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「ジョブ理論」による破壊的(ディスラプティブ)新規事業の創り方【玉田氏講演】(全4記事)

ベンチャー企業の新規事業で、一番いい「領域」の見定め方 競合他社にとって「破壊的」なイノベーションの事例

一般社団法人ウェブ解析士協会のスピンアウトの研究会「Flashセミナー研究会」。マーケティングを中心に、ビジネスパーソンや経営者に今必要なスキルを紹介する同会のセミナーに、『日本のイノベーションのジレンマ』の著者で、関西学院大学教授の玉田俊平太氏が登壇。本記事では、DECとコンパックのPC販売の成否を分けたものや、競合他社への「破壊的イノベーション」の事例などが語られました。

自社の新規事業の製品、サービスは「誰」が売るべき?

玉田俊平太氏(以下、玉田):破壊的なアイデアを実現させる能力を持つ会社は、けっこうあるんですよね。だけど、その会社が自分で勝手に思い込んでいる、目に見えないバウンダリーコンディション(理論が通用する範囲)があるんですよ。

要するに、能力があっても「ウチらしいかどうか」という欲求によって、実際に実現するかどうかを決めるという話。欲求が高くて破壊度が高い、(グラフの中で)このへんなら実行しましょう、ということです。(同じグラフの中に、)長期的利益の可能性を円の大きさで表現した、こういうものでいろんなプランをマッピングする。

こういう実行領域のアイデアだったら、実行しましょう。マッピングしているアイデアの色が黒いほど、このアイデアにどのくらい確信度が持てるかを表しています。例えばこの黒くて小さな円だったら、長期的利益が小さいけど、これだけは確実に儲かる。丸い大きい灰色の円だったら、これぐらい儲かるかもしれないけど、あんまり自信はないんだよね、というマッピングの仕方です。

4次元のデータを、2次元平面に落とし込むことができるので、なかなか優れた図じゃないかと思います。

そうやって破壊的なアイデアが出てきたら、「じゃあどんな組織に任せたらいいんですか?」という話が出てくると思います。これ(次のスライドの図)、横軸は「既存の価値基準との適合度」と書いてあります。価値基準とは、組織の従業員が、日々の意思決定をする上で寄りどころにする基準のことです。

例えばDECのセールスパーソンは、売上に応じた歩合で報酬をもらっていたそうです。DECの会長はとても賢い人だったので、これからはミニコンの時代じゃなくてマイクロプロセッサーを利用したPCの時代が来ると考え、PCの開発を命じて成功しました。ただ彼が間違えたのは、そのできたPCを、既存の販売員たちに「これも売れ」と渡したことだとされています。

DECとコンパックのPC販売の成否を分けたもの

みなさんがDECのセールスパーソンで歩合で給料をもらっていたら、どっちを一生懸命売るでしょうか。500万円のミニコンを売るのか、1台50万円のパソコンを売るのか。こっち(ミニコン)を1台売れば、例えば1割の歩合だったら、50万円のインセンティブが入る。だけどこっちのパソコンだったら、5万円しか入らない。しかもミニコンのほうが、これまで売った先のお客さんがわかっている。

例えば、3年前にミニコンを買ったお客さんのリストがあるわけですね。そういうところに、最新機種のカタログを持って一生懸命営業をすれば、かなりの確率で買い換えてくれる。そうやってまず最優先でミニコンのディールを結んで、「ところで」と言って、スーツケースの奥からくちゃくちゃになったパソコンのカタログを取り出す。

「こんなのも出たんですけど、どうですか?」「これってうちで今やってる数値演算とかできるの? (プログラミング言語の)COBOLとかFortranとかSQLとか動くの?」と言われたら、MySQLはパソコンだけど、SQLはミニコンなので当時のパソコンでは動かない。

「すいません、そういうのは動かないので、BASICインタープリタしか動かないんですけど」「そんなおもちゃいらない」と言われてしまうわけですよ。そうやって価値基準が合わないせいで、DECはパソコンを5回売り出して、5回失敗したと言われています。

