「sio」オーナーシェフ・鳥羽周作氏への登壇リクエスト

松永光弘氏(以下、松永):みなさんこんばんは。昨年12月に『ささるアイディア』という本が出まして。今日はそれにちなんで「もっとディープに『ささるアイディア』」ということで、出版記念のトークイベントをお送りします。本日モデレーターをさせていただきます松永と申します。この本の編著者で、編集家という仕事をしております。よろしくお願いいたします。

今日は3人で進めていきます。真ん中にいらっしゃるのが、クリエイティブディレクターの川村真司さんです。このイベントの主催をしている会社、WhateverのCCOで、世界的なクリエイターとしても知られています。

川村真司氏(以下、川村):よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

松永:そして最近この人の顔を見ない日はないぐらい、八面六臂の活躍をされています。学校の教科書に名前が載る日も近いんじゃないかという活躍ですね。

鳥羽周作氏(以下、鳥羽):そうですね(笑)。目標は魯山人超えなので。

川村:(笑)。

松川:レストランsioのオーナーシェフでいらっしゃる鳥羽周作さんです。

鳥羽:よろしくお願いします。

(会場拍手)

松永:今日はこの3人でお送りいたします。どこから始めましょうか?

川村:どこからにしましょう。さっき裏ですごく盛り上がっちゃったんだけど。

松永:そうなんですね。

鳥羽:一番重要なこと話しちゃったかも。

川村:結論出ちゃった(笑)。

松永:今回、僕と川村さんで「トークイベントをやりましょう」というお話になったんですけど、その時に川村さんが第一声で「鳥羽さんと一緒にやりたい」とおっしゃって。川村さんは、なんでそんなに鳥羽さんと一緒にやりたかったんですか?

川村:この本、全体的にすごくおもしろかったんですけど。僕はふだん広告寄りの方の話はよく聞くんですけど、職種が近いとそれなりにわかっちゃうんです。だから特に異ジャンルの方、例えば建築の方、ホテルをやられている方、料理人の方の文章を読んで、「やっぱり違うな」とか「共通点もすごくあるな」みたいなのに気づくのがすごく楽しかったんですね。

鳥羽さんに関しては、これまでフォローはさせてもらっていたんですけど、この本の鳥羽さんのところを読んだ時に、あらためてロジックとか思考の過程が、すごく似ているなと勝手に思って。それがめっちゃうれしかったんですね。

松永:へえ。

鳥羽:光栄です。

川村:そうなんです。それで、「トークイベントをやるんだったら、マジで忙しいと思うけど、鳥羽さんにお願いできないですかね?」とお願いしたのを覚えています。

「好き」から学べること

鳥羽:なんとかして、絶対スケジュールを空けようと、3回ぐらい調整し直しましたからね。

川村:すごい(笑)。

松永:1回はこっちの事情だったので申し訳ないですけど(笑)。

鳥羽:僕は、料理人の友だちが日本一少ないシェフで有名なんです。Facebookのメッセンジャーをたどったら、ほとんどいなくて。お付き合いがあるのは建築家の人とか、水野学さんとか。

川村:一緒にお仕事をされていますね。

鳥羽:そうですね。あとは洋服関係の人が多くて。今年の僕のテーマは「洋服を勉強する」なんです。洋服が好きで、めちゃくちゃ勉強をしていて。ユニクロの超デカいシャツを通販で買って、自分で作り直しています。

川村:すごい。それはマジで好きですね。

鳥羽:洋服を作る側の人の気持ちや考えも、アーティスト寄りの人もいれば、クライアント側に立つ人もいて。そういうブランド、全部買っちゃって、今家の中が服だらけでマジヤバいです。

川村:すげえ(笑)。

鳥羽:単純に、料理から学ぶより他のところから勉強をしたくて。

松永:おもしろいですね。

鳥羽:「だからこれ、売れてるんだ」とか。同じような価格帯でも売れているところと、売れていないところがあるじゃないですか。そういうのを見て……。

川村:異業種のそういうプロセスを、料理に持って帰ってくるという感じでもないんですよね。料理に多少取り入れるのかもしれないですけど、なんか別物ですよね?

