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お互いに不幸せな「転職ギャップ」を生まないために ベンチャー企業の採用チェックポイント(全2記事)

「曖昧耐性」が低いと、ベンチャー企業の「曖昧さ」がストレスに 転職前に身につけたい「思考」の切り替え方

ベンチャー企業へ転職した後に「ギャップ」を感じた......その一因に、採用時の期待値調整がうまくいっていないことが挙げられます。ベンチャー企業で働く上でどのような考え方やマインドが必要なのか、転職を決める前に知っておくことは、自分自身で「働きづらさ」を解消するためのヒントになるのではないでしょうか。 そこで今回は、株式会社JAMにてベンチャー/成長企業特化の組織コンサルティング事業を行っている水谷健彦氏にインタビューを行いました。水谷氏の著書『急成長企業を襲う7つの罠』でも扱われ、監修している管理職育成サービス『マネディク』内でも主要テーマとしている、「曖昧耐性」についてうかがいました。

「曖昧さ」をどれだけ許容できるかどうか

――ベンチャー企業への入社後に感じるギャップの中に、制度や体制があまり整っていないことや、変化の幅が大きいことが挙げられます。この「決まっていない」ことをポジティブに捉えられるかどうかが、ベンチャーに転職してもうまくいく人・いかない人の差なのではないかと思っています。

これは水谷さんの著書『急成長企業を襲う7つの罠』で書かれていた「曖昧耐性」の話に通じていると思います。この「曖昧耐性」とはどういうものか、解説いただいてもよろしいですか?

『急成長企業を襲う7つの罠 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

水谷健彦氏(以下、水谷):わかりました。人間は、それぞれ「曖昧さ」に対してどれくらい許容できるか、どれくらいストレスが掛かってしまうかに違いがあります。例えば「ウイルス耐性」の高い人は、ウイルスが体に入ってきても大丈夫です。でも耐性の低い人は、ウイルスが体に入ってきちゃうと、体の調子が悪くなっちゃうわけですよね。

「曖昧耐性」も一緒で、耐性の高い人は、曖昧な状態に直面してもフラストレーションが少ないんです。逆に低い人は、曖昧な状態に直面するとフラストレーションをすごく感じてしまう。

人によって曖昧さに直面した時に、フラストレーションがあるかないか、どの程度感じるのか。これが「曖昧耐性」という話です。

曖昧耐性が高すぎる人は「いい加減な人」に見られる

――ベンチャー企業は変化の幅が大きいので、曖昧耐性が低い人が苦労するのかなと思っているんですが、書籍の中で「曖昧耐性が高すぎてもよくない」というお話もされていました。その理由についてお伺いしてもよろしいですか?

水谷:前提として、曖昧耐性はあったほうが良いんですよね。ただ、曖昧耐性は(高すぎず低すぎず)真ん中ぐらいが一番ちょうどいいんです。

曖昧耐性が高すぎると、十分な情報がなくても意思決定ができてしまうなど、周囲からは「いい加減な人」に見られてしまうことがあります。「その情報量で、もう決めちゃうの?」という印象になるわけです。ベンチャーとは言え、それは仕事としてよい状態ではないはずです。

あとは例えば、社長から部長に、依頼や指示があるとします。社長が10を説明して受け取ってもらおうと思っている時に、曖昧耐性の高すぎる部長だと、3くらい説明した時点で「わかりました、じゃあやっときます!」って、終わっちゃったりするんですよ(笑)。社長は「今ので伝わったのかな、わかったのかな」と思いますよね。

――不安になりますね。

水谷:「受け取ってくれたんならいいや」となってしまうんですが、10の情報を踏まえてやるべきことが3しか入っていないので、ぜんぜん違うことをやってしまったり、ポイントがずれたりするんです。だから曖昧耐性が高すぎるのも問題です。

