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ノンアル専門商社をひとり起業してみた(全3記事)

“馬車馬のように働く”ではなく、常に余白を「20%」残す ひとり起業の経営者が、自己流のタイムマネジメントで得たもの

健康志向や、コロナ禍で酒類の提供が禁止されたことなども影響し、ノンアルコール飲料の世界市場規模が伸長しています。一方で、日本で市場が育っていないことに着目し、日本初のノンアルコール専門商社を20代で起業した安藤裕氏。ブルーオーシャン領域で、専門商社を立ち上げた経緯とは? 多角経営をひとりで行う術や、ひとり起業の醍醐味やハードシングスを探ります。本記事では、コロナ禍で飲食業界が受けた逆風とどう向き合ったのか、ひとり起業ならではの困難を明かしました。

逆風のコロナ禍、急ピッチでECサイトを立ち上げ

児玉あゆこ氏(以下、児玉):オンラインサイト「nolky」を立ち上げらていますが、ここに向けての準備はどんなことをやられたんですか?

安藤裕氏(以下、安藤):これがまた、けっこう急なことだったんですね。と言うのも、2018年に会社を起こしてから2019年に販売をスタートして、2018年、2019年はどっちかと言うと「足を使っていろんなところに営業していけばいいかな」と思ってずっとやっていたんですが、2020年はまさにコロナが始まった年で。

児玉:なるほど。

安藤:そんな中、突撃アポみたいなのはとてもできないなとなりました。うちは飲食店への卸がメインなので、飲食店が稼働しなかった時期は「本当にやばいな」ってなりました。

児玉:そうですよね。一番大変な時期でしたね。

安藤:「これは何か別のチャネルを設けなきゃいけないな」と思ってスタートしていったのが、通販サイトです。

児玉:じゃあ、コロナの状況もあって、サイトを早急に立ち上げざるを得なくなったんですね。

安藤:そうですね。ただ、あの時期ってみんながどんどん通販に乗り出していった時期だったとは思うんですが、今は簡単にECサイトを作れるようになっているので、本当に取ってつけたようなサイトもかなり多かったんです。

どうせ作るならそうはしたくないなと思ったので、「ノンアルコールに興味を持ってくれた人が初めに立ち寄ってくれるようなサイトを作ろう」というのを目標にして、サイトを作っていきました。

児玉:じゃあ、わりとじっくり取り組まれたというか。

安藤:そうですね。かなりスピード感を持ってはやったんですけど、サイトを立てたのが6月で、確か4月ぐらいに緊急事態宣言が出ていたので、本当に2ヶ月ぐらいで急ピッチでした。

やっぱり自分一人ではできなかったので、他社でお世話になっていたところに「こういうことを企画していて、一緒に業務提携してやっていきませんか?」とお願いして、一緒にやってもらっていました。

児玉:そうなんですね。基本、Webサイト作りはご自身で作ったけど。

安藤:運営や企画とか、「こういうのをやりましょう」というのは全部こっちでやりました。

児玉:そうなんですね。けっこうできるものなんですか?

安藤:今はコードを書かずにサイトを作れるようになっているので、できますね。

児玉:あのおしゃれなサイトができるんですね(笑)。

安藤:やっぱり初めは「わかんないな」みたいな感じで触っていくんですが、できるものですね(笑)。

児玉:できるんですね。みなさんもアルト・アルコさんの「nolky」のサイトを見ていただくと、すごくおしゃれなサイトになっています。

「コロナ元年」の2020年に、安藤氏が取り組んだこと

児玉:2020年あたりは、本当に飲食業にとって「コロナとの戦いの元年」みたいな大変な時期だったと思うんですが、翌年にはワインスクールでノンアルの専門講師をされています。これはどういった経緯でしょうか?

安藤:これも初めは見込んでいなかったんですが、後になって思えば、講師をやっているタイミングの直前ぐらいが、ちょうど酒類提供禁止・制限が出てきた頃で。やっぱり飲食店としても、ノンアルコールを充実させてしっかり客単価を取っていけるものを探さなきゃいけないというフェーズになっていて。

児玉:なるほど。

安藤:そういった状況だったので、セミナーをしてちょっとでもノウハウを伝えられたらなと思いました。

児玉:確かにそうでしたよね。お酒の提供が限られているからこそ、チャンスがあった部分もあったのかもしれません。セミナーは「専門的なことをもうちょっと知りたい」という方向けで、お店の方が受けられるんですか?

