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ノンアル専門商社をひとり起業してみた(全3記事)

「日本初の専門商社」を1人で設立、苦労した点や醍醐味は? ノンアル飲料という未開拓市場に挑む、若手起業家の展望

健康志向や、コロナ禍で酒類の提供が禁止されたことなども影響し、ノンアルコール飲料の世界市場規模が伸長しています。一方で、日本で市場が育っていないことに着目し、日本初のノンアルコール専門商社を20代で起業した安藤裕氏。ブルーオーシャン領域で、専門商社を立ち上げた経緯とは? 多角経営をひとりで行う術や、ひとり起業の醍醐味やハードシングスを探ります。

営業電話千本ノック……ひとり起業のハードシングス

児玉あゆこ氏(以下、児玉):それから、ひとり起業の醍醐味・おもしろいところと、ハードシングス・大変なところの乗り越え方はみなさん興味があるかなと思っているので、おうかがいしようと思うんですけれども。今、ちょうど5年目を迎えられたばかりなんですが、大変なことだらけだったと思うんです(笑)。

安藤裕氏(以下、安藤):そうですね(笑)。

児玉:特に印象に残っている「これは苦労したな」ということや、逆に「一人で起業する上でこれが醍醐味だな」というところを、それぞれおうかがいしたいです。

安藤:(起業して)初めのほうのハードシングスと言うと、実際にお店に電話したり、店舗にうかがう営業の方法だったので、電話だけだったら1,000件ぐらいかけていました。

児玉:1,000件!?

安藤:まずは1,500~2,000ぐらいのリストを自分で作って、順次かけていく。

児玉:地道な作業ですね。

安藤:はい(笑)。当然、みんながみんないい対応をしてくれるわけでもないので、ハートが折れそうになりながら。どうやって乗り越えたかというところなんですが、「めげずにやれ」というところにはなってしまうんですが(笑)、めげずにやっていったら認めてくださる方も出てきて。

実績を積めるようになってくると自信にもつながりますし、「あの人はああ言っていたけど、うちはあそこに取り扱ってもらってるしな」ということも思えるようになってきて、そんなに苦じゃなくなりましたね。

児玉:なるほど。千本ノックですね(笑)。

安藤:本当に(笑)。

児玉:電話の千本ノックから地道に。そのへんって、起業される前にイメージしていましたか?

安藤:でも、初めは絶対に必要だろうなと思っていたので。

児玉:わりと想定内ではあったと。

安藤:想定内ではありましたけど、やっぱりきついなっていう(笑)。必ずしもみんながみんな「いいアイテムだ」と言ってくれるわけではないですし。

「相談」は意見をもらうのではなく、考えをクリアにする作業

児玉:なるほど。お一人なので、相談相手や誰かと話しながら決めていくことができなくて、けっこう苦労されたとおっしゃっていたんですが、相談ができる・できないってけっこう大きかったですか?

安藤:やっぱり、壁打ちできる相手は絶対に持っておいたほうがいいなとは思いますね。私も相談できる相手がいないとは言いつつ、学校の頃の友だちで話を聞いてくれる人がいたので。

いてくれるとやっぱりかなり心強いし、壁打ちって相手がいい意見をくれると言うよりかは、話している中で自分の中でいろいろなことがクリアになっていくという感じが大きいので、そこは良かったですね。

児玉:なるほど。何か答えをもらうというよりも、ご自身が話しながら整理をしていくという、まさに壁打ちですね。

安藤:そうですね。ファイナンスの部分とか、専門的なところも探せば意外とこちらでもできますし、無料で話を聞いてもらえるところがあるので、そういったところからアイデアをいただくのはありだと思いますね。

