レストラン事業で“余白”が多いのは、ハイエンドより低価格帯

鳥羽周作氏(以下、鳥羽):ハイエンドをやるのもいいんですけど、実はもうハイエンドは、「誰がやったか」という色ぐらいしか個性がなくて。レストランとかに限って言うと、ハイエンドは意外と余白がないですよね。

逆にファミレスとか低価格帯のほうが、そこにお金をかけてコミットする人がそんなにいないから、実は余白がめちゃくちゃある。

川村真司氏(以下、川村):なるほど。おもしろい。

松永光弘氏(以下、松永):なるほど。

鳥羽:だってコンビニのアイスで、わざわざ5分待って……なんてコミュニケーション、めんどくさいし誰も考えてなかったけど、実際やったらめちゃくちゃ受け入れられるわけですよ。カップラーメンみたいに待って食わせるイメージがついたら……。鳥羽さんの「お待ちシリーズ」のアイスみたいにするとか。

川村:(笑)キレッキレやな。

鳥羽:でもそういうことじゃないですか。そういうの一緒に考えてやりたいですね。

川村:やりたい、やりたい。

松永:もう、あいつら絶対付き合うなってわかる。

鳥羽:1日待って食べる弁当とかね。1日経ってから食うと味がしみておいしいとかね。そういうのを一緒にやりたいですね。

松永:さぁ……。

(会場笑)

鳥羽:え、もう!? はぁ? 

松永:さぁ、時間もだいぶなくなってきたので。

鳥羽:そうなんですね。

松永:2人への質問を受け付けないと……。

川村:ぜひ、何かあったら。

鳥羽:これ、楽しくて数時間やってられる。

松永:恋バナみたいな感じに……。

川村:(笑)。ごめんね、松永さん。

松永:どうしましょう。じゃあ会場から何か質問がある方、手を挙げていただいて。

鳥羽:川村さんに答えてもらったら、100万円ぐらい取られますよ。

川村:人聞きが悪いです(笑)。そんなのぜんぜん取らない。

鳥羽:俺なら答えるのはタダですね。

アイディアは、「直球・変化球・暴投」の3種を用意する

質問者1:貴重なお話ありがとうございます。話をうかがっている中で聞いてみたいと思ったのが、お二人は、ささるアイディアを作る時に、届ける相手のことを想像するとおっしゃっていたと思うんですね。

その中でどう届ける相手を想像しているのか。そのリサーチとかインプットとかをおうかがいしたいなと思います。

鳥羽:川村さん、何をするの? クライアントだったらもうクライアントで勉強していると思うけど。

川村:僕は、あえてあんまりリサーチはしないようにしています。僕の中にあるステレオタイプ像とか、けっこう自分事にして、自分だったら、というところを起点にする。プラス、リサーチはクライアントとかにもらったりとか。けっこう通り一遍で見つかるレベルでしか調べないです。

逆に、刺しにいくためのメソッドはあります。いろいろ調べた結果、“ミット”と僕は比喩で使っています。その人の心臓が待ち構えている、ミットの位置があるんです。アイディアを考える時、僕はそこに直球と変化球と暴投を投げるようにしていて。

直球は、限られたデータだけど、調べた中でこのへんにミットがあるなというところに向けて思いっきりスポーンと投げるんですね。けっこう想定内のものも多いし、その中でおもしろくしようとするんです。

変化球は、このへんに心臓があるけど、こっち側からこういったらもっと刺さるんじゃない、とか考える。バットを振らせるというと、人格がどこにあるかわからないんだけど。まぁストライクとれそうやんな、みたいな球を投げる。

それは「調べたデータの中であなたのことを考えているんだけど、ここはたぶん『嫌い』とか、ここは『間違ってる』と思うかもしれないけど、他の3点がドンズバでおもしろいですよ」とか、そういうものです。

暴投はもう完全に、ミットの位置をぜんぜん気にせずに、「僕が思うあなた像」を全力で出して、関係ないところに投げるんですよ。「でもこの課題、あなたが求めているものは本当はこっちですね」をぶん投げるようにする。そうすると、意外と暴投を選んでくれたりするんですよ。

もしかして僕の心臓、実はこっちにあったかもみたいになる。でもそれは、その前の直球と変化球があるから暴投を気に入ってくれたりするので。テクニックの話になってしまいますけど、僕はそういう感じで想像しながら、アイディアを開発するようにしています。

アイディアの「開発メソッド」の使い方

鳥羽:アイディアの開発はやっぱりメソッドがある。勝利の方程式みたいなものがあるという感じですね。

川村:感じですね。アイディアの構造は毎回違うんですけど、少なくとも相手を想像する場合にはいろいろな球がバラエティとしてあるようにしようと思っていて。アイディアが出た時にそうしてみる感じに近いかもしれないですね。これは直球だよなとか。直球だけにならないように、変化球を入れよう。暴投を入れよう。暴投しか出ない時は、さすがに直球を考えないと、とか。そうやって自分を律する。

