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国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わる POSITIVE FEEDBACK(全4記事)

良いも悪いも言わない上司、不安になって自信をなくす部下 年齢問わず使える、効果的な「フィードバック」のコツ

ミラノ在住の国際エグゼクティブコーチ・ヴィランティ牧野祝子氏が、著書『国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わる POSITIVE FEEDBACK』の出版記念として、 MBAオンラインキャンパスのセミナーに登壇しました。ネガティブなことが中心の通常のフィードバックとは違い、相手の成長のための承認と思いやりのある良質のコミュニケーションである「ポジティブ フィードバック」。相手の強みを活かし、成長することにフォーカスしたフィードバックを行うポイントとは? 本記事では、ポジティブなコミュニケーションが少ない職場で起こりがちな問題点を指摘しています。

ポジティブフィードバックの有無で、会社の雰囲気も変わる

ヴィランティ牧野祝子氏(以下、ヴィランティ牧野):では、「こう言われたらどう思いますか?」というケースを3つ出したいと思います。みなさんもご経験があるのではないでしょうか? 

会社に行ったら、上司がいた。何も言わない。ツカツカツカって歩いて、かばんをぼーんって置いて、コンピュータを開けて、ガチャガチャガチャと仕事をし出した。私はそこで、「ちょっと相談したかったことがあったんだけど、どうしようかな。今はやめようかな」と思うことが何度もあったんですね。

そうじゃなくて、笑顔で「おはよう」「週末はどうだった?」って向こうから声をかけてくれると、「ちょっとこういうことを考えたんですけど」と、相談もしやすくなるんじゃないかなと思います。

私の言っているポジティブフィードバックは、こういうことも含めています。笑顔でコミュニケーションをすることとか、本当に基本的なことなんですけれども、それがあるか・ないかでチームのカルチャーや雰囲気とかが変わってくるんじゃないかなと思います。

では、こんな時はいかがでしょう? 「今回も成約できなかったな」。これは営業の方を想定しているんですけれども、いろんなところに営業に行って、上司から「今回もできなかったな」と言われる。

事象としては「成約ができなかった」ことがあると思うんですけれども、それを「今回も成約できなかったな」って言われると、「今回もできなかった。私はダメなんだ」って、私だったら思っちゃうかなと思います。

部下を不安にさせないための声のかけ方

ヴィランティ牧野:それをポジティブフィードバックとして言うと、「今回は資料はすごく完璧にできたね。クライアントを前にしてプレゼンするのに緊張していたみたいだけれども、次はもうちょっとロープレしてがんばってやろうね。きっと次は大丈夫だよ。残業もしてくれてありがとう」。

事象として「成約できなかった」というのは一緒なんですけれども、声かけとして、前者だったら仕事をやりたくなくなっちゃうし、不安になるかなと思うんです。後者だったら、「上司も一緒にがんばってくれるし、こういうところを直せばいいからがんばろう」って思えるんじゃないかなと思います。

もう1つ、「朝礼に遅れるな!」。今、朝礼がある会社がどれだけあるかわからないんですけれども、「なんで遅れたんだ?」「朝礼に遅れるな!」とか、こう言われたら「すみません。気をつけます」って言うと思うんですけど、たぶん私は何も言えないかなと思います。

「いつも時間通りの君が、今日はどうしたの?」って言うと、例えば「実は子どもが泣いていて間に合わなくて」とか、そんなふうに会話が続くんじゃないかなと思います。

これはポジティブフィードバックのテクニックです。本(『国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わる ポジティブフィードバック』)に詳しく書いてあるんですけれども、クローズドで話をするんじゃなくて、どうオープンディスカッションに持っていくかというのがポジティブフィードバックの大切なところです。ということで、3つ例を出させていただきました。

部下に対して「承認」を伝えることがポイント

ヴィランティ牧野:要はポジティブフィードバックで大切なのは、部下に対して、もしくは同僚に対して「見ているよ」「認めているよ」ということを伝えていただきたいんですね。朝来て笑顔であいさつをするとか、「残業をしてくれてありがとね」「成約は今回はできなかったけれども、今度は大丈夫だよ」とか。

別にほめるわけではないんですけれども、「常にあなたのことを見ているよ」「認めているよ」「承認しているよ」って伝わればいいんじゃないかなと思います。

私の上司だった素晴らしいリーダーの方々は、ポジティブフィードバックの天才だったんですけれども、彼らは私にどんな状況でも勇気をくれました。

私がイギリス英語がわからなくてディスカッションに入れなくて、ほとんどアウトプットのないダメダメだった時でも、「祝子、君の強みはこうだね。こういうところをもうちょっと伸ばすといいね。一緒にやるからがんばってね」とか、周りがポジティプフィードバックをしてくれました。

「君だったらできると信じているよ」とか、何かをやっていると「その方向でいいよ。できることがあったら言ってね」というかたちで、常に肯定的な言葉をかけてくださいました。

