今までのITと「Web3」はどこが違うのか

岩本:(ここまでの話の)要点をもう1回まとめますと、文化はその時代時代によって、「本質的な価値」を提供することによってつながれてきたというのが1点。

その手法論については、時代時代に合わせて。それこそ5GとかWeb3とか、さまざまなものが出てるかと思うんですが、そういった手法を柔軟に受け入れながら、より多くの方々と、自分たちが目指すお客さまに対して、その価値を提供していく。その「本質」が変わらないかたちで展開をしていきたいというお話をうかがいました。

西村さんへのご質問としては、今の話をうかがった上で、このWeb3的な考え方を使うと、どうその手段がこの時代によって変わりうるのかお話いただきたく思います。

西村:はい、ありがとうございます。現状、例えばテックというと、いわゆるデジタル化ですとか、DXですとか、インフラの部分というのがかなり取り沙汰されてきたのではないかと思います。

うちのお茶屋さんも、私が小さい時からいるようなおばあちゃん・おじいちゃんの店員さんが多くて。未だにどうしてもテックを用いようとすると、オペレーションがついていかないとか、そういったところが多く見られました。実際ネットとかITについて、アレルギーがあると思うんですね。

ただこの「Web3」と言われるものは、今までのITとどこが違うのか。また、その違いの中でどこがこの日本文化に役立つかもしれないのかというところを、私なりにお話したいです。

「自分の選択は自分で管理したい」という考え方と日本文化の相性

西村:今までのITの活用は、いかにその処理を速くするかにフォーカスしていました。いかにモノを均一化するか、情報を均一化するか、データを同じように処理できるように持っていくか、っていうところが裏側では一番大事だったように思います。

ですが、現在のWeb3というのは、いわゆるGAFAと言われるような大きなプラットフォームや中央集権的な機関とかがメインの役割を果たすというより、各々の「自分のデータは自分で持ちたい」「自分の選択は自分で管理をしたい」という発想が一番根幹にあります。なので文化やダイバーシティについては、かなり相性が良いのではないかなと思います。

具体的に言いますと、例えばビットコインと言われるもの(仮想通貨)を使っているようなブロックチェーンですとか、あるいはメタバース(デジタル上の仮想空間)ですとか。あとは分散自律型組織である「DAO」ですとか。最近、少しずつ言葉として聞かれるようになったのではないかと思います。

そういったものは、基本的にはどこか誰かが管理をしているものではありません。管理をしていないということは、誰かが取捨選択をしたり、これが良いから・これが儲かるから・いいねがたくさん集まるからという理由で、そればかりが拡散されるという(考え方)とは、まったく違う概念になりました。

ということは、「ノード」と言われる、それぞれの参加者がいいなと思ったら、それぞれがそれを拡散していくルートを持つようになったというところなんですよね。

なので日本文化についても、例えば(今までは)もしかしたら少数だと思って肩身が狭かったのかもしれない。あるいは、マネタイズができないからといって広告プラットフォームに載らなかったのかもしれない。あるいは、ちょっとユーザーが少ないから、スケールしなそうだから、お金を出してくれる人がいなかったかもしれない。そういった課題がすべて解消されるのではないかなと思っております。

根幹は「各参加者が自律分散的に管理ができる組織」という概念

岩本:ありがとうございます。そうですね、DAOとかメタバースとか、そういったところの定義について、少しおうかがいしてもよろしいですか?

西村:ありがとうございます。定義といってもかなり広いです。今Web3でワイワイしてるような人たちの中で(話題になっているものでも)、本当にその分散型が好きな人が選んだのかというと、ちょっとなかなか怪しいところもあるんですけれども。

そして、そういう人たちをキックアウトすることが我々のしたいことでもないので、いろんな人のいろんな捉え方があっていいと思うんですけれども。

少なくとも、DAOですとか、ブロックチェーンですとか、そういったものの根幹にある概念は「各参加者が自律分散的に管理ができる組織」ということになります。そのコミュニティ内のルールですとか、そのルールに従った行動を誰かがとった時にされる処理ですとか、やりとりですとか。そういったものがほぼ自動で行われるというのが、理想ですね。

なので、DAOと一言にいいましても、今は「同じ趣味で語るグループ」みたいなものを指して言うところもあるんですけれども。本来の意味でいいますと、ネットの組織の中で、例えば仕事やメッセージのやりとりとか(に関する)契約とか処理とかが、すべてオンラインで完結して、しかも自動で行われるというところが特徴になるかなと思っております。

岩本:ありがとうございます。

Web3と茶会の共通点

岩本:なぜこのWeb3というテーマと、日本の文化というテーマをかけ合わせたかといいますと、それこそ私も茶事とか茶会をする中で、「会記」というのが残っているんですね。茶事をした後、必ず何の道具を使ったとか、誰が来たとか、客組を含めて、それを記録にまとめるんです。

それって非常にブロックチェーン的と言いますか。しっかりと記帳されていく感覚ですとか、それが会記に残っていていつでも復活可能になり、書き換えは不可能であるというところが、すでにこの文化の概念の中に実装されていると感じています。

