鳥羽氏が体験した、コロナ禍の地獄のような日々

松永光弘氏(以下、松永):何年か前に鳥羽さんと一緒にタクシーでどこかのお店に行ったことがありますよね。新しい店をやるかどうかという時だったみたいで、10分ぐらいの移動の間に「やるしかないんだよな。やるよな。できちゃうんだよな」と言い続けていたのがすごく印象的でした。

鳥羽周作氏(以下、鳥羽):ヤバかった時期ですね。やらなきゃいけない案件があって、やめたらコロナの中で現金で違約金を5,000万円払わなきゃいけなくて。そんな金もないし、今やるのも地獄だっていう、前にも後ろにも進めない状況でどうしようかなっていう時期だったと思います。

それが今のHotel’sと似たようなお店で。もともとはぜんぜん違ったんですけど、最終的にやるって決めてHotel’sにしていくんですね。空家賃を毎月100万円ぐらい払って、あの時期はつらかったですね。

川村真司氏(以下、川村):こういう話はとても勇気をもらえますね。そんな時でも突っ切るし、やり切って今がある。

松永:そうなんですよね。

鳥羽:ぜんぜんヤバいですよ。だから本当につい4ヶ月ぐらい前にも、本当に残高が16万円みたいな時がありましたから。スタッフが70人ぐらいいて、5,000万円とか4,000万円とか払わなきゃいけないのに16万円しかなくて「どうしよう」みたいな。「でもなんとかなるな」みたいな。それで、なんとかなっちゃった。

松永:なんとかなるんですね。

鳥羽:なんかわからないんですけど、なんとかなりますね。これから先はわからないですけど、今ぐらいの状態だったら「絶対人に金を借りない」って決めているんですよ。最初に会社を作った時に500万円足りなくて、「やべえな」って毎日誰に金を借りようかってノートに書いていたんですけど、「やめよう」って決めて。「500万円拾う」って決めたらなんかいけちゃって。

川村:拾えたの?

鳥羽:拾えたんです。なんか拾えちゃって。

(会場笑)

松永:拾う(笑)。

川村:拾えた。すご。

鳥羽:本当に。なんか神が降りてきて、そこからなんかもう「大丈夫だな」みたいな。

夢や希望は、会う人会う人に公言する

川村:そういう引き寄せってありますよね。言っていることと、やっていることが一致していると、やっぱり「なにがしか巡ってくる」みたいなのはあるんですよね。

鳥羽:そう。だから言ったほうがいいですよ。何かやりたいこと、なりたいことがあったら、会う人にずっと言い続けたほうがいいですよ。僕は最初にお店を作った時に、「中田英(寿)さんに会いたい」って言っていて。

僕はサッカーをやっていたので、「彼と違うジャンルで、会って対等に話せるようになりたい」と、会う人会う人、お客さんにも「中田英に超会いたいんだよね」とか言っていたら、わりと2ヶ月ぐらいで会えましたからね(笑)。

川村:すごい。でも、僕が鳥羽さんに会えたのもそうだ。「鳥羽さんに会いたい、会いたい」って言っていたからね。

鳥羽:でも本当にそうですよ。だから、僕は会いたい人がいたら「あの人に会いたいんです」と、しつこく言っていますね。唯一会えないのは石田ゆり子さん。

川村:(笑)。

鳥羽:それはぜんぜん会えないですけどね。ぜんぜんもう、手口がゼロですね。どこへも行けないっていう。

川村:広く大きな声で言っておけば、どこかで会えるかもしれませんよ。でも、「やりたいことは周りに言っておくべき」というのはいい話ですよね。

鳥羽:そうですね。あと、つき抜けるのが怖いっていうことはないですね。

松永:周りに言うとやっぱり覚悟が決まるから、その裏返しでもあるよね。

川村:もし、つき抜けてうまくいかなくても、絶対そこからラーニングして別のことをやればいいだけだから。

鳥羽:そうなんです。

川村:そう考えたら別に、怖さもあんまりないですね。

キャリアの過程で海外を知る価値

鳥羽:そもそも失敗って何なんですかね。金がなくなっちゃうことが失敗なのか。死なない限りいけますよね。絶対助けてくれる人がいるし、マジでなんとかなるんですよ。

川村:そこでビビるよりは、突っ走ったほうがいい。

松永:川村さんは、なんかすごく痛い失敗みたいなことはありますか?

川村:失敗だらけですよ。

鳥羽:あるんですか?

松永:天才も失敗するんですね。何か、世界的な失敗はありますか?(笑)。

鳥羽:世界的な失敗ってYahoo!ニュースになっちゃっているでしょう。絶対ダメでしょう。

川村:あんまり公共の場で言えないので……。

鳥羽:言えないでしょう。

松永:じゃあちょっと質問の仕方を変えて、人生を変えた失敗はありますか?

鳥羽:逆にポジティブな話ですか? 

