「親孝行の呪い」が、気づかぬうちに子どもの負担になる

川内潤氏(以下、川内):働きながら介護をされている方とか、これから介護しようとされている方からの相談で、「うちの会社もついにテレワークが認められて、子どもたちにとってもなるべくいい環境で子育てできるといいから、思いきって田舎に帰って認知症の母親と一緒に住んで、母親のケアをしようと思っているんですよ」という相談があるんですよ。

その時に「え、ちょっと待ってください。一緒に行く子どもたちが、おばあちゃんのケアで非常に厳しい状況になるという発想は持ったことがありますか?」と聞くと、まったく考えていないんですよね。そこに、さっき言った「親孝行の呪い」みたいなものがある。

だから、そういった方々に対して「確かにそれも選択肢ですけど、子どもたちへの影響を考えたことがありますか?」という質問をできると、防げるなと思うんです。

おじいちゃん・おばあちゃんのことが好き、お父さん・お母さんのことを大事にしたいという子たちの気持ちを否定することは、誰にもできないんです。でも、その環境になるもっと手前のところで、「いやいや、こういうことってイメージしたことあります?」というサジェスチョンができる場があることって、実は大事なんじゃないかなと思いました

宮崎:めちゃくちゃ大事ですよ。ケアをやらされてしまう事例と、僕みたいに自らやろうとしている事例があると思っていまして。今の事例だとたぶん、親は意識せずにやらせようとしちゃっていた。

川内:そう。まったく無意識なんですよ。だから、怖いなと思ったんですよね。

宮崎:そうですよね。

川内:自分の子どもの未来に大きな影響が出てくるみたいなことって、たぶん想像できないし、想像しづらいんです。

「ヤングケアラー」という言葉は知っていても、当事者意識はない

川内:ここでもう1つお話ししたかったのが、じゃあお父さん・お母さんたちが「ヤングケアラー」という単語を知らないかというと、知っているんですよ。

これはもう、成悟さんや他の当事者の方々が本当に苦しみながらも発信してくださって、国も動いてくれたから、ヤングケアラーという単語は知っているから私も伝えやすいというか。

「ヤングケアラーという単語を知っていますか?」と聞くと、「そういえばこの前NHKで見た。すごく大変な子どもがいるんですね」と言うんだけど、当事者意識はないんですよ。対岸の火事というか。

まさか自分の子どもがその状況になっていく、しかもそれが自分の選択によって引き起こされる可能性があるんだということには、おそらく目が行っていない。ここも非常に大事じゃないかなと思います。こういったことを発信できるような場が必要ですよね。

さっき成悟さんもおっしゃってくれたんですが、介護を自らやっていたという言葉と、やらされていたという言葉。そして本当はどうだったのかという言葉って、おそらくいろいろあるだろうなと思います。

本人としては自分の気持ちを保つために「私は自らやっていたんです」と言うしかなかった方も、たくさんいるなと思うんですよ。

宮崎:うん、うん。

「介護するための家族」は存在しない

川内:これも、自分の反省がすごくあるというか。「あ、この子はいい子だったんだな」ということで、支援者が落ち着いていないだろうかと思って。

例えば「私は好きで介護をやっているので、余計なことをしないでください」と言われた時に、当然そこで支援をストップしないとは思うんですけど、その言葉の本当の意味を聞く力や聞く時間がきっと必要なんじゃないかな、と思いながら成悟さんの話を聞いていました。

宮崎:僕の家庭に置き換えると、今となっては僕は本当に自主的にやっていたとは思っているんですが、たぶん父親は「子どもにやらせている」「子どもの将来がどうなるのか」という意識はしていなくて。

例えば、もうちょっと父親が僕の意見を聞いてくれるとか、もうちょっと子どもの人生を考えてくれたら、僕の家庭も変わっていたのかなと思うんです。ただ、父親は仕事を辞めるわけにもいかなかったですし、奥さんが難病という状況でどうすればよかったんだろうというか。

川内:すごくいいご質問です。これが答えになるかどうかわからないんですが、「介護するためのご家族」なんていうのは、存在しないと思っています。介護の適切な関わり方をするために、ご家族があるわけではないと思うんです。

だから私は、成悟さんにはすごく負担がかかってしまったかもしれないけれども、それこそさっきおっしゃった「出口」があった時に、成悟さんが今はこういうふうに活動されていることも含めて考えると、これが1つのかたちだったんだなとは思うことはあるんです。

ただ、やっぱり過度になっていくというか、ドロップアウトしていってしまうことが本当に厳しいかなと思うんです。だから選択肢が提示されているというか、誰かが声をかけてくれる場があると、もう少し緩和されていくんではないかなと思っています。

