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斉藤徹✕八子知礼トークイベント 「愛のある組織変革」は実現可能か? 〜「人間性」と「デジタル化」を両立する組織トランスフォーメーション〜(全6記事)

リーダーの役割は「意味と希望を伝える」こと 新しいことを「やりたくない」組織から「したい」組織に変える方法

代官山 蔦屋書店にて開催された、『だから僕たちは、組織を変えていける』著者・斉藤徹氏と『DX CX SX』著者・八子知礼氏による対談の模様を公開します。テーマは「『愛のある組織変革』は実現可能か? 〜『人間性』と『デジタル化』を両立する組織トランスフォーメーション〜」。DX推進をする上での問題点を「人」の視点でひもといていきます。本記事では、DX推進に立ちはだかる3つの「人の問題」の1つ目、「新しいことをしたくない」についてその背景と対策が語られました。

DX推進で出てくる「新しいことをしたくない」問題

斉藤徹氏(以下、斉藤):じゃあちょっと、今の3つの問題に絞って考えてみましょう。どうですか、八子さん。「新しいことをしたくない」という問題。DXを進めていく上で、もうちょっと具体的なお話で聞かせてもらうことはできますか? 

八子知礼氏(以下、八子):この1年半ほどの中では、とあるプロジェクトで起こったことが非常に象徴的でした。とある会社のテレワーク・モバイルワークを推進するというところで参画をして、非常に短期間で導入することが求められてたんです。

斉藤:どのくらいの期間ですか?

八子:2ヶ月ですね。2ヶ月でコラボレーションツールを全部刷新する。

斉藤:何人くらいの組織なんですか?

八子:300人ですね。

斉藤:あぁ、2ヶ月は大変ですね。

八子:大変ですね。それで、ストレージの環境を変えたりといったやるべきことがある中で、デジタルな手段はさまざまにあるわけですよ。ところがIT部門のセキュリティががんじがらめなんですよね。なおかつIT部門から「新しいツールの効果は何なんですか?」という質問が入る。そこで、私たちは効果を出したんですよ。

そうすると次に「セキュリティがなかなか重くて」とおっしゃるので、セキュリティのポリシーを出してもらったら、ちょっとずつ細分化されたものが6つとか7つ出てくるんですよ。これだとなかなか難しいですね、と話をしました。

さらに全体を管理する方針はないですかと言うと、方針めいたものが出てきたんですけど、そこに「社員を信じてはならん」とか「使わせてはならん」ということがつらつらと書いてあるわけです。そういうことにたびたび出会うと、最終的に、やっぱり新しいことはやりたくないんだな、今、手いっぱいなんだなと感じました。

斉藤:やらない理由を出してくるんですね。

八子:そうですね。だから私たちは毎週のミーティングで「次はどんなやらない理由が出てくるんだろうな」と思いながら参加していました。

「うまくいった例を出して」と言われた時の働きかけ方

斉藤:そういうことはやっぱり多いんですかね、新しいものはちょっと面倒くさいですもんね。そういう時にどうすればいいですか?

八子:論理的に説得します。先ほどと違う会社で「契約書を電子化しましょう」というときに、さらに「工場のペーパーレス化をしましょう」と提案したんです。そうしたら工場の方々が「工場でそんなの意味がないから、実際にうまくいった例を出してくれ」と言うわけですよ。

そこで、例を論理的に出したんですよね。そうしたらその場合は前に進んでくださいました。だけど、ただ出しただけではなくて「実際には棚卸しにけっこうな時間がかかっています。だからちょっとずつ始めましょう。まずは工場ではないところから始めましょう」と提案したんです。工場の方々に説明をしたんですけど、実際には工場じゃないところから始めたんですよ。そうしたら今は工場の方々がちょっとずつ協力してくださっています。

つまり、うまくいった例を出してほしいということは、「イヤだ」というメッセージだと受け取ったので、「ゆくゆくはやるから覚悟しといてね」「でも効果はあるってわかっていただけましたよね」という感じで働きかけたわけです。そして、まず違う部門からやりましょう、と。

全体を動かすのではなく、まず「積極的な2割」から

斉藤:新しいことにチャレンジするとなると、人間って、だいたい2:6:2くらいでわかれますよね。すぐやりたいというイノベーティブな人が2、様子見な人が6、頑として「ちょっとそういうのは」という人が2と。そんなときは、全体を動かそうとせずに、積極的な人たち、部門からトライしていくという視点は大切ですね。

八子:そうですね。それで、僕はそのあと実際に工場の現場に行ったんですよ。そこで反発されていた方々に対して「あれはこういう理由があったんです」と改めて説明したら、そのあとにご質問がいくつか来て、それなりに「なるほどね」と言って納得していただけたんです。

斉藤:そのあたり、ちょっと変わった感じがありました?

