「応援し合う関係」を築くために、すぐにできること

河合克仁氏(以下、河合):今日お話を聞いてくださっている方々で、「もっとお客さんにご紹介をしてほしいな」と思っている方がいたら、ひとまず全部のアポイントメントのどこかに「私に何かできることはありませんか?」というコメントを入れることを3週間続けたら変わってくると思うんですよね。

それを1回言うことは、紙を1枚重ねるぐらいのことかもしれませんが、1週間で7枚、1ヶ月で30枚、1年で365枚ですよね。こうして10年、15年と積み重ねていくと、意外といいご縁がつながっていく。今振り返ると、これはトークが得意な人であっても、そうでなくてもできることだと思うんですよね。

成瀬拓也氏(以下、成瀬):「『私がお力になれることはないですか?』というのを、すべてのアポイントで」というのは、つまり「そういうマインドで接する」ということだよね。職場で会社の同僚や後輩だったら「俺、なんかできることある?」だし、自分の家庭の配偶者だったら「僕がやれることがあったら言ってね」みたいな。ちょっと言うタイミング間違えると炎上しそうだけど。

もしくは察して「これやっとくよ」でもいいし、確かに社内で応援されている人はそんな感じだよね。河合も言ってるよね。

河合:そうです。言っているし、やっているつもり。できているかどうかはみなさんそれぞれのジャッジになるんですけど。

成瀬:でも「それは無理だな」みたいな無茶ぶりって、過去にないの?

河合:無茶ぶりは、相手も「無茶だな」とわかった上で言ってこられるケースが多いので。むしろ愚直に応えようとしていると、相手のほうから「悪かったな」と思わることが多くて。

「私はできることが少ないので、そんなことを言って『できないことをお願いされたらどうしよう』って思っちゃうんですよね」と心配される方もいて、よく質問されるんですよ。統計的に言うと、100人に中98人以上はできそうなことしか言わないです。なんなら、できそうなことよりも、ちょっと下ぐらいのことを言われることが多い気がしますね。

成瀬:まあ確かに、無理な要望ってガチではなかなか言えないのかもしれない。

河合:逆に無理な要望を言ってくれる人とは、長い目線で関わっていけることもあって。「すみません、今日もこんなふうに聞いてみたんですけど、ダメでした」みたいな報告を続けていけば、さすがに「なんか悪いな」と思ってもらえたり。

傷つけずに断る、無茶ぶりへの「返し方」

河合:ただ、ひょっとしたら僕は今までいい人とばかり出会ってきて、本当はもっと悪い人も世の中にいっぱいいるのかもしれない。そうだとすると、「あまりに無茶な要望を言ってくるな」とか「自分は、これはしたくないな」とか「この要望に応えたら、誰かが嫌な気持ちになっちゃうな」ということに関しては、応えないほうが絶対いいと思います。

成瀬:そういう、「誰かが嫌な気持ちになっちゃうな」みたいなオファーをされた場合はなんて返すんですか?

河合:「申し訳ありません、僕にはお力になれそうにもありません」という話をして、そういう人とは付き合わないですね。

成瀬:ああ、河合くんのコツってそれなんじゃない? ギバーかテイカーで言うと、テイカーの、なんとなく付き合うべきじゃない人を見抜けるというか。河合くんから、取れるだけ取ってやろうみたいな、意識しているのかしていないのか、そういう習慣の人。河合くんはけっこうちゃんと排除するフィルターがあるんだよ。

河合:そうかもしれませんね。たぶん、排除するというよりも「今の僕ではお力になれないと思います」とか「すみません。僕の力不足で〇〇さんのお力にはなれそうにないので」という感じですね。キープしておくなら「できることがあるとしたら、A・B・Cです」ぐらいの感じで。

成瀬:「傷つけないで断る力」みたいな。

河合:無理難題、要望みたいなことで、そこはけっこう鍛えられてますよね。「NO」とは言わないけど「YESではない」みたいな。

成瀬:「無茶ぶり対策マニュアル」、すばる舎さん次の本でどうですかね?

