2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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前野隆司氏(以下、前野):shiawaseシンポジウム、今日3つ目の基調講演ですね。みなさん、中竹竜二さんをご存じでしょうか。ラグビー界でも有名です。最近は企業のいろんな活動をされている中竹さんに、今日は「リーダーシップと幸せ」というタイトルで基調講演をしていただきます。それでは中竹さん、お願いします。
中竹竜二氏(以下、中竹氏):みなさんこんにちは。今日はよろしくお願いします。隆司さん、幸せそうな法被を着ていていいですね。
前野:これはハッピー法被というもので、後ろに「幸」と書いてあるんです。
中竹:本当だ。いいですね、着たくなりました。
前野:欲しければ、登壇のお礼に差し上げますよ。
中竹:ありがとうございます。みんなで、Hoppyでハッピーになりたいですね。
前野:はい。あれはハッピーホッピーです。
中竹:そうですね。じゃあ最初に、私の話をさせていただきます。よろしくお願いします。今日のテーマは「リーダーシップと幸せ」です。僕も打ち合わせをしたんですが、一昨日、隆司さんとVoicyをやった時に「このテーマだな」と気付きました。
基本的に、私はいろんなところでたくさんお話しさせていただくんですが、あんまり答えを持っていないんです。今日も、答えを期待している人にとってはがっかりな時間になるかもしれません。その分、たくさんの問いをみなさんに投げていきたいなと思います。
「問い」から始めるのはなぜいいのか? という話をすると3時間くらいかかるので、問いは学びにとって大事ですとだけ知っておいてください。学びを促します。だからこれは矛盾ですが、答えばかり探している人よりも、問いを探している人のほうが、圧倒的に知的に豊かになったりパフォーマンスが上がるんです。
中竹:ということで、さっき「問い」を考えたんですね。「そもそもリーダーは幸せなのか?」という問いです。この点、みなさんも頭の中で考えてみてくださいね。
リーダーは幸せかどうか。もし「イエスだな」と思う方がいたら、反応マークを出してみてくださいね。ちょっと上がりましたね。じゃあ、「幸せなリーダーはビジネス界でもスポーツ界でも勝つのか?」という問いです。これはいかがでしょうか。
じゃあもう1つ、問いにいきましょうかね。「リーダーシップの発揮はメンバーを幸せにするのか?」、これはどうでしょう? 反応マークが挙がる人もいるな。けっこう難しくて迷う問いですよね。
もう1個です。「リーダーシップの発揮はその人自身を幸せにするのか?」、いかがでしょうか。これは特に正解があるわけではないんですが、こうやって問いをちゃんと立てて、問いと向き合っていくことが実は大事なのではないかと思います。
例えば、紛争が起こった際には、誰かがリーダーシップをとっています。それは誰かを幸せにしているのか。事象を取っていくと、これは議論が終わらないんですよ。なので、たぶんこういった問いは全部文脈があって、一概に「世の中的に」ということは絶対に言えないので。
我々は、ついつい答えを求めがちです。「リーダーは幸せ者」「リーダーは周りの人を引っ張るべき」「幸せなリーダーとはこうである」とか、一般論を知りたがるんですが、リーダーシップやマネジメントに関しては一般論は通用せず、すべては文脈に応じると思います。だけど、こういった問いを立てていくことはすごく大事だなと思っています。
中竹:恐らく、ここに来られている方は、組織で何かしらのリーダーという役職になっていたり、過去に学生時代やさまざまなイベントの中でリーダーになったことがある方は多いかと思います。そもそもリーダーはどこを向くべきか、どこを向いていればいいのか、答えられますか?
