「こそあど言葉」のあいまいな指示への対処法

司会者:質問もいただいてますので、ここからは事前に送りいただいた相談や、リアルタイムの視聴者のみなさんからの質問に答えていければとに思います。

1つ目の相談・質問に移ってまいります。1つ目、あいまいな指示に対する仕事の取り組み方についてです。

「先輩職員から『これ・あれ・それをやってほしい』と言われると、どれだけやればいいのかわかりません。そのことを先輩に聞くと、『ちゃんとマニュアルを見てやってほしい』と言われました。

ですが、マニュアルを見ても字が汚すぎてわからず、聞きに行くと『わかっていない』と言われました。いざ仕事を行うと、現場責任者の方からみんなの前で叱責され、くじけました。どうすれば要領良く仕事を行えるのでしょうか?」と質問をいただいてます。

F太氏(以下、F太):3年ほど前から「自分は要領が良くない、と思い込んでいる人のための仕事術」というイベントを、共著者の小鳥遊さんという方と一緒に続けてきました。そのイベントの内容プラスアルファが、この『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』にまとまった感じなんですけれども。

『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』 (サンクチュアリ出版)

いわゆるこれ・あれ・それ・どれという言葉は「こそあど言葉」と言うんですけども。この対処方法に関しては、この本にけっこう詳しく書いたんです。「こういう場面でどう対応したらいいの?」という具体的な対処方法に関してはぜひ本をお手に取っていただきたいなって思っております。

今日はこの質問の背景にある、メンタル的な部分に焦点を当ててお答えするのがいいかなって思ったんです。

「八方塞がりモード」になったら、まずは休むこと

F太:「これ・あれ・それ」の意味がわからなかった場合は、実際に「これ」が何を指してるのか自分の中で直して、「何々プロジェクトを、何々プロジェクトより先に終わらせるとということでよろしいですか?」と聞き直せればいいんですよね。

ただ、この方の今の状態ですと、そういったことをいきなり実践するのはたぶん難しいと思うんですよ。この方の質問内容を聞いた時に、まず一番お伝えしたいなと思ったことがあります。

僕自身もまさにそうなったことがあるんですけど、けっこうメンタル的にしんどいなとか、少し頭が真っ白だったり、テンパったり、疲れたりとか寝不足だったりする時に陥りがちな状態なんです。僕は「八方塞がりモード」って呼んでるんですが。

司会者:おお、はい。

F太:自分には何のカードも残されてないとか、何の手数もないとか、もう詰みっていう気がしてくるんですよね。みごとに自分が詰んでる理由が、頭の中からいくらでも出てくるんですよ。

これも無理でしょ、これも無理でしょ、言われたとおりにやったのにダメだし、質問したら「そんな簡単なこと質問するな」って言われるし、マニュアル見ても読めないし、結局みんなの前で怒られて......みたいに、「自分にはもう残されている手がない」って気持ちになってしまうんです。

この状態になったら、まずはいったん休んでほしいというのが僕の本音です。まずは「今八方塞がりモードだな」ってことに気づいてほしいんです。僕はネガティブな気持ちになったときは、必ず気をつけています。

「あ、ちょっとネガティブモードに引っ張られてるかもしれないな」って気づきさえすれば、人間はフラットな状態に戻ってこれるようになっています。いったんそこで考えるのやめて、寝るでもいいし、ゲームするでもいいんですけど、いったん思考から「離れる」ことをしてみてほしいなと思います。

会話が苦手なら、文章のコミュニケーションを活用する

F太:とはいえ、自分自身にいろんな課題があるのは、確かに事実といえば事実のように感じるじゃないですか。

司会者:はい。

F太:僕、この方の質問を読んで思ったんですけど、自分自身が課題に感じていることを簡潔に文章にするのがお上手じゃないですか。

司会者:そうですよね、事実を客観的に事象として挙げられていますよね。

F太:すごくわかりやすいですよね。「これ・あれ・それって言われるのに困っている」とか、「マニュアルが見にくい」とか、自分が置かれた状況を分析できる方なんですよね。この方はもしかしたら「オーラルコミュニケーション」が得意じゃないだけかもしれないなって思ったんです。