児玉:ツムギバでも壁打ちをやっているので、話の整理をするだけでもけっこう事業が前進するんですね。

安藤:ぜんぜん違いますね。自分で話している中で「あ、こういうことなんだ」って気付くケースは多いので。

児玉:なるほど。

「思いついたらすぐ行動」できるのが、ひとり起業の醍醐味

児玉:今も続けていらっしゃるので、何らかこの事業に対するおもしろみがあるというか。起業する上でのおもしろみは、どういったところにあるんでしょうか。

安藤:そうですね。こちらで講演をさせていただいているのもそうですし、一応ブルーオーシャンで「ゼロから作って市場を作っていくぞ」という思いで始めて、いろんなメディアさんに興味を持ってもらえるようになってきたので、実感として「なんかやってきて良かったな」というところはあります。

ひとり起業に関して言うと、思いついたらすぐ行動できるところはかなりおもしろいなと思って。さっき挙げた事業分布以外にも、例えばうちの「nolky」だと、世界中のトップバーテンダーさんからノンアルコールカクテルのレシピをもらって紹介もしているんですが、思いついて1週間後ぐらいには世界中のトップバーテンダーたちにとりあえずメールを送ってみて、「意外と返ってくるじゃん」みたいな。

児玉:着想したことをすぐ行動に起こせる。

安藤:自分のやったことがある程度すぐにかたちになるので、それはやっていておもしろいですね。

児玉:本当に事業をゼロから作っているというか、ひしひし感じながら進められるところですね。次の(トークテーマは)「新たな挑戦」ということで、ノンアルの製造と雇用のところをやっておられるというところですね。

安藤:そうですね。あらためて、製造は今のタイミングでやっていて本当に良かった、手を付けておいて良かったなと思っていて。

輸入に関して言うと、コロナ禍でロジスティックスの面、運送の面がかなり混雑して、時間通りに届かないのが当たり前になっていて。なおかつ、今はウクライナ情勢とかで為替もかなり変わってきていて、やっぱり輸入商社としてはかなり向かい風が厳しいです。

自分たちで商品を作っておけば、ある意味そこもリスク分散にもなりますし、ここは早めに手を付けておいて良かったなと思います。

目指すのは、ノンアルコールならではのビジネスモデル

児玉:なるほど。安藤さんの今の事業のお話を聞いていると、いろんなところに軸を持たれて、いろんなところで挑戦されていて、その軸が多いほうが崩れにくいのかなと思いました。

安藤:そうですね。多角化はするんですが、一番大きな「ノンアルコール」という軸はブレずにやったほうがいいのかなと思っています。そこが一貫しているからこそ、うまいことシナジーが生まれやすいのかなというのはありますね。

児玉:ノンアルという軸がしっかりあるので、それ以外もやっていけるということですね。来年、再来年に向けて、今後新たに考えていらっしゃることはありますか?

安藤:来年、再来年というか、もうちょっと長いスパンにはなってくるんですが、いわゆるソフトドリンクやジュースとは異なる、わりと高価格帯なノンアルコールを中心に扱っている専門商社のビジネスモデルって、まだそんなに明確に出来上がってないのかなと思っていて。

例えばなんですが、ワインであれば「テロワール(ぶどう畑を取り巻く自然環境要因)」という言葉に象徴されるように、ある意味土地に縛られる部分があって。フランスのワインを日本で作るっていうのは、当然できないわけじゃないですか。

でもノンアルコールの場合だったら、輸入してみて良かったアイテムを、そこのメーカーさんと日本で合資会社を作って日本で作ることもできなくはなかったりして。そういったかたちで、ノンアルコールならではのビジネスモデルを作れたらおもしろいなとは思っていますね。

児玉:なるほど。ワインって、どうしてもその土地と結びついている。

安藤:そうですね。お酒はそのニュアンスがかなり強いので、これはノンアルコールならではなのかなと思います。

児玉:ノンアルならそれを乗り越えられるかも、という。新しい。あんまり聞いたことがないですね。

安藤:そうですね。できれば、ですけど(笑)。

オフラインの実店舗の販路先、どう開拓した?