ただ、私は(当時)これが常識だと思っていたのであまり気づかなかったんです。でも、私の今のコーチングのクライアントさんと話していると、「フィードバックがなくて不安です」という方がすごくいらっしゃって。

それで「私の上司はどうだったんだろう?」と考えた時に、「ポジティブフィードバックをもらっていたんだ」って気がついたんです。彼らは私の強みとか得意なことを承認してくれた。そして可能性を信じてくれた。

今の時代だからこそ「わざわざ伝える」ことが大切

ヴィランティ牧野:日本の上司の方々で、それを言わない方でも、それを知っている人はけっこういると思うんですよ。「部下の何とかさんは、こういうところはいいよね」「こういうところはできるよね」と思っている方は、たぶんたくさんいらっしゃると思うんです。

ただ、それをわざわざ肯定的に伝えている方がすごく少ないのかなと思います。後ほどお話しますけれども、今のこの世の中の時代背景からして、肯定的に伝える、わざわざ伝えることはすごく大切じゃないかなと思います。

「君のいいところはこれだね」とか「できるって信じているよ」って言われていると、人間できる気になってくるんですよね。私もダメダメだった時代があったし、また障がい児が生まれて3年間仕事をしなくて、本気で「一生会社なんか戻れないかな」って思ったこともありました。

ただ、そういう言葉をかけていただいた思い出があったり、またその時に、以前の上司と連絡を取っていろいろこういった言葉をかけていただき、ちょっと「自分もできるかな」っていう気になりました。

言っている側はたぶん覚えてないんですけど、聞いている側には一生残る大切な言葉です。これは数秒でできますので、ぜひぜひ、みなさんにたくさんやっていただきたいなと思います。

多くの場合、上司の方も忙しくて「部下はわかっているだろう」と。この前の企画書も良かったし、今いい感じで仕事をしているっていうのを、わざわざ言わないという方がすごく多いと思うんです。お互いに忙しいし。ただ、これはわざわざ言わないといけないんです。多くの場合、部下の方はわかっていないです。

人間には「物事をネガティブに取る癖」がある

ヴィランティ牧野:人間誰でもそうなんですけど、物事をネガティブに取る癖があると思うんですね。人間は放っておくと最悪のパターンを考えることが多いので、わざわざ言わないとみんな「自分はダメなんだろう」って思ってしまうんです。なので、わざわざ言うことがすごく大切なんです。

こんなことを考えていたある日、私は突然上司になりました。上海の時のチームだったんですけども、気がつくと多くの部下がいて、困ったなと。最初はどうしたらいいか本当にわからなくて、私がうまくマネージできなかったり、彼らが勝手なことをやっちゃったり、そういうことがあったんです。

でもよくよく考えてみると、私は上司の人からポジティブフィードバックをもらっていたので、同じように「じゃあそれをやってみよう」と思って試してみたんです。

何をしたかというと、良いところを承認したんですね。当時の上海は経済的にはすごく伸びていて、やることは山ほどあった。ただ、若い人たちが多くて、ミドル世代は文化革命でがさっといなくなっていたので、人材不足だったんですね。人がいないから、私みたいな中国語もできない、経験がないような人も雇ってくださったんですけれども。

そんな状況の中で若い人たちをどううまく使っていくかということで、私は「良いところをとりあえず承認して、悪いところは目をつぶろう」と思いました。

日本と比べて、正直チームのレベルがどうかという問題はあると思うんですけれども。ただ、良いところを認めて、その良いところを伸ばしていったら、人材不足でもすごいチームになってきたという経験があります。

「承認欲求」を高めるのは、どこの国でも使えるテクニック

ヴィランティ牧野:水が入っているコップの、水が入っているほうを見るか、入ってないほうを見るか。よく「glass half empty」か「glass half full」と言いますけれども、私は常に「full」のほうを見るように気をつけました。

最初は慣れてないのでやりにくいんですけれども、ただ、この人たちが仕事をして結果を出さないとしょうがないので、いいところを見つけては「それもいいね」「やってみて」「ありがとう」と言っていました。そうすると、みるみるうちにみなさん力を発揮してくれて、いい結果が出たんです。

他の国でやっても、どこの国でも使えます。承認欲求は日本に限らず、どこの国でもありますので、これはどこの国でも使えるテクニックです。本当にチームのメンバーが水を得た魚のように活躍してくれました。

その後、上海からイタリアに移った時に、あるチームメンバーの男性の方がいらっしゃったんですね。彼は当時30代前半で、その会社には10年以上いました。得意なこともあるけど、苦手なこともたくさんある方だったので、いろいろな部署に行かれていました。

ただ、どこの部署でもなんとなく芽が出なくて、ファイナンスをやったりマーケティングをやったりいろいろやっていたんだけど、私が行った時には受付にいらっしゃいました。すごく人当たりが良くて、「この人、強みもあるな」と思ったんです。

その後、私はサービス部署を立ち上げて、上司として彼のいいところ・素晴らしいところを承認するということをしました。そうしたら、彼は会社にとっていなくちゃいけないようなマネージャーレベルになってくれまして、今でもその会社で活躍しております。

