社員同士の対話が醸成した「空気感」

櫻井将氏(以下、櫻井):では2個目の事例にいきます。(1個目の事例は1万名以上の会社でしたが、)2個目の事例は、先ほど言った700名ぐらいの会社さんです。「YeLL」の利用者は40名ぐらい、700名中40名でしたね。まだ創業20年の会社だったので、50代の方がすごくたくさんいるというわけじゃなくて、中途の方が多い会社だったんですね。

この会社さんも人事制度変更で、再雇用に関わる制度が大幅に見直しが入ったこともあって、このプログラムっていうのをやろうという話になりました。

これまでは定年とか再雇用の社員が少なかったので、人事部で個別対応ができていたんです。でも2、3年後を見据えると、人事だけでサポートできない数のシニア層がいるなってことで、そろそろ考え始めたい。

特にこの人事部長の方は自身も50代後半だった。後半になってからじゃ遅いから、50代になったら一度考える機会を作りたい。ということで、50代のうち、50歳から55歳の方に対するサポートをさせてもらったというかたちになってます。

あともう1個、後でお話するんですけど、「対話会」を設けています。漠然とした不安を抱える社員同士が対話をする機会を設けることで、社内に「ちゃんと自分もキャリアに向き合っていいんだ」っていう空気感を醸成したいということで、対話会も一緒にやりました。

「思考」から「感情」や「価値観」を扱えるように

櫻井:具体的にどうやってやったかというと、最初の導入の研修を一緒にさせていただきました。人事制度の変更の話を向こうの人事の方がされた上で、「YeLL」で1on1をやるってどういう意味なんだ? ということをお話しし、6回「YeLL」のセッションをしました。

その上で中間のワークショップをやりました。50歳から55歳の人が集まって対話する機会ですね。それを経た上でもう1回、6回セッションをして、最後リフレクション(振り返り)の研修をしていくかたちにしました。

ここのテーマは固定にさせていただきました。過去の話から始まって、現在、未来にいくような時間軸の立て付けで、12回の設計をしていました。やっぱりみなさん「思考」が強い方々が多いんですね。ビジネスされているとロジカルな方々が多いので、思考から入っていくんですけど。

だんだん自分の感情とか、自分の価値観とか、持っているアンコンシャスなバイアスも含めて扱えるように、だんだん過去・現在・未来という時間軸で話していく。思考から感情に入り、感情から価値観を触れるような立て付けでセッションをしていきました。

管理職になってから10年以上扱えなかった「悲しさ」

櫻井:この方々の事例を少しお話しします。1つは、この方(50代中盤の男性)は結局、会社を辞めるかたちになったんです。けっこうストーリーが壮大でしたね。少しお話ししていきますね。

最初のほうはつらつらとお話ししていきました。2回目あたりに、入社から今に至るまでのターニングポイントを振り返るんですね。そうすると、自分が仕事にまい進していた頃の話を聞いてもらいながら、自分が繰り返し口に出してた言葉をサポーターが拾ってくれたんです。「それが大切なんですね」って言われて、「あっ、それ確かにすごい大事だ」って気づけた。

このへんで、だんだん感情が出せるようになってきた。自分の感情を今実際感じてみると、若い頃の無我夢中で仕事に向き合っていた時に満たされてた自分を思い出して、今それができていないギャップに、実はすごく「悲しさ」があるんだと。

この悲しさを扱いたいという話をされていて。管理職になってから10年以上、自分の中にずっとあったこのつかみどころのない気持ちとついに向き合う時がきたと、サポーターの方に話されていました。

その後のテーマは「天職」だと決めて話し始めます。「30年やってきた今の仕事が天職だと自分で納得したい」。なんだけど、「そうなのか?」っていう気持ちも自分の中であると。いろんなものが混ざっている。

「当たり前」のバイアスに疑問を持ち始めた経験

櫻井:ここでもう1個大きな気づきがありました。人生100年時代と言われるんだけど、仕事人生が残り5年だと、なんとなく「5年とか10年逃げ切る」みたいな発想が、自分の中にあった。「いや、違う。これから30年働けるとしたら、自分はどうありたいのか?」とか、「譲れないことは何なのか?」って、しゃべりながらだんだん思考が深まっていくんです。

30年という時間軸を出したおかげで、これまで当たり前だと思ってたことに疑問を持ち始めます。自分が持っていたバイアスですよね。「50歳になったらこうである」とか、「60歳になったらこうである」って、たぶん自分が持ってた「当たり前」のバイアスに疑問を持ち始めるんです。

そうすると、だんだん自分の言葉で思いやイメージを言語化するにあたって、「自分の心になんか火がついてるな」って思い始める。結局、この方は本当にセカンドキャリアにチャレンジすることをこの時決めるんです。

サポーターとセッションする間に、奥さまと上司の方にお話をして、「セカンドキャリアにいくよ」ってことを決められました。終わった後に、最後のセッションでサポーターに「報告してきました」なんて話をして、肩の力が抜けましたと。「自分を褒めたいし、この10年でとても清々しい気持ちになった」というお話をされていました。

