2022年からは、中小企業も「パワハラ防止法」の対象に

吉田幸弘氏:吉田幸弘と申します。よろしくお願いいたします。人材育成コンサルタントをしております。大学を卒業して、最初は大手旅行会社に入りまして、その後は学校法人、専門商社、広告会社の4社を経て独立しました。

旅行会社以外の3社では管理職をやっておりました。あとは主に営業職、広報、営業のマネージャーをやっていたんですが、決して順調だったわけではなくて、降格人事3回という経験があります。

そこから学んだことを、今、講演や研修を通してお話をしております。特に今日の(テーマである)「ハラスメント」に関しましては、したこともあるし、されたこともあります。

『一流の人は知っている ハラスメントの壁』という本は、主にハラスメントを恐れないためにはどうしたらいいか、ということを書いております。ハラスメントを恐れないための心得、それからハラスメントにならないコミュニケーション術を書いておりまして、今回は5章のうちの一部のお話をしていきたいと思います。

2020年の4月に労働施策総合推進法、いわゆる「パワハラ防止法」という法律ができました。その法律ができたことによって、まずは2020年に大企業にパワハラに対しての規制が入りました。2022年からは、今度は中小企業もその対象になりました。

パワハラを定義する「6つの類型」

やはり今、パワハラが社会問題になったというところが、この背景にあるんじゃないかと思います。今までは、「パワハラとは」という定義がなかったので、曖昧だったんですよね。「パワハラです」と言っても、「えっ、何が?」「どこがあてはまるの?」という感じだったんですが、今はパワハラの定義ができたということで、この要件が1つでもあてはまっているとパワハラになります。

まず1つ目、職場での優越的な関係を背景とする。2つ目に、やはり上司側が強いので、優越的な関係を背景として、さらに業務上必要かつ相当な範囲を超えている。3つ目が、さらに就業環境を害されている。これがパワハラとなります。

ただ、これは曖昧で非常に難しいです。人によっては「いや、これは業務上の範囲だ」と言うかもしれないし、あるいは「ハラスメントをされた」という部下は、「これは範囲を超えていますよ」ってなるかもしれない。そこで、「6つの類型」という6つの例ができました。

1つ目が、暴力、殴る・叩くといった身体的な攻撃です。2つ目が精神的な攻撃。要は、言葉での暴力ですよね。あとは、名誉を毀損したりすることも入ってきます。それから3つ目は、人間関係からの切り離しです。無視とか、1人だけ隔離された部屋に置くとか、あるいは「もうあいつには触れなくていいから」と言ってみんなで食事へ行くとか、飲み会に呼ばないとか。

4つ目が過大な要求です。例えば、普通なら納期が1週間くらい必要なものを「明日までにやれ」とか、こういう過大な要求です。(個人の達成)目標を平均の150パーセントにしたりとか、そういうところですね。

それから5つ目は、過小な要求。過大と逆なんですよ。例えば、本来はバリバリ営業のエースとして入ってきたのに、ちょっと意見が合わなかったら簡単にできる仕事や電話番だけさせるとか、本当に過小な要求しかさせないということです。

6つ目は個の侵害。過度にプライベートに立ち入ることですね。これはパワハラもあるんですが、若干セクハラ(の要素も入っていたり)とか。他にも、「なんで結婚しないの?」と言うシングルハラスメントとか、その人の背景や環境のことを聞くことです。

人は弱いものである、と捉える「性弱説」とは

テレワークによって部下の姿が見えないので、「もしかして見えないところでサボっているんじゃないか?」とか、あとは生産性が落ちている傾向がありますので、必要以上に部下をマネジメントしてしまっているという問題があります。

でも、マイクロマネジメントはよくないということで、これは「性善説」「性悪説」という言葉があって。性善説は「人間は自主的に良いことをするもの」。でも、性悪説は「人はサボるもの」。これはやはり、性悪説で見てしまうんじゃなくて性善説で見ましょう。

「人は意識的に自発的に働くものだよ」「信用しよう」と言うんですが、これはちょっと無理があるんです。リーダーのストレスになってくるんですよね。「本当は怒りたいけど、性善説、性善説」と言っているんですが、ここは「性弱説」として、人は弱いものとして捉えましょう。

弱いものとして捉えるとはどういうことかというと、会社にいる時はみんなの目があるけど、自宅だとみんなの目がないので、やはりちょっとサボってしまう。人は弱いものとして捉えましょう、ということです。

