食肉目なのに竹を食べるパンダの謎

マイケル・アランダ氏:「肉食動物」の定義は簡単で、他の動物を捕食する動物を指します。その多くは「食肉目」に属します。これは、狩りによってエサを捕る哺乳類の系統です。

「肉食」の名の通り、肉食動物は通常であれば肉を食べますが、その名とは裏腹に、なんと肉を食べない肉食動物も存在します。

たとえば、ジャイアントパンダは食肉目に属しますが、一日中竹を食べて過ごします。しかしパンダは同じ食肉目の仲間との共通点を多く持っており、近年になってようやくその詳細がわかってきました。

食肉目に属する動物には、いくつかの共通点があります。鋭い犬歯やかぎ爪を持ち、腸には肉を消化するのに適した多くの腸内菌が常駐します。

パンダはこのうち、犬歯とかぎ爪を持っています。興味深いことに、最近になってパンダの腸にも肉食動物と同様に肉を消化する細菌がいることが判明しました。また腸の特徴も、草食動物のそれよりも肉食動物によく似ています。

草食動物の場合、小腸が長く、エサである植物が長い時間をかけて通過する仕組みになっています。そのため腸に常駐する細菌は、繊維質の養分を長時間かけて消化できます。肉食動物の場合、肉は植物ほど繊維を多く含まないため、栄養分の消化にそれほど長い腸は必要ありません。

パンダは、1日に自分の体重の3分の1近くの量の竹を摂取しますが、肉食動物に似た短い腸を持っています。もともと肉食の祖先から進化を遂げたため、普段の草食の習性からは考えられないような、昆虫や鳥の卵、小型の動物などといったものを現在でも食べます。

とはいえ、こうした雑食は全体のわずか1パーセントほどを占めるにすぎません。そのため、パンダの腸が植物食に適した進化を遂げなかった理由は謎でした。

答えのヒントは、パンダが食べる「竹」にあった

2019年に発表された論文によれば、パンダが何百万年も昔に肉食の祖先から分かれて食べ始めた「竹」に、その答えのヒントが隠されているとわかりました。

論文の著者たちは、竹に含まれる栄養分に着目しました。パンダが好んで食べる竹の部分にはたんぱく質が豊富に含まれ、消化が容易であるはずの炭水化物は乏しいことがわかりました。これは他の植物にはない、肉によく似た特徴です。

つまり、パンダが祖先から受け継いだ腸内菌は、竹の消化に適したものだったのです。草食動物のエサにはたんぱく質はそれほど多く含まれないのが普通ですが、パンダは、肉食動物が食べるものに近いタンパク質を豊富に含んだエサをうまく見つけたわけです。

この論文の著者たちは、野生のジャイントパンダがエサを求めて移動するのを追跡し、さまざまなことを発見しました。パンダの群れは、異なる標高に分布する2種の竹の芽や葉を求めて、長距離移動します。

毎年、群れはまず低い標高に生育する竹を食べて生活します。さらに春になると竹が芽吹くので、若芽がエサとなります。

その後、高い標高に生育する別種の竹を求めて移動を開始し、まず芽吹いた若芽を、次におい茂った葉を食べます。やがてパンダは山を下り、同じサイクルを繰り返します。

パンダのエサを分析すると、パンダは竹のたんぱく質が豊富な部位を好んで食べていることがわかりました。しかもこの部位は、繊維の含有量が低めでした。

繊維質の消化に優れた腸内菌と長い小腸を持つ通常の草食動物であれば、繊維の消化は得意です。しかし肉食動物に似た腸を持つパンダは不得意です。竹の繊維やセルロースを豊富に含む部位はなかなか消化できないため、(繊維の含有量の少ない)葉や芽を探し歩いて食べるものと考えられます。

こうした食生活から、何百万年も昔にパンダが肉食の習性から分化して植物食に移行した理由が見えてきます。竹のたんぱく質が多い部位を選択的に摂取することにより、パンダの祖先は大きく体の仕組みを変えることなく、ほぼ植物食へと移行することができたのではないでしょうか。

こうして、肉食動物のような体の仕組みを持ちながら、おいしそうに竹をむしゃむしゃ食べるこの不思議な食肉目の生き物が生まれたのです。