司会者:オーラルコミュニケーション。

F太:オーラルコミュニケーションというのは、いわゆる会話です。会話のコミュニケーションに苦手意識があるのかなって思ったんです。

会話って、ゲームで言ったら格闘ゲームとかFPSみたいに、反射神経を要求されるんですよ。

司会者:そうですね。

F太:わりと得手不得手があるなって思います。

ただ、今の時代でラッキーだなって思うのは、SlackとかLINEとかチャットベースのツールとか、あとはもう少し長文でメールによるコミュニケーションとか、「文章でのコミュニケーション」を活用できる時代じゃないですか。

「オーラルコミュニケーションだけがコミュニケーションだ」って思っちゃうと、それが苦手だとけっこうつらくなっちゃうと思うんです。だから、ぜひこれはおすすめしたいんですけど、「コミュニケーションが苦手」って自分自身を定義しないでほしいんです。コミュニケーションのかたちっていっぱいあるので。

司会者:なるほど。話すコミュニケーションがたまたまその方は苦手だということですね。

F太:そうなんですよ、たまたま。しかも、自分が好きなものに関しては、めちゃくちゃ早口でしゃべれるはずなんですよ、みんな。

司会者:いや、そうですよね(笑)。

「でか主語」で悩んではいけない

F太:僕もたまたま今こうやってしゃべれるのは、昔からずっと同じ話をしてきてるからであって、自分の好きなこととか詳しいことはちゃんとしゃべれるんです。なので、「コミュニケーションが苦手」ってぜったい思わないでほしいんです。もう少し解像度を上げてほしい。

後からたぶんもう1回言うと思うんですけど、悩む時に「でか主語」で悩んじゃいけないんですよね。

司会者:「でか主語」……?

F太:主語がでかい悩み方をするとすぐ詰むんです。例えば「僕は営業が苦手です」とか、「僕はコミュニケーションが苦手です」「僕は数字が苦手です」って悩むと、その主語にまつわるすべてのものを選択肢から排除してしまうので、自分が選べるものがものすごく少ないように見えてしまう。それはすごくもったないなって思うんです。

(タスクマネジメントに関する)いろいろなイベントをやる関係上、僕はご自身がADHD(注意欠陥・多動症)とかASD(自閉スペクトラム症)って診断されているという方とお話しする機会が、他の方と比べて多いんです。

そういった方々と交流する中で本当に思うんですけれども、コミュニケーションが苦手というわりに、文章がとてもわかりやすい方が多いんですよね。ご自身の得手不得手がとんがっている方がやはり多い印象です。

ですからでか主語でコミュニケーション全てを苦手認定するのではなく、自分の得意な土俵をみつけて、そのうえでコミュニケーションをとるといった戦略も模索していただきたいなって思うんですよね。

書き言葉を活用すると、お互いの齟齬がなくなる

司会者:もちろん自分だけが変わっても環境は変わらないと思うので、環境にはちょっとずつ働きかける感じなんですかね。例えばチャットを使わない現場であれば、自分からチャットで、テキスト上でちょっとずつ伝えていく感じなんですかね?

F太:そうですね。このご質問をいただいた方にお勧めするとしたら、例えば「これ」「あれ」「それ」っていう言葉をたくさん使われて、ちょっと何言っているかわからないときってつい、生返事をしちゃうと思うんですよ。僕もそういうときはよく生返事してたので。

生返事した後にですね、いったん自分の机に戻って、今言われたことを文章や箇条書きに書き起こす。それを印刷して相手のところに持っていくんですよね。

これが僕がよくやっていたことなんですけど、「今おっしゃられたことなんですけど、ちょっと僕自身まだ慣れてなくて、二度手間になってしまって申し訳ないんですけれども、僕自身の認識が間違ってないかどうかご確認いただけますか?」って、その箇条書きしたやつを見てもらう。

「それでいいよ」って言われたら「ありがとうございます」って、お互いに齟齬がないことがわかるじゃないですか。書き言葉を利用するというのは、例えばそういうことです。

おすすめは、仕事の「手順書」を作ること

司会者:コメントでもちょっと似てる(質問がきています)。

「『なる早でお願いします』の『なる早』が(具体的にどれだけの時間でやればいいのか)わからず、聞いても『なる早でいいから』と教えてもらえない」。

ざっくりとした指示をされるご上司の方がいらっしゃる場合も、今おっしゃったような、できるだけテキストだったり、何かしらアウトプットの確認を取る行為を一度やってみていただければという話ですかね。

