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永井氏に学ぶ、「たった1つのフレームワーク」と「3つの思考法」から 「創造力」を鍛える最新技術(全5記事)

新規サービス立ち上げで、コケて終わる“失敗パターン”とは ヒット商品の事例から学ぶ、ニーズに合ったアイデア創出法

スタートアップカフェ大阪が主催したイベントに、大手企業やコンサルファームで導入が進むデザイン思考テストの事業責任者である、永井翔吾氏が登壇しました。司法試験と国家公務員総合職試験に合格し、2013年経済産業省で官僚を務めた永井氏は、「ロジカル」という強みを持っていた一方で、もともとクリエイティブな発想や創造的に物事を考えることには苦手意識を持っていたと言います。そんな永井氏が、創造力を身につけた方法とは? 本記事では、爆発的ヒット商品の創出にもつながる「課題解決」のポイントを解説しています。

新しいアイデアを生み出すには「抽象的」な考え方が大切

永井翔吾氏:続いて、アナロジー思考を活用した類型を3つご紹介できればと思います。1つめは、先ほど申し上げたフレームワークで「課題」と「解決方法」で分けて考えた時に、課題を抽象的に考えて、課題を解決できる別の方法をうまく参考にしながらアイデアを考えていくものです。

みなさんご存じだと思いますが、オーラルBは「歯をきれいにしたい」から抽象度を上げていって、「きれいにしているものって、世の中に何があるのかな?」といろいろ考えていく中で、洗車機があるよねと。洗車機をうまく活用して、いろんな角度からブラッシングできる電動歯ブラシを考えています。

このパターンは多くあります。実際に参考にしたいサービスなども、「これはどんなニーズや課題を解決してるのか」を少し抽象的に考えて、それを解決している他のものを探しにいって、うまくくっつける。新しいアイデアの作り方は、このパターンが非常に多いと思います。

なのでみなさんも、新規事業や新規サービスを考えられている時には、まずは「そもそもどういう課題やニーズを解こうとしてるのか?」をシャープに考えていただいて、抽象的に考えていく。抽象的に考えた時には、「これを解決できるものって、世の中にどういうものがあるのか」と、いったん考えてみる。

それをうまくくっつけて、援用したらどういうサービスが作れるのかなと考えていただくと。このフレームは新しいサービスを考えやすいパターンかなと思います。

細かくなってしまうのでいったん飛ばしますが、実際に洗車機を見つけた時は、「何かを洗う時」といった抽象度で考えていたと言われています。ただ、これだと抽象的過ぎるので、「固い物体を洗う時」ぐらいの抽象度にしておくと、より効率的に洗車機を見つけることができたんじゃないかと思います。

多くの場合「自社の技術を活かすこと」ばかりに囚われる

2つめは、解決方法を抽象的に考えて、別の方法と組み合わせる。例えば、ダイソンの掃除機が非常に有名です。ホームページにも書いてあるんですが、フィルターなしの掃除機を作りたいとずっと思っていたそうです。

「フィルターなしのもの」って他にどういうものがあるんだろうか? ということで、近くの工場でフィルターなしでおがくずを吸収するサイクロンを見つけた。これを解決方法に応用できるんじゃないかということで作ったのが、このダイソンの掃除機だと言われています。

今やろうとしていることの解決方法側にフォーカスし、それを少し抽象的に考えて、似たようなことをやってるものを世の中から探してくる。それをうまく活用してくっつけることによって、新しいサービスを生み出すことも多くあるんじゃないかなと思います。

最後は、解決方法側を抽象的に考えて、課題側へ飛ばして、別の課題解決でも使えないかと考えるパターンです。

これは丸モ高木陶器さんの有名な例なんですが、お酒をくむと(色が変わって)花がきれいに咲く器です。温度の調整によって絵柄をすぐに変えられる技術があって、これをどんなふうにくっつけて、どういう課題とマッチするのかなと考えた時に、「風流を楽しみたい」という課題とうまくマッチしそうだということで、開発されました。

大きなポイントとしましては、多くの企業さんが独自の技術を持たれているので、いろんな会社で新規サービスや新規事業をやろうとすると、「うちの技術を生かしたサービスを考えよう」と思うんですね。

