2024.12.24
ビジネスが急速に変化する現代は「OODAサイクル」と親和性が高い 流通卸売業界を取り巻く5つの課題と打開策
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谷尻純子氏(以下、谷尻):お時間も迫ってきましたので、3つ目の問いに移ろうかと思います。
3つ目は「いいビジョンは結局、何につながっていくのか」という話です。まず淳さんに、ビジョンが浸透する前後の話も踏まえてお答えいただこうと思うんですけれども。結局、中川政七商店では何につながりましたか?
中川淳氏(以下、中川):誤解を招くといけないんですけど、今の周さんの時間軸の話はまさにです。(ビジョンを策定した)2007年から15年経っていますけど、コロナでいろいろとあったものの、業績は今のほうがいいですよ。だからビジョンを優先して短期のPLを優先しなかった結果、PLも良くなったという話というのが1つ。
あとは最初は覚悟があったんだけど、だんだんと弱ってきて折れそうになっている経営者に、「結果は一番最初何に表れますか?」ということを聞かれます。その時によく言っているのは「採用に表れます」ということです。
うちもそうだし、工芸企業さんのコンサルをやっていてもそうなんですけど、突然レベルの違う人たちが現れるということが起こりますね。
例えば奈良にあるコンサル先の堀内果実園さんは、まだライジングしたばかりの時に「淳さん、一橋大学の子が応募してきたんですけど、どうしたらいいですか」と。「いやいや、普通の対応をしてください」って言いました(笑)。でも彼らからすると「吉野の果実園になぜ?」と驚くわけなんですよ。一番最初に表れる結果はそこなんじゃないかなと思います。
谷尻:ありがとうございます。周さんから見ていて、いいビジョンは何につながるのか。淳さんが先ほどお話しされたこと以外に何か思われることはありますか。
山口周氏(以下、山口):やっぱりタレントが集まります。淳さんの話もそうだし、所沢の石坂産業さんもそうなんですが、本当にいろんな人が転職してきます。僕の広報の対応をしてくれた方は、新卒でauに入って、ものすごく人気企業なんですけど、「もう我慢できなくなって転職してきました」と言っていました。
ビジョンは一種の錬金術だと思っています。つまり、本当は報酬を出さないとそういう人は人材マーケットで買えないんだけれども、報酬の中身は実はいろいろなんですよね。金銭の報酬もあれば、意味的な報酬もあるし、承認の報酬や貢献報酬もある。人に貢献しているというのもそうだと思います。
みんな金銭的な報酬だけで、人材市場でいい人を採ろうとすると、なかなかこれは厳しい。ましてや小さい会社だと絶対難しいんです。実は世代が下になればなるほど、金銭的な報酬から意味的な報酬とか貢献報酬を求めている人たちが増えるので。
人材マーケットの戦略的にもビジョンを掲げることはすごく正しいんですよ。しかも若い人たちはNet Present Value(正味現在価値)が一番大きい人たちなので。すごく効果として大きいと思います。
山口:あと少し組織論的な話をすると、アイデアの数とかイノベーションの最も重要な関数は何かと言ったら、わかりやすく言うと「考えている時間」なんですよね。昼間会社にいる時間しか考えませんという人と、会社が終わってお風呂に入っている間もなんとなく考えちゃうとか、ベッドに入っても考えちゃうとか、子どもと土日に遊んでいる時でもふとなんとなく考えちゃう人は結果が違ってきます。
エンゲージメントの高い人はやっぱりそういう考えてしまう状態になるわけですよね。だいたい1日に睡眠時間は7〜8時間取っているので、多くの人の可処分時間は16時間ぐらいです。
そのうち仕事をやっている時間が8時間で、その時間しか考えない人と、その他の可処分時間もちょこちょこ考えている人を見てみると、経営資源ということで1.5倍とか2倍の結果になるんですよ。
どっちに向かって走っているのかがわかるので、上司の手から離れて監視されていない状態でもずっと考えている。ビジョンもわからずにただ単に会社に行って、上司から言われたことをやって給料分の仕事をやってスイッチオフになる人と比べたら、長い目で見たら絶対差が開くんです。
だからビジョンは何につながるかと言うと、まったく追加資源なく経営資源をマキシマイズするということなんです。だからこそ人的資源がどれぐらいなのか、エンゲージメントが高い状態なのかを財務情報として開示しろという圧力が、今とても強まっているんです。
お金のあるないは関係ない。エンゲージメントの高さ、会社のビジョンに共感しているかどうか、そこにモチベーションを感じているかどうかというのが、むしろ競争優位を左右する。その情報を整理して開示させるという圧力が強まっている背景は、そういうことだと思っています。
谷尻:ありがとうございます。淳さんに少し視点を変えて聞いてみたいんですが、今お二人からは、組織の人数がある程度多い会社では、こんなふうにビジョンが機能するというお話をいただいたと思います。
ただ、例えば中川政七商店では、「N.PARKPROJECT」という、奈良の個人事業主さんや個人でお店を営む方の経営のお手伝いをさせていただく、奈良のまちづくりのような事業をやっています。そういった従業員を持たない個人の方がビジョンを持つ意味はあるのか聞いてみたいんですけど、どう思われますか。
中川:意味はあると思います。
谷尻:どんな意味がありますか?