曖昧耐性の低い人は、トライアンドエラーの行動ができない

――なるほど。曖昧耐性が高すぎる人の特徴はわかりました。曖昧耐性が低すぎる人にも、よく見られる言動など、何か特徴はあるのでしょうか。

水谷:逆に曖昧耐性の低い人は、情報が集まらないと意思決定ができない。情報がたくさん集まると、曖昧さが減っていきますから。

何かが決まっていないことに対する不満や、決まっていたことが変わることに対する不満、精緻じゃない制度やルールへの不満などが出てきちゃうんですよね。

例えば、よくあるのが「評価の基準が曖昧だ」という話です。5段階評価で、その人が3になりましたと。その時に「4になるためには何が必要だったんですか?」と過去の話であれば、「このへんがあったら4を付けられたよ」と答えられると思います。

でも「今から始まる今期は何があれば4なんですか? どこまでやれば4が確定しますか?」と聞かれてしまうと、ある程度は答えられると思いますが確定的な話はちょっと難しい。

あとは新規事業を立ち上げて、トライアンドエラーで最初の営業は30件当たってみて、その反応を見て方針を決めよう、ということもあると思います。そうすべきシチュエーションはたくさんあると思うんです。

なんですけど曖昧耐性の低い人は「取りあえず当たってみてって、どういうことですか?」「実際に商談になった時に、何を話せばいいんですか?」と曖昧さがものすごく気になってしまう。

「取りあえず当たろう」って、曖昧じゃないですか。それがフラストレーションになってしまうんですよね。結果として「行動ができない」ということに繋がってしまう。

曖昧耐性の低さが、ベンチャーにとってブレーキになることも

水谷:それから、批判的コミュニケーションが増えてしまうんです。これがベンチャーの「スピード速く、変化の振れ幅を大きくやっていこう」というコンセプトに対して、ブレーキになってしまうんです。

――「なんでこれ、決まってないんですか?」という、少し語気が荒いような(言い方をしてしまったり)。

水谷:「でも今は、それを決める段階ではないんだよね」という状況ってよくあると思います。いろいろ準備をしたりプランを練ったりする情報も少ないので、「それを決めるタイミングではないから、今は取りあえずやってみて経験を重ねたほうがいいけどな」という話なんですが、それがなかなか理解できない。本人としては、曖昧な状態であることがフラストレーションに感じてしまうから。

当然ながら、精緻にやるべき仕事は、曖昧耐性を低くしてやるべきです。他の企業と契約書を交わす時に、文書を読まないで判子を押したらダメじゃないですか。文書を読んで「ここが気になります」とちゃんとやるべきなんで、そういうことはちゃんと曖昧さをなくしてやるべきです。

そういう仕事だと曖昧耐性が低い人もフラストレーションは起きないんですけど、ベンチャーだから、曖昧な状態のまま走るべきことがけっこうあります。その時に(曖昧耐性の低さが)ブレーキになってしまうんです。

――これはベンチャーだけではなく大企業でも、新規事業のような不確定な要素が多い仕事を担当する方には、必要な要素ですよね。

水谷:そのとおりです。

感情は変えられないので、思考で切り替えるしかない

――ただ一方で、決まっていないものに対して「自分はこう思う」と意見を持つことは大事だと思っています。

水谷:そうです。

――曖昧なことに対して自分はどうしたいのか、自分の受け取り方が大事なのではないかなと、本を読みながら思いました。水谷さん、曖昧耐性を意識的に高めるにはどうしたら良いのか、アドバイスがあれば教えていただけますか?

水谷:まず曖昧耐性の低い方は、曖昧な状態に直面すると、フラストレーションが発生します。「フラストレーション」をシンプルに言うと、怒りとか困惑といった「感情」です。

僕は基本的に、感情は変えられないと思っています。心理学でもよく「感情は変えられない」と言われますよね。だから「イライラするな」というのはお勧めしません。イライラはしてしまうものです。

イライラしちゃって、その感情に自分が侵されていくのか、それともコントロールできるのかということが、大きく違うところだと思っています。イライラに自分を支配されてしまう場合は、「何でこうなっているんですか!」って言ってしまうんです。