河合:みなさんに使っていただけるテクニックもたくさんあると思います(笑)。「行けません」よりも、「到着が終電頃になってしまいますが、11時50分ぐらいとかって、まだいらっしゃいますか?」という聞き方にすると「無理しなくていいよ」と相手から言われると思う。それでも、もし「二次会やっているから、それでもよかったらおいでよ」と言われたら、当時は迷わず行っていましたね。

むしろ、その場合は「あ、それでも来てくれるんだ」と印象づけられるとか。お客さまから「今どこにいるの?」と電話がかかってきたら、「近くにいます」と即答する。「いや、まだどこに居るのか言ってないよ」みたいな。でも、この場合相手が聞きたいことは「僕がどこにいるのか」という現在地確認ではなくて、「今から来れる?」ということだと思うんですよね。

成瀬:そりゃそうだよね。「今どこにいるの?」っていう、そんなメンヘラ彼女みたいな質問ではなくて、「会えるかどうか」を知りたいから聞いてるんだよね。

河合:「今来れる?」と聞きたいんだけど、いきなり聞くのはさすがに……と思って、「河合さん、今何されてるんですか?」と連絡をくださる。だから「行けます!」みたいな。「まだ何も言ってません!」みたいな話で。

ギブとテイクは、「ギブを多め」に

河合:「ちなみにどんなお話ですか?」と聞くと、まあだいたいそういう急なお誘いだったりするじゃないですか。ある意味、先輩との社内の仕事であったとしても、「河合なら無理なお願いをしても、嫌な顔をせずにやろうとするだろうな」と思っていただけていたと思うんですよ。

僕は、1回嫌なことを引き受けたからといって、「その代わり、今度あの人にこんなお願いをしよう」とは思わないです。結果的にトータルでみていくと、させていただいている以上に、してもらえることはないと思っています。

あえてギブとかテイクみたいな言葉を使うとするならば、ギブを多めにしておいたらいいと思うんですね。「紹介が欲しいけど、なかなかしてもらえないんです」という方に、「ご自身は直近1週間で、誰にどんなご紹介をしていますか?」と質問すると、ほとんどしていないんですよね。

紹介がたくさんもらえる方々は、たぶん意識的にも無意識的にも、自分から紹介をたくさんしているケースが多いと思いますので。

成瀬:いろいろ知っているつもりだったけど、あらためて聞くと「そうだよなぁ」と思うね。こういう話、営業じゃない方も聞いてくださいね。先ほど「プログラマーです」という方もいたけれども、営業だけではなく、「人に喜んでもらうことの価値」に気づいて取り組んでいくと、きっといろんなことが変わるんだろうなと思います。

「形から入ることも大事」

成瀬:ここまで、河合くんにいろいろ深掘りして質問させてもらいました。今日は「すべての仕事に『営業力』」を!」ということで、「物を売る・買う」という営業だけではなくて、「人に応援されるようになる」「人の力を借りる」とかも含めて「営業」として話しています。

いろいろご質問や、もっと聞きたいことがあればチャットに書いてください。「私、今こういう状況なんですけど、河合さんだったらどうしますか?」「なんて言いますか?」とかでもいいと思います。お時間の許す限り、答えてもらおうと思います。 「本には書けなかったけど、めっちゃ重要なことが聞きたい!」というコメントがありますね。

河合:今日は本に書いてあることは、ほぼ話していないから。めっちゃ重要というか、先ほどから話しているような、「こういう背景がある」ということは、本には書いていないけど、きっと役立てていただけるじゃないかな。

成瀬:この本は、理屈とか思想より、シンプルに「言い方」が書いてあるから、読みやすいよね。納得する・しないは別として、とりあえずこのとおりに言ってみることができる。ある意味、形から入ることも大事っていう感覚ですかね。

