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関西ベンチャー学会 第2回女性起業家研究部会「苦難の連続、でも諦めない。」ウクライナ特別編〜女性×学生×外国人×社会起業のリアル〜(全6記事)

「正しく物事をやるより、正しいことをやるのが必要」 ウクライナ出身女性が経験した、日本での起業の「間違い」

ベンチャー育成を通して関西経済の活性化を図ることを目的に設立された関西ベンチャー学会。今回はダイバーシティ研究部会(女性起業家研究部会)主催で行われたセミナーの模様をお届けします。ゲストはウクライナ出身の学生起業家・アンナ・クレシェンコ氏。女性、学生、外国人というマイノリティを乗り越え、日本で起業した経緯について語られました。

ウクライナ出身の女性学生起業家が語る、社会起業のリアル

湯川カナ氏(以下、湯川):みなさん、こんにちは。今日は梅雨入りも近いというところで大変なところ、いろんな場所からアクセスしていただきありがとうございます。 本日は関西ベンチャー学会女性起業家研究部会第2回ということで、「ウクライナ特別編」と書かせていただきました。「苦難の連続、でも諦めない。女性、学生、外国人、社会起業のリアル」ということで、Flora株式会社CEOのアンナ・クレシェンコさんにお越しいただきました。私、湯川カナがホストとして一緒にトークをさせていただきたいと思います。

(会場拍手)

湯川:ありがとうございます。アンナ・クレシェンコさんは、ウクライナ・オデーサ市の出身。16歳でウクライナ代表として空手の世界大会にも出場し、当時の最年少記録を樹立されていらっしゃいます。2015年から2017年、ウクライナ政府が優秀な学業成績者に与えられる賞を受賞されていらっしゃいます。

オデーサ国立大学社会科学部、国際関係専攻学士過程修了後、2017年に文部科学省の奨学金を受けて来日されました。翌2018年に京都大学の法学部に入学。そのあと大学2年生の時にシリコンバレーをご覧になった際に社会起業に関心を持たれて、従妹の産後うつ……私が詳しくしゃべり過ぎですか? もうちょっとだけ言っちゃっていいですか?

アンナ・クレシェンコ氏(以下、アンナ):大丈夫です。

湯川:ありがとうございます。この産後うつに始まったご自身の経験から、フェムテックでの企業を志しました。フェムテックというのはどういう意味なのか、クレシェンコさんにとって特にどういう意味なのかというのは、説明していただきたいと思います。

ビジョンは「データを通じて女性をエンパワーすること」

湯川:在学中、2021年に「バイアス・偏見・タブーから女性の心と体を解放し、個人をエンパワーする」というビジョンを掲げ、株式会社Floraを立ち上げ、卒業後の現在は経営に専念されていらっしゃいます。

さっそくまずはアンナさんに、今までどういうご活動をされていらっしゃったのかお話頂きます。よろしくお願いいたします。

アンナ:よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

アンナ:今日はお誘いいただき、本当にありがとうございます。最初に少し自分についてお話したいんですけど、できるだけつまらなくないようにお話できれば幸いです。

まず会社について少しお話したいと思います。Floraが具体的に何をやっているかと言いますと、ビジョンは「データを通じて女性をエンパワーすること」です。具体的に何を意味するかと言いますと、思春期から更年期まで女性の各ライフステージに合わせたソリューションのシステムを作っています。

現時点では月経と妊活用のアプリがございまして、またそれに加えて働く女性をサポートするシステム、サービスも展開しております。のちほど詳しくお話しますが、まず起業に至る経緯について少しお話したいと思います。

「社会起業」との出会い

アンナ:私は2017年に日本に来まして、最初の1年は大阪大学の箕面キャンパスで勉強させていただきました。梅田まで1時間半くらいかかっていまして、ぜんぜん予想外の「日本」でした。

湯川:(笑)。

アンナ:日本に来た時には、まったく日本語はしゃべれなくて、1年目はすごく苦しかった時期でした。その後、2018年に京都大学の法学部に入りました。当時私は外交官になると思っていたので、外交官になるための国際法の授業にいろいろ参加してたんですけど、結局法律は性格に合いませんでした。「自分が何か新しいものを作りたい」と思っていたんですが、どうすればいいのかぜんぜんわからなくなりました。

その時、実はかなり苦しい時でしたが、大学には講義以外にいろんな活動とかサークルとか部活があって、そこで人生初めてビジネスコンペティションに参加させていただいて、「おもしろいな」と思いました。自分が考えたこと、自分が思いついたことを、0から1にするのがすごくおもしろい仕事だと思っていまして、私もそこに興味があるなと思いました。

京都大学にはKingfisherというプログラムがありまして、短期留学の奨学金が付いているプログラムなんですけど、それで2019年にシリコンバレーや東海岸に行かせていただきました。スタンフォード大学とGoogleをいろいろ見学して、そこで「社会起業」という概念について初めてお聞きしてました。