八子:変わりましたね。オンラインだけだとほぼわかってもらえなかった。

斉藤:オンラインだとなかなか伝わりにくいところがありますよね。それは八子さんの愛が伝わったんじゃ?(笑)。

八子:愛……かなぁ……。

(会場笑)

斉藤:たぶん愛が伝わったんですよね。

八子:まぁハグしようとして……「今はやめてくれ」と言われました。

(会場笑)

斉藤:それは後の話にして(笑)。今の八子さんのお話にもちょっとあったけど、僕も実はあります。

八子:ありますか、やっぱり!

斉藤:用意してたんですよ、スライドを。

八子:じゃあぜひ。

斉藤:こんな小芝居しててもしょうがないんで(笑)。

(会場笑)

船を作りたかったら、広大な海を一緒に見る

斉藤:やっぱり今のお話、これを必ず全部できるってわけじゃないけれども、「新しいものをやりたくない」とか、その背景にあるのは「なんでやるの?」「このクソ忙しいのに」というところがありますよね。そのあたりが非常に重要です。僕は『星の王子さま』が好きなんですよ。八子さんは多分ぜんぜんですよね。

八子:大好きです!

(会場笑)

斉藤:八子さんもそうでしたっけ(笑)。サン=テグジュペリがいいことを言ってるんですよね。船を作りたかったら、人に「木を集めてくれ」と促したり、「作業、作業」とか「じゃあ今からDXをやるから、これとこれとこれやって」ということじゃなくて。

果てしなく続く広大な海を一緒に見ながら「海って本当にどでかいなぁ」とか「めっちゃキレイだよなぁ」なんて言いながら、「あれ、ちょっと沖行ってみたくない?」「いいですね、船作りましょうか。じゃあ僕、木を持ってきますよ」というかたちがいいですよね。

八子:エモいですね。

斉藤:エモいですよね。

「What」からではなく「Why」から伝える重要性

斉藤:だからDXも、トランスフォームですから、なにかすごく成果があるはずですよね。目指すものがあるし、それは社員一人ひとりにとってもそうだし、もしくは会社にとってすごくいいことがあるんですよね。

むしろ会社だけじゃなくて、社会にとって非常にいいことがあるんです。そういうことを抜きに、断片的に機能だけを追求しちゃうんですよね。そのあたり、八子さんは愛を込めて、Whyを伝えたわけですね。

八子:そう……ですね?

斉藤:(笑)。

八子:将来このまま放っておくとみなさんのビジネスがちょっとずつ減ってきてしまうことに対して、先回りして手を打ちましょう、と。じゃあその先回りして手を打つかたちを、もっとスムーズでスマートに仕事ができるようにしませんかと提案したわけですけどね。デジタルは、「みんなラクしましょうよ」という、手段ですから。

斉藤:それはとても重要ですよね。わりとビジネスをやっていると、「これとこれやって」と、Whatから伝えちゃうんですけど、やっぱりWhyから伝える、意味を伝えるのはとても重要ですよね。Whatから入って、「やれ」と言われたら「しなくちゃ」という感じになるけれども、そうではなくて、Whyからはじめて、どうしてそれをやるのかがわかってくると「しよう」とか「したい」になってくる。これが大切かなと思います。

リーダーは「意味と希望を伝える人」

斉藤:エドワード・デシという、「内発的動機づけ」を世界に広めた心理学者がいますけれども。彼は無動機づけから外発的動機づけまでの4段階、それから内発的動機づけまでを含めて6段階にわけて説明しています。これはとてもすばらしい功績です。

「やれ」「木を持ってこい」というのは動機のない「命令」ですよね。これはまぁやりたくない。でも「持ってきてくれたら100円あげるから」だと「仕方がないな」となる。「これをやることは大切なんだよ」と何回も言うと「しなくちゃ」という感じになってくる。「お前をリーダーにするから、リーダーとしてみんなをまとめてくれ」とすると、必要性を感じて「すべき」になっていきます。

でもやっぱり今みたいに「こういうことのためにやるんだ」と、自分の目的や価値観とその背景にあるWhyが一致すると「しよう」ということになるんですね。だから外側にあったものが内側に入って、内在化する。

八子:自分ごと化するということですね。

斉藤:しかも、それが「DXって、なんかめっちゃおもしろいんですけど」となってくると「したい」になる。できればこの「しよう」とか「したい」でチームを動かしていきたいですよね。「言えばいい」ってわけじゃなくて、「人の心はこういうふうに感じるんだ」ということを大切にして、チームをまとめていくことが大切なんです。

意味を一方的に押し付けられると、やっぱりどうしても弊害が出ます。でも腹落ちすると、やらされ感が消えますよね。社会や組織は人の集まりだし、またDXのようなプロジェクトにも、いろいろ規範とかルールはあるけれども、それを意味づけして内在化できると、心の外側にあったものが、心の内側に入ってくるわけです。これが大切ですよね。