河合:そうですね。そのあたりは、本当に天才編集者さんたちにご指導・ご支援いただいて、もう内容に関してはお任せコースでした。

「卵が先か、鶏が先か」じゃないですけど、やっぱり「営業で成果が出ると自信がつく。自信がつくから、また営業に向かうことができる」というのもあると思います。だから、この本に書いてある1トークだけでも取り入れてみてほしいですね。

相手の反応は「聞き方」で変わる

河合:明日のアポイントを獲得する時には、お客さまに「お時間いただけるとしたら、来週の前半・後半、比較的どちらがご都合よろしいでしょうか?」と聞いてください。もし、されていない方がいたとしたら、それだけでたぶん「イエス」の確率は上がると思うんですよ。

もし週末、友だちや彼氏・彼女を食事に誘おうと思ったら、「もしご飯食べに行くとしたら、金曜の夜か、土曜のランチだったらどっちのほうが都合いい?」と聞いてみる。それだけで「イエス」になるんだったら、「聞き方によって人の反応が変わるんだな」とわかると思うんですよ。

「いや、違うんですよ」ってついつい言っちゃう人は、いったん「そうなんですよ」ってワンクッション受け止めてから話してみる。これだけでたぶん相手の反応が変わる。そうすれば自分自身のマインドも変わっていくと思います。

成瀬:「いや、そうなんですよ」って言う人いるからね。相手の意見を肯定するのに第一声が「いや」という。

河合:そうなんです、そうなんです。

成瀬:「いや」って言われた瞬間、相手の耳がシャットダウンするから。たまに隣で聞いていて、「うわ、この言い方もったいねぇ」って思う時ある。

河合:そうです。テクニック的な部分でいうと、まったく違う意見を言っていたとしても、笑顔で頷きながら「そうなんですよ」と言うんです。内容は違う話だとしても、たぶん自然と変化していくので、相手には不信にも思われないという。そういう、テクニックも無駄じゃないですよね。

成瀬:確かに。「カレー食べに行こうよ」と言われて、「めっちゃいいですね。カレーもいいですけど、僕はラーメンもいいなと思ってたんですよ」みたいな感じだよね。

河合:「あ、そういえば〇〇さん、前おいしいラーメンの話、してませんでしたっけ?」みたいな流れはありますよね。

10歳年長の経営者とのコミュニケーション

成瀬:今、ぜんぜん実りのない話を1つ思い出しました。僕と河合くんと、ある社長さんがいて、河合くんはその社長さんの行きつけの高級な寿司屋に行きたいんですよ。

だけど「寿司行きたいです」って自分では言わずに、「社長、せっかく今日は成瀬さんが来ているんで、例のあそこをご案内して差し上げたらいいんじゃないですか?」とか言って。俺をだしに使って、河合が食べたい寿司を食べるというシーンが何回か思い浮かびます。

河合:そうですね。

成瀬:福島の、とあるグルメの社長さんが思い浮かびました。

河合:最終的に、それでみなさんがハッピーになればそれでOKで。もちろん、時間的・経済的・気持ち的にゆとりがない人に、無理矢理そういったことをさせてはダメだと思いますけど。やっぱり、「人に喜んでもらえることがうれしいんだよ」とおっしゃっている方には、そう感じていただけることをさりげなく提案すると。

それこそ、「すみません。僕ばっかり連れて行ってもらうのは申し訳ないので、成瀬さんにもぜひ、味わっていただけたらいいんじゃないかと思います」と言いながら、「僕もちゃっかり食べちゃいますよね~」みたいな感じで。