鳥羽:それすごくわかりますね。僕は課題解決というか、何かアイディアを考えないといけない状況がないと、アイディアを考えなかったりします。

自分でふだんからやっているトレーニングで、「あぁこれはこうのほうがいいよね」とかはあるんですけど、基本はやっぱり課題がある。今回でいうと、コンビニのアイスをやってくださいと言われたら、コンビニで今までできなかったおいしさを、感動体験として届けるために、現実に何ができるかとか。

制限とかをめちゃくちゃ気にするタイプなので、時間の無駄にならないよう、できる範囲できちっとやる感覚でいる。その中から自分にできることを見つける。あと、僕はけっこうSNSとか好きだから、軽くジャブでSNSに投げる。

これやっちゃおうかなという時にSNSに投稿して、めちゃくちゃ反応がいい時、食いつきがいい時はいけるなと判断して、それをやる時もある。ま、基本毎日2時間ぐらいTikTok見ているので。

(一同笑)

鳥羽:あ、これが求められているんだとか、今の音楽はこういう感じなんだとか、レシピはこういうのが喜ばれているんだとか、ファッションはこういうのなんだ、とわかる。あ、こういう店が今求められているなというのを見ながら、まぁ、じゃあこのへんかなぁとやることが多いですね。

だから、仕事に関しては、わりと課題がないとアイディアを出さない。本筋の真ん中のちょっとだけ斜め上が、感動体験につながるので。王道のちょっとずらしみたいな感じか、研ぎ澄まされた超王道を投げるか、そんな感じです。あと、さっき川村さんが言っていたような暴投系のめちゃ外している球か。僕もその3パターンですね。

味の設計図、「五味プラス1」

鳥羽:僕、料理に関してはほぼ頭の中でしかやらないんですよ。だからぜんぜんシェフ感がないですよ。

川村:すげぇ。

鳥羽:「五味プラス1」という自分の味の設計図があるんです。だから本当に超失礼ですけど、クライアントさんと打ち合わせをしていて「この商品にこうやってください」「じゃあ何ヶ月後ぐらいに」と言われるんですけど、15分ぐらいでレシピが全部できてしまっているんです。さすがにそれで言うのも悪いなと思って……。

(一同笑)

「1回持ち帰ります。」と言う。

川村:そういう時もある。ほぼ聞いてる瞬間にアイディアが出て、でも一応他も掘ってみようという気持ちもあるぐらいですよ。別で持って帰るのもある。

鳥羽:さっき言ったように、料理に関しては方程式があります。すごくわかりやすく言うと、ショートケーキは甘いホイップクリームとすっぱいイチゴの、その甘と酸の対比で真ん中に落とす。サウナみたいな話ですね。サウナに入って水風呂に入って気持ちいい、みたいな。お皿に必然性を作っているのがショートケーキです。

だからいいイチゴでショートケーキを食べると、甘ったるくなってしまって、そんなにおいしくないみたいな話もあるんです。ショートケーキでは甘さに対する酸味がイチゴだけど、フルーツロールはイチゴじゃなくてたぶんキウイとかで成り立っている。だからある意味、甘さと酸味というロジックでつながっています。

そのロジックをレストランでやると、例えばその甘さに対してフルーツではなくて野菜で、例えばトマトをはちみつでマリネするとイチゴに近いニュアンスになる。イチゴのデザートをトマトでやっちゃうの、という感動で組み合わせているだけです。

川村:なるほど。

松永:ロジカル。

鳥羽:けっこうロジックでやっているから、食べる必要がもうないです。

(一同笑)

川村:すげぇ。超能力。

鳥羽:かなり精度が高い状態で頭の中に設計図ができているから、あとはチューニングの話じゃないですか。それを何センチとか何ミリだとか、もうちょっと甘くするのかしょっぱくするのかがチューニングの話です。わりとそういう感じで物を作っているから、料理は研究みたいな感じになっています。

松永:なるほどなぁ。

川村:超おもしろい。要するにホームランは頭の中で飛んでるから、あとはそれが場外ホームランになるかどうかだけの話だからもういいやみたいな。すごいわかる。

鳥羽:そうです。だから料理で苦労したことはないです。

コース料理での「感動」の設計法

松永:確かにしゃべっているのと一緒ですよね。しゃべっている言葉だって型がある。同じように、入れ替えているだけですもんね。

鳥羽:特にレストランのコースなんてすごくたくさん型がある。10皿とか何皿とかいろいろあるんですけど、10皿の中でも感動の100ポイントをどう10の皿に配分するかを考えて作っているんですよ。最初に感動させすぎると、2番目の皿にめちゃくちゃハードルが上がってしまうから、1番目は感動はしないんだけど文脈としてはいい、とか。