NFTとかメタバースみたいなお話でも、例えば各々が能面とかをNFT化をして、それをメタバース上で(配布し)、世界中の方々が日本の面をつけて舞ってるという状態も、1つの未来のかたちとしては可能かなと思いましたし。

逆に、この香道の「香りの空間」についても、お香自体はモノとして流通可能です。同じ空間で同じ時を楽しむということで、もし5Gが普及した社会の中で、その香りの空間を(通信の時差なく)同時に再現できるのであれば、まるで日本に来たような体験が世界中のどこでも体験できる環境が訪れるだろうと。

この最新のテクノロジーの変化を、「本質的」で「最新」な日本文化だからこそ、どんどん組み込んで次につながるかたちを模索していきたい。これが私の個人的な思いだったので、このWeb3と日本文化というテーマを選択をさせていただきました。

「流行り廃り」に負けない市場を作るには

岩本:宝生さん、今のお話聞きながら、どういったWeb3的な概念が今の能楽に適用できるか、そうなった場合にどういう希望的な未来が訪れるか、何かコメントはありますでしょうか?

宝生:そうですね。私は本当にWeb3とか仮想通貨とかはぜんぜん専門ではないし、自分でもやってるわけではないので、ちゃんとリンクしてるかどうか不安ではあるんですけども。

今お話をうかがってまして、その分散型というのはまさに私も同意する部分です。というのも、従来のやり方は、よりマジョリティを重視します。アーリーイノーベーターになった後に、(メインターゲットが)レイトマジョリティになる。そして、結局市場がチープになっていく。そのサイクルの繰り返しです。

だからここ近年の文化は、鍛錬されて残っていく、さらに昇華されていくということが難しくなっているのかなと。要は、「流行り廃り」というのが文化の練度を下げていると感じるんですね。まあ私はそういうのを「消費型」と考えてるんですけども。

果たして廃れたり人が離れたりしたからダメなのかっていったら、意外にそうではなくて。私なんかが目指しているのは、どのぐらいの市場規模があればしっかり運営ができるのか。さらには、投資することができるのかというところのラインの見極めです。数字を頼って見極めていますね。

そう考えると、他の芸能が今のJ-POPと同じぐらいの市場を持たないと価値ないかというと、そういうわけじゃない。逆にニッチだからこそ得られる非常に濃い支持であったりとか、顧客の属性の情報であるとか。ニッチであればあるほど、そういったところは引き続き集めやすくなりますので、今後の武器になるかなと思っておりますし。

現在も、私自身ネット上で何かアクション(している理由)は、すべて情報が取れるということです。SNSも結局、今はインプレッションよりもエンゲージメントのほうが大事なので。どういう人がどういうかたちで参加したのか、ただ眺めただけなのか。そういったところも含めて、どういうふうに購買活動までつながったのかっていうところ(を見ています)。

まだ1年そこらの話なので、集まってる情報はまだ初歩的なところですが。今後はより戦略的にしていけるのかなと思うのが1点。

大事なのは、「遠い未来」を見過ぎないこと

宝生:もう1点、私が大事にしてるのは、未来を見すぎないことです。私は3つのバージョンを考えています。現代と、近い未来、そして遠い未来の3つです。

やはり、近くになればなるほどより正確な情報が得られるんですね。あんまり遠くを見すぎてしまうと、無謀な投資に走ってしまうケースがある。それは完全に運営としてはリスクにつながるので、まずは「現在の市場が2、3年後までにどうなるんだろう」というレベルで考えています。

今回コロナでわかったのは、DXなりの可能性と限界だと思っております。先ほど蜂谷さまのお話にあったとおり、ものごとにはできないこと、やらないほうがいいこともあるんですよ。

例えば能の配信で考えると、能楽がエンターテインメントとしてなり得るかっていったら、すでに歌舞伎があるわけなんですよね。能がエンターテインメントに転化したのが歌舞伎なので、後発でやっても「それだったら歌舞伎をやればいいじゃん」という話になってしまうんです。

実はよくよく紐解いてみると、まさに香道とか能楽が生まれた時代が求めていたのは、例えばチルアウトであったりとか、アンビエント(環境音楽)と言われる、どちらかといえば、Lowタイプの文化ですよね。我々がエンターテインメントにいくのであれば、その特性を最大限に活かしたほうがいいんじゃないかと考えます。

しかしある人は「今の時代、そんなカルチャーを求めてる人間っていないでしょ」っておっしゃるかもしれません。確かに一般的に見てしまうと、エンタメ市場で今からアンビエントカルチャーがどんどん伸びてくかというと、同じ数字で計ってしまうと難しいかもしれません。

でも実は濃密な金鉱として、そういった市場は現にあるわけです。まさにエンタメが成長すればするほど、そのアンチテーゼも生まれてくるわけなんですね。なので、決して市場として成り立ってないというわけではありません。我々(能や香道)が残ってる時点で、(ニーズは少なからず)あるわけです。

