事業開発において「意思決定」を突破し実現するために

堀雅彦氏(以下、堀):それでは時間になりましたので、お話を始めさせていただきます。お忙しい中本日はありがとうございます。NEWhの堀と申します。よろしくお願いします。

今日は1時間ほどお時間をいただいて、事業開発において意思決定を突破し実現するために何が必要なのかという問いについて、ふだん事業開発を支援している中で我々が感じていることを少しでもお渡しができればと思っています。

冒頭少し自己紹介をさせていただきます。キャリアは記載のとおりなんですけれども、バックボーンとしてはデジタルマーケティングを土台にここ5~6年くらいは事業開発にどっぷりつかっています。主にビジネスサイドで企業内事業開発を外から支援する立場ですね。儲かるのかとか勝てるのか、ビジネスとして成立しうるのか、スケールしうるのか、という領域に立って支援をしている人間です。よろしくお願いします。

続いて、会社の紹介を少しだけさせてください。NEWh(ニュー)と申します。まだできて2年くらいの会社ですね。大企業を中心に新規事業・サービス開発に特化して、支援を行うコンサルの会社になっています。

企業内のしがらみとか意思決定の難しさがある中で、どうやって世の中に選ばれるようなビジネスを作っていけるか、出していけるかという問いに向き合っている会社です。

私たちNEWhはSun Asteriskの100パーセント出資子会社になっています。NEWhは事業開発において、どういうビジネスがそもそも良いのか、どこを検証して、どうやって立ち上げていくのかを考える側に軸足を置いています。

親会社のSun Asteriskは、エンジニアとデザイナーを大量に抱えていて、事業会社において作る、エンジニアリングする、デザインすることに強みを持っている会社になります。

ですので、企業の集合体としては考える・作るという2つを両輪で回しながら、企業さんの事業開発を外から支援している会社としてご認識いただければと思います。

事業開発は「不確実性の塊」

本日は1時間ほどお時間をいただいて、いろいろお話をいたします。なにかしらやってみようというところを少しでもお渡しができると僕としてはうれしいです。その結果としてNEWhという会社に対して少しでも興味を持っていただければと思います。

それと、思いついたことはどんどんチャットでいただけるとすごくうれしいです。というのも僕自身まだまだ修行中の身でして、この後お話しする内容もおそらくどんどん変わっていく、変えていかないといけないと思っていますので。「ここはこうなんじゃないか」とか、「いや、これ違うだろ」ということも含めて、バンバンチャットをいただきたいです。

本当はQ&Aのコーナーもじっくり取れるといいと思っているんですけれども、今回けっこう情報量が多いので、お時間があふれてしまった場合はFacebookで直接Messengerをいただいてもぜんぜん構いません。思ったことをいろいろ言ってください。

では、あらためてこちらの問いについてです。今回スライドで言うと、140スライドくらい作ってしまいました。かなり情報量が多くなっているんですけども、できるだけおもしろく思ってもらえるようにがんばりたいと思います。

なにかしら1つでもキーワードを持って帰っていただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

ちょっとずつ内容に入っていきますね。今回は意思決定に少しフォーカスを当ててお話をしていきます。まずは、事業開発領域における意思決定の特性からお話を進めていこうと思います。

事業開発と聞いて、何を思い浮かべますか? もし思いつくことがあったらぜひチャットに書いていただければと思います。僕自身、けっこう長い期間にわたって事業開発領域に関わっているんですけど、僕の中では不確実性の塊でしかないという表現に落ちてきます。

これを言っていいのかという話もあるんですけれども、誤解を恐れず言えば、やってみないとわからない世界だと感じます。

だからこそ、いわゆるMVP(Minimum Viable Product:顧客に価値を提供できる最小限のプロダクト)という言葉に集約されていくのだと思います。いかにして早くMVPを構築し、世に出して試す機会を作っていけるかが事業開発においては何より重要ですね。

新規事業の「意思決定」のハードルが高くなる理由

ただ、意思決定が企業内で事業開発を実現していく上では、大きなハードルとなります。

これを突破するためには、その活動は続ける意味がある、魅力があるということを伝えて社内の承認をとっていかないといけない。ここがやっぱりハードルだと感じているところです。