一方で、同じ時期にパソコンをばりばり売りまくって飛ぶ鳥を落とす勢いだったコンパックという会社はどうだったか。コンパックとDECと両方で働いたことがある人がいたので、聞いたんです。そうしたら、「ああ、そんなの簡単ですよ。コンパックは1台売るごとにいくらというインセンティブです。だから私は安い順に売りました。安いほうが売れますから」と言うんです。

そういう感じで、インセンティブ設計によって、組織ができることとできないことが決まってくるんです。だから、そういう意味で既存の組織の価値基準と合うか合わないかで、社内でやるのか社外に別組織を設けるべきなのかが決まります。

もう1つの判断基準

一方の縦軸は、「既存の仕事のプロセスとの適合度」ですね。適合性が良ければ、社内のファンクショナルな、今決まっている既存の組織で対応できるだろう。でも、これまでどおりの仕事のやり方やプロセスでうまくいかないような新しいプロジェクトだったら、社内に権限がある組織を設けて、プロジェクトチームを作りましょう、ということになります。

例えば、トヨタがC-HRのマイナーチェンジをする、ぐらいだったら、既存のディーラーでうまく売ってくれるだろうから、既存の価値基準とも適合するでしょうね。開発作業も、たぶんマイナーチェンジぐらいだったら既存の仕事のプロセスでうまくできるから、社内の機能的組織でやればいいでしょうという判断になる。

だけど、同じトヨタが、1992年にモーターとエンジンが同時に動くハイブリッド車を作ろうとした場合。当然、今までにはなかったモーターや制御装置、バッテリーとか、そういうグループと連携しないといけない。だから「プロジェクトチームを設ける必要があるだろう」と、(図の中の)領域Bの「社内に重量級組織(プロジェクトチーム)を設ける」ことになります。

じゃあこういう場合はどうだろう(領域C)。仕事の連携の仕方はこれまでどおりでいいんだけど、既存の組織の価値基準と合わない。例えば、トヨタが軽自動車を自分で開発して販売するような場合。たぶん開発は、これまでのガソリン車の組織でできると思います。だけど販売を同じ組織にすると、まさにDECと同じことが起きるんです。

独立した別組織を設けたホンダとソニー

実際、今トヨタのディーラーでダイハツから借りてきた軽自動車が売られているんですけど、目標販売台数に達していないらしいんですね。私の学生さんは働きながらビジネススクールに行っているのに、期末試験のためにトヨタのディーラーまでインタビューに行くんですよ。

「先生聞いてきました! やっぱり私のにらんだとおり、トヨタのディーラーでは普通車を売ると1台いくらでインセンティブが入るそうですけど、軽自動車を売っても1円も入らないそうです。あれじゃあ、軽自動車は売れませんね」と教えてくれるんですね。

そういうことで、開発は社内でもいいけど、販売は分けて……いろんな提案をいただいていますけれども、例えばショッピングモールの催し物広場に特設販売コーナーを設ける。だけど車検とか整備とかは、既存のディーラーを活用していただくとかね。あるいは今時だったら、もうネットで軽自動車を売ったらどうでしょうと。最近だったらメタバースで、軽自動車のディーラーを開くこともできるでしょうね。

じゃあ領域Dはどういう場合か。これまでの価値とも合わないし、これまでの仕事のやり方でもうまくいかない。そういう場合は、独立した別組織を設けましょう。

実際、ホンダがビジネスジェットを売る場合、既存のディーラーに「ビジネスジェットもついでに売れ」と言っても、売れるわけがないのでBtoBの組織と販売を作らないといけないし、だいたい主戦場はアメリカだし。

そういう意味でも、製造も販売もやっぱり独立した会社で、実際ホンダ・エアクラフト・カンパニーという会社で、ホンダはビジネスジェットを売っています。当該ジャンルではナンバーワンのビジネスジェットになっています。

あるいは、ソニーがゲーム機に進出した場合。ソニー・コンピュータエンタテインメント、今はソニー・インタラクティブエンタテインメントと言いますが、そういう別会社を作ったから成功したんですね。ということで、新しい破壊的なイノベーションは、新しい革袋に任せましょうということでした。