冷静になって、そういった市場をちゃんと調査して、提示していく。これによって、エンタメとアンビエント、チルアウトカルチャーが共存できる「多様性のある文化市場」を築くことが、近々の課題なのではないかなと思ってはいますね。

日本伝統文化における「ブランディング」の課題

岩本:いやー……すごいキレキレのビジネスマンのお話をうかがったような印象を受けてしまったんですが(笑)。蜂谷さん、笑っているけど、どうですか? 今の話、すごいキレキレでしたよね。ちょっと興奮しちゃいました。

一枝軒:なんかほぼ宝生さんに講義してもらっているような気がします。岩本さん、お家元を2人メンバーに入れる必要はないよ、もう。宝生さんがしゃべってることがもうすべてだから。

岩本:いやいや(笑)。

一枝軒:結局、言葉とかその単語が違うだけであって、僕たちの思考とか。同じ時代に生まれたからっていうのもあるし、歳も大きく違わない。アプローチとして通る道は違うかもしれないけど、今日あらためてご一緒させていただいて、柱の部分は同じだと思いました。もう僕、黙ってていいです。宝生さん、ずっとしゃべってください。

宝生:いやいや(笑)。蜂谷さんのすごいところは「ブランディングの鬼」だなと、常々思っています。この間とてもすばらしいイベントに参加させていただいたんですが、もうビジュアルブランディングがすばらしいですよ。我々はまだまだ学ばなきゃいけないなと思っていて。

能楽の悪いところは、みんなブランディングにお金をかけないんですよ。「実」を重視しすぎちゃうところがあるんです。公演をする時の経済規模でいうと、80パーセントから90パーセントは公演費用に使われていて、広報だったりブランディングに使われる費用は、10パーセントにも満たないんですよね。

私もびっくりしたんですが、広報に予算を聞いたところ「5万円ぐらいかな」と言われて。いや、それで何をすればいいんでしょうか、と(笑)。チラシ作って撒いてください、みたいなところからのスタートだったんですね。

地球や環境が、一番重要な文化である

宝生:もちろんブランディングについては、そこがじゃあどう(収益に)つながるかって、昔はなかなか見えなかったんですよね。どうしても既存の顧客さんたちからすると、口コミでぜんぶ済んでしまっていた。そこに蜂谷さんのあの洗練されたビジュアライズを見せられると(驚きますよね)。

あと先ほどお話があったとおり、現代人がアロマテラピーのような活用の仕方をしているっていうところに、スッと落ちてきたんですね。言葉じゃなくて、絵で見せられること。まさにそれをされたというのが、私としてはすごい革新的でびっくりした出来事でした。

岩本:ありがとうございます。

一枝軒:(イベントには)岩本さんも参加していただきましたね。

岩本:参加させていただきました。ありがとうございました。

一枝軒:あれが500年目のメッセージなんですよね。さっき宝生さんがおっしゃったように、あんまり遠くは見すぎないほうがいいというのもあるんですけども。とはいえ、まったく考えていないわけではなくて。

私の文化の場合は香木を使用します。木の成長には100年とか150年かかりますし、しかも奇跡的にできるものを使うので、どうしても、私の場合は何百年先のこともずっと頭にありますね。

でも、そう言っていても、今日やることしかできないので。この2〜3年、もっと言えば本当に今日何するかですよね。

ただ、私の場合は香木なので、数百年先をいつも見据えています。その時には、実は香道だけあってもダメなんです。日本だけを見ていてもダメ。結局、今いろんな横文字がいっぱい並んでいるけども、実は地球とか環境というのが一番重要な文化でもあるんですよね。

なので歴代家元たちも、その当時、例えば明治維新という最大の危機を乗り越えてきた。もちろん戦国時代もあったし、これからはデジタルが発達してドラえもんみたいなのが出てくるかわかんないけど。

だから僕は1回、20人の歴代の家元みんなで話してみたいなって気持ちがあるんです。まあ話しても、たぶんこういうこと言うんだろうなってだいたい想像がつきますけどね。

受け継いだ「宝物」を使って、今何ができるのか

一枝軒:この家に生まれたので、当然命を懸けてこの文化を守っていきます。でも私はやっぱり、純粋に苦しんでる人だとか悲しい顔をした人がいると嫌なんです。私は「香り」という宝物をもらっているので、それを使って今何ができるかって考えるだけなんです。

実は今、いろんなデジタルプロダクトを作っています。そういったものをこれから使って、みなさんに香りを届けたいなと思っています。

ただ、今街に出ると合成香料の香りに溢れていますよね。私がそれを使ってはダメだというところで、職人活動もしながら、東南アジアのいろんな香料も使っています。そしてそこには雇用も生まれるのでね。

こういう考えの人は今いっぱいいるんだけども、結局その時だけの自己満足になっちゃいけないと思うんですよね。「自分、やったぜ」ではダメです。やっぱり長い期間続けてかなきゃいけない。本当に責任を持ってやっていかなきゃいけないなと思います。

とにかく、香りで笑顔を増やしていきたい。その原点に私は戻りますね。

岩本:ありがとうございました。