リーダーって、ややもすると「情報と仕事を配る人」みたいになりがちだけど、それじゃ人は動いてくれない。リーダーは「意味と希望を伝える人」であることが大切なんです。

忙しい人がまず着手すべきは「やらないことを決める」こと

斉藤:ただひとつ気をつけなくてはいけないことがあります。いくら丁寧にWhyを伝えたとしても、めちゃくちゃ忙しくて本当に目の前の仕事でパンパンだったら、これは無理なんですよね。

八子:これは経営者としてドキドキしますね。

斉藤:だからやっぱり最初にしなくちゃいけないのは、業務の断捨離だと思います。でも、これもITの役割じゃないですか。

八子:ある意味そうですね。

斉藤:だから例えば、まずはパンパンになってしまっている目の前の仕事の負荷を低減する。それからちょっと心に余裕が出てきたら、DXの本当のところを進める。

八子:そこから新しいことを、ということですね。

斉藤:これが大切かな。

八子:まず、やらないことを決めるんですね。

斉藤:そうなんですよ。

業務の断捨離に大切な三原則

斉藤:『だかぼく』の本では、業務の断捨離をするための大切な原則として「定期的にゼロベース思考で仕事を整理する」ことをあげています。

『だから僕たちは、組織を変えていける ーやる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた』(クロスメディア・パブリッシング(インプレス) )

八子:定期的にリセットすると。

斉藤:リセットです。例えば1年に1回ぐらいリセットしないと、どんどん業務のゴミがどんどん溜まって、またたく間に非効率になっていきますからね。それからあとは、問題が起きた時ですね。定期的じゃなくて問題が発生した時に、その問題は対症療法で対応するんじゃなくて、本質的な問題は何だろうという根本治療をします。

……あっ、配信が止まってる。いつから止まってました? 今けっこういいこと言ってたのになぁ……。

(会場笑)

八子:今ね、いいとこでしたよね。

斉藤:大していいこと言ってないですけどね(笑)。

八子:お茶の間のみなさん、ここくらいからですかね。話は通じていますか? 大丈夫ですか。「ゼロベース思考を1年に1回」ということですね。で、問題が起きたときの対応は1年に1回ほどじゃないけど……。

斉藤:おお、すばらしいパートナーシップですね!

八子:いえいえ(笑)。

斉藤:あとでちょっとお礼言います(笑)。次に、断捨離に大切な原則その二なんですが、問題が起きた時は対症療法じゃなくて、根本治療するということですね。「ダブルループ学習」と言いますけれども。

八子:本質的に問題はどこなんだ、ということですね。

斉藤:一番根っこにある部分を治しておくということですよね。そうしないとどんどん余計なものが積もってきちゃうんですよね。

複雑でコストのかかる業務をやめる「透明のチカラ」の効果

斉藤:さらに断捨離原則その三として「透明のチカラ」があります。例えばネットフリックスなんかやってますけれども、経費精算とかも普通だと……。

八子:大嫌いです。

斉藤:ね。課長の決裁権限は20万円、部長は50万円とか、いろいろ細かく規定が決まっていて。当たり前のように見える経費精算のプロセスですが、人件費に換算してみると、そのコストはすごいことになっていくわけです。複雑にすればするほど、経費は膨れ上がってゆきます。じゃあどうすればいいかというと、「透明」にしちゃうことです。「透明のチカラ」を使って、不必要な経費は申請できないようにするんです。

申請すれば経費は出すよ、と。出すけれど、「誰が何にいくら使ったか」をすべて全部オープンにするよと。そうすると、みんなが見えるようになるし、説明を求められたら説明責任が発生するわけです。これだけで、経費は適正になってゆきます。

また経費精算コストは激減するわけです。上司による管理システムをやめて、ピアプレッシャー、同調圧力を使うわけですね。これらの原則にしたがって、できるだけ無駄な業務を断捨離する。なにか新しいことをするためには、スペースに余裕をつくること。これが重要だと思います。

ん……? なにか言いたいことがありそうですね?

八子:「透明のチカラ」でプレッシャーをかけるというのは、大丈夫なんですか?

斉藤:プレッシャーをかけるというよりも、本人が自ら感じるんです。

八子:見られてるかもしれない、という緊張感ですか。

斉藤:その時に、「自己決定する」ということが大切ですよね。「これ、どうしよう。出そうかな、出すまいかな。でもこれ、ちょっとなにか言われちゃうかもしれないな。出すのやめよう」。それが大切かなと思いますね。

八子:でも一応出しますよね。

斉藤:僕はそんなことはもう本当、一切ないです(笑)。

八子:えぇー(笑)。

斉藤:けっこう余計な話をしましたが、次いきましょうか。

『DX CX SX ―― 挑戦するすべての企業に爆発的な成長をもたらす経営の思考法 ―― 』(クロスメディア・パブリッシング(インプレス) )

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