転機になった顧客社長からのメール

成瀬拓也氏(以下、成瀬):ということで、なんか僕の講演会みたいになっちゃうから(笑)。僕はここからは質問に徹するんですけど。ずばりね、時間も限られてるから聞きたいんですけど、自分が変わる転機は何だったと思います?

河合克仁氏(以下、河合):そうですね。やっぱり当時のO社長とのやりとりですよね。一番初めに、それこそ成瀬先輩と一緒にフォローしていたお客さまから1通のメールをいただいたんです。たぶん4月の中旬だったと思うんですけど。

成瀬:入社して最初の4月ですよね。

河合:はい。入社して2週間ぐらいの時にメールをいただいて。簡単にその内容をお伝えさせていただくと、「河合さんは自社の社員と同じか、それ以上に本気で会社の目標達成を考えて、できることをやろうとしてくれている」「そういった本気の姿勢に人は感動して、感動から信頼が生まれ、信頼が生まれるとまた仕事を頼もうってなっていく」「たった2週間でも、その姿勢が伝わってきましたよ」と。

そのメッセージでは、O社長ご自身から、「新卒の営業マン時代に受注をお預かりしたお客さまから言われていることを、なんとなく今思い出しています」「河合さんの3年後が楽しみですね。期待しています」みたいに言っていただいたんですよね。

成瀬:O社長は某企業の代表で、会社を上場させた創業経営者なんですけど。あたかも、入社して早々、そんなすごい人がお客さまみたいに話しましたけど、僕らの先輩がメインのコンサルタントで、僕がサブのコンサルタントでサポートしていて、河合くんはその僕のチームメンバーだから、さらにアシスタントみたいな感じ。

先輩の先輩の仕事を手伝っていたので、別に営業成績も関係ないし、メインの業務ではなかったんです。営業をやりたくなかったからなのかわかんないけど、めちゃくちゃ一生懸命尽くしたってことだよね。

河合:まさに。

営業マンとして走り出せなかった原因

成瀬:何をしてそこまで言われたの? なんか、鼻血出してた記憶があるんだけど(笑)。

河合:そうなんですよ(笑)。当時、新卒の4月の頃って、タクシーで帰る選択肢が思い浮かばなかったんですよね。打ち合わせが終わって何かの仕事をしていたら、終電を逃してしまったと。タクシーで帰ればいいんですけども、「始発まで待たなきゃいけない」って思っちゃったんです。それで、近くにあったデニーズに。

成瀬:24時間やってるデニーズに行って。

河合:「始発で帰って、会社に行けばいいかな」なんて思っていて。そうしたら、なぜかよくわからないけども、鼻血が出てきて。ティッシュとか持ってなかったから、固い紙ナプキンっていうか、わかります?

成瀬:キッチンペーパーみたいなやつね(笑)。

河合:あれ鼻に詰めると痛いんですよ。

成瀬:あれで鼻血を拭いてたんですか。

河合:痛いし、「鼻血が出てくるな」と思いながら。別にその話がどうこうってわけじゃなかったんですけども(笑)。とにかく枠を超えて、誰にやれと言われてるわけでもなく、せっかくこうやって縁をいただいたお客さまたちに喜んでもらえることができたらいいのかな、ってやっていて。

変な意味じゃなく、営業数字とかも自分には関係ないことで、そこまでやってるものがなんとなくお客さまに伝わったのですかね。

それこそ、本の冒頭にも書いたような「ファイルに穴を空けたら、ちゃんと綴じられずに上が出ちゃってるよ」みたいな失敗をしちゃったり。アシスタントのアシスタントをしながらも、アシストできてなかったみたいな頃からそのようなことを大事にしていました。

成瀬:でも、今聞いてて納得しかけたけど、4月にいきなり売れるようになってないやん。まだだいぶ売れるまで間があるやん。

河合:確かに(笑)。その中で、「あっ、お客さんに喜んでもらえることがいいんだな」と気づけたというところですかね。

成瀬:「お客さんに喜んでもらえることが大事なんだ」と思ったってことは、「自分がその研修を売ってもお客さんに喜んでもらえない」と思ったら、逆にそれがブレーキになったんじゃない?

河合:まさにそうですよね。その部分でいうと、結局、自分たちの採用のコンサルティングや商品によって「これはなんとなく自分で自信が持てる」「これはまだ自分で自信を持ってないな」という部分がけっこうあったことが、1年半ぐらい続いていた。

なので、自分の中で勝手に商品を選んで提案したり、「これはお客さまのお力になれないんじゃないか」なんて思った部分も、意外と長く響いちゃったなと思いますね。

営業マンがやりがちな、誤った「自己判断」

成瀬:これは営業された方とか、営業している部下や後輩というか、メンバーを持っている方であれば、ほぼ同じような経験があるんじゃないかなと思うんですよ。要は、営業マンが「これは提案したらいい。でも、これはあんまり提案したくない」っていう自己判断をしてしまう。

例えば、この本は自分で読んで「すっげえいい」と思ったから勧める、でも、逆にこっちはぜんぜんおもしろくなかったし、お客さまにとってもあんまり有益じゃないかなと思って勧めない。これはわかるじゃないですか。

ただ、河合くんの場合って、売れないと思ってずっと売ってなかった商品を、ある時からめちゃくちゃ売るようになったわけじゃないですか。「いいと思ってないほうをやめて、いいと思ってるほうだけをさらに売るようになりました」だったら、「なるほど」みたいな感じがするけど。

売らないと思ってたものをいきなり売りまくるようになる、ここの変化は何だったの?