川村:失敗がきっかけで人生を変えたことか……。

松永:僕、世の中には失敗しておいて良かったことってあると思うんですよね。

鳥羽:確かにそれはある。

川村:何だろう。僕意外と、大きい失敗でキャリアが変わることはなかったですね。全力でよじ登って、失敗する前にこっちの岩に手をかけ直すというか。

松永:へえ。

川村:世界を見たおかげで、本気でさっきの、「なんか生きていけるな」っていうのは超感じました。

鳥羽:もっと恵まれていないところもいっぱいあるし。

川村:逆に外を見たおかげで、「本当に仲間に恵まれているんだな」って気づけたし。ここに軸足を置いている限りは、絶対に死ぬまでやりたいことをやれるだろうなっていう気はする。

鳥羽氏の“やりたいことをやる”の徹底ぶり

鳥羽:だから、今日見てくれている人もそうですけど、わりといけると思いますよ。本当にいけるの。でも、それが「本当にやりたいことかどうか」って話はあると思うんですよ。それがけっこう重要で。本当にやりたいことじゃないと、やっぱりまあまあいけないんですよ。

だから僕が本当にやりたいことは、「料理で人をハッピーにすること」。それ以外のことにぜんぜん興味がないから、僕、家の電気が消せないんですよ。なんでかというと、家の電気を消すことが、僕には何の意味もないから。そこに力を注ぎたくないからまったくやらないんですよ。やったほうがいいのはわかっているけど。

だから、今日も家を出てくる時にダイニングの電気も、お風呂場の電気も点いていて。でも、俺の中では戻って消すことがムダなんですよ。

なんか絶対嫌われるんですけど、もうイカれちゃっているから。でも、俺はそれよりももっと他にやりたいことがあるから「まあいっか」みたいな。だから、ガリガリ君を食っている途中に寝ちゃって、朝起きたらガリガリ君が落っこちて溶けているということがけっこうあります。

川村:(笑)。

鳥羽:ただ、ガリガリ君を落としても誰も困らないから、それはそんなに重要なことじゃないんですよ。家の人ぐらいじゃないですか。だからね、大したことではないんですよ。

松永:たぶん奥さんには重要なことだと思いますよ。

(一同笑)。

鳥羽:それで子どもがこぼしたら、僕めっちゃ怒っていますけど。「お前、こぼすなよ」みたいな。

有限の人生を生きるための「時間」の使い方

川村:でも確かに、そういうミクロなレベルで取捨選択が発生しているよね。

鳥羽:そうですね。これはアイディアの話じゃないけど、今日来た人に言いたいのは、「『残りの人生には限りがある』と本気で考えている人が超少ない」ということ。これはマジで超考えたほうがいい。時間ってめちゃくちゃ有限だから、誰と何をして過ごすかをめちゃくちゃ精査したほうがいいんですよ。

それがわかっていないやつはダメ。だから、今日から「誰と会うか」ということを超大事にしたほうがいいと思いますね。

川村:キャリアって考えたくないけど、キャリアにおいて一番大事にするべきは、お金よりも時間の使い方なんです。

鳥羽:本当にそうだと思う。

川村:どれだけ自分の時間でコントロールできているか。人と会うとかも含めて、それを自由にできることこそが、たぶんいい人生を歩んでいて、ステップアップできているということなんじゃないかな。

鳥羽:そうですね。だから常に物事に対してプライオリティをちゃんとつけて、取捨選択をすること。その選択の基準がシンプルであればあるほどいいと思う。「何に基づいて物事を判断していくか」ということを決めると、時間の使い方も全部それに紐づいてくるから。だから、それは決めたほうがいいと思いますね。

好きなことより、大義や使命感

松永:なるほど。そこで取り組むことって、やっぱり好きなことのほうがいいんですか? 好きじゃないと、そんなにしつこくいろいろやれないと思いますけど。

鳥羽:僕の場合は、好きなことっていうか、やっぱり大義、使命感みたいにやっていますね。

松永:使命感ね。

鳥羽:そうですね。「食で世の中を幸せにする」というのを、使命みたいにやっているので。良い・悪いでもないし、呼吸みたいになっちゃっていて。朝起きたら「もっと良くしたいな」と思いますもん。川村さんも絶対そういうタイプでしょ?

川村:完全に同じですね。僕の場合はものづくりみたいなことだから、本体のものをやる中で、小さい脱線があります。やったことないこと、苦手かもしれないこと、トライしてないことをやってみようと思うこと。それで、やってみて「やっぱりちゃうな」って思ったら、主線に戻る(笑)。

松永:川村さんも、やっぱり作るのが好きだから、クリエイティブが好きだからやっているんですよね?

川村:僕はさっき言ったみたいに、完全に「ものを作って生きていこう」と決めているんです。それしか、自分が世に貢献できるものがないと思っていて。僕は、ものを作ること以外は、けっこうダメな男なので(笑)。

松永:電気を消せないとか?

