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shiawaseシンポジウム2022 「KAWAIIと幸せ」(全3記事)

ピューロランドの館長が「利益最大化」よりも大切にしたこと 「かわいい」を通じて見据える、次世代のリーダーのあり方

「幸せの新しいカタチを考えるシンポジウム」として、2017年にスタートしたshiawaseシンポジウム。共同実行委員長の前野隆司氏を筆頭に、幸福学、ポジティブ心理学、マインドフルネス、コーチング、幸せな経営など、「幸せ」に関するさまざまな活動を行う専門家が登壇し、「幸せ」をテーマに基調講演を行いました。本記事では、サンリオエンターテイメント代表取締役社長、サンリオピューロランド館長の小巻亜矢氏の講演の模様をお届けします。

「幸せ」を感じづらい風潮がある現代社会

前野隆司氏(以下、前野):小巻亜矢さん、よろしくお願いします。

小巻亜矢氏(以下、小巻):おはようございます。よろしくお願いいたします。

前野:よろしくお願いします。

小巻:別セッションの宮田(裕章)先生と前野先生のお話を聞いて、激しく共感しながらたくさんメモをしてました。すごくいろんなキーワードをいただいて、ありがとうございます。

今日は「自分自身がどんなポジションでお話をするといいかな」と思ったり、「幸せ」ってすごく大きいテーマなのでいろいろ思いを巡らせていたんですが、ありのままに、今の自分の率直なところをお話ししたいなと思っております。

まさに今、世界中がこういう状況の中で「幸せを感じていいんだろうか?」と感じる人も多いし、毎日ニュースを見ながら心が痛くて。コロナのこともあるし、国際情勢がこんなだと、「一人ひとりのウェルビーングの数値を測ったら、ある程度のパーセンテージはマイナスになっているのかなぁ」なんて思いながら、昨日の夜も遅くまでニュースを見て考えてました。

宮田先生への質問にもあったように、「家が破壊されている状況に比べれば、自分は幸せだ」という思考の順番はどうしてもあると思うんですよね。「それに比べれば自分はありがたい。寝るところも、食べるものもある。本当に幸せだ」「人の不幸と比べたら自分は幸せ」というのとは、ちょっと違っていて。

あらためて、自分の感謝を感じることで「ありがとう因子」がきっと働くと思います。まずは自分が恵まれていること、ささやかな幸せがあること、「自分の幸せを許していい」というところから幸せが始まらないと、なかなか難しいですね。

「らしくない」経営者として、利益より大事にしたもの

小巻:シェアするということは、もともとあるものを分けることだから、自分の幸せが空っぽだと分けることもできない。そんなふうにつらつらと、まずは自分の幸せを感じてみたり、自分の周りの幸せを見つけてみることもあっていいなと思った次第です。前野先生とのご縁で、今日はこんな貴重な場をいただいてありがとうございます。

前野:いえいえ、こちらこそありがとうございます。

小巻:そもそも、これが私にとって本当に幸せなひと時だなと思っていますので、楽しく、幸せをシェアできるような話ができるといいなと思います。

今、私はサンリオエンターテイメントという会社を経営しております。「ピューロランド」と、大分県の「ハーモニーランド」というテーマパークの経営者なんですが、経営者らしくない経営者なんですよね。「経営者らしい」って何だろう? とも思うんですけどね(笑)。

テーマパークビジネスの骨格は、「利益最大化」「滞在時間最大化」とか、いかにお金を落としてもらうかなんですが、私は長く教育のNPOや女性の活躍支援をやってきて、どちらかというと「利益、利益」というよりは、企業の片隅で肩身の狭い思いをしながら、儲からないことをやってきたところがあります(笑)。

経営者という立場に、居心地の悪い部分もずっとあるんですけれども。だけど最近思うのは、もちろん企業としては利益の最大化は大切なんだけど、それを最優先事項に置かない時代になってきていて、逆に今まで私がやってきたことが活きるんじゃないかと思い始めたんですよね。

「みんなが笑顔になる」「一人ひとりが尊重される」とか、そういうダイバーシティ&インクルージョンを先に考えたうえで、ピューロランドに長くいたくなったり、もっとこんなものが欲しくなったり……というかたちで、結果として滞在時間が長くなったり利益がついてくる。時代がそういう経営になってきてると思うんですよ。

テーマパーク経営前から行っていた、NPO活動

小巻:自分の今までやってきたことが活きるという意味では、これまでのステレオタイプの経営者ではなかったんですが、「これからの経営者なのかも?」と最近は思うようになりました(笑)。