競合他社への「破壊的イノベーション」の事例

最後のスライド。これまで破壊的とか持続的という言葉を、ご説明はしてきました。けれど、「誰にとって破壊的か」という問いをしっかり考えないと、間違えます。

今日のメッセージはこの最後のスライドです。

つまり破壊的イノベーションは、「ある会社」の今いるお客さんに見せると、「そんな性能の低いものはいらない、おもちゃだ、一昨日来い」と言われるタイプのイノベーションです。

それが例えば、他社にとっては破壊的。だけど自社的には別に一生懸命やっているだけという領域だったら一番いいんです。例えば、ベンチャー企業が自社の製品をばりばり作っている。

ちょっと古い例ですけど、Intuitというベンチャー企業が、会計士がいなくても経理ができる、Quickenというソフトを売っている。これは、自社にとっては持続的。だけど、既存の会計事務所とかからすると、「そんなもの売ってくれるな、やめてくれ」となるわけですよね。

日本でも例えば明治のmeiji THE Chocolate。明治が、100年間のチョコレート作りの歴史と技術を全部注ぎ込んで作ったチョコレートがあるわけです。コンビニで230円ぐらいで売っていますよね。これって、既存のゴディバとかFAUCHONとかの高級チョコレート屋さんからすると、「何してくれるんだ、やめてくれ」というものだそうです。

「こんなクオリティのチョコレートを230円で売らないでくれ。うちの板チョコは全部500円より高いんだから、こんなものを半分ぐらいの値段で売られたら本当に困る」らしいんです。

同じようにキヤノンとかリコーが、何十万円もする、いわゆるレーザー複合機を売っていますよね。そしてエプソンが、プリンターエンジンをインクジェットに変えた商品を売っているんですよね。そうすると1枚あたりの印刷コストもメンテコストもべらぼうに安い。だから、エプソンにとっては持続的なんだけど、キャノンやシャープやリコーに言わせると、「やめてくれ。めちゃめちゃ破壊的だ」という話になるんですよね。

その他の「持続的」「破壊的」の組み合わせ

自社にとって持続的だけど、他社にとっても持続的という場合は、何度も言いますが相手より強く大きいならやるべきです。例えばベンツやアウディが、テスラに対抗して、だいたい1,000万円から1,500万円クラスの高級電気自動車をどんどん出していますね。

テスラは、ブランドもそんなに強くない。製造技術もそんなに強くない。店舗は、例えば国内だったら4店舗しかない。非常にないないづくしですよね。だから、ベンツやアウディやポルシェが本気でやってきたら、ちょっと大変だと思いますね。

逆に困るのが、他社にとっては持続的なんだけど自社にとってはめちゃめちゃ破壊的というやつです。例えばみなさんがJALの会長か社長で、LCCが攻めてきた。どうしたらいいんだ、と。

だいたいどうしようもないんです。逃げるしかないです。つまりニコンと同じことをするしかないんですね。要するに上位市場へ逃げて、ビジネスクラスとか、あるいはマイレージサービスとかを充実させるしかないんです。

唯一あり得るとしたら、LCCを買収したり、あるいは自分でも破壊的企業を新しく作って、独立性を維持して経営する手もあります。実際、そうやってANAはPeachを設立していますよね。

最後の例が、自社にとっても他社にとっても破壊的です。そういう例は、もう独立した別組織でやるべきということです。IBMのPC事業部が、他のミニコンメーカーを破壊した例が、これにあたると思います。

ということで、3分ぐらい時間をオーバーしてしまいました。詳しく学ばれたい方は、関学ビジネスクールの講義を聴講していただいたり、あるいはテクノロジーマネジメントプログラムの中でも、技術に特化したリカレントプログラムがあります。

そういうものに入学していただいたり、あるいは『日本のイノベーションのジレンマ』という本を書かせていただいていますので、お手に取ってみてください。

ちなみに2022年4月からは中小企業診断士一次試験合格者対象に中小企業診断士育成コースと育成プログラムも開設いたしますので、ご愛顧のほどをよろしくお願いします。以上です。ありがとうございました。(※2021年12月に開催されたイベントです)

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