児玉:ご用意した議題は以上なんですが、ここからご質問にお答えいただければと思います。安藤さんにご質問のある方は、ZoomのQ&Aからお問い合わせいただければと思います。事前にお申し込みの時にいただいたご質問がございまして、それにお答えいただこうかなと思います。

まず1つ目、販路開拓について。「主にオフラインの実店舗の販路先はどうやって開拓していきましたか? 商組合に入ったり商談会に参加したのか、一件一件足で回って営業をかけたのか、時間をかけずにさらっとでいいので、道のりを詳しく聞きたいです」。さらっとでいいから詳しく聞きたい、ということです。

安藤:わかりました(笑)。本当に初めの部分で言うと、正直一件一件地道にやっていくしかないなっていうのが実感で、ウルトラCがあれば知りたいなという気もするんですが。

児玉:おうかがいしていても思いましたが、地道なんですね。

安藤:でも、ある程度基盤みたいなものができるようになってくると、うちはコロナを機に今までのプッシュの営業スタイルからプルの営業スタイルに切り替えていて。自分たちで新たに見つけていくというよりかは、見つけてもらえるように動くほうに切り替えました。

例えば、メディアでいろいろお話しさせていただくのもそうですし、本を書いたこともその部分がありますし、極力人手がかからずちゃんと伸ばしていけるような。

児玉:なるほど。じゃあ、どこか組合に入られたりとか会に参加したりというよりも、プル型営業のほうに切り替えていったんですね。

安藤:そうですね。うちのターゲットは本当にアッパーなところをメインにしているので、そこもあるのかもしれませんが、もうちょっとマスのアイテムであれば、そういったところに入っていって開拓するのも十分ありなのかなと思うんです。

児玉:わりと名のある有名レストランさんにも卸していらっしゃったりするので。

安藤:そうですね。

マネタイズの方法は複数持っておく

児玉:では、2つ目ですね。「食で起業したいんですが、安藤さんのようにその経験・業界を知らなくてもできますか? あと、マネタイズ化の仕組みを知りたいです」ということなんですが、食で起業したいと言っても、「食」もすごく幅広いですけれども。

安藤:そうですね。経験、業界を知らなくてもできるのかと言うと、できる・できないかで言えばできるんでしょうね。ただ、やっぱり前提知識がないと、初めはちょっと時間がかかるだろうなという気はしますね。

児玉:そうですよね。

安藤:せめてその業界の商流や、どういう感じでものが流れて、どういうプレーヤーがいるのかくらいはある程度押さえておいたほうがいいのかなと思います。

児玉:安藤さんの場合は、飲料の業界に携わっている時間自体は長かった。大学の頃から携わられて、10年くらい経験があるということですよね。なので、知らなくてもできるけれども、知っておくほうがはるかにいいということですね。

安藤:「まあ、それはそうだろう」って言われたらそこまでなんですけど(笑)。

児玉:マネタイズ化はどうされているんでしょうか。

安藤:うちの場合は本当に単純で「モノ」があるので、基本はその売買でマネタイズは成り立っていて。食の分野でいくと、フードコーディネーターさんとかもたぶんそっちにもなりますし。

マネタイズ化の方法はいろいろあるんだろうなと思いますし、そこは自分自身でもけっこう考えているところです。やっぱり、いろんなマネタイズの方法を自社で持っておくのはリスクマネジメント的にもかなり大事なことだと思います。

でも、「これが正解です」というものがあるわけでは決してないので、お互い合意が結べればそこでマネタイズして、という感じですかね。

ゼロイチで起業する上で、参考にした企業のモデルケース

児玉:なるほど、ありがとうございます。事前にいただいている最後の質問で、「起業1~2年目の頃、経理は自分一人でやっていましたか? 税理士さんを雇っていましたか?」ということですが、こちらはいかがでしょうか。

安藤:僕は自分でやっていましたね。「顧問税理士を雇うのもな」っていう感じだったので、当時は自分でやって、決算の時に税理士さんに「ちゃんとできてないですね」って怒られるみたいな(笑)。

児玉:(笑)。一人で初めて経理をされるって、けっこう大変でしたか? わりとやったらできるような感じですか?

