINNOさんでの株式投資型クラウドファンディングではすごくレアなケースだと思うんですけれども。「儲かったら配当で報いたい。でも株式を市場に上場することによって、言論の自由が失われたらまずいな」っていう気持ちはずっとあるんです。

本当にお金を持っている人が株式をたくさん買うと、発言力が非常に強くなる。そうすると出していく本に、一種の偏りが生まれるかもしれない。その自由を守りたいというのが1つあるんですね。

馬渕:なるほど。言論のこともありますし、確かにマーケットに上場するということは「ウケのいい本を出し続けなければならない」ということになりますもんね。

「売れる本」と「質の高い本」はしばしば矛盾する

田中:そうなんです。そりゃあ本は売れるのがいいんですけど、「売れる」第一と「質の高い本」というのは、しばしば矛盾することがあると考えています。

馬渕:なるほど。でも、これはクリエイティブな業界においてはなかなか難しい議論ですよね。

田中:ここは矛盾を抱えているところもあって。質が良くてよく売れるっていうのを考え抜かなければいけないんですけど。ただ、今、本屋さんでわーっと平積みにされて、1日なんと200点の本が新刊として出版されてる。

馬渕:そんなに。

田中:毎日200点、びっくりしますよね。じゃあその中で本当にみんなに残したい、図書館にも置かれたい、後世にも残したい、人の心を動かしたい……非常に手間がかかっている、そんな本が何割あるかって考えると、なかなか。「粗く作ってるなぁ」っていう本もたくさんあるなっていうのが僕の実感です。

馬渕:より丁寧に、本当に後世に残したい本だけを出していく。これが御社の中心的な考え方なんですよね。

田中:それで売れたらもっと良い、というところですね(笑)。

馬渕:そうですよね。しかも上場やイグジットを目指さないがゆえに持続可能というか。ずっと存続していける企業体ということですよね。

田中:そうですね。