鳥羽:そうですね。「この料理の盛り付けとか食材は、洋服からヒントを得て……」とかあるわけないから。

松永:(笑)。

川村:(笑)。

鳥羽:そういうんじゃなく、感覚の話ですよね。考え方を、料理のフォーマットに移し替えることはあるけど、それがいきなりプロダクトに直結することはないです。例えば、「最近ネイビーの服をよく買っているから、お皿をネイビーにしよう」とか。

川村:良かった。そんな短絡的なことじゃないとは思っていましたが、なくて良かったです。

鳥羽:でも、そういう人もいますよね。

川村:いるいる(笑)。

「クリエイターで最上位なのは料理人だ」

松永:川村さんも、興味の範囲が広いですよね? 

川村:僕、広いですよ。自分ではぜんぜんできないんですけど、料理は大好きです。僕は、「クリエイターで最上位なのは料理人だ」といつも言っているんです。

松永:へえ。

川村:だって五感を使いまくりじゃないですか。見てよし、嗅いでよし、触ってよし、味わってよし。かつ、「血と肉になるってすげえな」みたいな。やっぱりこれは勝てないですよ。だから、そのプロセスには勉強になることがすごく隠れていると思っていて。興味ぷんぷんなんですよ。クリエイティブプロセス自体にも、オタク的に興味があります。

松永:再現性もありますよね?

川村:そう、それがすごいんですよ。「あの味が食べたい」と思って店に行ったり。あと、「おふくろの味」みたいに、記憶にも結びついていますよね。それって、他のクリエイティブにはないですよね。ないことはないのかな?

鳥羽:あと、文化に紐づいている可能性もめちゃ高い。

川村:めっちゃそうですよね。

鳥羽:やっぱり時代背景によって、料理のアウトプットの仕方も変わってきますよね。例えばフランス料理だと時代背景的に保存しなきゃいけなかったから、いろんなパテがあったり。でもイタリアではそうじゃなかったから、わりとただ焼いただけの新鮮な料理が多くて。こんなふうに料理の仕方には時代背景や文化がある。

川村:おもしろい。

鳥羽:そういう意味では料理って本質的だけど、結果としてクリエイティブって言われるようになってきている。ありがたいですよね。

川村:なるほど。やっぱり文化が凝縮されていますよね。

鳥羽:そうですね。

川村:歴史の積み重ねであると。そんなの聞いたら「それは料理すごいわ」ってキュンキュンしちゃいますよね。

鳥羽:そうなんですよ。この間、建築家の人と話したんですけど、料理ってその場でやることが多いですよね。常にその場で作る、仕上げるっていうライブ感と、感動体験が紐づいている。そういう意味では、ものすごくクリエイティブだよねと。

川村:究極ですよね。それを含めたら、本当にパフォーマンスアートとも言える世界になる。シェフは気が抜けないというか、本当に全方位ですよね。

鳥羽:そうなんです。

川村氏の“料理リスペクト”の原点

川村:僕はカメラの裏でちゅくちゅく作って、完成したら表へ出ないでいいけど、シェフってオープンキッチンならそんなこと言っていられないし。本当にすごいな。

松永:料理はクリエイティブとして異次元ですよね。

川村:僕は料理が下手くそなので、余計異次元に感じます。オランダに住んでいた時、必要に駆られて料理をしまして。あそこは、ふかした芋しか食べないんですよ。オランダの方が見ていたら本当に申し訳ないんですけど。

鳥羽:(笑)。

松永:それはきついですね。

川村:チーズそのままか、ふかした芋にバターを乗せたものぐらいしかおいしいものがない。

松永:そうなんだ。

川村:8年前ぐらいはそんな感じでした。だから、しょうがなく慣れない料理をせっせと作って。それで学んだのは「これ、よくやれるな。すげえな」ということ。もうリスペクトしか生まれなくて。