F太:そうですね。「なる早」ね……。共著者の小鳥遊さんがADHDの診断を受けていらっしゃって、本当に「こそあど」と「なる早」に悩まされてきたとおっしゃっていました。どうやって対処してきたか、具体的な方法を本には詳しく書きました。

やっぱり「なる早」と言われたら「『(具体的に)○日まで』ということでいいですか?」と自分で言い換えて、お互いに了承を取るのがいいと思うんですね。それに加えて、この本でも強くお勧めしているのが、やっぱり一つひとつの仕事に手順書を作ることです。

手順書を作ると何がいいかというと、作る過程で仕事にまつわる固有名詞がどんどん出てくるんですよ。「何々さんに何々プロジェクトの企画の相談をする」とか。

まず自分の言葉で「何々さん」とか「何々プロジェクト」っていう言葉を使って手順書を書いておくと、後からその仕事に関して誰かと会話をした時に、必要な言葉が自然に口から出てきやすくなるんですよね。手順書を作る過程で整理がついている言葉なので、自然に出てくる。だからコミュニケーションを取りやすくなるんですよね。

手順書を書くことは、自分を守ることにも繋がる

F太:「手順書を作ったけどうまく使いこなせない」っていう方はいっぱいいらっしゃるんですが、最初は手順書を作る過程でだいぶ頭の中が整理されるので、それだけでもやる価値はあると思うんですね。

司会者:なるほど。

F太:実際に手順書を作って、上司の方に見てもらうのはとても有効なコミュニケーション方法だと思います。「『なる早で』ということで仕事をいただいたんですけれども、今、私が抱えている仕事がこれだけあります。今日はこの仕事を先ず終わらせようと思っていたんですが、今しがたいただいた仕事とどっちを優先すればいいでしょうかか?」といったことを手順書を一緒に見ながら相談できるじゃないですか。

これなら上司にも「けっこう仕事を抱えてるんだな」ということが認識してもらえるかもしれません。そういう裏テーマもあったりします。

司会者:確かに。

F太:上司に優先順位を相談することによって、優先順位のミスが自分だけの責任ではなくなる。そんな効果もあったりするので、手順書を書くことは自分を守ることにも繋がったりします。

自分が対処できる範囲の線引きをする

司会者:確かに。それを例えば第三者の社員の方が聞いていたら、本人の向き合っている姿勢が見えるし、こんなに真摯にがんばって向き合おうとしているのに、もし上司の方が「いいからなる早で」ってなったら客観的に見ておかしいと(わかりますよね)。

F太:そうですね。それはいいご指摘だと思います。この線引きは大事だと思います。ミスの原因は自分ではなく、会社が悪い、システムが悪い、上司が悪いことがたくさんあります。ですから要求されること全部に対応するのはそもそも無理だったりもする。あくまで自分ができる範囲でやるというので、僕は十分だと思います。

いただいたご質問にも、最後に「現場でみんなの前で叱責されてしまった」というご相談があったと思うんですけど、これに関しては明らかに上司がやってはいけないことじゃないですか。

司会者:そうですね。

F太:これに関しては、例えば然るべき相談窓口に相談してもいいぐらいの件だと思うんですよね。もちろん自分自身の仕事の成果に自信がもてない時にそこまでやるのはちょっと難しいかなって思うんです。ただ、せめて自分の中での線引きとして、「これは上司が間違っているよね」っていう判断は、持っておいてぜんぜんいいと思います。

自分自身が対処できるところと、「ここは違うよね」ということを線引きしておいて、自分が対処できることに対処するのがいいのかなと。「全部が全部会社が悪い」ってやってしまっても、自分ができる手立てがなくなってしまうので、それはそれでしんどいと思うんですよね。

司会者:ありがとうございます。そうですね。今この1つの質問でも、かなり派生して関連する回答になったのではないかなと思います。

F太:本当にいろんなコメントをありがとうございます。恐らく事前にいただいている質問にお答えする中で、(リアルタイムでいただいている質問にも)お答えできるかなと思います。

司会者:そうですね。