河合:そこの変化はまさに、E社長とのご縁だったなと思うんですけども。これもまた、当時非常にお世話になった、ある意味、自分でアポイントメントをお預かりして、成瀬さんに同行してもらいながら初めて受注をお預かりした会社の経営者の方です。

成瀬さんが今おっしゃったみたいに、自信があるものをお勧めして、お客さまに会っていただけた。自分に自信がないものはお勧めしていなかったんですけども、E社長が「それ参加するよ」と言ってくれちゃったんですよね。

成瀬:あれは覚えてますよ。

河合:はい。成瀬さんにも「やばいっすよ」「申し込んでもらっちゃいました」って言ったじゃないですか。

成瀬:西新宿でしょ。

河合:そうです、はい。

成瀬:どこか、2階の中華料理屋の定食かなんか食いながら、河合が顔面蒼白になって、食べ終わった後に「売れちゃいましたよ」「どうしましょう」みたいな。

河合:そうです(笑)。

成瀬:「すげーやばくないすか」「絶対これ、クレームもらうかもしれないっす」みたいなことをずっと言ってて。何を言ったかまでは覚えてないけど、俺がその反論処理みたいなのをずっと言ってた記憶はある(笑)。

河合:そうなんですよ。

研修プログラムが、1年半売れなかった理由

成瀬:「なんでこいつ、お客さまがいいって言って買ったのに、自己嫌悪に陥ってるんだろう」とは思った。その時は、まだセールスして自己嫌悪みたいな状態だったわけでしょ? どういう意識があったの?

河合:そこまで鮮明には覚えてないですけども、期待に応えられない気がするものを買っていただいてしまって、「止めなくていいんだろうか?」ぐらいの気持ちがありました。とにかく自信を持ってなかったっていう至らなさが、めちゃくちゃありましたね。

成瀬:もうちょっと補足すると、僕らがいたアチーブメントという会社の青木(仁志)社長は、研修トレーナーとしても非常に著名で、かつ、おそらく実績も日本トップクラス。今だとこの業界では、ある種「極められた方」だと思うんですけど、売れたのはその方の3日間の研修プログラムなんですよね。

その研修プログラムが、当時は17万5,000円プラス消費税だったんですけど、河合くんはその研修を「そんな高額で売るのは納得できない」と言って、いっさい営業はしないし、資料は一応カバンの中には入ってたけど、自ら出すこともほぼないので、売れない状態だったわけですけど。

偶然、そのE社長という方が前職で、青木社長と同様の訪問販売の仕事をされてたんですね。そのプロフィールがちょろっと出た時に、E社長が「ええ!ブリタニカ出身なの!?」みたいな感じで熱が入って。

「その社長に会いたいな。どうやったら会えるかな?」という話から、うっかり資料を出しちゃったら、セールスをいっさいしてないのに「研修やってんだ! 受けるよ、俺」って言って、決まっちゃったんですね。で、売った後に罪悪感を感じると。

でも、そんな罪悪感を感じてた河合くんはその後、その研修プログラムを毎週5名の方からご契約を預かって、かつ、50週連続っていうとてつもない記録を打ち立てるんです。今のところまだその片鱗がないので、なんで変わったんだっていう話を聞いていたと。

河合:確かに(笑)。

自己判断の誤りに気づいた、研修後の反応

河合:結論としては、その3日間の研修を受け終わった後に、E社長が僕のところに来てくださって。正直、「なんて言われるかな」ってびびってました。

成瀬:その時はもうびびってたんだ。「なんだよ、この研修」って言われるかな、みたいな。

河合:「なんて言われるかな」と思ったら、180度とはまさにこのことなんですけども、僕が想像していた反応ではない反応が返ってきて。「いや、もう最高だったよ」と。「本当に大事なことだよね」「俺、これをもっと多くの人に伝えるよ」みたいな感じで、簡単に言うと、感動と感謝の言葉をいただいたんですよね。

僕自身も、ある意味、本当に未熟なだけなんですけども、いわゆる「何かをお勧めしなければいけない」「売らなければいけない」と思って、自分のフィルターを通して見ていた商品やサービスの価値をまったくわかっていない状態でした。それが売れて尊敬するお客さまに超喜んでいただいて、「あっ、こんなふうに捉えていただけるんだな」とその時に感じました。

逆に、「どんなことに喜んでいただけたんですか?」とか、お客さまに聞けば聞くほど、自分自身の至らなさや考え方の間違い、捉え方、いろいろなことがすごくクリアになっていったんです。

