体験欲をそそる、世界最高峰のレストラン作り

松永光弘氏(以下、松永):鳥羽さんはもはや、やっていることは料理じゃないですよね。

鳥羽周作氏(以下、鳥羽):そうなんですよ。料理はあんまりうまくないのかもしれない。

川村真司氏(以下、川村):(笑)。

松永:いやいや、そういう話じゃない。

鳥羽:わりとできるんです。

松永:いや、僕、食べてますけどおいしかった。

鳥羽:だから本当に、何でもいいんですよね。

川村:いや、何でもいいですよ。鳥羽さんの場合は料理が軸にあって、クリエイティブ全般もやっていけて、やっぱり体験に行き着く。僕の場合は何かと言われると、やっぱり映像をベースでやっている。でも今は体験が続いていて。

鳥羽:なんかマジ、映像なのかわからないけど、体験価値が最高のレストランを一緒にやりたいですね。

川村:それを考えるのがたぶん楽しいと思うんですよ。

鳥羽:俺今ね、鎌倉に1年間限定で世界最高峰のレストランを作りたくて。3年以内にやろうと思っているんです。

川村:やべえ。

鳥羽:そういうのやりたくないですか?

川村:やりたいです。

松永:1年限定。またそれは体験欲をそそりますよね。

鳥羽:そんなに時間があるわけじゃないんで、生き急いじゃってますね。何年もその店にいられないので、限定してパッとやる。1回ちょっとマスに向けてやりたいんですよ。そのマスを最大化するために、何をやるのかが重要なので。最上級の体験を作った上で、それをおろしていくのがいいかな、と。

松永:それはもう動き始めているんですか?

鳥羽:今、言い始めたところなんですよ。会う人みんなに言っていて。そうすると勝手に「何かいろいろやろう」となるから。

松永:今、川村さんも手を挙げていますけど。

川村:僕は手を挙げていますよ。

鳥羽:もう海賊船に乗りましたから。

川村:やれなかったらちょっとがっかりする。

鳥羽:そうなんですよ。だから魯山人を超えるみたいな。

川村:それ、最高ですね。でも性格は絶対魯山人の100倍いいから、もうその時点で超えてますよね。

鳥羽:魯山人ってけっこうパワハラだから。

川村:かなりブラックですよ。

鳥羽:最終的にビジネスができなくて、お金を使い過ぎて星岡茶寮を追い出されちゃうんですよね。僕は魯山人よりビジネスが得意なので。

川村:愛される魯山人ですね。

千利休が作った「感動体験」

松永:最初にsioに行った時に「おもてなしの仕方が千利休に似ているな」と思ったんですよ。

鳥羽:マジっすか。けっこうこういう(抹茶を点てる動作をして)感じでしたっけ?

松永:いやいや、そういうことじゃなくて。

(一同笑)

松永:千利休って、物も全部作っていてクリエイティブディレクターじゃないですか。

鳥羽:そうなんですよ。彼はすごいですね。日本の食の歴史は、道元が最初に禅で食をやって、その後千利休、魯山人、次に海原雄山で。

松永:海原(笑)。

鳥羽:海原雄山の次がたぶん俺かなっていう。

川村:すごいな。雄山とか(笑)。

鳥羽:千利休って、どっちかというとクリエイティブディレクターで、けっこうおもしろい話があるんですけど。お花のある、めちゃくちゃ細い道を通ってから茶室に入らせて、そこで炊きたての白いご飯を出したんですって。まったくお茶をやらずに、その細いお花の道から白いご飯をたくだけで感動させちゃうっていう。千利休もレストランをやっていたんですよね。お茶ってけっこう、そういう感じなので。

川村:体験ですよね。

鳥羽:そうなの。だから正直すごいです。

川村:だから、「そもそもこうだった」というルーツに立ち返っているのかもしれないですね。いろいろ細分化されて「料理やレストランはこうあるべきだ」とか、いっぱい出てきたけど、そこがもっと統合型になってきている。

鳥羽:そうですね。そういう体験型が1周回って戻ってきて、それを「今の感じで表現するとこうなんです」っていうのが次のレストランの真意、最高級の体験としてあるのかなと。それはめちゃくちゃやりたいですね。

川村:めっちゃやりたいです。それ、最高におもしろいじゃないですか。

鳥羽:「予約の段階から、レストランへの布石が始まっている」みたいな状態を一緒に作れたらいいですよね。例えば、どこかに集まって移動してからレストランにたどり着くとか。帰りもそんな感じのレストラン。

ディズニーランドもそうですよね。あの行くまでの電車がいいわけじゃないですか。車でもそうだと思うんですけど、電車の中からすでにディズニーランド感が半端ないですから。

川村:「始まっているぜ」ってね。

松永:なるほど。「雨の日しかやらないレストラン」とかね。

鳥羽:そうそう。傘を差して行くとか、そういうのもおもしろいと思います。

共通点は「いいものを作りたい」

松永:僕、お客さんとして行きたいんですけど、呼んでもらえますか?