安藤:そうですね。どちらかと言うと、プロ向けにやってました。

児玉:今までお付き合いがあったところから、講師に。

安藤:そうですね。今まで付き合いがあったところとは日頃からいろいろ話しているので、そうじゃなくてノンアルコールをもっと知りたいという方がけっこう来てくださったイメージかなと思います。

児玉:なるほど、そうなんですね。

ブルーオーシャン領域には「点」ではなく「面」で攻める

児玉:そこから著書を書かれて、先ほどプロフィールでご紹介をした『ノンアルコールドリンクの発想と組み立て』という本を発行される。本を作るって、またすごいなと思うんですけれども(笑)。

安藤:いえいえ。

児玉:どういった経緯で本を出されることになったんですか?

安藤:通販を立ち上げるあたりから、もともとノンアルコールというブルーオーシャンに立ち向かっていくのに、初めは輸入卸という一本槍で攻めようと思ってたんですが、点で攻めていてもいつまで経っても市場ができることはなくて。面で攻めていかなきゃいけないな、というのを意識し始めました。

それで、思いつくアプローチはいろいろ取ってみようと思いまして、その中の1つが出版でした。とは言っても、自分で本を書こうというよりかは、「海外で出ているノンアルコールの書籍の翻訳をさせてください」と出版社さんにお願いしに行って、編集者さんと話しているうちに「もう自分たちで作っちゃおう」という流れになりました。

児玉:そうだったんですね。本を出されるまでの準備期間はどれくらいあったんですか?

安藤:確か、1年ぐらいじゃないかなと思います。

児玉:やはり、それぐらいかかりますよね。

安藤:コロナで酒類提供禁止になる前からいろいろ動き出して、プロジェクト自体は進んでいて。

児玉:そうなんですね。今までの経緯をおうかがいしていると、講師業や本を出されることもそうですが、まずはお一人でできる範囲でやってみながらも、ご自身でやったことのないことでもとりあえずやってみる。

起業後、時間には「20パーセント」の余白を持たせていた

児玉:起業された時には想定されていなかったことも次々にやってみる、というのが素晴らしいなと思うんですが、そうせざるを得なかったという感じなんですか?

安藤:せざるを得ないところもあります。あと、そんなにイケイケドンドンじゃない起業の方たちはみんなそうだと思うんですが、当然初めの時期ってそんなに忙しくないんですよね(笑)。本業一本でいくわけではないのでけっこう時間があって、「この時間をただ遊ばせておくのもな」と思って、いろんなことに取り組んでいた感じですね。

児玉:なるほど。効率的に作業をされているからこそ、こうやって時間を捻出して、その隙間でできることに次々とチャレンジしていったと。

安藤:一人でやっていたので効率的にやるのは当然ですが、時間のタイムマネジメントも、常に20パーセントぐらいは常に余裕を持ってやっておこうというか。じゃないと、何かいいアイデアが出てきた時や新しいニーズに気付いた時に、対応できなくなっちゃうので。

児玉:なるほど。じゃあ、今の話がひとり起業をされようとしている方へのアドバイスというか。

安藤:どうなんでしょう。僕の場合はそうしたというだけですが、成功されている方の話を聞くと、やっぱりみなさん「馬車馬のように働いて」みたいなのが一般的なので、そっちが正しいのかもしれないですけど(笑)。

児玉:でも、余白があったからこそ、新しいことにチャレンジする時間が持てたということなんですかね。

安藤:そうですね。

児玉:なるほど。

卸・輸入だけでなく、ノンアル飲料の製造にも着手

児玉:そして、また今年も新しいことに挑戦されようとしていますよね。

安藤:そうですね。まず1つが、自分たちでドリンクの製造をやろうと思って。

児玉:ノンアルコールドリンクを作るということですか?

安藤:はい。作るほうをやっていこうと。実際、この案自体は2020年ぐらいからありまして、それがようやくかたちになってきたというか。

児玉:そうなんだ。構想は水面下でされていたんですね。

安藤:ずっと構想はしておりまして、それこそ都内のソムリエさんと共同して作ってるんですが、そういった方たちと話し始めるのが2020年ぐらいからスタートして、ようやくという感じです(笑)。

児玉:もともとは卸、輸入をご自身で作られて、今は製造のところにも関わろうとされている。ノンアルコールなので、食品扱いなんですか?

安藤:そうですね。食品扱いです。

児玉:お酒とは違うものなので、作れちゃう。

安藤:そうですね。

児玉:メイドイン荒川区。オフィスのある町屋で作られているんですよね。

安藤:メイドイン荒川で(笑)。

児玉:ノンアルコール飲料を作るのって、まずはどういったところから始めるんですか?