――感情がそのまま批判的な言動になってしまうわけですね。

水谷:基本的に、これで幸せな結論が出ることはあまりないですね。コントロールできるかというのは、「落ち着け、私。このイライラは、私が曖昧耐性が低いからなんだな。この仕事って、そもそも精緻にやるべきなんだっけ。これくらいの曖昧さでやるべきなんだっけ」と考える。

「トライアンドエラーだから、今回の話は曖昧にやるべきだ。自分のこのイライラは我慢しよう」と、自分の心の中で思えるかどうか。感情は変えられないので、思考で切り替えるしかないんです。

大切なのは、個人の「曖昧耐性」と業務内容のバランス

――先ほど曖昧耐性が高すぎる方についての話がありましたが、曖昧耐性が高すぎる人と仕事をする中で「もうちょっとここは詰めたほうがいいんじゃない?」ということも発生すると思います。どのように対処すれば良いのでしょうか。

水谷:曖昧耐性が高すぎる人は、曖昧耐性が高すぎることに甘えた結果、仕事がうまくいかないという経験をしているはずなんです。

例えばさっき契約書の話をしましたが、曖昧耐性が高いことによって、契約書をあまり見ないで契約したとします。そうすると事後に何らかの揉めごとがあって、「契約書に書いてあるとおりに対処しましょう」という時に、「あ、うち不利じゃん」と気づくんです(笑)。

――痛い目を見るんですね。

水谷:自分の耐性の高さがどうなのかという話と、その仕事はどれくらい具体的にやるのか、どれぐらい曖昧にやるのかという、この(個人と業務の)関係が大事です。

――その見極めは自分の中で持っておけるといいかもしれませんね。

水谷:自分の思考を変える必要がある時は、自分の思考を変えれば良いし、「いや、これはちゃんとやるべきじゃないか」という時には、周りにそれを訴えかけていけば良いと思います。

「思考のフィルター」はトレーニングが可能

――すでにベンチャー企業に入社している人に対して、曖昧耐性を育成することはできますか?

水谷:結論、あまりできないですね。曖昧な状態に置かれた時にイライラしてしまうのは仕方のないことで、あまり変えられない。「イライラするなよ」と他の人が言っても、難しいと思うんですよね。

ただ、「感情に支配されず思考をコントロールする」という部分は育成できるんですよ。僕はこのことをよく「フィルター」と言っています。

感情を、思考のフィルターを通して良い方向に持っていく。これはトレーニングができます。ちなみに今は曖昧耐性の話をしていますけど、心理学的な側面の改善はほとんど「フィルター」の話だと思っています。

アンガーマネジメントではまず最初に「7秒ルール」を教わります。「怒りの感情を持った時は、7秒待て」と。あれは7秒待っている間に思考が働くからなんです。

――フィルターを働かせるために、7秒待つんですね。

水谷:そうです。「感情」は変えられないから、それをコントロールできるかが勝負で、それをコントロールできるのが「思考」なんです。

あとは「行動」ですよね。イライラした時に走ったりすると、いつのまにか解消されたりします。これは行動で解消していますけど、ビジネスでは「思考」が良いと思いますね。

――なるほど。ベンチャー企業に転職する前に、アンガーマネジメントや感情をコントロールする方法について知識を入れておくといいかもしれませんね。

水谷:それが良いかもしれません。専門的に言うと「選択理論心理学」です。「チョイスセオリー」とも言われる、感情と生理反応は変えられないけど、思考と行動はコントロールできるという考え方です。

採用面接時は、質問の「粒度」で曖昧耐性を見る

――採用の話に戻るのですが、水谷さんは採用時に、志望者の曖昧耐性を具体的にどうやって見ていらっしゃるんですか?

水谷:自分自身の曖昧耐性との比較が、やりやすい方法です。例えば自分の曖昧耐性はこのレベルだなとわかっている場合は、「自分より高いか、自分と同じくらいか、自分より低いか」はわかるので、それを見ています。基本的には、相手からされる質問の「粒度」で判断しますね。

――質問の粒度ですか。

水谷:やたら具体的な質問をたくさんする人は、曖昧耐性が低いんだなと思いますね。

――例えばどんな質問ですか?