重要なのは、その技術を使ったらどんな課題があるのか、どんな解決方法、ニーズを解くことができるのかをしっかり考えていただくことだと思っています。

2つのニーズ・課題にフィットし、爆発的な人気が出た事例も

自社のサービスや技術を使いたいので、「こういうニーズやこういう課題があるはずだ」と、勝手に1人よがりで信じてしまう。

そして、サービスを作って世の中に出すんですが、「そんな課題やニーズはなかったよ」となり、技術をてんこもりにした新しいサービスや新規事業をやっても失敗するパターンは、課題にフィットしなかったからっていうのが多いんですね。

丸モ高木陶器さんの例で非常にうまいなと思っているのが、温度によって絵柄がきれいに出てくるものに対して、「風流を楽しみたい」というニーズがあると考えられていたこと。

もう1つは、お酒を飲む時って「はぁー……」という感じで飲みたいじゃないですか。「お酒を飲みたい」と「風流を楽しみたい」って、けっこう近いニーズなんですね。

ゆっくり日本酒を飲んで「はぁ~」って落ち着きたい時は、季節を感じたいとか、ちょっと夜風に当たったり、風流を楽しみたいといいますか。その中で桜が咲いてたら、すごくいい感じじゃないですか。

温度によって色が出る技術はいろんなものに使われてるんですけど、あまりうまくいってないんですよ。例えば、水を入れたら猫の絵がが出てくるコップって、別に水を飲む時にそんなに猫は見たくないし、猫が好きな方でも「別にそんなコップいらないよ」と思うかもしれません。

一方で日本酒を飲む時は、「ホッとしたい」というニーズがある。この杯を作ることによって、2つをうまく組み合わせて解くことができた。ニーズ・課題にフィットして、非常に爆発的な人気になったと考えられています。

「書きやすさ」と「消しやすさ」を両立したフリクションの事例

もし、会社に既存の事業やサービスがあって、「アップデートせい!」「うちの新しい技術をつけてアップデートするんだ」という話になった場合には、技術を活用して新たにどんなニーズや課題が解けるのか、そしてそれが既存のニーズや課題とうまくマッチしそうかどうかを考える。

もう1つ用意してきたんですが、フリクションさんの例です。私が「うまいな」と思ったのは、フリクションさんは書きやすいペンをいろいろ開発されている中で、摩擦熱で透明化できるインクを開発されました。

「書きやすい」のほかに「うまく消したい」というニーズもあるんじゃないかということで、掛け合わせてフリクションが作られたんです。

さっきの丸モ高木陶器さんの例は、「日本酒を飲みたい」と「風流を楽しみたい」というわりと近いニーズをうまく取り込んで、解けるニーズを増やしたわけです。解消してあげられるニーズを増やしたので、マーケットが広がって、よりファンも増えた。

フリクションさんの例はさらにすごくて、1つめの「統合思考」でやったトレードオフの課題だったんですよ。つまり、「きれいに書きやすいようにインクペンで書きたい」と「字を消したい」というニーズはトレードオフだったんです。

字を消したければ、当時は鉛筆やシャープペンで書かなきゃいけなかったんですが、シャープペンや鉛筆よりも、インクペンのほうがきれいに書けるじゃないですか。新たな技術開発をして、新たなニーズを取り込むサービスを作ったんですが、「新たなニーズ」が「既存のニーズ」のトレードオフ関係になっていたものを解けたんですね。

「爆発的なヒット」にもつながる、課題の解決方法

先ほどの杯もすごい例なんですが、このフリクションさんの例でさらにすごいなと思うのは、トレードオフをさらに解いて、非常に爆発的なヒットになったこと。

新規事業と既存のサービスがあって、新しい技術を使ってアップデートしろよという話になった場合には、「この技術をつけると、どんなニーズや課題を新たに解決できるのか」と考えていただきたいです。

そしてさらに、既存のニーズや課題のトレードオフの関係が解けたら、もっとすごいんじゃね? と思って、欲張って、ぜひ思考を広げて考えていただきたいです。

実際にフリクションさんの例みたいに、新たな技術を搭載することによってトレードオフの課題が解けた場合には、絶対に爆発的なヒット商品になると思います。これを計画的に考えていただけると、よりいいんじゃないかなと思います。

