「わが子をヤングケアラーにしないためにできること」

八鍬慶行氏(以下、八鍬):それでは本日のイベント、「わが子をヤングケアラーにしないためにできること」を、始めていきたいと思います。

まずは、NPO法人となりのかいご代表理事の川内潤から、団体の紹介ならびにヤングケアラーの実態、そして(わが子を)ヤングケアラーにしないためにというところで、お話を進めていけたらと思っております。川内さん、よろしくお願いいたします。

川内潤氏(以下、川内):八鍬さん、ありがとうございます。ただいまご紹介いただきました、NPO法人となりのかいご代表理事の川内です。よろしくお願いします。

さっそくなんですが、私の自己紹介からしていきたいと思います。私自身は、高校生の時に器械体操をやっていました。その時の怪我で車椅子に座っていたことがあったんですが、それをきっかけに大学に行って社会福祉学科に入りました。

そんな思いで4年間、福祉の研究や介護ビジネス、福祉ビジネスの研究をしていました。ミッション系の学校で4年間がんばって何が起きたかと言うと、「外資のコンサル会社に行ってお金を稼ぐ必要があるんだ」と思ってしまったという、ちょっと変わった人間だったんですね。

それで外資に行って、本当にお金を稼ぐことしかしていなかったんです。でもその後、「やっぱり直接人の支援がしたい」と思って介護職になったという、ちょっと変わった経歴を持っています。

一番最初にやったことは訪問入浴といって、ご自宅で寝たきりの方をお風呂に入れてさしあげる仕事ですね。今思えば、その時に「なんでこの子はこの時間に家にいるんだろう?」という子たちに出会っていたものの、なかなかそこで声をかけられなかったなというのが、本当に強く反省するところですね。

介護で心身が追い込まれ「高齢者の虐待」につながることも

川内:そんなふうに介護の仕事をしていると、ご家族がどんどん追い込まれてしまって、ついつい自分の父・母、妻・夫に強い声をかけてしまう。怒鳴ってしまったり、時には手をあげてしまうことがある。そんな時に「これはなんとか止められないものかなぁ」と思って、「となりのかいご」という団体を立ち上げました。

それらの行為を「高齢者の虐待」と言ったりするんですが、何がそれの防止になるんだろうかということで、「この団体を立ち上げても、じゃあいったい何をしたらいいんだろう?」と、うようよ考えていたんです。

そこへ、偶然にもある企業さんからお声がけいただいたんです。その企業さんに出掛けていって介護のお話をしたところ、まさに今働いていらっしゃる方で、「明日にでも仕事を辞めて親の介護をしてあげなきゃいけないんじゃないんだろうか」「(介護の中で)ついつい親を怒鳴ってしまうんだよね」と、悩んでいる方がかなりいらっしゃって。

こういう方々に介護との上手な付き合い方をお伝えすることが、私が介護の現場で出会ってきたような、非常に厳しい状況に追い込まれてしまわれている方の予防になるんじゃないかなと。

ということで、今はいろんな企業さんと顧問契約をさせていただいて、介護セミナーをしたり個別の介護相談を受けたりしています。今は月にだいたい50件、年に600件ぐらいの相談を受けているという感じです。

セミナーや個別相談をしていて思ったんですが、地域で介護の仕事をしていると、なかなかご家族とゆっくりお話しする時間が得られなかったり、介護が必要な方ご本人が不在な場で、何の遠慮もなく話をしてもらうような場面が意外となかったなと思っていて。

なので、「ご家族のお悩みに対して、こんなふうにサポートができるんじゃないだろうか」ということを書籍やラジオで発信することが、今のがうちの仕事になっています。

介護=親孝行という「親孝行の呪い」

川内:そこで気づいたことがいろいろあるんですね。それは、私たちの中に「親孝行の呪い」のようなものがあるんじゃないかということです。

頭の中では「誰かを頼っていかなきゃいけないんだろうな」と思いつつも、ついつい自分で介護をすることが親孝行だと考えていたり、それができないと「なんと親不幸なんだろう」と考えてしまったりしているんじゃないかなと思います。