前野:すばらしい。

小巻:うれしい。こうやって、前野先生が聞いてくださるかたちだったんですね。ありがとうございます。

前野:いやいや、声が入っちゃっただけです(笑)。

小巻:(笑)。うれしいです。つぶやいたり相槌をうったりしてくださると、すごく話しやすいです。

現在進行形なんですが、テーマパークの経営の前からハロードリームというNPOを長くやっていて。「世界平和」の手前のところで、自分の半径50メートルぐらいの人たちの中で笑顔のコミュニケーションがとれるといいねということで、「笑顔のコーチング」というプログラムを全国でやってきているんです。

プログラムの中の1つに「笑顔のスイッチを探す」というワークがあるんです。自分がどんな時に笑顔になってるかを4人1組でブレストして、できるだけ難しく考えずにどんどん出していく。

「『ありがとう』と言われた時」「自分が誰かの役に立った時」「子どもの寝顔を見た」「洗濯物がカラッと乾いた」「お釣りが888円」「(小銭が)きっちりお財布の中に入っていた」とか(笑)。本当にささやかな日常のことで人は笑顔になって、ほっこり幸せになれる。それを2008年からやっているので、もう14年、いろんな笑顔のスイッチがあるんだなというのを感じてきました。

来場せずに楽しめる「バーチャルピューロランド」を開設

小巻:笑顔って、幸せの象徴的な表情でもあると思います。笑顔になれることをたくさんやっていきたいなと思って、ずっと地道な活動をしてきた中で、今はテーマパークをやっています。

「笑顔になれること」や「人の幸せ」は、人それぞれなんだなぁとずっと思っていました。価値観が違うし、どういう生き方をしてきて、どんな経験をしてきたかで価値感が醸成されてくるんですが、100人いれば100通りの幸せの価値観があるんだなと思います。

テーマパークをやっていると、キティちゃんに会ってぱぁっと晴れやかな笑顔になる瞬間とか、泣いていたお子さんに好きなキャラクターが近づいてきて思わずにっこり笑顔になるとか、そういう場をたくさん目撃してきています。キャラクターやかわいらしさというものが、幸せにすごく紐づいてるんじゃないかなとずっと感じながら仕事をしています。

今日は「みんなでしあわせをシェアしよう」ということで、「KawaiiとShiawase」というテーマでお話をしようと思います。

せっかくなので、テーマパークっぽい写真をみんなに見てもらいます。苦笑いなのか、少し微笑みになったのか、朝からお腹いっぱいな感じなのか(笑)。いろんなことが起こっていると思うんですが、今はこうやってたくさんのキャラクターに囲まれた環境で仕事をしていて、

「メタバース、メタバース」と言われる時代になってきましたので、(スライド左上の)「バーチャルピューロランド」というものを作って、来場しても・しなくても楽しめるテーマパークにしていこうとか。『地球はひとつの星だから』というSDGsのショーを作って、SDGsの推進をしたりしています。

「自分さえよければいい」ということでは、なかなか幸せは難しい時代だよねと思います。この『地球はひとつの星だから』というのは、「自分だけよければいい」「自分の国だけ」「自分の会社だけ」じゃなくて、「みんなつながってるから、幸せを循環していこう」というメッセージを発しているショーなんですね。

創業社長が伝え続けた「モノ」から「コト」への移り変わり

小巻:こんなところにいると「いつも笑顔で幸せだな」と思う半面、やっぱり仕事ですので、日々いろんなことが起こってなかなか苦しかったりもします。

特にコロナ禍では、経営自体はとっても苦しい状況になったりします。今日の機会もそうですし、本当に時代が変わってきていて。いろんな方とつながる中で「これから自分たちは何をしていくべきなんだろう?」「私たちはなんでこの事業をやってるんだろう?」と、深く考えさせられることが多かったです。

お金の価値、市場から世の中が変わってきていて、もう資本主義が行き止まりになってきているというお話もありました。もともとサンリオグループの中でテーマパーク事業を始めたのも、「モノからコト、コトを体験して得られるその瞬間の感情に価値が生まれる時代になっていくだろう」という創業社長の先見の明があって。

物とかお金というのは、人と交換できる価値ですよね。そういうことじゃなくて、人と交換できない「楽しい」とか「うれしい」という感情。(創業社長が)時代を読む力があって、1990年にテーマパーク事業が始まってるんですね。

経営そのものは本当にいろんな時代があって、なかなか黒字化できなかったりといろいろありました。やっとここにきて、モノじゃなくてコトの時代になりました。

キャラクターを通じて見た、お客さんの「心の変容の瞬間」

小巻:例えば「ここに行くとちょっと癒される」「ここに行くことが子どもたちの1年間のご褒美になって、生きがいを感じて次の日からまたがんばれる」とか。あとは大人で、バリキャリの女性からも「ここに来ると幼い頃の素の自分に戻れる」とか、本当にうれしい声をいただくようになりました。やっぱり、こういう場は必要なんだなと思います。