僕自身も単純というかシンプルと言いますか、いいと思ったらお勧めしていくけど、納得できなかったりすると、たぶん納得するまでに時間がかかっちゃってたんでしょうね。

そういった部分を、たぶんほとんどの営業の場合は、上司の方とかに「いいからやれ」「やったらわかるよ」とか言われちゃうと思うんですけども。今思えば、成瀬さんが、もちろんいろいろな視点や考え方は提示してくださりながらも、深夜の僕の愚痴みたいなものをベースとして受け止めてくださった部分があった。

すっごい遅咲きで、普通だったらもう「部署を飛ばされてるんじゃないかな」ってぐらい時間はかかったんですけども。そんな1年半ぐらいのビハインドも数ヶ月間で取り戻せるぐらい、そこがまさに転換点だったなと。

ある意味、その3日間の研修が終わった後にお客さまをお迎えに行って、「いかがでしたか?」って聞いたあのシーンでは、その転換点をめちゃくちゃ感じてますね。

今、ナガエさんが「成瀬さんの存在が河合さんの悩みをクリアにしてくださったんですね」とコメントしてくださいましたが、まさにそうなんですよね。一番、僕自身のビフォア・アフターの転換点を見届けてくださったり、背中を押してくださったりする部分が、まさに成瀬さんです。

成瀬:いやいや、あんまり期待してなかったのかもしれないけど(笑)。

最悪感を持つ営業マンに言いたいこと

河合:たぶん期待値は最も低かったと思います。例えば、2006年4月のタイミングで、「15年後に営業の本を出す人がいるとしたら誰でしょう?」っていうものがあったとしたら、僕は間違いなく最下位ですね(笑)。

成瀬:ああ~、営業マンの中では出てこなかっただろうね。まあ頭がいいやつだとはみんな思ってたし。頭がいいっていうか、賢いというか、ちゃんと計算もするっていうか。ただ、しゃべりはだいぶ早口だったよね。

河合:一番初めに、アポイントメントを取る電話をすることが「迷惑な行為をし続ける」みたいに思ってました。「悪い。申し訳ない」「電話に出るな、出るな、出るな、出るな!」って思いながら電話してるような感じで、申し訳なく思っちゃう。

やましいことって余計に、ついつい早口になったりするじゃないですか(笑)。そういう状態でやってて、成果が出なかった。

今となっては、そういう罪悪感を持ってしまう状態でも上司に怒られないように、とりあえず電話をかけてしまっている方がいるとしたら「ちょっと待ってください」と言いたいですね。

僕の時みたいに、1年半待ってくれる先輩や組織はなかなかないと思います。でも少し時間がかかるけど、そのモヤモヤの原因を探ったり、お客さまの声を聞いたり、成果を出している先輩の声を聞いてみたり、自分自身とは違う角度から見てみてほしいと思います。

同じ本でも、後ろからだとバーコードと金額しか見えませんが、みなさんからはたぶん表紙が見えていると思うんですよね。また、このように近すぎる距離から見ると本なのかどうかすらもわからないと思います。でも、ちょっと離したり、いろいろな角度から見てみると「あ、本なんだね」とわかってきたり。

僕の場合は、そこで成瀬さんに本当に温かく、時に厳しく見守っていただいて。会社全体としても、「僕が何かするんじゃないか」と待っていてくれたんですね。そして、お客さまの声にも非常に勇気づけていただきました。

そのあたりから、少しずつ営業に対して、また商品・サービスに対しての自信が高まってきまして。そこが大きな転換点でしたね。

本当の営業力とは?

成瀬:みんながイメージしやすい猛烈タイプの営業マンっているじゃないですか。「断られてなんぼじゃい!」「断られてからが勝負!」みたいな。

河合:はい。

成瀬:「買わないお客さんが悪い!」「へのかっぱ~!」みたいな。そういう営業マンを想像すると、河合くんは気ぃ遣いぃだから「いや、自分にはそんなタフさはないし」と思ってしまうけど。「お客さんにNOって言われたらどうしよう」「迷惑かけたらどうしよう」とか、ビビるからこそ、自分にストレスをかけないように、かけないように工夫したんだよね。

河合:確かに、そうなんです!

成瀬:怖いからこそ、「NOって言われないように」やっていく中で、「ゼロストレス営業」の道を自ら作ったのかもね。

河合:そうですね。たぶん初めは「営業したくない」「ストレスかけたくない」という意味でのゼロストレス営業だったんですが、それが振り子のようにピューンと反対方向へ行って、「あ、そっか。お客さまに喜んでもらう提案をしていけばいいんだ」と気づいて。このことは本にも書きました。

お客さまが「お腹が空いています」と言えば「おいしいものがありますよ」、お客さまが「喉が乾いています」と言えば「このお水飲みますか?」と。これに対して「NO」ってないわけですから。

お腹が空いていない人に、いかにもお腹が空いているかのように錯覚をさせて、できるだけ高いものを、なんとかしてたくさん食べてもらうみたいな。僕はなんとなく、そういうことこそが営業力だと思い込んじゃっていたんですが、本当に間違いだったなと感じます。

今日、こうやってお話しいただいてもわかるように、僕自身の力だけでこの本がすごく売れることはないと思うんですね。成瀬さんのお力を借りたほうが、この『ゼロストレス営業』の本の背景を知っていただけるのかなと思いました。