長期休みの前後は転職希望者が増える

栗原和也氏(以下、栗原):それでは佐野さん、「上司ガチャ」という強烈なタイトルでお話しいただきますが、私も楽しみにしております。どうぞよろしくお願いします。

佐野創太氏(以下、佐野):みなさんはどうでしょうか、上司には恵まれていらっしゃいますか? 今日はどんな感じの方が来てるんですかね。(イベントタイトルが)「30代社員」ということなので、30代前後、40代くらいまでの方がいらっしゃるのかなと思うんですが、僕は今年で34歳になります。

栗原:チャットで聞いてみましょうか。

佐野:確かに。そこを聞けるなら。

栗原:みなさん、いかがでしょうか? 「30代です」「40代です」「20代です」という方もいらっしゃるかもしれませんが、よろしければチャットでお聞かせいただけますか。

佐野:(視聴者コメントで)「もうすぐ50歳です」。大先輩がいる。

栗原:本当に、お越しいただきありがとうございます。

佐野:「30代後半」の方もいらっしゃいますね。

栗原:20代の方も。今、ダイレクトメッセージでコメントをいただきましたね。50、40、30。続々とありがとうございます。

佐野:20代、30代前半。そんな感じかな。

栗原:幅広くいらっしゃいますね。

佐野:20代から60代の大先輩までいらっしゃるということで。僕は2017年にフリーランスになったので、フリーランスになって5年経つんですよ。これまで1,000人くらい、有料のキャリア相談や働き方相談に乗ってきて、「やっぱり30代が一番ブレるな」ということで、今日のセミナーをやりたいなと思いました。僕自身も今でもブレます。

転職を考える人は、冬休み、春休み、夏休みの長期休みの前後にがっと増えるんですね。これから夏休みが視野に入ってくるので、「そろそろ転職を考えようかな」という人が増えるだろうなとも思っています。

日本初の「退職学」研究家として活動

佐野:先に自己紹介ですね。かっこいい感じにすると、こんな感じです。もともと転職エージェントで法人営業をやった後に、新規事業担当で新卒紹介求人サイトを立ち上げたりしておりました。

独立してから最初はライターや編集者をやったり、直近では結婚相談所のオーネットのオウンドメディア『おうね。』の編集長をやっていたりしました。キー局のHR事業やフィンテックスタートアップのメディアの立ち上げをしていた時もあります。2017年に独立してから、ライフワークとして「退職学」を掲げてずっとやっております。

これもまだ、僕の自慢パートです。僕はパソナ出身なんですが、今もパソナと一緒にイベントや事業をやったり、メディアへ出ています。アベプラってみなさん見ていますか? 論破王と呼ばれるひろゆきさんとも一緒にしゃべったりしました。実はめちゃくちゃいい人でした。

ロックバンドのGLAYが好きなんですが、ギターのHISASHIさんという方がいて。コメンテーターとしてHISASHIさんともアベプラで共演して、ちょっと夢が叶ったりもしました。今年の1月に本を出しまして、これがきっかけで有山さんともお話ができるようになりました。

(チャットで)「兄がGLAYファンでした」。いい兄貴ですね。大事にしてください。……あ、栗原さんのお兄さんでした(笑)。兄貴、大事にしてくださいね。

当然、そのジャンルや領域のトップだったり、専門性がある方が本を出すので、本を出すと自分の隣の業界とか、実はまったく違うけれども共通点のある業界の人とつながれるという、すごくいい良さがあるんですよ。

さっきの有山さんの話でも、「社会関係資本」「人間関係」という話があったと思うんですが、それを蓄える1つの手段として、「出版」はとても大きなツールかなと思うので、もし興味のある方がいたら、ぜひぜひチャレンジしていただけるといいんじゃないかなと思っております。

「会社辞めたい」と思うのは、個人のせいではなく社会問題

佐野:20代後半から30代ぐらいが、会社辞めたいループに一番悩むんですよ。「ブレる」ってどういう状態かと言うと、「会社に残ろうかな。いや、転職。最近は副業とかも言うし。でも、いっそのこと脱サラしたほうがいいんじゃないか」とか。特に首都圏は転職市場もけっこう活発なので、手段が多いんですよ。

手段が多いと、人は逆に悩むわけです。ラーメンもあって、スパゲティもあって、オムライスもあって、ハンバーグもあったら、「どれにしようかな?」と悩むのとまったく一緒で、今はキャリアも手段も選択肢もとても多いので悩む。