川村:じゃあブレストに入ってもらって。

松永:いや、ブレストは僕はちょっと(笑)。

鳥羽:じゃあそこまでのプロセスを本にしてもらって。

川村:記録してもらってね。

松永:本にね。

川村:それ、最高じゃないですか。

松永:すみません、今YouTubeのチャットで怖いのが来ているんですよね。Whateverの社員のみなさまからなんですけど、「川村と働くのが地獄なのを知ってもらいたい」というコメントが入っています。

(一同笑)

川村:おい、誰だ? ポジティブなことも書いておいて。地獄かなあ?

鳥羽:俺もヤバいっすよ。(スタッフのほうを見て)うちもそういうのあるよね? ……目をそらされました。

川村:だから何度も言うけど、僕は真っすぐ走っているだけなんです。その過程で何人かが脱落しているのかもしれないけど、それは真っすぐフルスピードでいいものを作りたいと思っているから。

鳥羽:いやあ、本当にね。川村さんに共感しすぎて2日間ぐらい同じ話できるわ。

川村:やり方はたぶん同じだと思います。

鳥羽:いいものを作りたいっていうか、それでお客さんがめちゃくちゃ喜ぶんだったら、「やらない理由はないじゃん」っていうだけだから。

川村:そう。ただその代わり、そこに行けなかったら真っ先に腹をくくりたい気持ち。

鳥羽:わかります。

川村:お金を出しているクライアントじゃなくて、自分が一番死にたくなる。だから「安心してください。変なものができたら、あなたより先に俺が自殺するから」って。

鳥羽:いや、わかる。

松永:いやいや、危ない、危ない。

鳥羽:そうなんですよ。俺もそういう覚悟。動機がピュアでシンプルであればあるほど強いんです。ぶら下がっている、いろんなしょうもない理由なんて大して強くなくて。本当に、そこに対して真っすぐシンプルなものほど、ブレないし太いんですよ。

川村さんはただいいものを作りたい。僕もただ単にお客さんを喜ばせたいだけで、たぶん同じなんです。それ以外の不純物が混ざると弱い。

松永:変態のお二人に対して一般人代表でまた質問しますけど。

川村:褒めてますよね?

松永:いや、わからないです。

(会場笑)

鳥羽氏の熱量の原点

松永:鳥羽さんは、その熱量っていつ目覚めたんですか? 子どもの頃からそんなことを考えていたんですか? 

鳥羽:いや、そんなことはないですけど。僕はサッカーをやっていて、結果が出なくて止めたんです。同い年でぐだぐだサッカー選手をやっている人がいるんですけど、「俺のほうがうまいよな」と言っているのを見て「超だせえな」と気づいて。やっぱり、「何かもう1つ違うところでやらなきゃな」と思って料理を始めて。最初は「有名なシェフになりたい」とか「ミシュランを取りたい」という思いがあったんです。

僕はずっと水野学さんとお付き合いしていまして。水野さんが何を大事にしているかというと、くまモンをやられたり、たくさんの人を喜ばせるデザインを作ったり、「世の中を幸せにするデザインだったら何でもやります」ということなんですね。それで僕がミシュランを取ったぐらいで、そのスタンスに感銘を受けて。僕は料理人でキング・オブ・ポップになるというか、「ビートルズとかサザンみたいな料理人になりたいな」と思って。

あえてポップをやるのが格好いいじゃないですか。イチローが草野球をやるみたいな。でも、イチローをやっておかないと、「お前、草野球しかできないだろ」って言われる。それがムカつくから、とりあえずイチローもやるという。さっき言った鎌倉のレストランの話はそれです。

転機は、師匠・佐藤雅彦氏と作った「ピタゴラスイッチ」

松永:なるほど。川村さんは?

川村:え? 粘着質の話?

松永:いや、粘着質とは言っていませんけど(笑)。

鳥羽:どうやってこの熱量に行き着いたのか。

松永:そうそう。気になります。

鳥羽:博報堂もお辞めになられているじゃないですか。

川村:僕はいろいろ辞めましたね。実験気質なんですね。一番のルーツは佐藤雅彦さんです。僕はラッキーで、佐藤雅彦さんという師匠に大学の時に出会えた。それで在学中、一緒に「ピタゴラスイッチ」を作ったりしました。

鳥羽:うちの子どもも超見てますけど。

川村:そう、うちの子も見てくれてすごくうれしい。師匠と会って、ものづくりをする中で、その時の研究スタッフの方がみんな優秀なんですよ。僕はデザインもしたことがなかったので、すごく軟派な、くだらないデザインしかできなかった。それである時に「川村さんのデザインには角度がない」って言われたんですね。

