庶民的に広げようと思う、日本人のマインド

高木新平氏(以下、高木):僕、最近富山のことをすごく考えているんですが、アフラさんのさっきの話ですごくおもしろいなと思ったのは、富山って水がめっちゃきれいなんですよ。日本名水100選でも、北海道よりも、一番多い。だけど富山の水の自慢って「水道水がうまい」みたいになってしまうんですよ。そうじゃなくて本当は、スイスとかだとすごく高い水を売っているじゃないですか。

高級酒ですか? みたいな価格の水とか、フランス発の水とかけっこうあったりする。富山も水のブランドみたいなものを作りにいく発想にならないといけないんだけど、水道水がうまい自慢になっていて(笑)。

白石実果氏(以下、白石):たしかに、そうそう(笑)。

アフラ・ラフマン氏(以下、アフラ):(笑)。本当にうまいと思います。

箕輪厚介氏(以下、箕輪):それって何なんだろうね? とんでもない世界一のものがあった時に、それを庶民的に広げようと思うマインドと、圧倒的に世界一の、飛び抜けたコンテンツにしようというマインド。どっちが良い悪いではないんだけど、何なんだろうね? と思う。たぶん、もうマインドの問題ですよね。

高木:確かに、そうね。

白石:今、YouTubeで配信している時に、「実際に海外を飛び回った人でないと気づかないかもしれない」というコメントもありました。

箕輪:そこもありますよね。前澤(友作)さんみたいな本当の金持ちが少ない。

白石:あと15分ぐらいで終わってしまうんですけど、その前に私が話したいなと思うのが、じゃあ高ければいいのかはけっこう重要なポイントかなと思っています。お金を高くしていけば、「じゃあもっとぶっ飛んだものを」「もっと付加価値を」「もっと差別化を」といろいろなコンテンツが生まれるからいいのか、という点。

あとは、YouTubeのコメントで、「すべてのホテルが五つ星を目指すべきなのか、五つ星から一つ星のすべてで価格が上がっていくべきなのかが知りたいです」というものがあります。

足りないのは、忙しいVIPのための「裏メニュー」

白石:私は、選択肢が増える必要があるかなと考えています。日本の頂点が低すぎて、安いものはいっぱいあって選べるんだけど、すっごい高いものを選べないかな、と思っているので。JNTO(日本政府観光局)の調査だと、日本に来るインバウンドゲストの1パーセントが富裕層で、消費額でいうと11パーセントぐらい消費してるんですよね。

でも世界平均でいうと、同じように全旅行者の1パーセントが富裕層で、その旅行全体に対する消費額は14パーセントだそうです。ということは、日本では富裕層がお金を使いきれていない、とも言えるのかなと思うんです。

そういう意味で、お金を使う選択肢がないのが課題かなと私は感じていて、それでこのプライシングセッションをしたんです。別に、ぜんぶ高くしろとは思っていないんですけど。みなさんはどう思います?

アフラ:私は高くするのは反対ですね。例えば、銀座にトリュフのシーズンだと60万円とか100万円はかかる店があるんです。

箕輪:勝手にトリュフをすってくるやつね。いいですって言えないもんね、勝手にすられて(笑)。

アフラ:はい。そこは外国人にとっては、ぼったくりというか、高く見える。10万円とか15万円とかは、ものによってはありかなと思います。でもやっぱり利益が見えてしまうので、何100パーセントとかの利益を出してしまうと、顧客の信頼も失う。ある程度ビジネス的に利益を出せば、その価格設定が一番ベストかなと思っています。

自分は、人生で一番長く暮らした国が日本です。日本にいて、平等はもちろん大好きですし、治安も良い。ただ、忙しい人たちのために裏メニューはぜったいあったほうがいいと思っています。いろんな方がいて、それぞれの事情があるので。

「お金でぜんぶ解決してしまう=悪いイメージ」ではないと思います。ここをいろいろ考えてほしいなと思っています。海外だったら、ヨーロッパのディズニーランドも15万円ぐらいで、ガイドが6時間くらいついて、裏口から入ったりするんです。日本も、そういうのを表に出してもいいんじゃないかなと思っています。