継続的なビジネスをやりながら社会貢献をするのが、概念として素晴らしいコンセプトだと思いました。

従妹の原体験が起業課題に

アンナ:ただ、起業するためには何か解決したい課題がなければ、たぶんモチベーションが続かないし、課題の根本的な解決策も見つけることができないと個人的に思っていました。そこで私の原体験がありました。

ちょうど2019年、私の従妹が妊娠していた時に、産前うつになってしまいました。メンタルの課題が体の不調をもたらしてしまって、実は彼女の第2子が産後に死んでしまいました。それは家族全員にとってすごくショックでした。私にとっても個人的にショックだったんですけど、気付きでもありました。

メンタル領域に解決されていない課題が多い。フィジカルとメンタルヘルスがすごく密接につながっていると痛感しました。それに加えて女性ホルモンの影響とか妊娠とかが密接な関係があるので、フェムテックという領域に興味を持ち始めて、自分もフェムテック事業をやりたいと考えました。

京都大学の医学部のすぐ隣にphoenixiというインキュベーション施設があります。そのインキュベーション施設について知って、私はダメもとで提案、応募しました。その時に私が作りたかったのは妊婦さん向けのアプリでした。なぜか今でもわからないんですけど、駄目元で応募したのに採択されて、すごくインタレスティングな1年になりました。

「友だちのチーム」の失敗

アンナ:インキュベーション施設にはチームで入りました。実際の友だちを集めて作ったチームでしたが、それは私が起こした間違いでした。この間違いからの学びにつながっているんですけど、友だちのチームの唯一の成果は、クラウドファンディングをやって事業資金を集めることができたことです。ただ、半年のうちにやったことはそれだけで、すごく非効率的なチームでした。

起業の経緯の話ですので、間違いもあるかなと思っています。個人的に友だちと一緒に事業をスタートしたのが、かなり大きな間違いだったと今でも思っております。また今振り返ってみると、役割とか労働時間とかをちゃんと決めずに動きだしたのが、すごく賢くないことでした。

でも、かなり多くの施設とかインキュベーションファンドとかからは「とりあえずチームに応募してください」と勧められるんですね。だから私にはあまり選択肢がなくて、私が「何かをやりたい」と思っても1人で入れないので、とりあえず友だちを誘ったんですけど、むやみに人を集めて活動するのはあまりよくないことです。

起業家が見るべきは「アイデア」より「課題」

アンナ:最後の間違いなんですけど、自分のアイデアを気に入っていて、ひたすら自分を信じていたのもよくないと思っています。起業家の仕事は、何かを作り出すのは当たり前なんですけど、「人のために」何かを作り出すことですね。何らかの課題を解決するための活動にはなっているので、アイデアを気に入ることよりかは課題ですね。課題が気になって、ずっとその解決作を考えないといけないと思っています。

その時に、チームでの進め方がよくなかったので、思い切って1人でやり始めました。その時に私がやっていることについて知って、声掛けしてくれた共同創業者に会って、すぐに2人で一緒にやることになりました。昔のチームでは半年でクラウドファンディングだけやったんですけど、新しい共同創業者とは、3ヶ月でアプリを作り上げて、市場に出すことができました。

その時にはいろんな悩みがあって、相談できる外国人起業家とかコミュニティがなかったので、どうやっやら法人化できるのかとか、誰に聞いたほうがいいとか、まず何から着手すればいいのかとか、ぜんぜんわかりませんでした。ネットでいろいろ検索して、思い切って2020年12月に法人を作りました。

起業家は何かを作るプロセスにおいて、それだけについて考えているんですけど、実はマーケティングとか顧客開拓とかチャネルがすごく重要なんです。インキュベーション施設においては、それについて教えないといけないと思っています。

あと我々は、課題があるとわかっていたんですけど、市場の状況ですね。アプリの市場にいますとCAC(顧客獲得単価)とかユニットエコノミー(エコノミクス)とか、ちゃんとビジネス的なことについても知らないといけませんでしたが、ぜんぜん知らなくて、とりあえず何かを作っただけなので、ビジネスにはならなかったんですね。

一生懸命新しいものを作ろうとしていて、新しさだけを重視して、顧客のニーズに合っているかどうかは、ぜんぜん考えたことがない。

日本はユーザーインタビューが難しい

アンナ:最後は特に日本ではやっかいだと思っているんですけど、ユーザーインタビューが上手くできなかったことですね。プロトタイプをいろんな人に見せた時に「あ、いいですね」「すごいことをやっていますね」と言われて、それが本音だと思ってしまいました(笑)。

(会場笑)

アンナ:特に日本ですと、ユーザーインタビューがすごく難しいと個人的には感じています。本当にその人の不満とかニーズを知るためには、1時間くらいはその人としゃべらないといけません。ぜんぜん誰も教えてくれないですね。15分くらいで「このアプリはどこが悪いですか?」と聞いても、「全部いいですね。満足しています」って絶対言われるんですね。