言い換えれば、試す機会を得られずに埋もれていってしまうアイデアが山のように存在するということ。これが事業開発における1つの崖だなと思います。これがなぜかを、意思決定の特性について既存事業と新規事業を対比しながら触れてみたいと思います。

あくまでこれは相対論になるんですけれども、既存事業はある程度土台があるので、過去の実績あるいは数値を使ってロジックを組み上げていく。そのできあがった数値、ロジックに対して理解を作れれば、ある程度意思決定は行われやすい領域だと思います。

ただ、一方で新規事業の場合は土台がないんですね。経験値とか実績がそもそもないので、どれだけがんばって細かくロジックを組んで理解してもらっても、「いいね、やろう」とはなかなかならない。

例えるなら、砂浜の上にきれいなお城を作っているような感覚に近い領域かなと思います。きれいな数値とかロジックを出して「ああ、確かにこれできあがるといいね」と理解してもらったとしても「でも本当に?」と思われてしまう。言い換えれば、頭ではわかっても懸念は消えない。これが事業開発の意思決定の難しさですね。

やっぱりロジックだけだと事業開発の突破ができなくて、試す機会を得ることができないと感じているので、今回のセミナーではこういった問いに対して向き合えるお時間をいただければと思います。

担当者が意思決定を突破するには?

ちょっと壮大なタイトルをつけてしまったんですけど、意思決定を突破する上で、何が必要になるのかというお話ですね。

担当者と意思決定者の2つがあるんですけれども、まずは担当者側が意思決定を突破する上で何が必要になるのかから少し考えをお話ししていきます。

この話をしていく上で、ビジネスモデルという言葉が絶対に事業開発では出てくるので、ここに沿いながらお話をしていきたいと思います。ビジネスモデルとはなんだと思いますか? これもお時間があったらぜひ聞いてみたいところです。

これは考えてみるとけっこう難しい言葉だと思っていて、というのも人によって言っていることがいろいろと違うんです。

大枠を捉えると一緒なんですけども、語っている側面、範囲がちょっとずつ違う。言い換えると、まだ定義がされていない言葉だと感じています。

ビジネスモデルを作る上で大切な2つの視点

現段階で僕の中での定義は、「持続的に成立することを示す事業の全体構造である」という言葉に収れんされます。この構造という言葉が特に大事なんです。

構成要素としては世の中にあふれているフレームワークで言われているとおりです。お客さんの課題をどういう価値で解決してあげるのか、選ばれるための戦略、実現する仕組み。そしてお金にどう変えるかという要素がビジネスモデルという言葉の中に含まれているんだと思います。

このあたりの要素自体はこういったキャンバス系のフレームとしてみなさんご認識のとおり実際に使われているかと思います。ただ、こういうフレームワークは要素をすごくシンプルにしてわかりやすくきれいに整えてくれていると思う一方で、実際使うとすごく難しいなと僕自身は思っています。

よく出てくるのが、「書いてみたはいいもののチェックリストになっちゃった」という声ですね。「書いたけど『次はどうすればいいの』と止まってしまう」という声もよく聞きます。

ビジネスモデルを作る上ですごく大事なことは、“ミクロとマクロ”、“マーケットとカンパニー”という構造があるということを理解することなんです。そして、その構造の中でどうやって整合性を持たせるか、ストーリーを持たせるかが肝だと思います。

この構造と整合性のイメージなんですけれども、シンプルな図にしてみました。お客さんの課題をどういう価値によって還元してあげるのか。それをどうやって実現するのかという手法。ここのつながりがビジネスモデルのシンプルな構造だと思います。

言い換えれば、マーケット側が求めているものに対して自社が提供できるものをマッチングするという構造です。

ミクロとマクロ、マーケットとカンパニーの「整合性」が重要

ただこれは、あくまで1つの側面、ミクロな視座で見たビジネスモデルだと思います。俯瞰で見るとマクロな世界があって、お客さんがいて課題が集合している先にはマーケット・市場があります。価値もn1に選ばられるだけではだめで、市場の中で選ばれる理由、戦略が必要になってくる。

