アイデアがぱっとひらめいた時の脳内はどうなっている?

今井広夏氏(以下、今井):では続いての質問です。「『アイデアが瞬間的にひらめいた』といったことをよく聞きますが、その瞬間、脳内ではどのような思考プロセスとなっているのでしょうか?」

暦本純一氏(以下、暦本):これもさっき言ったように、頭の中で2つの既存のものがぶつかってつながったんだと思います。その時に、それが価値があるつながりかどうか判断するために、頭の中ではずっと検証していたと思うんですね。

だからそのうち1個、「この組み合わせなら解決できる」というものが見つかるのですが、その裏にはずっと探索している時間がある。その結果として、アイデアが出てくるんだと思います。

今井:ありがとうございます。では続いてのご質問です。「自分の妄想が相手に伝わらない時(Claimとしては成立しているが、その価値を相手が認知できない時)、伝える努力やコツはありますか?」。

暦本:先ほど説明したように、言語にして初めて「これでは伝わらないな」とわかるんですね。書き出してみて「これでは説明しても伝わらない」と思うのなら、「もう少し現実的な話に置き換えてみよう」など、自分の中でClaim(正しいか間違っているかを客観的に判定できるような言明)を精査してデバッグすることができます。

それから、例えば「遠い未来はこうなる」みたいな、ものすごくハイレベルな妄想ってありますよね。そういう、すごくハイレベルな自分のやりたいことと、一個一個の問題をさらにブレイクダウンしていくことはレベルの違う話なんですね。ハイレベルなものは、そんなにすぐにわかってもらえなくても構わないと思うんです。「あんまり簡単にわかってたまるか」みたいなところもありますし。

「価値」と「やっていること」がつながると議論の土台ができる

暦本:ただ、例えば企画案件やプロジェクトのような、もう少し具体的なことであれば、ブレイクダウンして言語化する時に、わかりやすさが重要だと思います。だから、そういう時に「わかりやすいか・わかりにくいか」ということをシビアに見るために言語化しているようなところもありますね。

あとちょっと思いついたのは、Claimとしては「こういうことをすればこういうものが解決できる」みたいな価値が含まれているといいと思います。

しかし得てして学生さんと話していると、完全に「作業の組み合わせ」だけになってしまっている人がいるんですね。「この装置と、この装置を組み合わせるアイデアはどう思いますか?」みたいな。「どう思いますか?」と言われても、「それは、何のために組み合わせるの?」という話になりますよね。

本人としては、なんとなくやりたいことはモワッとしているんだけど、そこまでClaimになっていない。例えば「豚骨ラーメンの上にアイスクリームを乗せたいと思うんですけど、どう思いますか?」とか。「どう思いますか?」と言われても困りますよね。

「豚骨ラーメンの上にアイスクリームを乗せたら、すごくおいしくなると思うんですよ」「本当?」というふうに話が進んで、その「価値」と「やっていること」がつながると、人と議論できると思います。

アイデアが足りない時は、単純に「知らないだけ」のことが多い

今井:補足いただきましてありがとうございます。では続いての質問です。「ブレインライティングの場合でも、テーマに関しての事前インプットが必要だと思います。先生の研究室でブレインライティングをする際には、事前の情報収集は各参加者のふだんの取り組みでなされているのでしょうか?」

暦本:そうですね。ある程度事前にインプットをした人が集まっているのが前提です。だから、さっきの「インプット増やし大会」みたいなことを並行してやったほうがいいと思います。何も考えてきていない人が、その場で思いついたものを並べてブレインライティングしてもあまり実りはありません。やっぱり、入力そのものが重要です。

今井:ありがとうございます。では続いてのご質問ですね。「『発明は必要の母』はとても参考になる考えでした。一方、いろいろ考えても天使度(発想の斬新さ)が高いPivotにはどうしても結びつきにくい実情があるのですが、何かコツはありますか?」。

暦本:それもたぶん、インプットというか手持ちの引き出しが少ないんだと思います。結局、こういう話って手法は手法として説明できるんですけど、インプットは基本的に数の問題なんですね。100個しか知らない人と、1万個知っている人とでは、当然1万個知っている人のほうが発想が豊かになる。