安藤:プロジェクトとして、本当にいろんなことをしなきゃいけなくて。「あっちが進んでないとそこで止まっちゃう」みたいな感じだったので、時間がかかっていたんです。じゃあ、まずは場所をどうするのか、そもそも作るために何が必要なのか、どういう規制があるのかとか、そういうのを同時並行でいろいろ調べていって。

なので、場所自体は1年ぐらい前に決まって押さえていて、そこからいろいろ試作をやったけど、やっぱりやってみるといろいろ問題が出てきました。

「需要はあるけど市場がないもの」に注目

児玉:じゃあ場所探しから始まって、実際に作ること自体は、どなたかに教わらなくてもご自身の今までの知見から始めることができたんですね。

安藤:そうですね。レシピは共同でお願いしているソムリエさんのほうで起こしてもらって、それをみんなで「ああでもない、こうでもない」って言って修正を加えて。作る工程としては、初めはとりあえずやってみて、「ここがこうだからちょっと修正して」というのを随時加えていく感じです。

児玉:おっしゃっていただける範囲でいいんですが、どういったノンアルコールドリンクを作っているところなんですか?

安藤:実はテスト販売を開始しているんですが、赤ワイン系のドリンクです。なんで製造をやろうと思ったのかは、事業を多角的にやっていきたいというのも1つあるんですが、輸入商材だけだと「ニーズがあるのはわかっているけど、そこに見合う商品がないから応えられない」という、ニーズの穴もけっこう目につくようになったりしました。そういった時に応えたいなということで、製造を始めたんです。

児玉:なるほど。

安藤:じゃあ、具体的な穴の部分とは何だったかと言うと、ノンアルコールってけっこう炭酸系が多いんですよ。泡のない、炭酸じゃないタイプのドリンクで、なおかつ容量も小ぶりなほうが喜ばれるので。でも、開けてすぐ楽しめるもの。

というところが、ずっと市場を見ているとニーズとしてけっこうあるなと思って、そこに見合う商品を作っていっているところです。

児玉:なるほど。じゃあ、この5年ぐらいいろいろ市場を見てきて「逆にこういうものがないな」というのをご自身で気付かれて、ないものを世に送り出そうと。

安藤:そうですね。「ないけど需要はあるよな」みたいな。

児玉:商機が見込めそうだ、という商品ですね。

「ひとり起業」のデメリットは、決断力が鈍ること

児玉:あと、人を雇われることでようやくひとり起業を抜け出したんですね。

安藤:「脱・ひとり起業」という感じで(笑)。ずっと一人でやっていたんですが、製造をやるってなるとさすがにもう一人では限界があって。

児玉:そうですよね。全部一人でやられていたというのもすごいんですが。

安藤:でも、今までの感じであればぜんぜん一人でできる。

児玉:ぜんぜんですか?

安藤:本当にできる範囲なので。一人でやれるうちは一人でやったほうがいいんじゃないかなという気もしていますが、ただ難しいですよね(笑)。

児玉:(笑)。

安藤:やっぱりコスト的には、圧倒的に楽は楽なので。ただ、ひとり起業のデメリットの部分をお話しすると、何をするにしても全部自分で0から10までやっていかなきゃいけない。

例えば、多角的にいろいろやっていきたいから新しいToDoを考えて、通販を考えて、出版を考えましたと。僕自身の中でだいぶネタがなくなってきて、「次は何があるんだろう?」ということで、そこが1つの限界なのかなと思っていて。

壁打ちなり、誰かと話していく中で思いつくアイデアもあるので、そこがあるのとないのではかなり差が大きいかなと思います。

もう1つが、やっぱり一人だと決断力が鈍るというか、思い切れなくなる場合もけっこうあって。いろいろ心配事があるとちょっと先延ばしにしちゃったりするので、誰かと話して「もうやろう。えい」のほうがいい場合もあるのかなと思っていて。

児玉:そこで、今後一緒にやっていくビジネスパートナーが見つかったんですね。

安藤:そうですね。秋口ぐらいからにはなるんですが、やっていける方がようやく見つかったので。

ひとり起業から、どうやってビジネスパートナーを見つけたのか

児玉:ビジネスパートナーを探されている方はたくさんいるものの、なかなか出会い方に苦労しているという方も聞くんですが、どうやって見つけられたんですか? 

安藤:うちの場合は本当に幸運で、それこそまったく求人をしていない時に、ホームページに「興味がある」と問い合わせしてくださって。一時期、その方にアウトソースで手伝ってもらったりもしていまして、ようやく受け入れられる体制になったので「じゃあ来てもらおう」という感じでした。

児玉:そうなんですね。あちらのほうから見ていただいて、ホームページに問い合わせがあったと。じゃあ、その方もある程度事業を見ていらっしゃったんですね。

安藤:そうですね。興味も持ってくださっていますし、何もないところで問い合わせをしてくださるっていう熱意もありがたいなと。

児玉:いい参画の仕方ですね。

安藤:そうですね。

児玉:というところから、今年はノンアルコールの製造、そして人を雇われるという雇用が新しいところとして出ました。

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