それから、「こうするべき」という「べき」の違いがあります。これは価値観の違いですね。会社で使っているSNSは既読したらすぐ返す。あるいは、すぐにチェックする、メールも1時間以内に返すとか。でも、それはリーダーが思っていることであって、部下も提案書作りや企画書作りに集中していたり、思わず商談が長引いていたりします。

(部下は)商談が長引いているのに、何度も何度もリーダーが「まだ?」「返信ないのか?」「サボっているのか?」なんて送ってしまうこともあったんですよ。そうすると、「本当に信用してもらえない」となるので、これはそれぞれの「べき」の考え方が違うよ、ということです。私もOK、あなたもOK、それぞれの考え方がOKだよ、という考え方にしていくことをおすすめします。

ハラスメントを引き起こす3つの問題点

まず、ハラスメントは次の3つのことから起きると思っておくといいです。1つ目は、信頼関係がない。2つ目は、無理な内容、あるいは簡単すぎる内容をお願いしている。3つ目は、言葉づかいが乱暴。

その中で「信頼関係」が一番ベースなんです。このベースは、先ほどお伝えした感情のコントロールですね。何かを送る前、何かを言う前、何かをする前に、いったん自分の中で心を落ち着かせてから行動する。ここがポイントです。

人にはそれぞれ「イライラしやすい傾向」があります。時間であったり、場所であったり、それからシーン・相手もあります。例えば、同じミスの報告を月曜日の朝にしてきた場合と、木曜日の午後にしてきた場合では、リーダーがぜんぜん違うと思うんですよ。

「月曜日の昼は幹部会議がある」といったら、「お前、何やってんだよ」と言うかもしれない。木曜日だったら「しょうがないから、じゃあこう改善するか」で終わるかもしれないです。

それから「場所」です。イライラする場所からはなるべくメールとかを送らないとか、ちょっとイライラしたら場所を移動するとか、一呼吸置くということです。

リモートだと、ちょっと騒がしいファミレスだったり、出社しているのならば会社のいっぱい人がいるところだとイライラするという場合は、会議室に行ったり、許されればカフェに行くとか、そういった対策を立てておく。イライラしたら場所を移る。

それから3つ目が「シーン」ですね。例えば、自分の上司やちょっと苦手なお客さんから辛辣なメールをもらった時に、すぐに上司が部下に「お前、目標を全然達成できていないじゃん。どうするんだよ?」「おい、いつになったら達成するんだ?」と言う。これは最悪なんですよ。なので、辛辣なメールが来たりちょっと嫌な電話をもらった時は、一呼吸おくことが重要です。

イライラは伝染するから、とにかく「一呼吸置く」ことが大切

4つ目は「相手」ですね。同じ話でも、Aさんには怒るけどBさんには怒らない、というのがあると思うんですよ。これは、本当は差別で絶対にいけないんですが、Aさんはミスが多いからつい怒っちゃう。あと、Aさんは叱りやすいキャラだとか。

叱りやすいからって叱られていたら、Aさんにとっては本当に迷惑な話なんです。なので、AさんとBさんに接する前には、やはり一呼吸置くことです。

あとは、やはりイライラは伝染するところがあるので、まずはなるべくイライラを見せない。例えば悪い報告を受けた時に、ちょっと席を外して見えないところで「アイツ、またやったな」とか。お手洗いの個室でもいいですし、例えばペットボトルを潰すでもいいです。そういったかたちで、ストレスの解消をする。

あとは、リーダーの方って全体的に自分に厳しいので、仕事のハードルが高いんですよ。でも、「こんなんじゃダメだ」というのは、メンタルがやられるんですよね。たぶん、そういう人は100点をつけることは絶対にないんです。

常に「まだ80点」「まだ60点」って(自分に)厳しいんですが、「ここはできたじゃん」という、自分ができているところやよかったところを褒める癖をつけるといいです。1日1つだけでも、「ここはよかった」というところを作っておく。そうすると、部下のいいところも見つけられるようになるというメリットもあります。

ハラスメントを必要以上に恐れないということです。まずは、信頼関係を作っていきましょう。信頼関係について、今日はお話しできなかった内容を本書に書いておりますので、もしご興味がおありでしたらお読みいただければと思います。本日はありがとうございました。