非常に商業主義でもあるんですが、その中でも私たちは「テーマパークを使って何ができるのか?」ということを、ここ数年は大切に運営をしているところです。

その中の1つで、まさに前野先生にもお力をお借りしている「Kawaii」の研究。モノの時代からコトの時代になって、人と交換できない価値は「感情」です。「私の代わりに感動して」「私の代わりに喜んで」というのは、なかなかできないわけですよね。ですからその「感情」というものが、幸せやウェルビーングにすごく重大な要素でもあります。

その感情の中でも、「かわいい」というのは特に身近な感情でもあるし、わかりやすい喜びの感情でもあるんですよね。先ほどもちょっと言ったんですが、長いことキティちゃんに関わる仕事をしていると、たくさんの心の変容の瞬間に立ち会ってきているんですね。

「泣いているお子さんが泣き止む」とさっき言ったんですが、例えば「キティちゃんのついてるコップだったら苦い薬も飲める」という難病のお子さんのエピソードだったり、さっきのバリキャリの女性の話とか。あるいは男性であっても、ピューロランドに足を踏み入れると娘との思い出が瞬時によみがえって、すごく幸せな気持ちになると。

「Kawaii」のメカニズムを解き明かす研究も

小巻:かわいいものに触れた瞬間、人の心にはなにか変化が起こっているとずっと思ってたんです。「癒される」「ホッとする」ということだけじゃなくて、それをエビデンスにしたいなと思って、「Kawaiiのメカニズムを幸福学・脳科学の観点で解き明かす」という研究をしています。

対象者6,000人超え、7,000人近いアンケートをとって、「かわいい」に触れているとどんな幸福度の変化があるのか。比較的「かわいい」に慣れ親しんでいるサンリオエンターテイメントの社員の幸福度はどうか。かわいいと感じている心の分析をしていくうえで、どんな因子、どんな要因に分析できるのか。そもそもかわいいという感情が、日本の中で、あるいは世界の中でどういうふうに扱われてきたのか? ということを、ひもといてきました。

いよいよ研究は佳境に入ってきておりまして、MRIを撮って、かわいいにすごく触れている人の脳とあまり触れていない人の脳の違いとか、バイタルのデータまで踏み込んで研究をしたいなと思っています。

今のところ言えるのは、間違いなく、かわいいものに触れているとか、かわいいアンテナが敏感だったり、人に対して「かわいい」という言葉をたくさん発していたり、あるいは自分が自分のことをかわいいと思う、かわいく振る舞いたいと思う、かわいいと思われたい人のほうが、幸福度が高いというところまで見えてきています。

これからもうちょっと掘り下げていって、かわいいが人をちょっとでも幸せにしたらいいなということで、こんな研究をしています。

「もっと幸せになるために毎日腹筋を100回やりましょう」と言われてもちょっときついんですが、「身の回りにかわいいものを置いてみましょう」「かわいいという言葉を意識して発しましょう」とか、かわいらしさを拒絶しないで、自分の行動の中に取り入れてみましょう。

完璧ではなく、弱みを見せるリーダーシップのかたちもある

小巻:例えば企業のこれからのリーダーは、「弱みを見せても良いリーダー」と言われている部分がありますよね。ちょっと助けてあげたくなるとか。人って、弱々しい人や赤ちゃんとかに対して「自分が守ってあげたい」という気持ちになった時に、かわいいという気持ちが創発されるんです。

ですのでリーダーのあり方も、自分が完璧でなんでもできるというよりは、むしろ「助けてあげたい」と思わせるようなリーダーシップもあるんじゃないかとか、いろんな仮説を立てながら研究をしております。

なかなかおもしろい結果というか、ある意味想定どおりではあるんですけれども。データとエビデンスをとって、これをマーケティングと掛け合わせて使えるロジックにして、世の中に送り出したいなと思っています。

私の思いとしては、サンリオの中でずっとかわいいものに触れてきて、いろんなものを目撃してきました。かたやNPOの活動や女性活躍支援の中で、もっともっとみんながお互いを尊重できるような、笑顔を引き出し合えるようなコミュニケーションをすることが、ぐるっと回って自分自身の日常の「ちょっとした幸せ」につながることをいろいろ見てきました。

それをきちんと“お化粧”してというか、箱に入れてお届けできるようなかたちにしたいなということで思っています。やりながらも「これが何の役に立つのかなぁ?」なんて思うこともなくはないんですが、自分の1つの役目としてやり遂げたいなと思っています。

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