「滋味深いスープです」と言われて飲んだ時は「あー」みたいな反応になる。だけどおいしすぎないから、次の皿が来ると「うま!」となるとか。

でも最初にトリュフと車海老のスープが来て「うわー!」となったら、次に何を出せばいいの、となってしまう。そういうことを考えながら作っているから、このポジションのこの皿は、味の構成でいうと何味と何味と食感の入った皿と決まっている。それを季節の食材とかに合わせて作っていくだけです。だから店のコースも10分ぐらいで考えましたね。

川村:すごい。ちょっとまた気持ち悪い合いの手を入れてもいいですか。

松永:どうぞ、どうぞ。

川村:完全に愛があふれてしまっているんですけど。ビデオとか作る時は完全に同じ構成で考えているんですよね。感動というか驚きが、どんどん上がっていくように全部時間軸で見て、初級の驚きから中級・上級と上がっていくように作るので。完全に同じです。

鳥羽:映画を作るのと一緒ですよ。入口と出口があって、そこに対しての感情の抑揚をどう作るかをコントロールできるからいいんですよ。パッケージになっているのが大事。おせちでは感動できないし、アラカルトが出てきたって感動できないです。なんでかというと、全部の選択権がお客さんマターだから、まったくコントロールできない。

コンビニの食べ物もコントロールできない。コントロールできない食は感動体験を作りづらいです。こっちで全部コントロールして提供するものに関してはめちゃくちゃ感動体験を作りやすいから、クリエイター冥利に尽きる。

川村:おっしゃるとおり。

「時間の余白が感動体験にいく」

鳥羽:今回のコンビニでのコミュニケーションは話が近いかな。でもよくよく考えたら、カップラーメンもそうなわけですよね。3分待つあのリードタイムにロマンがあるんですよ。いきなりできるわけじゃなくて、家に帰ってかやく入れてお湯を入れて蓋の上に変な液体スープを乗っけて温める。そこまでこだわるのかみたいな話もあるわけじゃないですか。

そこで3分待って食べた時の1口目は、やっぱりロマンがあるなと思います。ストーリーがあるから。たぶんそういう時間の余白が感動体験にいくからコンビニって……。

川村:時間のコントロールですね。

松永:そうですね。

鳥羽:レンジでチンは味気ないもん。チンの時間、カップラーメンと比べると。味気なくないですか。だからたぶんチンの弁当はあんまり感動しないと思うんです。

松永:バルミューダのトースターも、開けて、水ちょっと入れて、みたいなあれがいいですよね。

鳥羽:そう。

川村:儀式。

松永:儀式みたいな。

鳥羽:たぶんそういう話だと思うんですよね。今回アイス3部作をやらせてもらっていますけど、最初に5分というわりと長い時間をやって、次にアイスが小さいから3分。最後に10分という一番ロングタイムで食べさせるという感じの、3部構成がまたいいなって。

川村:すてき。

鳥羽:けっこう新しいことやったなと思いましたね。

川村:扉を開けましたね。

松永:確かにすごいですね。

コースの最後が、決まって「sio」アイスのワケ

川村:これも質問していいのかな。いろんな段取りを完全に無視していますけど。そういう時間をコントロールするとか、お皿の上の料理だけではない体験をデザインしているなと意識したきっかけはあったんですか?

鳥羽:これは本当に水野さんのおかげなんです。sioというレストランを作った時に、水野学という巨匠のデザインで、お店のロゴを作ってもらったんです。僕にとっては、ロゴはすごく大きいジャケットだったんです。そのジャケットに見合うように全部の時計や音楽なども選んでいる。

うちは音楽が飯を引っ張ってるんで、tofubeatsくんとやったり、その前はSTUTSくんとやったり、その前は大沢伸一さんとかとやったりしてるんですけど。そういう料理以外のところにこだわり出すと、もっとやれることが見える。だから僕トイレの設計が超上手で。掃除のタワシとか見えたらすごく萎えるじゃないですか。

レストランはすごくいいのに、トイレの照明が明るすぎて、見えすぎていやだなと思う。暗いところで掃除道具に気づかなかったりとか、香りのものをすごく大事にしたりとか。レストランで感動を体験する場所は何でもいいですよ。おしぼりでもいい。それで、コース料理を考えている時に「映画だな」と思ったんです。最初はヒーローが弱くて、後から修行して強くなって、最後は敵を倒してよかったみたいな話で。

僕、コースの最後は必ず「sio」アイスという、同じ味しか出さないです。毎回そのアイスなので誰も嫌な思いをしない。次に食べる時は一緒に食べに来た人に「食べてよ」「これがうまいんだよ」という皿でもある。毎回これを食べて、あぁsioにきたなと思える。自分のレストランでこういうことをやりたいという思いは、最初からずっとありますね。