当事者意識が芽生えると、隠れたヤングケアラーに気がつける

川内:実際、多系統萎縮症の方のところにも訪問をさせていただいているんですが、そのご家庭には小さなお子さんもいます。でも、無理なくケアをされていて、それがいい・悪いではないんですが、「誰かにお任せすることが、かわいそうというわけではないよね」というように、どういうバランスでどうやってくかをご家族の中で話し合えている。

だから、そういう声の掛け合いみたいなことは、当然支援者も含めてできるといいなと思っているんだけど、子どもたちにすべての負荷がかかっていくと、窓のすべてのシャッターが閉じちゃう感じになる。これが一番良くないかなと思っています。

さっき言ったように「親を呼び寄せます」「本人が家族以外の人を嫌がるから、できるだけまず家族でやってみます」という相談を受けて、それって子どもに対しての影響ははどうですかね? 一回考えてみてくださいと言って、「じゃあ、やっぱりうちはそういう選択をしないように、子どもの影響を最小限にするようにします」となったとしますよね。

そうするとおもしろいのが、その人たちの中で「ヤングケアラー」という存在が主体的になるわけですよ。我が事になっているから。自分の職場の人に、「もしかしたらそれってヤングケアラーになっているんじゃない?」と声をかけられたりとか。

自分の子どもの同級生の子が毎日買い物に出掛けていて、「あの子ってもしかして」と気づけたり、そういうフィルターを持てたりする方が増えてきている。だからまず、我が事として考えるというか。本当に主体的にしないといけないなと、周りに目をやって気づける方が増えているなと思うんです。

ヤングケアラー支援のこれから

川内:やっぱり日本人は「人の家庭のことだし、こんなことで声をかけていいのかな?」という思いがあるかなと思うんですが、そのハードルも少し下がるかな。そうやって声をかけていくことで、ヤングケアラーの子どもたちにもすごく優しい社会になっていくなんじゃないかなと思います。

実はそういうところから、さっき成悟さんが親戚に言った「調理師になるんだ」という言葉が周りの人たちに伝わって、「それってさ」と言ってくれる大人が増えていくかたちになるんじゃないかなぁと、日々やっていて思うんですが、どうですかね。

宮崎:本当におっしゃるとおりだなと思います。

川内:ありがとうございます。

宮崎:今回はビジネスパーソンの方々が対象なので、ちょっとずれちゃうかもしれないんですが、ちょっと質問です。

川内:ぜひぜひ。大丈夫ですよ。

宮崎:メインケアラーが健康な家庭があるじゃないですか。うちの家庭もメインケアラーは父親で、父親は元気だった。でも、子どもがメインケアラーになっているケースもあるじゃないですか。

例えば、ALS(筋萎縮性側索硬化症)のお母さんを子どもが1人でケアしたりとか、重い精神疾患の1人親をケアしている子どもがいるとか、そういうケースは本当にどうしたらいいんだろうな? というのは、支援団体として悩ましいなと思っていますね。

川内:それはぜひ、個別にもいろいろお話を聞いていきたいなとは思います。やっぱり、まずは話を聞くだけでも支援じゃないかなと思うんです。無理やり「ああだよね」「こうだよね」ということじゃなく、まずは一緒の時間を作ることじゃないかなと思っていて。

成悟さんがさっき言ってくれた、「相談したいな」という気持ちが漏れてくる時に、そこに誰かがいることが大事だなと思います。だからすごく粘り強く、すごく多大な時間を使ってヤングケアラーの方々の支援をする必要があるんだなと思うんです。でも、支援の資源って少ないんですよね。これを言うと、なんか自分の言い訳みたいなんですが。

加速する高齢者の要介護状態、今はまだその“前夜”

川内:今は、ヤングケアラーの子どもたちがケアをしている対象が「障害を持っている兄弟」というケースが一番多いわけですが、これから団塊の世代の高齢者の方が一気に要介護状態に入る状況に入っていくので、まだ今はその“前夜”なわけですよね。

これは私の完全な仮説ですが、自分の祖父母をケアする人が、兄弟をケアする人を追い抜いていく日が来るような気もしていて。だから、これからもっともっとヤングケアラーが増えるとしたら、当然ですが公的支援をしっかり頑強にして充実させていく。

これも大事なんだけれども、一方でそれにつなげていく日常的な緩やかな見守りだったり、そもそもヤングケアラーにしていかない運動や流れもないと、見通しとして厳しいなと思っているんです。だから今、そこが危機的だなと思っている感じですかね。