だから、アイデアが足りないと思ったらインプットを増やすのが手っ取り早い。いろんな本を読むとか、研究者ならいろんな論文を読むとか、知っていることを増やすのが基本的な発想になります。「知り過ぎると発想がしぼむ」という人もいますが、そのくらいまでいけばいいので。普通の場合は、単純に「知らないだけ」みたいなことが多いですね。

グループの中に「情報のプール」が生まれる、情報共有のコツ

今井:ありがとうございます。では続いてのご質問ですね。「Scrapboxでは具体的にどういった内容の情報を共有されていますか? 聞き逃してしまいましたので教えていただきたいです。インプットを増やす取り組みとして実践したいと考えています」。

暦本:私たちの研究室のScrapboxは、全員が共通で使うものと、個人用として研究ノート代わりに使うものがありまして。全員共通のものは、例えばおもしろいウェブサイトや論文を見つけた時に、それをクリップして貼ったり、あるいは研究のアイデアのメモを書いたりします。何を書いてもいいんですね。

Slackも使っていますが、これはどっちかというとフローですよね。毎日毎日流れているメッセージなので、そこに大事なことを書いてしまうと、「そういえば3ヶ月ぐらい前に誰かが言っていた気がする」と思っても二度と探せないんですけど。

Scrapboxはわりと検索が強力なので、やっていくと研究室やグループの中で、だんだん知財が蓄積されていくんです。「そういえば、ああいう研究を見たことがあるな」とか「ああいう事例について言っていたな」というのはだいたいScrapboxに入っている。情報のプールになるんですね。

あとGoogle Docsは実は同時編集ができるので、ミーティングの度に新しいページを作って、そこに同時に書き込みながらやっています。Zoomでやる時もそうですね。そうすると、発言をダーッと書き込めるので、後から見返した時にミーティングのログのように「いいことを考えたんだな」ということがわかったりするんです。

個人用のScrapboxもほとんど同じなのですが、こちらはClaimを並べて書いてみたり、モワッとしているものがあれば、ある程度固まってきたものをコピーして、共通のところに置いて「どうですか?」みたいなこともあると思います。たぶん個人使用だと無料なので、ぜひ始めてみてください。

これも数の問題で、1,000ページ書くのはさすがに多すぎなので、とりあえず100ページくらい書いてみるのがいいんじゃないでしょうか。お子さんの学校の勉強のノートやメモとして使ってみるのもありかもしれないですね。

SFや漫画にヒントを得て、現実の話とつなげる試み

今井:私もぜひやってみたいと思いました。では続いてのご質問ですね。「暦本先生はウィリアム・ギブソンさんと対談をされたり、SF好きかと思われます。『SF的な着想』もしくは『SFからの着想』があれば教えてください」。

暦本:今やっている「人間拡張」の仕事がサイボーグを作ることなので、子どもの頃から延々と読んでいたSFとかサイバーバンクとかの延長線上にあります。ただ、SFやショートショートがそのままアイデアになるというより、もう一段階入っている感じはしますね。

例えば、漫画『ドラえもん』の「どこでもドア」は作れないけど、3次元再構成するディスプレイにしたらそれに近いんじゃないかとか。SFや漫画の作者は、そのアイデアが現実にならないからこそSFとして書いているわけです。だからそこに、何かを入れることで現実の話につながるんですね。

SFや漫画では片方のピースだけを書いている場合が多いかもしれない。だから、残りのピースを自分で見つけることがアイデアになるんです。

今井:多数のご質問をいただいている中恐縮ですが、お時間となりましたのでQ&Aは以上とさせていただきます。たくさんのご質問を誠にありがとうございました。それでは暦本さま、よろしければ最後にみなさまに向けて一言お願いします。

暦本:どうもありがとうございました。直接顔は見えないですが、たくさんの方に参加していただいて大変ありがたく思っています。

私はこのように研究や発明をしている人間ですが、こういうノウハウを少しでも多くの人に伝えて、(みなさんに)「新しいことを(考えるのは)楽しい」(と感じていただきたいと思います。)

変な言い方ですけど、僕は一生飽きたり、ボケたりすることがないんじゃないかなと思うんですね。だからそれをみなさんと共有して、仕事や家庭において、工夫したり、楽しく思えることを実践する人が増えたらいいなと思っています。今日はどうもありがとうございました。