仕組みも全体像を俯瞰で捉えた上で、どこでお金を得てどこでコストが出ていくのかという収益モデルを考えなきゃいけない。そして、当然これらはマクロ側の側面として、つながっていないといけないんです。

さらにちょっと複雑になっちゃうんですけれども、市場の中で選ばれ受け入れられるようなある程度の汎用性持った価値となっている必要があるし、お客さんの抱える課題が置いてけぼりの戦略は意味がないので、戦略はお客さんが抱える課題と当然つながっていなければならない。

そして戦略は、絵に描いた餅とならないように仕組みとして体現されていないといけないし。価値に対してきちんとお金の取り方がフィットしていないといけない。つまりこういうミクロとマクロ、マーケットとカンパニー、それぞれでの整合性がすごく大事なのがビジネスモデルなんです。

その上で、意思決定に話を戻すと、このビジネスモデルの全体像に対して魅力的な事業なのかどうかという問いに答えていかないといけないのです。

紐解くと「お客さんは本当にいるのかな」とか、それは求められているか、作れるのか。規模は大きいのか、勝てるのか、儲かるのかといったビジネスモデルの構成要素それぞれに対する疑問と向き合っていかないといけない。それが事業開発において意思決定を突破することの難しさなんです。

ロジックと数字ではどうしても魅力を語れない領域

ここにロジックの限界が出てきます。ロジックと数字で魅力を語れる領域と語れない領域がビジネスモデルの中には存在します。比較的マクロな領域はロジックと数値で魅力を語りやすい一方でミクロな領域はどれだけ数字を作っても「いける」という感覚は作れないのです。

例えば、事業開発の現場で「3割が使いたいと思っています」とか、「属人的なノウハウを型化できれば安くなるんです」という、受容性や実現性に関するカウンタートークは多く聞きます。でもこれだけでは「本当にそうなの?」とどうしても思ってしまう。

ビジネスモデルには、ロジックと数字ではどうしても魅力を語れない領域があります。だからこそロジックだけで意思決定を突破するのは難しい。

なので、ロジック以外でなにかしらのあと一押しが事業開発の意思決定においては必要だと思います。(スライドを示して)それがここのエリアですね。下の象限です。

何が必要になるか。それは「確信」という言葉で表せると思います。ロジックじゃないです。絶対に受け入れられるとか、あるいは実現できそう、「これだ」というある種直感のような感覚です。これを担当者の中で作りあげることが、意思決定を突破する上ではどうしても必要になってきます。

例えばさっきのケースで言うと3割が欲しいと思っていますとか困っていますという話ではなくて。ぐっと踏み込んで、「自動車保守メンテの業界では、見積もりが入ると十数万種のパーツから毎回人の手で探して人力で見積もりを作っているんです」というところまで解像度を上げる。すると「確かにそれはめっちゃ困っていそうだね」とか「絶対それは解決策が求められているよね」という話になると思います。

解像度をぐっと上げて、確信という、ロジックではない、「いけそう」という感覚をたぐり寄せていくことが、事業開発においてロジックだけだと潰せない領域をケアする要素だと思います。右側は割愛しますね。

ロジックで作る「確証」と、感覚で作る「確信」

まとめると、担当者が作り上げるべきはシンプルにこの2つですね。左脳的な確証。こちらはロジックの世界です。ロジックを作って数値化し、事業の魅力と可能性に対する確証を作り上げていく。

一方でそれだけじゃ足りなくて、ある種直感的な「これはいけそう」という嗅覚、感覚である確信この両面をどうやって作っていくかが意思決定を突破する上で担当者が目指す姿だと、捉えています

つまり事業開発は、ビジネスモデルの構成要素それぞれに対し仮説検証を繰り返しながら、ロジックと数値を踏まえ魅力的だという「確証」と、ロジックには落とせないけど絶対いけそうだという感覚である「確信」を作っていくことなのです。