中川:ビジョンが必要だと思った最初のきっかけの1つは、自分のためでした。会社に戻って最初の2〜3年目に立て直しをした時は、目の前の赤字もあって必死だったんです。でも黒字になると経営者はもうやることがないし、僕は飽き性なので、このままいけるなと思うと暇になったんです。これでは気持ちが持たなくて、残りの20〜30年は働けないなと思って。
山口:よくわかります。
中川:まずは自分のためでもあり、でも「そう考えるとみんなも同じだよな」と。予算達成して、もうそれ以上ないとなったら働けないよなと思いました。自分のためでもあり、みんなのためでもありというところから始まっています。
だから小さな会社であっても、何か自分のためにそういうのがあったほうがいいなぁと思いますので。
谷尻:ありがとうございます。
山口:会社のビジョンじゃなくてキャリアのビジョンでもいいと思うし、個人の人生のビジョンでもぜんぜんいいと思いますね。僕のビジョンは「そんなの実現しないよ」「そんなに現実は甘くないよ」と言われそうで、たぶん実現しないんですよ。
ただ実現することにそんなに価値があるのかという気もしています。何かある星を掲げて、そこに向かって歩いていること自体が、人生の価値を上げると思っているんですね。必ず学びも濃密になりますし。
あるいは淳さんの「日本の工芸を元気にする!」って、無限に追求できる目標ですよね。「ここまでいったら元気です。はい、終了です」とはならない。どれぐらいの距離のものであれ、それを掲げているということ自体がプロセスを有意義にしますし、あまり無為に過ごすということもなくなるんです。
場合によっては別のビジョンが出てきて、そうしたら変えればいいと思っているんですね。結局達成できたできなかったはともかく、それを目指してずっと歩き続けたということ自体、後から振り返ると「まあ悪くなかったな」と思えるものになるんじゃないかなと僕は思いますね。
中川:今出たように、個人のビジョンと会社のビジョンが完全にイコールじゃなくてもいいと思うんですけど、「重なる」のがいいかなと思うんですよね。
別に中川政七商店に入る時に、ここ(腕)に「日本の工芸を元気にする!」と焼き印を押さないと入れないということじゃないんだけど、(会社のビジョンに)依存するというよりは、自分のビジョンは自分のビジョンとしてあって、それと会社(のビジョン)が重なっているというのが、僕はいい状態なんじゃないかなという気がしますね。でもこの個人のビジョンってこれまた難しいですよね。
山口:難しい。僕もずいぶん苦労しましたからね。
中川:周さんの個人のビジョンというのはどういう……。
山口:僕は今よく言っているのは「資本主義のハッカーを育てる」とかね。言葉にぜんぜんなっていないんですけど、そういう方向のビジョンです。これはやっぱりBCGでやっていた時とか電通にいた時は、会社のビジョンとぜんぜん一致しなかったですから、すごく葛藤を抱えていました。淳さんは個人としてはどうですか。
中川:難しくて……。
山口:淳さんはウルトラマンになりたいんですよ。
中川:そうなんです。一言で言えばそうですね。でもそれは根源欲求で、ちょっと恥ずかしいから一応別に個人としてのビジョンは考えてはいて......。でも言えないぐらいですね。ちゃんと手伝っていくために全力を尽くす的なことを、なんとなく個人のビジョンとしては持っていますけど。まだそんなにしっくりはいっていない感じかな。
谷尻:お二人をもってしても、自分のビジョンを考えていくというのはそんなたやすいことではない。言葉にしていくのは、なんとなく難しいことではあるのかなというのもうかがえました。
それでは今日は以上となります。オンラインの方も会場席の方も本当に長い間ありがとうございました。
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