「部下は無理やり動かすな」

大平信孝氏:(上司は部下を)「動かしてなんぼなのではないか」「動かさずにどうやっていったらいいのか」と、はっとされる方も多いんじゃないかなと思うんですが、より丁寧にお伝えすると「部下は無理やり動かすな」ということです。

もちろん、リーダーとしてチームをあるべき方向にリードしていく必要はあるわけですが、リーダー自身が自分のことを脇に置いて、つい「しっかりいい仕事をしていこう」という思いや責任感から、いきなりチームや部下のほうに意識が行ってしまうんです。

「まず動かすべきはあなた自身ですよ」というのが、今回の本のメインメッセージにもなっているかなと思います。まずは、自分をもっと深く知って自分を動かす「セルフリーダーシップ」を発揮してから、相手・部下に目を向けていってはどうでしょうか。

セルフリーダーシップには2つあると思っていまして、まずはその「あり方」を整えていくことです。誰しもが自分のいろんな強みや持ち味を持っていると思うんですが、持っているものを発揮できていないケースがすごく多いんですよね。リソースフルに自分の持ち味を発揮するためには、疲れる前に休むとか、やっぱり心身の状態に余裕がないといけないと思います。

頭の状態、体の状態、心の状態という3つの観点で、自分の力をフルに発揮するための余裕が必要だと思います。リソースフルになるために、自分をマネジメントしていく、自分をリードしていく。

リソースフルな状態が整ったら、今度は行きたい未来に向けて目標を立てたり、ビジョンを立てていきたい未来に向けて自分を駆り立ててスイッチを入れ、行動していくということです。

もちろん状態がいいだけでもすばらしいですが、目の前の仕事だけではなくて、3年後、5年後、10年後といった中長期的な未来を見据えて、自分が本当にやりたいことや本当に価値を感じていることに向けた時間・行動を積み上げていきましょう。

頭ごなしに指示をしても「やらされ仕事」になってしまう

そのためにも、ますは自分自身を動かして、自分を行きたい未来に連れていくといいますか、持っていくことがすごく重要なのではないかなと思います。

無理やり(部下を)動かそうとしますと、やっぱり反発心が起きますよね。結果、頭ごなしに言われて行動したとしても、その行動の質は「やらされ仕事」になっちゃうわけです。

時には指示・命令も時には必要だと思うんですが、これからの新時代のリーダーシップには「問いかけを増やして一緒に考えていく」というスタンスが求められるんじゃないかなと思います。

部下も一人ひとりいろんな価値観を持っていたり、こだわりも違ったり、あと今のコンディションや調子が良い・悪いというのも、お一人おひとり、刻一刻と変わっていくと思います。

一人ひとりの違いにもしっかりマッチしながらリーダーシップを発揮していくと、より質の高いものになっていくかなと思います。こういった部分も、日頃からコミュニケーションをどれだけとっているのかが、すごくポイントになってくるかなと思います。

一方的なドッジボール的なコミュニケーションではなく、やっぱり「キャッチボール」ですよね。話しやすい雰囲気、声をかけやすい雰囲気でしっかりとやり取りをしながら、しかも一緒に考えるというスタンスです。

それを増やしていただくと、報連相もこまめにしてくるようにもなってくると思いますし。作戦会議的に関わっていると、リーダー側の関わりが余韻として残ると思うんです。それこそ、部下の方が1人で自宅でリモートワークしないといけない時もいっぱいあると思います。

そういった関わりをしてもらったことが要因として残っていれば、「考えてみよう」と、自ら考えて動く時間も増えてくるんじゃないかなと思います。

言われたからやる「やらされ仕事」から、自ら考えて「工夫してみよう」「こんなふうにしたら、もっと喜んでもらえるんじゃないか」「もっと価値が上がるんじゃないか」というかたちで、クリエイティブな時間が増えてくるんじゃないかなと思います。その環境を整えていくというか、(キャッチボールのコミュニケーションの)時間を増やしていくのがリーダーの役目かなと思います。

部下との間に「共通点」を見つけると、仕事もスムーズに

本当に言われ尽くされていることですが、自分と部下との間に「好き」の共通点を見つけるのは、実際に力があると思います。

私自身もなかなか距離感が掴めないというか、「指示をたくさん出せばいいのか」と思って丁寧に伝えたら嫌がられたり、逆に放任主義というか、ぜんぜん指示しないかたちで「やってみて」と伝えると反発されたり、「じゃあ、どっちにすればいいんだ?」という距離感や信頼関係が築けなくて迷った時間がありました。

「共通点」というところで(部下を)観察していたら、お互いにいつもこだわりのノートやペンを持ってることに気がついて。私も文房具やノートが大好きだったので、文房具をネタにして少し仕事以外の雑談をすることがあったんですね。そこで盛り上がっていくと、だんだん距離感が近づいてきて、仕事の話をしてもスムーズに行くことがありました。