宮崎:そうですよね。ヤングケアラーと言うと、もうその状態になっている子たちを発見しましょうという声が強いんですが、もちろんそれはそのとおりです。

ただ川内さんがおっしゃるとおり、もう(すでにヤングケアラーに)なっている子を発見して支援していくと同時に、未然に防ぐ活動も絶対に必要だと思っていますので、こういう考えがちゃんと世の中に広まっていくといいなと思いますよね。

川内:そうですね、ありがとうございます。私は今みたいな仕事をしていて、偶然「これってもしかして」と思うことがあったり、実際そういうケースもあって。だから、成悟さんからもいろいろ勉強させてもらいながら、なんとか支援が届けられている。

結局は伴走的な支援というか、その家のありように少しでもお力添えできるような粘り強い支援ができるとよくて。漠然としていて申し訳ないんですが、何か困った時にいつでも声をかけてもらえる支援のかたちを作れなきゃいかんなぁと思いながら、話を聞いていたところでした。ありがとうございました。

宮崎:ありがとうございます。

ヤングケアラーに対して「支援の糸をたくさん垂らす」

川内:というところで、ちょうど時間が……。

八鍬慶行氏(以下、八鍬):はい。そろそろお時間になってまいりました。お二方ともありがとうございました。参加者の1人としても聞いておりまして、ヤングケアラー当事者の支援というところと、ヤングケアラーと密接に関わってくる親や周囲の大人たちへの支援は分かれているように見えて、実は非常に密接に繋がっていると思いました。

ヤングケアラーに対して感度の高い大人が増えていくこともヤングケアラーに支援を届けていくことにつながりますよね。あらためまして、お二人ともありがとうございました。

そろそろお時間になりますが、最後に一般社団法人ヤングケアラー協会の宮崎さんと、となりのかいご代表理事川内からお知らせをさせていただきます。

宮崎:ありがとうございます。我々は今、クラウドファンディングを実施しております。どういった内容かと言うと、ヤングケアラーが相談しやすいLINE相談窓口のシステム設計をしようと思っております。

なぜこれが必要かと言いますと、先ほどの話でもあった、声をあげたい時に声をあげられる仕組みであったり、長期的に伴走するような仕組みがヤングケアラー支援にとって必要だと思うからです。

あと、最近僕は「支援の糸をたくさん垂らす」という言い方をしているんですが、本当に川内さんのような方もいて、介護事業所の方や行政もいて、友だちにも相談できて、近所の大人もいて、こういったSNS相談もあって。

そういった、ヤングケアラーを支える糸が周りにいっぱい垂れていたら、何か困った時にどれを引っ張ってもいいという状態になりますよね。そうすることで、相談しづらいヤングケアラーも少しずつ引っ張れる糸が増えていくんじゃないかなと思っているので、その1つとしてこういったSNSの相談窓口を始めようと思っております。

(リターンに)かわいいグッズとかも用意しておりますので、もし今日お話を聞いて共感していただいて、ぜひ必要だと思っていただいた方は、大変恐縮なんですけどご支援をいただけますと幸いです。本日は本当にありがとうございました。

週に1回のラジオ配信など、情報発信も支援の1つ

八鍬:ありがとうございました。かわいい模様のTシャツとか、いろいろ見えていましたので、参加者のみなさんが可能であれば、ご支援のほどをよろしくお願いいたします。では最後に、川内さんからご案内をお願いいたします。

川内:では、簡単にうちの法人からのお知らせです。いろんなセミナーをやっていますので、オンラインの企画もやっていきますし、何かご依頼がありましたらぜひご連絡いただければと思います。

あとは、こんな本(『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』)も出させていただいてるので、もしよろしければ手に取っていただければと思います。うちの法人のFacebookでも、いろんな介護ニュースの解説をさせていただいたりしています。ヤングケアラーの話とか、最近は障害を持ったご家族を家の中でついつい閉じ込めてしまうという問題に対する解説をやったりもしています。

日経ビジネスでも連載を持たせていただいているので、こちらもご参考になったらなと思います。働いている方向けに整えて発信しています。週1回の配信でラジオもやっていまして、ここでも多くヤングケアラーの話をとりあげているので、こちらもご参考にしていただけるといいかなと思っています。

こういう情報を発信していくことも1つの支援であり、NPOとしての役割なんだろうなと思いながら取り組みをさせてもらっています。ありがとうございます。

八鍬:ありがとうございます。それではお時間になりましたので、こちらで終了とさせていただきます。引き続き、NPO法人となりのかいご、ならびに一般社団法人ヤングケアラー協会をよろしくお願いいたします。本日はご参加いただきまして、誠にありがとうございました。

川内:ありがとうございました。