白石:そうですね。日本では、VIPの方をご案内する時もなかなか裏から入れないのはけっこう課題だと思います。

アフラ:そうですよね。1日1組とか2組限定とかにすれば、一番いいのかなと思っています。

白石:なるほど。

「この世あらざるもの」を作る

箕輪:僕は、どっちも価値があると思っています。僕、この前西成の500円の宿に泊まったんです。マジで臭くて、吐きそうで。臭すぎて窓ガラスを開けようとしたら、窓ガラスが割れているという、地獄みたいなところだったんですけど。でも、歩いて2分ぐらいのところに、そんなに価格は高くないんですけど、星野リゾートがあった。なんだか「日本っぽくないな」と思ったんですよ。フィリピンのスラム街に高層ビルが建つみたいな。

でも、僕はどっちもいいと思った。西成で働いている人に失礼になってしまうかもしれないけど、やっぱり体験価値として新しいものは、僕は(高価なものと)同じぐらい価値があると思っています。何百万円のホテルに泊まるのも、500円の宿に泊まるのも、それは自分の人生を豊かにしてくれるものなので。

だから、値段設定というよりも、「この世あらざるもの」を作ることを意識する。結果、「金もかかるよね」というものがあってもいいし、世界中には実際ある。じゃあ日本には、この世あらざるものってある? といった時に、良い感じのものはたくさんあるけど、本当にぶっ飛んだものは意外とない。これが、本質というか、1つの視点としてあるのかなという気はします。

高木:うん、うん。

箕輪:昔はあったんですよ。金閣寺とかバリバリ狂ってると思うんだけど、今そういうの作ろうとしてる? みたいな感じかな。

白石:金箔を貼った、ね(笑)。

箕輪:めっちゃきれいじゃないすか。行く度、「あ、こんな金だったんだ」と思うし。あそこに泊まれたら、1,000万円だろうがいくらでも出すと思うんですよ。ああいうぶっ飛んだものを作るのは、やっぱり、人類にとって価値じゃないですか。そういうのに挑もうという話かな。

アフラ:ちょっと金閣寺は(拝観料が)安すぎると思います。

箕輪:ねえ。

アフラ:金額が安いから、週末とかみんな入ってしまう。人が多すぎて、ポスターとか広告みたいな良い写真が撮れないという問題がある。ちょっと価格を高くしたら、ちょうどいい人具合になって、いいフィルタリングになるかもしれない。特に最近コロナで人と人の間の距離を保つことが必要ですけど。まあ全般的に金額は見直したほうがいいんじゃないかと思ってます。

箕輪:まさに。

白石:全員が同じ金額で入れることが、課題かなと思っています。

箕輪:それがファーストクラス問題ですよね。

価値のある高額サービスをプロデュースできる人が少ない理由

白石:優先されたルートがあることで、観光事業者としてはぜったいに収入もアップするだろうし。あと、お金を払ってもいいからもう自分だけのコースにしたい時に、そのルートがないとか、ホテルがないとか、体験がないのは、かなり課題かなと。

箕輪:そうすると、金が使えないから、良いコンテンツを作れる日本人は、サウジアラビアとか外国で新しいコンテンツを発表しちゃうんですよ。それはつらいですよね。

白石:たぶん私たちが見るべきは、「日本に来てどうするか」ではなくて、「日本を選んでもらうためには」というコンテンツがないと難しいのかなと思います。

じゃあ高くすればいいのかというと、それなりにクオリティを求められる。さっき話した「価値」はある前提です。値段を高くすることだけが切り取られて、「高くすればいい」という話ではないかなと。

箕輪:でも、大丈夫ですよ。高くしても、価値がなかったら続かないし、続くなら価値があるということだから。可能な限り高くしてみればいいんですよ。

アフラ:おっしゃるとおりです。

白石:確かに。

高木:そうですね。実際僕もそうですけど。1泊100万円とかの宿を本当に価値あるかたちでプロデュースできる人って、限られていると思うんですよ。1,000万円とかだったら、たぶん誰もできないかもしれない。

僕はいつも桝田さんに、「最近感動したの何?」と聞かれるんです。で、僕が話すと「そんなことなの?」「大したことないね」と言われる(笑)。「僕が最近感動した経験はこれだよ」と言われて、「アマゾンの僻地から、何とかというところへ行って」みたいな話をされる。それが毎回すごくおもしろいんです。

その感動の種類や、経験をしていないと、たぶん作れないと思うんですよ。だから、僕はすごくそれが……箕輪くんはよく乗ってるかもしれないけど、この前も「HondaJet」に初めて乗って、「あっ、すげえ」と純粋に思った。