「やりたいだけだと仕事にはならない」という不安

櫻井:もう1つだけ事例をお話したいと思います。この方(50代後半の男性)は新卒でこの会社に入られて、もう叩き上げで育ってきたような。これからもずっと会社に貢献したいんだという愛社精神がある方なんですけど。

「自分の残された会社人生、どのようにチャレンジすれば会社に貢献できるのか」って、最初からこんな話をされてるんですね。会社に何か貢献できることをしたいんだけど、自分が能力が落ちてることもわかってるし、会社に受け入れられるのかがちょっと不確かだっていうことに、最初に気づかれるんです。

定年を迎えるにあたってどんな仕事につけるのかを探りを入れていく……。「探りを入れる」という言葉がすごいなと思うんですけど。自分自身がどんな仕事できるんだろうっていろんな人に探りを入れてきます、という話で対話をしていって。

今のままだと、自分の経験とか思いをただ伝えるだけで終わってしまうな、っていうことに気づき。やりたいだけだと仕事にはならないという不安が自分の中にあるんだ、ということを話されていて。

自分でしゃべることで、自分自身に動機づけできる

櫻井:ここでちょっと自分の中でチャレンジというか、あらためて社員の最後の年をどのように過ごすのか、サポーターと一緒に考えるんです。社内の人ともこの後、向き合うんですね。

自分が目指す未来の働き方について、社内で話し合う機会を作った。サポーターと話していくうちに自分で気づきがあって、「自分もチャレンジしていきたい」という思いがあって。周りにもそういう人がいるはずだから、これまで話してきた自分が目指す働き方について、社内で同じような人とか、ちょっと若い人とかも入れて機会を作って、話してみたと。

さらに、サポーターに「今後こんなふうに進みたいんだ」って自分でしゃべることで、自分自身動機づけをして、気持ちがすっきりして、目標が明確になったと。

結局、納得感がないと仕事に対して気持ちが乗らないし、会社にも上司にも不平・不満が出てしまいがち。「私が目指すのはみんなが幸せになる会社なので、1日1日を本当に大切に思おうと、自分で口に出して、それを行動していくんだ」ということを、最後に言われていたかたちになります。

ミドルシニアは多様で難しい環境に、1人ずつ置かれてる

櫻井:ちょっとつらつらと具体を話してきましたが、要は何が言いたいのか、私の見える景色でまとめてみます。

事例から見える、この本テーマにおける特徴は何か。ミドルシニア世代のキャリア自律も我々は扱っていますし、20代30代の次世代リーダーの「Will」を発掘しましょう、ということをやっていたり、パーパスとつながりましょうというテーマでもやらせていただいてたりするので、他の世代との違いも見えるんです。

大きく違うと思ってるのは、状況や背景が20代から40代前半より多様だなって感じています。具体的にいうと、親の年齢とか、介護が必要か必要じゃないかとか、子どもが自立してるのかとか、子どもがいるのかいないのか。あと、配偶者が働いているのか、家庭の収入状況がどうなのか。

これ実は20代とか30代よりも、よっぽど多様で難しい環境に、1人ずつ置かれているのが50代の方なんだなってすごく感じています。だからこそ、1対1で話す機会が必要だってことだと思っています。

画一的に「50代だからこうでしょ」って言われても、まあそうだなって頭じゃわかるんだけど、ちょっと状況・背景が違うんだよなって、みなさんの中であると思っています。

業界・職種によって違う50代への「期待」

櫻井:もう1個、いろんな会社さんのミドルシニアのサポートをさせていただいて思うのは、業界とか職種によって、50代の方に期待されることの違いがより大きいなって思います。

業種・業界が違っても、30代の方に求められることはだいたい「パフォーマンス上げて、リーダーになって、チームまとめてね」っていうことだと思うんですけど。

これまでの知識・経験が活きやすい業界とか業種だと、「まだこの人たち、もうひとがんばりしてほしいんだ」っていうケースもあれば。そうじゃなくて、ITなんかそうだと思うんですけど、言語がどんどん新しくなっていく業界にいると、その方々の知識・経験って逆にあんまり使いづらかったりするんです。

そうなると「じゃあどうやってこの人たちがこの会社の中で活躍するんだ」って、たぶん違うことを考えられる。なので同じ50代でも、業界とか職種によって、けっこう期待されることが違うんだなっていうことを感じています。

自分のキャリアの棚卸しをすると、エンゲージメントが上がる

櫻井:もう1個、業界・業種に関わらず共通する特徴がいくつかあるなと思ったので、それもまとめてみました。

50代後半の方はよく「すでに自分には限られた選択肢しかない」ってみなさん最初におっしゃるんです。これが事実なケースもあると思うんですけど、思い込みなケースも実は多いと思っています。でも自分には限られた選択肢しかないと感じている方がほとんどだなと感じます。