そこから、できないくせに「どうやって作っているんだろうな?」と考えながら食べるようになりましたね。あと、やっぱり料理だけでもないんですよね。空間というか、食べる場所もある。やっぱり総合芸術感がすごすぎて。

松永:確かに。

鳥羽:今日すでになんとなくご一緒していますが、先に言っておきますけど、川村さんと僕は今後一緒に仕事をしちゃうと思う。

川村:やった! やるぞ。

ただ料理を作って提供する時代の終焉

鳥羽:僕らの世界では、「単に料理を作っていけばいい」という時代が終焉を迎えはじめていて。「ご飯を食べる体験」と「その前と後ろの体験」をどう作るかが大切になってくる。だから、料理以外のことも重要なんですね。

僕は最近、「感動体験を作るための文脈がないと感動しない」という話をめっちゃしているんです。例えば、めちゃくちゃ大変な思いをして富士山に登って、そこで食べるカップラーメンしょうゆ味って、めちゃくちゃ感動するわけですよ。たかだか200円ぐらいのやつが「うわぁ!」ってなる。

寝起きに、テーブルの上で食っても別にそうでもない。「まあこんなもんじゃん」ってなる。要はその過程があっての体験価値に、感動の深さが絶対紐づいてきちゃうから。

「頑固おやじのラーメン屋」みたいな話って、今の時代はあまり通用しないんです。じゃあ、「食事の前と後ろをどう設計していくのか」という時の設計図は、料理人だけでやるよりも、川村さんみたいなところから狙って作っていく時代になっていて。「そのためのリードタイムをしっかり取って感動させる」みたいなことはすごく考えてやっていますね。

松永:なるほど。

川村:僕らがクリエイティブの講義で、聞いたり言ったりすることと完全に同じことを語られていますよね。料理からそこに行き着いたっていうのが、やっぱりすごくおもしろいなと思いました。

松永:しかも実践していますからね。

川村:やっぱり今は、バリューをクリエイティビティで上げるには、そのモノ自体もあるんだけど、前後のストーリーが大切なんですよね。

3分、5分、10分の「時間指定」で生まれる体験の価値

鳥羽:そうなんです。今、ローソンさんで僕が監修したアイスが出ていますけど、うまいとかまずいとか、そんなのは別にどうでもいいんですよ。僕らはおいしいと思ってやっているし、好みもあるから。

そういうことじゃなくて、それを川村さんと一緒にやったらどうなるのかなと思った。今回僕、全部のアイスに時間指定をしているんですよ。最初に発売した「なめらかチーズワッフルコーン」は「5~6分待ってから食べてください」と言っていて。次に発売した「白桃ジェラートバー」は3~4分、最後に出た「ティラミスアイス」が10分くらいなんですね。

その価値がでかい。要は何も言わないで食ったら「こんな感じか」「おいしくないじゃん」とか「うまいじゃん」とか、そんな話ですよね。でも、そこに「時間指定」という要素が入ると、「5分待って食べたらやっぱりこうでした」と報告をしたくなる。それがめっちゃ大事なんですね。

コンビニの食べ物なんて、コントロール不能なんですよ。勝手に買われて、勝手に食われて、勝手に評価されるっていう状態を、こっちから食べ方を指南することで、少しだけコントロールしている。そこに体験の価値が付くという。

川村:おもしろい。

鳥羽:僕は弁当でも、そうやって設計図から商品を作ることをめちゃくちゃやっているから。

川村:やりたい。

松永:なるほどね。

鳥羽:そういうのを川村さんと一緒にやりたいですね。

川村:それはすげえおもしろい。

鳥羽:絶対いいですよね。

川村:もうここでしゃべっている場合じゃないです。ちょっとブレストし始めましょうかね(笑)。

(会場笑)