「好き」の共通点を見つけるためにも、リーダー側が「自分は何に興味があって、何が好きな人間なんだろうか」ということがわかっていると重ねやすいです。自分のことをどんどんオープンにしていくリーダーのほうが人間的な魅力があって、親しみやすさも出てきて、ついていきやすくなるんじゃないかなと思います。

リモートワークも増えて、オンライン会議も増えていると思うんですが、「横の関係で一緒に作戦会議をしていく」といったスタンスを増やしていただくと、オンラインであってもリアルに近いクオリティの時間を過ごしていただけるんじゃないかなと思います。

「自分との対話」ができている人は、リーダーシップを発揮する

コミュニケーションは2種類あると思っていまして、「対人とのコミュニケーション」と「自分自身とのコミュニケーション」です。自分自身と良好なコミュニケーションをとれている人は、リーダーシップを発揮できるんです。

そのためにも「自分との対話」と言いますか、問いかけで答える。しかも本音ベースで嘘じゃなくて、「ぶっちゃけ、本当は自分はこうしたいんだよな」というところが、自分に対して開示できる状態。

「自分と仲良くなりましょう」と本にも書かせていただきましたが、そんな状態になると、リーダーシップの発揮にもすごくつながってくると思います。

自分の成功パターンを押し付けたり、ドッジボール的にただ自分の要求を投げつけるだけなのは、リーダー自身が自分のことを知らないということです。自分のことが深くわかってないので、コミュニケーションも浅いものになっているのかなと思います。

その時々のいろんなトレンドがあると思うんですが、「いいノウハウを学んできたから」ということで、ただ表面的に真似して終わっているケースも多いと思います。ビジネスコミュニケーションでダメ出しが中心になると、されたほうはやっぱり落ち込むというか、その後行動する意欲が減ってしまうんです。

もちろん、ダメ出しが完全に悪ということではないんですが、ダメ出しだけではなくて「この部分の着眼点は良かった」とか、できている部分もしっかり指摘しつつ、「さらに良くするために、この部分を直してほしい」と言い方の順番を変えるだけでも、コミュニケーションはけっこう変わってくるかなと思います。

コミュニケーションを変えるコツは「サンドイッチ法」

私も、いろんなエグゼクティブの方や現場リーダーの方をサポートさせてもらってるんですが、今までもダメ出し中心のコミュニケーションが完全に習慣化してしまっているので、「質問型、対話型にしましょう」といっても、なかなか難しかったりするんですよね。

そういった時には、今までのコミュニケーションのスタイルを全部は変えなくていいですが、「サンドイッチ法」で入口と出口だけを変えてみてください。頭ごなしに「それはダメだ」と言うのではなくて、まず入口で受け入れてください。

イエスセットで、まずは肯定的に受け止める。コミュニケーションの間、サンドイッチでいうところの“具”といいますか、中身はふだんどおりのコミュニケーションでけっこうです。ですが、コミュニケーションを終える時には問いかけで終わってください。

「あなたの意見をよかったら聞かせてほしい」「なんかいいアイデアある?」といったかたちで、その時に話した内容に関係するところで「問い」を投げかけて終わってください。

そんなサンドイッチ法を、いつも「ダメ、ダメ」と言っていたある社長さんにおすすめしたんですが、さっそく実践いただいたようです。役員の方からは「最近、社長のコミュニケーションが変わったんです」「聞いてくれるようになりました」「最初から頭ごなしに『ダメ』って言わなくなりました」と言われました。

社長室にどんどん人が来てくれるようになって、コミュニケーションの量が増えて新しい企画が立ち上がったり、職場の雰囲気も少し強くなっていったということがありました。

コミュニケーションの量が増えたり、いいアイデアが出てきて前向きに「がんばるぞ」というメンバーが多ければ多いほど、間違いなく売り上げは上がると思います。

本質的なリーダーシップを発揮するための「4ステップ」

本質的なリーダーシップを発揮していくためには、この4ステップをおすすめしています。もしかしたら、「なんて回りくどいことをさせるんだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、まずは自分を知って動かしてからメンバーに、というプロセスを踏んでいただくと一貫性が出るんですね。日々リーダーの方は言葉やいろんなメッセージを発信をされると思いますが、その言葉に力が宿ります。だから、言ったことが軽くならないということになります。

「言ったのに伝わらない」「言ったのにやってくれない」といったことがすごく減りますので、リーダーシップの発揮がものすごく意味のあるものになっていきます。

そうすると、結果としてリーダーご自身もより仕事の醍醐味、やりがいを感じていただけると思いますし、一体感のあるチーム作りにもつながっていきます。一見遠回りのように見えるんですが、私としてはこれが本質的なリーダーシップを発揮するための最短距離だと確信してますので、面倒くさがらずに、まずは自分を知って、そしてセルフリーダーシップを発揮してください。

ぜひ『部下は動かすな。』の内容を実践いただいて、より本質的なリーダーシップを発揮していただきたいなと思っております。仕事って本来は楽しいものだと思いますので、自分を動かすために何が必要なのかをこの本から掴みとっていただければなと思っております。