ですので、(スライドは)格好いいので英語のままなんですけど、Launch Fast - Fail Fastという原則。今でもチームの中の文化になっています。つまりとりあえず何かを作って、その何かから得られるデータを見て、いいかどうかを決めることですね。

1年半、ずっと誰も必要としていないプロダクトを作るのであれば、会社として破産しますね(笑)。なので段階的にプロトタイプを作って、実際に使ってもらって、そこから得られたデバックを次の段階に持ってきて、できるだけ早く市場に物を出すのがすごくいいと思っています。市場は嘘をつかないので。

正しく物事をやるより、正しいことをやる

アンナ:もう1つ、正しく物事をやるより、正しいことをやるのが必要ですね。例えば、あまりビジネスになっていないようなベンチャーにおいて、数値計画とかめちゃくちゃ優秀な資本政策を立てても、意味があまりなってないじゃないですか。

とりあえずいろんな新しいことをやるよりかは、まず顧客のニーズとか、本当にそのものが世の中には必要とされているかということに重視・専念したほうがいいと思っています。

私がすごく大好きな2行があります。「元々しなくても良いものを効率よく行うことほど無駄なことはない」。私はこの文がすごく好きで、行政とか起業の中の文化とか、かなりいろんな分野に当てはまっていると思っています。

ここから考え方を変えて、自分が外国人であるという強みも活かせて、事業が軌道に乗ったと思います。

まず日本の市場だけを狙っていても、海外の市場調査が必須だと思っています。日本より進んでいる市場や国、特にアプリ開発ですと海外の事例を見れば、日本にソリューションを当てはめるだけで、イノベーションを起こせる分野があると思います。それができることも自分の強みだと思っています。

またピッチイベントとかビジコン、交流会に参加することが必要だと書いてあるんですけど、日本には「深い知識を共有しない文化」がかなり個人的にあると思っているんですね。特に無料イベントですと、あまり深いこととか工夫とかコツが教えられないですね。

なので英語力をつけるとかプロダクツを作るとか、海外のビジネススクールのさまざまなコースに参加するのがすごくいいと思っています。それは3番目に書いてあります。

自分が考えたアイデアは、世の中の誰かがもう考えている

アンナ:最後に、私も日本で起業をしましたが、日本のアセットとか人材を使うこと。最初に「忘れなければいい」と思っていたんですけど、結局自分が外国人だし、ウクライナには優秀な人材がめちゃくちゃいるので、それを使わないのは損だと考えて、今はチームの半分くらいがウクライナ人になっています。

また最初はスタートアップなんですけど、私の個人的な考え方では、ビジネスになる新規のものを作るのが不可能に近いです。だいたい自分が考えたアイデアは、世の中の誰かがたぶんもう考えていると思います。それをビジネスにならなかった理由は、99パーセント、あまりいいアイデアじゃなかったからですね。

だから本当に売上を上げるようなアイデアは、すごくすごくすごく少ない。ですので、弊社のもう1つの会社としての原則は、まず継続可能な収益を上げているビジネスを立ち上げて、その上で「スタートアップ的な」機能・アイデアを試してみることです。今、それをやっています。

そこから始めたのが、女性のメンタルサポートです。妊婦さん向けのアプリからピボットして産後と妊娠中の女性向けのメンタルをサポートするコミュニティを運営して、ちょこちょこ女性会員を集めて、ネットワークを作ることができました。また去年の夏には資金調達をさせていただきました。

そこから考えたのは、今のソリューションでもユーザーの課題は解決できるんですけど、1つだけの課題に対して、たぶん無数のソリューション(が考えられる)と思っているんですね。そのソリューションの中で、「今のソリューションが最も効率的、かつ最も収益を上げているようなものだろうか」「いや、もっともっといいことを思いつくことができるのではないか」と考えています。

現在の2つの柱

アンナ:私の共同創業者は大阪大学の博士課程の研究者なので、現在は大学とのコラボレーションを活かして、データを中心とした企業に変えました。

現在は2つの柱がありまして、1つは一人ひとりのデータを収集・解析して、そのビッグデータを活用した上で、その人、その女性に合った生理痛の改善方法とか、メンタルヘルスの改善方法とかPMSの緩和方法を、アプリを通じて解決策を一人一人のユーザーにお届けするということです。

もう1つ、弊社はせっかく思春期から更年期まで、女性の各ライフステージにソリューションを展開しておりますので、女性の生涯に渡るデータやその特有課題の相関関係とかを推測し、システムを構築できるのではないかと考えています。

ちょっと夢に近いかもしれませんが、「どのような生理の課題が不妊につながっているのか」とか「更年期症状につながっているのか」といったシステムですね。

やり方として、仮説を立てて実行して、結果を必ず測定して学習することで、現在はこういったシステムになりました。また弊社は法人向けのサービスもありまして、かなり提携協業や導入実績がございます。

短かったかもしれませんが、逆にご質問がございましたらお答えします。あまり一方的に話すのがおもしろくないので……申し訳ございません(笑)。

湯川:とんでもないです。ありがとうございます。

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