「上司からのフィードバックがなくて自信がない」という人も

ヴィランティ牧野:こんなかたちで、チームのいいところをうまく利用していくと、チーム自体がすごくパワフルになりますので、1人では到底無理なところへ行けたり、1人だと到底無理なことができるようになります。

アフリカのことわざで「早く行きたかったら1人で行きなさい。遠くに行きたければみんなで一緒に」という、アル・ゴアさんが言った言葉があります。ポジティブフィードバックでお互いの良さが伸びると、短期間で遠くに行けるんじゃないかなって、私は体験して感じました。

私は上司からのポジティブフィードバックを浴び、部下にもしてきた。そういったバックグラウンドがあります。その中で、国際エグゼクティブコーチとして、特に日本のクライアントさんとお話をする機会が今もあるんですけれども、びっくりしたのが、「上司からのフィードバックがなくて自信がない」という方がすごく多いんですね。

私も「わかるな」と思って。私も常に素晴らしい上司ばっかりだったわけではなく、たまに上司が何も言ってくれなくて不安になったこともあったので、「そうだな」って思っていたんです。

フィードバックがなくて、まったくわからない。私が仕事ができるのか・できないのかがわからない。上司とのコミュニケーションがまったくない。非常に良くない状況が多くあることに気がつきました。

上司から見ると「部下のモチベーションが低くて仕事をしてくれない」とか。反対に「いきなり上司になっちゃったんだけど、部下がすごく仕事ができて、じゃあ私はどうしたらいいのでしょう?」とか、こんな感じで人間関係の悩みがすごく多かった。

フィードバックなしで働くのは“ナビなしで運転”するようなもの

ヴィランティ牧野:私が思うに、これはお互いのフィードバックがないことが大きな原因じゃないかなと。クライアントさんに「こういったかたちでポジティブフィードバックをしてみてください」と言うと、けっこう短期間で結果が出ることがありました。「これは本当にいろいろなところで使えるな」と思い、本にまとめさせていただいたという次第です。

フィードバックなしで働くのは、私にとってナビなしで運転するようなものかなと思います。私はイタリアでよく運転しているんですが、方向音痴なのでしょっちゅう行っている場所でもナビがないとダメなんですね。常に携帯電話のナビを見るんですけれども、たまに携帯の電池がなくなるとか、ナビがなくなっちゃうと、「こっちで良かったのかな」って不安になります。

知っているところでも不安になるのに、初めてのところに行くとなると本当にわからなくて、「こっちでいいのかな」「あっちでいいのかな」って不安になっちゃって、「行った場所で何をしよう」と考えるどころじゃなくなっちゃうんですね。フィードバックなしで働いている私のクライアントさんたちと話していると、そんな状況かなと思いました。

例えば最初は「このプロジェクトをやってください」とか「これをまとめてください」って言われて、運転し始めますね。でも、うんともすんとも言われない。「これいいよ」「あれいいよ」「これは良くないよ」とかも言われないから、だんだん不安になってくる。

何も言われないと不安になってくるので、「これでいいのかな? でも何も言われないから私ダメなんじゃないかな?」って、だんだんスピードが落ちてきます。「やっぱり私はダメなのかな?」って、ひどい場合は自分で自分は無能だと決めつけて、会社を辞めちゃう場合もある。

どんな人にでも「ポジティブフィードバック」は影響がある

ヴィランティ牧野:そういった方に「じゃあ上司に話を聞いてみたら?」って言うと、だいたい(上司からは)ポジティブで返ってくるんですよ。「なんで最初から言ってくれなかった?」ってことなんです。

運転している時に「そうだよそうだよ、それでいいよ。その調子で行って」っていう、その一言があれば、アクセルを踏んで「そうだ。こっちに行けばいいんだ」って進めると思うんですね。

「もう少ししたら急カーブだから気をつけてね」「コストはちゃんと見ておいてね」「あの部署と話をしておいてね」とか、そういったことを言われると、「わかったわかった」ってうまく運転できると思います。本当にちょっとしたことでも、ナビの指示があるとうまく仕事が回るんじゃないかなって思っております。

このポジティブフィードバックは誰にでも結果が出て、国籍、バックグラウンド、年齢などなど問わずに使えます。みなさんもマズローの欲求段階説はご存じかなと思うんですけれども、すべての人間はこういった欲求があるというのを段階にまとめたものがあります。

「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」、そして「承認の欲求」、一番上に「自己実現の欲求」とあるんですけれども、ポジティブフィードバックは承認をするものですので、「承認の欲求」を満たします。

承認の欲求は、人間誰にとっても大切なものです。だから若い人でも年を取っている方でも、一見ポジティブフィードバックをしても反応がない人がいるかもしれないんですけれども、承認されたら絶対にうれしいんですよ。人間だから。なので(ポジティブフィードバックは)みんなに使えるんです。

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