水谷:仮に営業スタッフの面接だと、「営業の新規のリード獲得と割り振りの方法って、どうなっているんですか?」とか。これくらいの質問は良いと思います。自分で開拓する新規主体なのか、ネタ(既存顧客)が提供されるのか、これは営業として知るべきだと思います。

でも例えば「割り振りのルールってどうなっているんですか?」とか。そうすると「この時点で、けっこう細かいところまで聞いてくるな」と感じます。

それから福利厚生の質問。別に福利厚生を確認することは悪いと思わないんですけど、ものすごく精緻に確認してくると、「ああ、そのレベルで気になるんだ」となりますね。僕は相手の方が発する質問で、曖昧耐性を判断をしています。

曖昧さへの適応度を見る適性検査の活用

水谷:あとは、こちら側が質問をした時に、最初の一言目が抽象的な場合があるじゃないですか。僕の中では二言目、三言目で質問を理解してもらおうと思っているんだけど、一言目を言った瞬間に「わかりました」としゃべりだそうとする人は、「ああ、曖昧耐性が高いな」と判断しています。

――さっきの「10を話そうとしていたのに、3を聞いて動き出す人」と同じですね。

水谷:僕はそうやって判断していますが、曖昧耐性を面接で判断するのは、なかなか難度が高いです。もし曖昧耐性を把握したければ、そういう尺度が入っている適性検査があるんですよ。

曖昧耐性と表現しているかどうかはテストによって違いますけど、「曖昧さへの適応」といった項目が入っている検査があるので。測りたければそういうものを活用するのがお勧めです。

――数値で判断できるんですね。

水谷:面接官に曖昧耐性を測る技量がなくても、数値で出てくるので、そのほうが安心だと思います。

「労働は苦役なり」「就職は人生の墓場」と思っていた

――ありがとうございます。最後に、インタビューをさせていただくにあたって1つ気になったことがあります。貴社は「就労観」という言葉を使っていらっしゃるんですが、なぜこの言葉を使っているのか、その理由をおうかがいしてもいいですか?

水谷:僕が20代の頃の話なので、今から20数年前の話になるんですが。大学を卒業して最初の会社で働いている時は、「労働は苦役なり」の価値観でした。「就職は人生の墓場」だと思っていたタイプなんですよ。

学生時代まではとても楽しくて、そこから先は「月曜から金曜はもう大変だ」「土日を楽しみに生きるんだ」という価値観でした。

社会人3年目の時に、いろんな縁があってリクルートの子会社に転職しました。そこではみんなが仕事にすごくやりがいやこだわりを持っていて、超ポジティブに向き合っているわけですね。

最初はすごくびっくりしたんですけど、その集団の中にいたら、自分もそっちの価値観になっていきました。「労働は苦役なり」「就職は人生の墓場」ではなくなったんです。

そこで結果として、自分の人生の価値が100倍くらいに大きくなったなと思っています。だから出会いに感謝しているんですけれども、これって僕自身の「就労観」が変わったということですよね。

日本全体の「就労観」を変えていくために

水谷:仕事を一生懸命やってがんばって、やりがいを持って、成功したら超おもしろいという、この「就労観」。強制はできないので押し付けるつもりはないんですが、日本全体の「就労観」としては、ちょっとこっちに寄って来てくれないかなと思っていて(笑)。

その支援ができればいいなと思って、ベンチャー支援をたくさんしています。(弊社の事業ミッションは)「Innovate Working Spirits!」です。「就労観」を変えていきたいという思いは、この20代の時の経験からできています。

――ありがとうございます。ベンチャー企業で働くにあたって、今の前向きな「就労観」のお話はとても大切な視点だと感じます。

ベンチャー企業へ転職する人も増えていますし、国としてもベンチャー・スタートアップを支援する動きが活発になっているので、ぜひ読者のみなさんにも自分の「曖昧耐性」と向き合いながらチャレンジしていただきたいなと思いました。水谷さん、改めて本日はありがとうございました。

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