よく言われているのは、世界で活躍するリーダーはビジョンを示すんですね。ビジョンは未来の話ですから、常に前を向いて未来を見ているんですよ。ビジョンドリブンという言葉が一般化してきましたが、リーダーは目の前のことでなくて未来を示す。目の前のことばっかりがんばっている日本人にとっては、ショックですよね。
じゃあ未来だけでいいかと言うと、世界で活躍するリーダーは、いろいろ言うけどやっぱり「今」に集中しているんですね。これはスポーツのリーダーもそうです。メジャーリーグで活躍している大谷翔平さん、イチローさんもみんなそうです。今に集中しているから、リーダーとして活躍するんです。
いわゆるゾーンとかフローに入る。これは「今」に集中するんですね。もちろんビジョンも大事にしていますが、ビジョンを示しつつ今にも集中できるということです。世界で活躍するリーダーが今に集中してビジョンを示すだけかと言うと、歴史に学んでいるんですね。当たり前ですが、ちゃんと過去を見ているんですね。
ということは、どこを向くべきかと言うと、未来も見て、現在も見つめ、過去も見ているということで、「全部じゃん」と。これは簡単なようで、コントロールをするのがけっこう難しいんですね。
中竹:私の好きな言葉が、「過去が現在に影響を与えるように 未来も現在に影響を与える」です。これを聞いてくださっているすべての方は、過去の蓄積によって今があるわけです。要するに「時間の概念」ですね。現在だけが過去と未来とつながっているんです。
当たり前ですが、今日のshiawaseシンポジウムでいろんな人の話を聞いて、「私はこうなるぞ」と明確な未来を持っている人と、「なんとなく楽しそうだな」「なんとなく聞いてみようかな」と思っている人は、残念ながら時間の過ごし方が変わるんです。
ちょっとしたことですが、受け身でなんとなく学ぶより、「何のために自分は今日、この時間を費やしているのか」と未来を見据えた人のほうが圧倒的に学べるし、成果が上がっていくわけですね。これ(スライドの言葉)はニーチェの言葉です。私はニーチェの言葉をけっこう使うんですが、本当に言い当てている気がします。
私がスポーツの指導をする時も、必ず練習前に「じゃあ、今日の練習はみんなそれぞれ何をやるの? 何にフォーカスするの?」と選手にたずねます。
「チーム全体の練習としてはこれをやるけど、君たち一人ひとりはそれぞれの課題がある。これを1時間で本当に乗り越えられるか、どんな準備やメンタリズムが必要か、1時間後の未来を描こう」「よし。じゃあ未来を描いて練習しよう」という問いかけがあるだけで、練習の効率が圧倒的に上がるんです。
いいリーダーはこれを会議でやるんですね。会議でただぼうっとアジェンダを流すだけではなくて、会議が終わった時にみんなが「本気で意見をぶつけ合ったな。決まってよかったね」というイメージを持てる会議をする。当たり前ですが、こういうリーダーは成果を出します。
中竹:現在と未来、過去を行ったり来たりするのが大事と言われていますが、かと言って、コントロールがめちゃめちゃ難しいわけです。もっとやっかいなのは「誰を向くか」ということ。自分のほうを向かないといけないのに、他人のことを考えたり、逆に今は他人のことを考えないといけないのに、自分のことばっかり考えたりする。
特にリーダーは人の上に立ったり、人を率いたりする。自分のことばかり考える利己的なリーダーにはついていけないですね。かと言って、利他的ばかりに走ってしまうと、自分のことを犠牲にして、疲弊して、まったくエネルギッシュでなくなってしまう。バランスが難しいので、これをどう取っていくかがすごく重要です。
(スライドを指しながら)これは、いろんな場面で使えるマトリックスです。恐らく、我々が世界で活躍するリーダーを見た時に、最初にできるようになったほうがいいのは「現在」と「自分」ですね。
今日聞いている方も、ウェルビーイングを勉強されている方であったら、最近の瞑想やメディテーションの重要性は理解されているでしょう。要するに、今に集中することがなかなか難しいんですよ。
私が代表を務めている会社のチームボックスでは、いかに集中するか、周囲を自在にどう操るかをトレーニングするサービスを準備していますが、これは難しいんですね。
世の中はだいたい「今」に集中する。さっき言いましたが、スポーツの世界でも没頭だけして生きていけるかと言うと、それだけしていても生きていけないです。当然ですが、今は「未来」を描かないといけない。それはそうですね。