それを客観的に理解するというか、明らかにするために、インターネットの調査をしてみたんですね。1,600人の方に調査をしてみたら「困った時には外部に頼るべきだ」という人が93パーセントと、やっぱり多いんです。

しかし、「介護を自分の手で行うことが親孝行になる」と答えている方も6割を超えるんですよね。この2つがアンビバレンツというか、矛盾するようなところがあるんじゃないかなとも思っていて。ここで多くの方が悩んでいるように感じました。

実際にあった事例なんですが、残念ながら部活を辞めてしまった高校生の事例です。ご両親と息子さんの3人のご家庭だったんですけど、一人暮らしだったおばあさんが認知症になられたので引き取られたんです。

とはいえ、ご両親は共働きでお忙しい。父方のおばあさんだったんですが、お父さんとおばあさん、つまり母と息子はいろんなことで喧嘩になるわけですよね。「さっきも言っただろう」「ちゃんと財布をわかるところにしまっとけ」みたいなことをついついお父さんが言ってしまって、「そんなのわかってるわよ!」とおばあさんが怒る。

そういう姿を見かねて、一緒に住んでいる息子さん、つまりお孫さんがそれを止めに入る。おばあさんは孫から声をかけられるとすごくにこやかに答えてくれることもあって、だんだんお孫さんがケアに入っていく場面が増えていきました。

ヤングケアラーは、傍から見たら「いい子」に見えている

川内:さらに、こんなに若い子や小さな子でもヤングケアラーになるんだという事例があります。お父さんが精神疾患になられてしまった事例です。夫が仕事をするのも厳しい状況になってしまったので、お母さんは自分が働かなきゃいけない。

そこで、息子である6歳のお子さんがお父さんにいろいろ声をかけたり、時々食事の手伝いなどもするようになりました。まだ小さな弟もいるので、弟のサポートもしなきゃいけない。この子自身は当然理解していないだろうけれども、いつの間にかヤングケアラーになっている事例があったりします。

でも、この子は「いい子」なんですよね。お父さん、お母さんからしたらすごくいい子だし、もしかしたら近所でお父さんと散歩している姿を見て、「あぁ、あんなに小さな子なのに偉いね」と声をかけられたりすることもあるようです。

だから、いわゆる「いい子」ということは、実はヤングケアラーとして日々がんばってケアをしているということでもあったりします。

これが、私たちにある親孝行の呪いのようなものですよね。「外を頼ったほうがいいんだろうな」「これってどうかな?」と、少し引っかかるものはあったりもするので、やっぱり頭ではわかっている。でも、心では「自分でやることが1番だろう」という気持ちが本当に根強いなと思っています。

介護を担う子どもが「美しく見える」という現象

川内:相談を受けていても、この話がテーマにあがることが本当に多いなと思っています。家庭の中でいつの間にか介護を抱え込んでしまって、子どもがいつの間にか介護の担い手になっている。でも、その担い手になっている姿が一瞬美しく見える、ということが起きてしまっている。

家族だから「自分の子育ては間違っていなかったな」と思って、「うちの子があんなにいろいろやってくれる子だとは思わなかったんですよ」と、すごく喜ばしく伝わることもあって。これって難しいなと思いながら、相談を受けていたところでした。

ヤングケアラーになっていくまでの流れってあると思うんですよね。まだヤングケアラーではないけど、日常の生活の中で少し手伝ったりしているという状況。実はいろいろサポートをしているけど、特に影響はない状況。

でも初期の段階になってくると、家事と学校の両立で多忙になったり、部活に支障が出たり、成績が下がり始めたりします。でもここでも、実は一緒に住んでいる親御さんは気づかれていないこともあったりします。