この状況、今までは自己責任にされちゃってきたなと思っているんですよね。「辞めたいなんて言ってんじゃねえ、働け」とか。

僕が1,000名以上の人と話してきたり、組織開発のパートナーとしてやっていく中で、どうもそれは個人の問題ではないと考えるようになっています。「会社辞めたいな」とブレるのは花粉症みたいなもので、社会問題なんです。個人のせいというよりも、構造の問題としてあるんじゃないかということで、本拙著の『「会社辞めたい」ループから抜け出そう! 転職後も武器になる思考法』の中では5つの理由を並べています。

ここから5つの理由を凝縮してお伝えします。

そもそも、転職活動は新卒の時の就活と違って、「せえの」で始まるというよりも、自分のタイミングで始まっていくので、孤独ですし複雑です。それから、誤った自己分析も原因の一つです。「唯一絶対の自分がいる」「ブレない自分がどこかにいる」みたいなものを探し始めると、迷子になります。

「どこかに最高の会社がある」と考える、“最高の会社幻想”

佐野:僕も転職エージェントだったのでよくわかるんですが、転職支援サービスはちょっと過剰品質過ぎる。転職エージェントも求人サイトもそうですが、いわば“高品質な飛行機”でしかないんですよ。

北海道へ行きたかったら、「北海道へ行きたいです。お願いします」と言って飛行機に乗らなきゃいけないんですが、転職支援サービスは「私があなたの目的地も定めて連れていってあげます」と思わせてしまう強さがあります。「北海道へ行きたかったのにいきなり沖縄に飛ばされました」が起きるのが、今の転職支援サービスの現状です。

あとは「最高の会社」幻想もあります。事前打ち合わせで栗原さんともお話ししたんですが、「ユートピア症候群」でしたっけ。「どこかに最高の会社があるんじゃないか」と考えると、ますますブレます。

みなさんも10年とか20年働いていると、「どこの会社も大変だな」って、ちょっと冷めた目で見ると思うんです。僕も転職エージェントをやっていましたし、退職学の研究家として組織開発に関わる時には採用広報を推進する時もあるので、「いい会社としての情報発信」をお伝えするときもあります。こういったノウハウが流通しているので、「最高の会社」幻想はこれからも強まるだろうなと思います。

そんな幻想を作ってしまっている立場から考えると、実際に最高の会社はあるんです。僕も入社したい会社が何社かあります。でも、最高の会社も人も変わっていくので、「最高の会社であり続けてくれること」はないんです。

1社の終身雇用より、4〜5社とつながりを持つ「セルフ終身雇用」

佐野:次に「本音嫌いの『会社組織』」ということで、僕も本の中で「本音磨きだ」「本音は大事だ」という話をしています。とはいえ、会社組織は社員一人ひとりの本音よりも優先しているものがたくさんあります。利益や売り上げ、根拠やデータなどですね。会議で「私はこうしたいんです。根拠はないけど」なんて言えないですよね。本音一つでは会社は動かせません。

こうして少しずつ本音が横に置かれていき、気がつけば「はて、自分は何がしたいんだったっけ」「自分がわからなくなってきた」となる人がいます。

このように、もしみなさんが「ちょっとブレてるな」「会社を辞めたいけど一歩踏み出せないな」という状態の時や、周りにそういう人がいても、もうそれは花粉症です。社会問題だと捉えていただければいいかなと思います。個人の責任ではないんです。では、どうしたらいいんでしょうか。

僕は組織開発パートナーとして、「リザイン・マネジメント」という名前で、退職者の人もファンにする組織作りで、ピンチに強い法人を作っています。個人に対してはセッションやワークショップのかたちで、「退職学」という考え方をお伝えしています。

これも、有山さんやプロティアン・キャリアの社会関係資本にかなりフォーカスしています。結論としては「退職後も声をかけられる自分になること」が、キャリアの目標の一つだと考えています。

すごくシンプルに考えて、たぶん僕らは70歳ぐらいまで働く可能性が高いじゃないですか。ふと振り返った時に、これまで関係してきた会社や取引先や同僚が「もう一回働こうよ」と言ってくれる機会が、4〜5社、ないしは4〜5人いれば、けっこう幸せに働けそうな感じがしませんか?

1社がくれる終身雇用は、確かに今はもう弱いかもしれないけれども、4社、5社から「一緒に働こうよ」と言ってもらえる自分になっていたら、もしかしたら1社がくれる終身雇用よりも安定するんじゃないかなというのが最初の着想でした。

それを僕は「セルフ終身雇用」という名前で呼んでいます。個人の働き方だったり、個人と組織の関係を終身雇用で結ぶのは現実的ではないかもしれない。でも、複数の会社や個人との間につくるセルフ終身雇用でつながっていくことはできるんじゃないかと考えています。