安藤:大変でしたけど、今思うとまったくできてなかっただろうなと思うので(笑)。結局、決算の時には税理士さんにお願いしなきゃいけないので見てもらって、「あ、こんなにできてなかったんだ」というのを知るっていう、だいぶ楽観的な感じでした。

児玉:ご自身でできるところまでは進めてみて、あとはプロの方にバトンタッチしてお願いするということですね。

安藤:そうですね。ゼロイチでやっていく上で、やっていて良かったと思うところがあるとすれば、僕の場合は「うちはこうなりたい」というモデルケースを持っていたんですね。

うちで言うと、エナジードリンクを出されたレッドブルさんをモデルケースにしたんです。リポビタンDやオロナミンCとか、もともと健康飲料というものがある中で、ほぼ同一の商品であそこまで市場を伸ばしていった、市場を作っていったところにかなりすごさを感じていて。

アットコスメを参考に作った「ノンアル図鑑」

安藤:今、自分がノンアルコールでやりたいこともそうですが、ノンアルコール飲料というものは既存で、端から見たら微妙な違いかもしれないけど、そこで差別化して別の市場を作っていきたいっていうのは、レッドブルさんのケースを見て実際にケーススタディを勉強して、いろいろ活かしていきましたね。

児玉:「こういう企業のこういう在り方はいいな」みたいなところを見ながら。

安藤:そうですね。「何々の何々版」みたいなのって、うちに限らず多いのかなと思っていて。例えばLinkedInって、あれはビジネス版Facebookじゃないですか。そういった落とし込みができると伝わりやすくもなりますし、いろいろ学べるところが出てくるので。

最近やったことだと、国内で販売されている既成のノンアルコール商材を一覧でまとめる「ノンアル図鑑」という企画をnolkyでやっているんです。アットコスメという美容系のサイトがあるんですが、あれのケーススタディを読んでいる時に「ノンアル版でこういうのをしたらおもしろいな」と思って。

児玉:そこからなんですね。じゃあ、他の事業者さまとぜんぜん背景は違っても、「こういうやり方はおもしろいな」みたいなところを取り入れていく。

安藤:異業種だからこそ、学べるところはかなりあるのかなと思いますね。

児玉:なるほどね。「自分のところでこういうふうにやったらおもしろんじゃないか」と思いついて、それをまたすぐにできるのもひとり起業のいいところですね。いろんな会社のモデルケースに着目してみるというか。

安藤:そうですね。自分のやりたいことを既存の会社名やサービス名レベルで落とし込んで、「どこどこ版の○○」みたいなかたちで落とし込めると、やるべきことがわりと見えてくるんじゃないのかなという気がします。

会社設立前、輸入はどのようにアプローチした?

児玉:なるほど。お一人で事業を作りたい方は、そういったことを参考にしてみるといいかもしれません。

輸入について、ご質問を1ついただいています。「会社設立前にどのようにアプローチされていたのですか? ざっくりとどの程度の予算を想定され、それで取引はできたのでしょうか?」ということです。輸入について、会社を作られる前にアプローチし始めたっていうことだったんですが、その時の予算感とかですかね。

安藤:予算感で言うと、うちはぜんぜんかかっていなくて。そういうのは、ある程度初めに計算できるものなので。うちの場合だと、始めに政策金融公庫から融資で借りたのも500万円ぐらいでしたし、そのぐらいあればミニマムにはスタートはできるかなと。でも、本当に何を持ってくるかによってくるのかなとは思います。

児玉:なるほど。政策金融公庫さんで創業融資も使われたということですね。わかりました。質問は以上ですかね。今日は安藤さんに、1時間でコンパクトにこの5年間のことをおうかがいしました。

では、こちらでイベントを終了したいと思います。みなさん、ツムギバにぜひ壁打ち等をしにきてください。ありがとうございます。

安藤:ありがとうございます。

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