成瀬:なんなら「僕行かなくていいんで、成瀬さん連れていってあげてください!」とか言いながら置いていかれるわけがないっていうね。それが49パーの下心ですよね。

河合:僕が40歳で、これが50歳ぐらいの経営者の方とのコミュニケーションのやり方です。

金銭的に同等の返礼ができない顧客への「お返し」の仕方

河合:そしてそんな方が一番喜ぶ、お子さんの誕生日には「こんなことできたらいいな」と考えますし「そういえば明日結婚記念日なんだよね」という言葉があったら、そこに対して何かしら行動を取りますね。

結局、お付き合いさせていただいている人の多くが、僕よりはるかにすごい方々なんですよ。だから数字で計れるものだと、100パーセントはお返しできないんですね。

じゃあ、「プライスレスでいくしかないな」みたいな。会社員時代も、ちゃんと申請すれば会社の経費として承認されたと思うんですけど、そのへんの事務処理が僕ぜんぜんできてなかったし、直前に思いついちゃったりすることもあって。だからお客さまに、例えばおいしいものをたくさんごちそうになったとしても、同じだけ返すなんて到底無理なんですよね。

じゃあ、この切手代と便箋とペンで「どれだけ喜ばせることができるのか」とか、500円しかない中で「どう感動させるのか」みたいなことは徹底的に考えましたね。

ある意味、プライスレスでお返ししていけることがあれば、その瞬間は「また河合、うまいこと言って寿司を食わせてもらいやがって(笑)」と思われながらも、それさえも昇華させていける。そうやって次につなげていければいいんじゃないかという。

「僕のお寿司ごちそうになるトーク」をロジカルに言い訳しましたが、どうでしょうか?

成瀬:今ふと思ったんだけど、Facebookって誕生日とか出てくるじゃないですか。河合くんは返したりしているんですか?

河合:意識的に返していますね。ついつい、1日ぐらい間が空いちゃったり、サボっちゃったりすることもありますが、ふと思い出した時に連絡します。

あとは、今日見てくださっているみなさんにはあまりあてはまらないかもしれませんが、それこそ僕が「本出します」みたいな投稿をした時に「いいね」してくれた方には、その場で速攻ダイレクトメールを送ります。「『いいね』ありがとうございます」みたいなかたちで。

ご無沙汰している方でも「いいね!」を押してくれていれば、「ありがとうございます」みたいな感じでぱっと電話しちゃいますね。みなさんから「ああ、久しぶりに河合から来たな」と思われながらも、嫌がられてはいないんじゃないかなと、一応思っています。

相手が「NO」を言いやすい道を作る

成瀬:それを楽しんでるの? 

河合:楽しいですね。嫌な人はたぶん「いいね!」押さないと思っていて。相手もたぶん、そういうのに喜んでくださるというか。意外と、頼られることを嫌がる人っていないと思います。

成瀬:「ミッキーマウスに絡まれて嫌なやつ、ディズニーランド来ねえよ」みたいな。

河合:そうですね(笑)。ミッキーマウスにそんなこと言ったら怒られちゃうと思いますけど。でも、たまにいるじゃないですか。「ご無沙汰しています! クラウドファンディング始めました! よかったらご支援お願いします!」みたいな。

開いちゃったから、何か返信しなきゃいけないんだけど、「そんな……どうしようかな」みたいな。でも正式に丁重な文章で断るのも微妙だし。かといって、それを応援しないとか、器が小さいと思われたくもないし。「でも、義理で応援するのも、うーん……」みたいな感じで悩むことこそストレスだと思うんですよね。

だったら「クラファンやります」って投稿して、反応があった人に丁寧にメッセージを送る。「もちろん、応援してもらいたい気持ちで胸がいっぱいですが、『あ、河合は最近こんな活動しているんだな』ということを知っていただくだけでも励みになりますので、よろしければ活動内容だけでも見てもらえたらうれしいです」みたいな。

だから、本音も伝えるけど、ちゃんとお客さまが「NO」を言いやすい道を作っておくのはめちゃめちゃ意識していますね。

成瀬:なるほどね。お客さんもゼロストレスにする努力ってことですね。