そして中期になっていくと孤立したり、「介護はもう自分がやるしかないのかな」と思っていたりするという流れがある。中期になって初めて、「ヤングケアラーの子がこの家庭にはいるのかな」「あの子大丈夫かな?」と可視化されることになるのかなと思うんです。でも実は、そこにちゃんと家庭の歴史があるなと思います。

あえてちょっと強い言葉を使いますが、ついつい「任命」してしまう瞬間があるというか。「(親から見て)いい子だな」「あの子がこの時間に介護をやってくれたら」「うちの子が声をかけたほうが母親もいい顔しているな」とか。そんなことから、(スライドの)上にあげたような事例が起きているんじゃないかなと思っているところです。

以上で、私のお話とさせていただきます。

日本では、法令上の「ヤングケアラー」の定義はない

川内:ここからはヤングケアラーの当事者でもあり、日々ヤングケアラーの支援をされている一般社団法人ヤングケアラー協会代表理事宮崎成悟さんにバトンをお渡しして、お話をしていただきたいと思います。成悟さん、お願いします。

宮崎成悟氏(以下、宮崎):みなさん、こんばんは。ヤングケアラー協会の宮崎と申します。では、私からは大きく3つお話をさせていただきます。ヤングケアラーの概要と、その後に私のヤングケアラーの経験を少しお話しさせていただいて、最後に我々団体の紹介をさせていただこうと思っております。

まず簡単に自己紹介をさせていただきますと、私は15歳から難病で寝たきりの母のケアをしてきまして、その経験を基にヤングケアラーを支援する団体を立ち上げました。それがヤングケアラー協会で、昨年厚生労働省の調査委員をさせてもらったりしております。

後ほど私の経験は詳しくお話しさせていただくんですが、まずは「ヤングケアラーとは」というところをお話しさせていただきます。まず、実は日本で法令上の「ヤングケアラー」の定義はまだないんですね。

他の国はどうなっているかと言いますと、イギリスでは法令化された定義があります。こんな感じで、けっこう広い意味でとっている定義なんですが、18歳未満のケアを担っている若者がヤングケアラーとされています。

もう1つ、オーストラリアもヤングケアラー支援が進んでいるんですが、オーストラリアではけっこう言葉を限定していて、25歳以下までを対象としてヤングケアラー支援をしています。

勉強、進学、遊び……ヤングケアラーたちが諦めていること

宮崎:では日本はどうなってるかと言いますと、日本ケアラー連盟というところが発表しているものが一番普及しています。「家族のケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートを行っている18歳未満の子どものこと」をヤングケアラーと呼んでいます。

18歳からおおむね30歳代までを若者ケアラーと呼んだりもします。どこまで責任を負っているとヤングケアラーなんだろうか? という線引きがまだ法令化されていないので、ここらへんを決めていかなければならない状況です。

なので、今後法令化をしていくにあたって、何歳までを支援の対象とするかとか、ケアの範囲をどこまでとするかというところの議論のさなかであるという状況です。

ヤングケアラーが日常的にしていることはいくつかあります。身体的なケア、精神的なケア、幼い兄弟の世話。それに付随して家事、料理、掃除をしていたり、また家計を支えるために労働して助けています。

いろんな病気の方をケアしているヤングケアラーがいます。例えば、認知症の祖母をケアしているヤングケアラーは、世間的にすごくイメージしやすいと思います。

一方、耳の聞こえない両親のもとに生まれた人、アルコール依存症のご両親をケアしてる人、統合失調症などの精神疾患のケアをしている人など、なかなか見えにくいというか、世間にイメージしづらいようなヤングケアラーの方もたくさんいらっしゃいます。

そういったヤングケアラーの負担が過度になると、自分の時間が取れなくなっていって、いろんなことを諦めなければいけなくなります。

例えば受験や勉強、進学、遊ぶこと。あとは子どもらしく夢を描くこととか、そういったたくさんのことを諦めなければいけない状態になってしまうので、その前にヤングケアラー支援をして、諦めることを未然に防いでいかなければいけないと思っております。