そんな「セルフ終身雇用」を目指して、退職後も声をかけられ続ける人物に成長する「最高の会社の辞め方」を研究する活動が、退職学でございます。

1社目を1年で退職し、次の会社は1ヶ月で早期退職

佐野:みなさん、転職するということは必ず退職もセットなので、退職は大事にしてください。最近は「出戻り」や「ブーメラン社員」といったかたちで、退職者にも少しずつフォーカスが当たるようになっているんです。

退職者の人もファンにする組織作りを一回定めると、会社の中に今いる人も大事にできますよ、ということが広まったらいいなと思って、50社ぐらいと一緒に「リザイン・マネジメント」をやっております。

今日はこの話はあんまりできないんですが、もう1つ僕の生業として、パワーワードを作ることをやっております。キャリアコンサルタントやコーチングといった対人支援で独立していく人、中小企業のサービスに「指名がずっと続くような名前を付けましょう」ということをずっとやっておりまして、これがなかなか好評なんですよ。なので今日は「おすすめの本」みたいなところで、この要素が入れられたらなと思います。

ここで、自慢パートがようやく終わります。(かっこいい部分を見せてきましたが、)ブレた実績にけっこう定評がありまして。僕の会社員時代を知っている人とか、学生時代を知っている人がいたら非常にやりづらいんですが、ブレてます。今日は知り合いがいないといいな(笑)。

最初に1年で早期退職をして、次の会社を1ヶ月で早期退職。そんなことをやっていくと、無職になるんですよね。転職エージェントが冷たくて、普通に怒られるんですよ。「前の会社に対して、謝罪の気持ちはないんですか?」とか、すごく詰められて。「転職市場、怖いな」ということがあったり(笑)。

30代は「ブレる機会」が大量発生

佐野:2017年から独立をしているんですが、ぜんぜんかっこいい理由でも何でもなくて。母が体調を崩して、「これは正社員はムリだな」と思って介護離職から始まったんです。

なので、計画できずに独立をやってしまったので、最初の1年はけっこうつらかったです。シンプルに仕事がない、みたいな時期もありました。独立を考えた時には、計画的に。

独立したら、お祝いで仕事をくれる“独立バブル”が起きるんですよ。なので、盛大に「独立しました」と発表してください。僕はコソコソやっちゃったので、独立バブルを経験できなかったんですよ。もったいない。「独立しました」という時が花火が起こせるので、ぜひやってください。

会社員としてもブレていました。転職エージェントで法人営業をやったんですが、なんせテレアポが嫌いだったので、朝6時とかに会社へ行ってメールでアポを取って、勤務中は電話を掛けているふりをするんですよね。掛けると電話先の担当者に怒られたりする(笑)。というように、ダメダメな感じでした。

今でも時々、働く方のクライアントのセッションをするんですが、やっぱり30代でブレる方は多いです。30代は転機が多いので、ブレる機会が大量発生しています。

20代後半から、初めて転職される方が増えてくるんです。大きな生活の変化も経験します。初めての結婚、初めての育児も30代前後で起きることが多いんですね。今でも初婚年齢や初めての出産年齢は、29〜31歳だったりします。

SNSの投稿は“ホームランを打った時のシーン”ばかり

佐野:今はSNSが当たり前のようにあるので、そういったライフイベントの動きが見えちゃうんですよ。みなさん、Facebookやインスタでかっこいい投稿ばっかり見て、疲れることはないですか?

僕は今でも……「今でも」と言うとちょっとかっこ悪いですが、あまりにも華々しい投稿ばっかりだったら、ちょっと疲れてミュートにしますものね。友人の動きが妙に可視化されてしまう、かつSNSはホームランを打った時のシーンばっかり出てくるんです。それで「自分ももっと頑張らなくちゃいけないんだろうか」と悩んで、またブレる。

周りの人が急に独立したり、経験の差が可視化されていくんですよ。それこそ有山さんをフォローしていて、今までは転職でブレてるなと思ったら、いきなり協会を立ち上げちゃったりするわけじゃないですか。もう、ショックですよ。「私と一緒だったのに」みたいな人も、たぶん……有山さんのご友人にはいないかな(笑)。

僕は時々言われることがあります。実態は1週間が終わったら育児と仕事と家事でクタクタになっていたとしても。「いきなり成功しましたね」と言われて、本人としては「何を言うんだ」って思うんですが、急にSNSを見るとそう見えちゃう。

今の会社での限界を感じるのも30代なんですよ。これは2つの意味があって、1つは「20代は走れたのに」です。20代の時は「がんばればいい」「仕事に集中する」という選択肢が現実的に取れました。給料も伸びやすいです。でも、昔と比べて今の会社は給料の伸びがストップするのが早くなっているんです。

ということから、「もしかして、この会社にずっといられないんじゃないか?」というのが見え始める。それでブレるんですよ。