鳥羽:ああ、わかるな。

川村:「何それ?」みたいな。でもなんかすごくわかる気がしてきて。なんか“手わざ”でやっているっていうか。

鳥羽:表面ですよね。

川村:そうそう。「『ものづくりで食っていこう』という決意がないから、それがデザインに出ている」みたいに言われて。一字一句こんな言葉ではなかったかもしれないけど。

その時に「どうしよう」と思いました。「やめるか」「突っ走るか」。それで突っ走ろうと決めたので、もう絶対ものづくりで食っていくと決めています。それに応えるために、目標はブレずにずっとやっていますね。それが第一です。

松永:なるほど。

川村:ただ、やり方としてはいろんなメソッドがあると思いました。それで1回博報堂に入ったんですけど、海外のほうがおもしろいことをやっていそうな気がして。何か秘密のソースというのか、秘密のレシピがあるんじゃないかと思って。

そこからロンドン、アムステルダム、ニューヨークに行ったり、3~4ヶ国を転々としましたけど、結局どこへ行っても同じだなっていう。その国ならではのプロセスとカルチャーで作っているだけで、結局どこへ行っても関係ないなと思った。それで、日本に帰って前の会社を始めたんですね。

松永:武者修行ですね。

川村:働き方の実験もしないと、たぶんいいアイディアを生みやすい環境を作れないと思って。結局、それを知るための行脚になりました。

「決める」ことが大事

鳥羽:今川村さんが言った「決めちゃった」ということが大事なんですよね。覚悟は「持つもの」じゃなくて、「決めるもの」というか、「やるんだ」って決めちゃうのがいいんですよ。

だから僕は「魯山人を超えます」って言っちゃってるじゃないですか。だいたい笑われちゃうんですよ。「魯山人を超える? こいつ本当にヤバいじゃん」ってなるけど、俺は「やる」って言っているから、やれちゃうんですよ。

たぶん「決める」ということがすごく大事。別に人がどう思うとか、超どうでもいいんですよ。川村さんもそうだけど、「決めたことに対して、どれだけピュアに自分と向き合えるか」だけなので。

川村:基本はそうですね。

鳥羽:それは別に大きい、小さいは関係ないです。「明日から毎日何かをする」とか、ダイエットと一緒ですね。何かを決めて、やり遂げること。その成功体験の積み重ねをもっとどんどん……。

松永:ちょっといい話過ぎて水を差したいですけど。

(会場笑)

川村:水を差してください(笑)。

鳥羽:いい話のつもりじゃなかったけどな。

松永:怖くなったりしないんですか?

鳥羽:できなかったりとかですか?

松永:つき抜けていくことに。

鳥羽:ないですね。だって……。「できるまでやる」から、「できない」っていうことがないんですよ。だから「できない」か「死ぬか」しかないので。

川村:それわかる。

「できる」「できない」を決めるもの

鳥羽:僕、店の売上が悪くても、絶対つぶさないんですよ。だから、さっき言ったように超しつこいんで、絶対ケンカも勝つまでやります。しかも絶対同じ土俵でやる。

今回、丸の内の店がコロナでめちゃくちゃ売上が悪くなったんですよ。あんなにテレビやSNS上では派手にやっているのに、毎日5万円とか赤字を垂れ流して「うわあ」「どうしよう」とか言っていたんです。若いやつらは「シェフ、俺たち料理を作りたいです」って言って「やるか!」みたいな感じで。それで今、リプランニングでフレンチからイタリアンに変えたらめちゃくちゃ入っているんですね。

それで、みんな「やったじゃん」ってなっているんですけど、僕はそれでは満足しないから。「これが普通だから。今よりもう1段階上に行くために、もう1回今やっているものを全部壊すから」って言って、それが先週。

川村:ざわざわざわみたいな(笑)。

鳥羽:それが先週、みたいな(笑)。

川村:僕も鳥羽さんと仕事するポストないですかね? 地獄かもしれませんけど(笑)。

鳥羽:俺と仕事しても地獄じゃないですよ。(スタッフのほうを見て)俺、そんなのないでしょう?

松永:地獄です。すみません……。

川村:現場でのリアクションがいいですね。

鳥羽:いやいや、でも地獄じゃないです。

川村:鳥羽さんがおっしゃるとおりなんですよ。決めちゃって、諦めなければ、「別に失うものは何もない」から。だから「怖くもない」のも本当にそう。別に、道を他で探せばいいだけだから、何とでもできるっていう。

鳥羽:「自分ができなかった」という事実は、人が決めることじゃない。自分の中にしかないんですよね。最終的に自分が諦めたら、「そこでできなかった」ということが決定する感じ。

川村:それで負けですよね。

鳥羽:最後にジャッジするのは自分なんです。だけどなんとなく、世の中が判断しているみたいな雰囲気になっちゃっている。絶対何かしら、自分が諦めていなければ終わっていないので。人生なんてそんなものじゃないですか。

川村:完全にそうですね。

鳥羽:超しつこいですよ。