川村:クリエイティブだけは信用してくれていいけど、それ以外は信用しないほうがいいっていうぐらい先鋭化されているんですね。

(会場笑)

川村:だからクリエイティブには自信があって、逆に言うと、それさえあれば大丈夫って思えるからなんとか生きていける。

「貢献」を動機に仕事をする人の強み

鳥羽:同じですね。僕の場合は、料理が本当においしいんですよ。その「おいしい」にレイヤーはあると思うんですよね。「いい食材を塩とオリーブオイルで食べておいしい」もあるし、「すき焼きみたいな味」でうまいものもある。とりあえず、何でもおいしいんですよ。「まずい」と言われるものを作らないから。それがやっぱり大事で、太い幹があるからいろいろやれるっていうのもあるし。

あと川村さんがおっしゃったように貢献ですね。「世の中に貢献できる」という話が普通に出てくるのはヤバい人ですね。そういう動機で仕事をしちゃっている人は、やっぱりめちゃくちゃ強いから。

承認欲求で何かやろうという人は、川村さんが最初に言ったように上澄みの話になるけど、大したことなくって。そういうことじゃなくて、もっと深い意味なんだよな。「貢献」とか「世の中を良くしたい」みたいな話は、やっぱり深いし強いんです。だから、やるんだったら僕はそっちのほうがいいと思っちゃう。

松永:「世の中のため」って言う人は時々いますけど、「使命感を持っている」って言う人はあんまりいないですよね。

鳥羽:だって「誰がやるの?」って感じじゃないですか。「魯山人を超える」って言っているような……。

松永:「俺以外に誰がやるんだ」と。

鳥羽:そうですね。そうじゃなかったら1店舗しかやらないですよ。

川村:わかるわかる。

鳥羽:普通に1店舗やって、利益が出て、週末にゴルフ行くか、ロレックスを買うか、家を建てるか、外車に乗るかみたいになりますよね。別にそういうのはぜんぜん興味ないので。

川村:わかる。お金を稼ぎたいならもっと他の仕事をやっているし。

「稼ぐんだったらもっと他の仕事をやる」

鳥羽:そうそう。僕この間、44歳になりまして。「もうアンチに対応するのをやめる」って言ったんですよ。それまではムカつくからずっとアンチに対応していたんです。

川村:ある意味偉い。

鳥羽:僕、学校の先生をやっていたからアンチ対応は超上手なんです。だから時々やっていたんですけど、ファンの方から「そういうの、おもしろくないからやめてください」ってクレームが来たんですよ。その意見もわかるんだけど、言われているのは俺だから「ちょっと待って」と思っていたんですけど。

ある人とYouTubeの話をした時に、「44歳だし、やめよう」ってなったんですよ。「大人になろうぜ」と。それでやめることになりました。……何の話だったっけ?

(一同笑)

川村:主線は何だっけ?

松永:何にしますかね。もうそのままいっちゃっていいんじゃないですか。

鳥羽:なんかアンチ対応をやめたんですけど。そうそう、思い出したけど、僕はコンビニとかの企業案件をよくやるじゃないですか。そうすると「こいつ金儲けに走っているな」と言われることがけっこうあるんです。でも、川村さんが言ったように、稼ぐんだったらもっと他の仕事をやるって話なのよ。

川村:そうなんだよね。「他のことをしたほうが、もっと大きく稼げるんだけどな」っていうのは超あって。

鳥羽:そこをわかってないんだよな。

「これでいいのか?」と思う時にやること

川村:でも、炎上対応をされていたのはすごく偉い。僕もなるべくそういうムダはしたくないんだけど、コミュニケーションデザインに関わっている身としては、やっぱりエコーチェンバーは怖くて。

クリエイティブの解答っていろんな種類があるので、僕は自分のスタイルが、真理でもないと思っているんですよ。

鳥羽:そうですね。

川村:僕はずっと同じことをやって、自分の活動をするのが当たり前なんですけど、やっぱり「これでいいのか?」と思うこともあって。

そういう時に、「ちょっと塩辛を食べてみようかな」みたいな感じで(笑)。塩辛は苦手じゃないですけど、やっぱり別意見の人の話をあえて聞いたり、すごく嫌いなやつのTwitterをフォローしてみたりするんですよ(笑)。

鳥羽:超わかります。

川村:あえて会いにいってみようとか。

鳥羽:そうすると自分の本筋が、輪郭がちゃんと出るっていうか。

川村:そうそう。やっぱり違いを見ることで、あらためて自分の思っていた軸を認識し直すことができる。だから異文化に触れるのは大事なんですよね。

海外に行っていたのも、そういう理由です。宗教も違う、食生活もぜんぜん違う人のところに入った時、俺はどうなるんだろうと。そこから見えてくるものがあるから。そういう意味では、確かに意外と違う意見に対応することを、ちょこちょこやっているのかなと今思った。