箕輪:速っ! って思うよね。しかも、携帯いじれるじゃん、みたいな。

高木:必要なのは「こういう経験だ」って。そうしたら、その目線でものが見えるようになるというか。

箕輪:いや、そうだよ。だって、ワールドカップにプライベートジェットで行こうって誘われてさ。「公園にテント張ってカタールに住んだらタダで行けるじゃん」とか思ったら、金持ちプランだから1泊30万円のホテル付いてるとか言われて、「いらねえ。1人で行くのに」と思った。でも、それってたぶん、何か与えてくれるんだよ。

高木:うん。そう思う。

富裕層と非富裕層が同時に楽しめる世界観の場所

白石:たぶん、観光事業者自身も自分にお金をかける必要があるかなと思います。感動する体験をしていないと、提供できないから。

高木:そうだと思います。

箕輪:まったくそうです。だから金が必要ですよ。なんで出版業界がつまらないかと言ったら、……こんなこと言ったらあれだけど。『GOETHE』だろうが『LEON』だろうが、年収3,000万円みたいな人に向けて作っているのに、作っている編集者が年収数百万円なので、おもしろいものが作れるわけないんですよ。

昔雑誌がおもしろかった時は、おもしろい場所に雑誌編集者がいたんですよ。今、出版人は1人もおもしろい場所にいないですよ。で、コンテンツがどんどんつまらなくなって、読者のほうが金持ってるし、読者のほうがおもしろいことしてるから、「何これ?」ってなってしまうんですよ。

だから、儲からなくなると、結果つまらなくなりますよ。まあエキゾチックなものにはなるけどね。

白石:ありがとうございます。

高木:わかる。

白石:そろそろ……。

高木:あっ、僕、1個いいですか?

白石:どうぞ。

高木:いや、思い出したのが、アメリカの「バーニングマン」という祭りがあるじゃないですか。砂漠の中で数日間過ごすという、ある種ゲテモノというか。でも、あれプライベートジェットとか、ヘリコプターが飛びまくってたなと思って。こっち(富裕層)ルートもたくさんあるけど、キャンピングカーとかで来る人たちもいるような、カオス。

確かに日本では、それが同時に成立できる世界観の場所が、あまりないんだろうなと思いましたね。

白石:ないかもしれない。ある意味、それはテーマにできるかも。

高木:経験していないから、そういう幅でプロデュースできる人もいないんだろうなと、今話を聞いていて思いましたね。

箕輪:それ、サービスとかコンテンツとかぜんぶに言えることだけどね。

高木:いや、本当そうだわ。

求められる、インバウンドの現場の「待遇改善」

白石:おっしゃるとおり、選択肢がぜんぜんないし、その選択肢に対して、どうやって価格設定していくか。「価値を作る」は、今回のキーワードかなと思いました。その価値をどう作るかという時に、自分の想像力を超えられないとやっぱり作れない。

箕輪:すいません、最後に1個いいですか?

白石:どうぞ、どうぞ。

箕輪:パトロンとか資産家みたいな、とんでもない金持ちがいないから、無理ですよ。まあいなくはないけど、その人たちが「やってみろ」ってドンッと金を使える世の中になればおもしろいと思う。いくつかプロジェクトが動いているから、もしかしたらできるかもしれないけど。本当に金を持ってる人がバンッて、おもしろいものを作るのがいい。

高木:最近、資本がある人が、地方にドンッと激しいのを作り出すことが増えてきているのは、めっちゃおもしろい流れやなと思う。

箕輪:そこに新平とか、佐渡島(庸平)さんとかが絡んで、成田(悠輔)とかが関わっているから、そこに期待という感じですね。

白石:でも、本当にこれに関わる私たち自身が、自分にお金を使っていかないといけないので。待遇改善についても、「インバウンドの課題は現場の待遇が足りないこと」と、政府のリポートにも書いてはあるんです。価値提供するためには、自分たちがどれだけ良いものを体験して、想像できるか。

箕輪:そうです。

高木:まあ政府がサラリーマンみたいな人たちだからなあ。

箕輪:まあ……そうですよね。

白石:ねえ、そう思いました(笑)。

はい、ではちょうど16時20分となりましたので、みなさま本当にありがとうございました。

箕輪:ありがとうございます。

高木:ありがとうございました。楽しかったです。

アフラ:ありがとうございました。

白石:ご視聴いただいたみなさまもありがとうございました。引き続き、インバウンドサミットをお楽しみください。失礼します。

一同:失礼します。