50代前半の方は、自分のキャリアについて語る機会を欲している方の割合が異常に多いなと思っていて。よく出てくる言葉で「漠然とした今後のキャリアの不安を持ってます」とか、あと「話してみて、まだ諦めたくないって自分がいるんですよね、ってことに気づきました」っていう話とか。

あと「自分が自分のキャリアについて、本当はこんなにも話したかったんだって、自分で驚きました」ってことをあげてくださる方は、50代前半の方が多かったりします。みなさん自分のキャリアについて本当にしゃべりたいんだな、でもしゃべる機会がないんだな、ってすごく感じています。

40代後半の方もサポートさせていただいて感じるのは、この50代の方のように「じゃあどう会社に貢献するか」とか「キャリアの終わりを迎えるか」みたいな話ではないんですけど、結果的に自分のキャリアの棚卸しをすると、エンゲージメントが上がる傾向があって。

「もう一度この会社でがんばろうと思います」という発言が大きく出てくる傾向があるのが、40代後半の方々でした。

キャリアを考えるときに深く扱いたいテーマ

櫻井:これも当たり前の話っちゃ当たり前の話なんですけど。キャリア自律の件で、ミドルシニアでお話していく時に、キャリアを考える時に深く話されると有意義になるというテーマがいくつかピックアップされたと思ってます。

1つは、「感情」。会社の中で感情を話すことがすごく難しいんだなと、他の世代でも思いますが、50代になってくると余計に感じます。職場では正直に自分を表現することが難しい。

人事制度への行き場のないこの思い。人事に対して別に文句を言いたいわけでもないし、経営に対して文句を言いたいわけでも、社会の変化があるからわかっているんだけど。でも、やっぱり気持ち的にはどうしてもある。

先ほど篠田さんとブレイクアウトの中でしゃべってましたけど、今まで会社に従順に尽くしてきたのに、急に「キャリア自律しろ」って言われたら、やはり「なんだよ」っていう気持ちは持っていますと。こういう行き場のない思いをどこに吐き出したらいいんだろう。この感情が吐き出せる場所が大事なんだなって思ってます。

あと「価値観」は当たり前ですね。自分が何を大事にして仕事をしてきたのかとか、これから何を大事にしていきたいのか、っていうことが話されると、すごく有意義です。

あと、この「無意識のバイアス」、アンコンシャス・バイアスってやつです。このミドルシニアのキャリア自律のセッションでは、よく出てきます。同じ会社でずっと勤めてきちゃってるがゆえに、当たり前だと思ってることがあまりに多すぎて、サポーターに問われてハッと気づくことがけっこう多い。

自分の中にいる「もう1人の自分」に気づく

櫻井:あとはもう1個は、それの具体例の1つですけど。「残り5年、10年、なんとか逃げ切ろう」みたいな気持ちに、やっぱり少なからずなっていたんだけど。「いや、30年どういうキャリア歩みたいんだっけ?」ってやっぱり考えるっていうところの、この思考の転換が起きるケースが多いなと思います。

あとは先ほどの50代前半の方の事例じゃないですけど、もう1人の「自分」がいて。「自分のキャリアについて話したいんだな」とか、「諦めたくない」とか、「チャレンジしたい」っていう自分が、自分の中にいる。それを自分自身で気づいていけると、すごくキャリア自律に対して有意義にセッションが行われるんだなって思っています。

ここまでがざーっとお話ししてきたことで、(再度ブレイクアウトルームで)「学びの言語化」を。ブレイクアウトルームをまた入れたいと思いますので。ここまでで印象に残ったこととか、気づきとか感想を少し述べてきていただければなと思います。

(ブレイクアウトルーム)

人が変わらないと組織が変わらない

櫻井:今エールの話をずっとしてきたんですけど、エールというサービスの説明を最後少しだけさせていただくと、そういうつなぎねってわかると思うので一応お伝えしておきますと。

今回のミドルシニアのキャリア自律というテーマが人事制度とか仕組みとか研修に落ちているんですけど、最後はやっぱり、人が変わらないと組織が変わらないんです。この「人が変わらないといけない」というラストワンマイルを担っているのがエールです。

2つの方向からラストワンマイルを我々が担っていて、浅く広くサポートするパターンと、狭く深くサポートするこの2つのパターンでやらせていただいています。

最初の事例はこちら(浅く広く)のイメージですね。本当に何百人っていう単位で、6回と回数はそんなに多くはないんですけど、3ヶ月サポートするというパターン。2個目の事例はどちらかというと狭く深く、対象層を絞って12回、さらに研修もセットでその人たちのマインド変容を起こしていくというサポートの仕方です。

この2つの説明をさせていただいたということで、一応整理としてお伝えしておきます。私のパートはこれでおしまいにして、榎本さんに戻します。

榎本:櫻井さんありがとうございます。ブレイクアウトルームの参加を拝見していましたが本当にみなさん盛り上がっていましたね。ありがとうございます。