最後に「転換思考」に入っていきたいと思います。このへんはよく言われているような話かなと思うんですが、基本的には先入観や思い込み・常識を捨てて、新しい枠組みの物事を考えることで、ブレイク・ザ・バイアスとか、英語圏ですと「Think out of the box」と呼ばれる考え方になります。

「転換思考」じゃなくて、ブレイク・ザ・バイアスとかバイアス・フリーで考えるという言葉のほうがしっくりくるのであれば、それでも良いと思います。これも大きく類型が3つありまして、簡単に紹介できればなと思っています。

一番威力があるのが、課題を転換しちゃうパターンです。先ほど「課題」と「課題の解決方法」というのがありましたが、特に課題を転換してひっくり返すと、新たなイノベーションが起きたり、新たな創造的な発想につながってきます。

最初に問うべきは「本当に解かなきゃいけない課題なのか?」

例えばなんですが、「今解かなきゃいけない」言われている課題があると、まずは「本当に解かなきゃいけないのか?」と考えるんです。「だって、そもそもこういうことがやりたいんでしょ。だったら別の課題を解きゃよくない?」と考える。

私がコンサルファームで働いていた時も多かったんですが、コンサルファームはお客さまから「この課題が解けない」「この課題をコンサルしてほしい」と、非常に多くの課題が寄せられています。

一番最初にやることは、「本当に解かなきゃいけない課題なのか?」を考えること。「御社にとって、より上位でやらなきゃいけないのはこれでしょう。そしたら、本当に解くべき課題ってこっちなんじゃないですか?」と、課題を転換しちゃうんですね。それが、圧倒的に一番ブレークスルーしやすいんです。

例えば、天才的すぎるイーロン・マスク。本人は絶対にわざわざ考えてないと思いますし、無意識でやってしまってるとは思うんですが、海外でよく言われているのがスペースXのロケットの話です。ロケットを飛ばしていく上ではエンジンがめちゃくちゃ大事なので、正確で完璧な大きいエンジンが必要だと言われていました。

エンジンが止まったら宇宙に行けないし、エンジンを作ったりテストする時にめちゃくちゃ工数や予算がかかっていた中で、「でも、本当にやりたいことは宇宙に行くことでしょ。宇宙に行くんだったら、別のやり方あるんじゃねえの? エンジンが止まってもいいように小型のエンジンを何個もつけときゃいいじゃん」と。

1個か2個(エンジンが)止まったって、別に宇宙に行けたらいいんでしょということで、実際にこの「ファルコン9」が作られました。本当に天才的だなと思うんですが、9個のエンジンが積まれていて、1個か2個止まっちゃっても宇宙に行けるエンジンです。

「課題」を逆手に取って「強み」に変える

みなさんもイメージが湧くと思うんですが、テストで80点を取るのと100点取るのって、ぜんぜん違うじゃないですか。

「1問もミスできない」と思ったら事前のテスト勉強がめっちゃ大変ですが、80点となったらそこそこいけるじゃないですか。「80点を9個積めばいいんだよ」という話で、事前のリソースや工数をだいぶ抜いたと言われています。

まずは「その課題は本当に解かなきゃいけないの?」と考えていただくのが、非常に重要なポイントになってきます。

2つ目の例としましては、課題だと言われているものが、逆に「強み」にならないかと考えてしまう考え方です。

本でも紹介させていただいて、いろんな語られ方もあるんですが、当時の研究者の方たちのインタビューを拝見させていただいてあったのが、開発当時、人間のように滑らかなコミュニケーションを取ろうとするロボットを考えていたんです。

まだ技術的にはコミュニケーションがぎくしゃくしてしまう。これを滑らかにしようと思ったら、めちゃくちゃ大変なんですね。滑らかなコミュニケーションできるロボットを「課題」として捉えて、それを解決しようとするとなかなかできない。何をしたかというと、このぎくしゃくしてるのがむしろ強みなんじゃないのか? という考え方に変えちゃったんですね。

「ぎくしゃくしてるのが不器用でかわいいよね」という感じに変えた。Pepperくんのモデルだったと言われているのは、優秀じゃないんですが明るくてよくしゃべる、おもしろい小学校3年生ぐらいの男の子。課題やニーズを、むしろ「強み」に変えたらどうなるの? と考えてしまうのも、転換していく1つの類型としてはあり得ます。

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