中竹:さっきのラグビーの練習の例みたいに、何かが始まる時にちょっと先を考えられるか。私はかつてラグビー協会に所属していた一昨年、中長期計画を作ったんです。どこまで考えたかと言うと、日本ラグビーの50年後を考えたんです。長期間です。
「50年後ってどうですか?」と聞かれても、誰もわからないです。わからないから、ある種の方向を示して仮説を立てて考える。これは最近の認知科学ではフィクションと言われていて、「妄想」です。そもそも人間は、さまざまな妄想で進化しています。
極論、『サピエンス全史』の中で言うと、人類を作ってきたのは妄想・フィクションだったと書かれています。金融・お金もそうだし、宗教も言語も全部妄想なんだと。これは、未来のこともです。かと言って、未来と現在ばかりでいいかというと、さっき言ったみたいに過去から学ぶことも重要なんですが、本来は「今」です。
集中すべき時に人間に何が起こるかというと、「集中しよう」と頭ではわかっているのに、「うまくいくかな。うまくいかなかったらどうしよう」「過去に失敗したしな」と、未来のことが超不安になるんです。
人間の悩みは、だいたいは未来の不安か過去の後悔です。今こそ集中しないといけないのに、集中力が右に行ったり左に行ったりするんですね。だから仕事がはかどらないし、悩まされる。
なぜかと言うと(未来と過去は)コントロールできないから。唯一コントロールできる現在に、自分がたどり着けないからです。だからこそ、最近は自分自身の気持ちや瞑想であるとか、そういったところを大事にする考え方が出てきました。
中竹:これは自分の話ですが、リーダーになっていくと「周りのメンバーはどうか?」と考えるようになる。本来は自分のことを考えないといけないのに、他人のことばかりを心配するケースもあれば、本来は他人のことを考えないといけないのに、自分のことばっかり考えるケースもあるんですね。
メンバーたち、チーム、過去はどうだったか、未来をどうするか。当たり前ですが、やっぱりこれがリーダーにとっては非常に難しくて混乱するんですね。だけど、うまく自分の中で切り替えができれば、満足感や充実感、達成感が生まれるんじゃないかと思います。
じゃあ、もう1つの問いの「そもそもリーダーはどこを向くべきか?」です。先ほどのマトリックスを出した後にもう一回この質問に戻ったら、みなさんは何て答えますか? どこを向くべきか、難しいですよね。「いろいろ向くべきですね」となってしまいますね。
その中で大事なのは、自分でこの問いに条件付けをすることです。「こういう時はこう」「基本はこう」「今はこうだけど、今後はこうしていく」といった、自分の向くべき方向性が明確になっていきます。
中竹:いろいろ言いましたが、じゃあ、軸を変えた時にどこを向くべきか。自分のほうを向くのか、他人に向くのか、過去を見るのか、現在を見るのか。向き・不向き、これもよく起きる問いですよね。自分が自分を見た時に能力があるか・ないか。自分のこの能力を、我々はついつい推し量ったりします。
これも大事なことですが、例えば自分が課長、部長、社長、キャプテンだとします。リーダーシップ開発においては、何かの物事をやっていて失敗する時に、「やっぱ俺はリーダーに向いてないな」「私、リーダーに向いてないかも」という問いが立つわけです。
果たしてその問いが健全なのか。自分の能力に関して立ち止まって、「向いているか・向いてないか」を考えることは、それを評価して自分の成長につなげられる時はいいんですが、実際に走り出している時には、自分の中からこの問いを遠ざけたほうがいいです。
大事なのは、物事に対して前向きであるか、後ろ向きであるか。ポジティブに取り組むのか、ネガティブに取り組むのか。物事の解決にはポジティブのほうがいいのは当たり前ですね。かと言って全部ポジティブかと言うと、当然、未来のシミュレーションを考えた時にはワーストシナリオは用意しておいたほうがいいんです。
これは「レジリエンス」という呼び方もします。これから起こる(可能性がある)後ろ向きなことも、ちゃんと自分の中でシミュレーションをしておく。シナリオにしてリハーサルをやっておくと、すごくタフになってくる。なのでそう考えると、リーダーはいろんなところを向かないといけないんですね。
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