スタートアップ黎明期にぶつかった「経営」のピンチ
財前英司氏(以下、財前):次に「経営におけるピンチ」ということで、いろんな事業を進めていくにあたって大変なことがあったと思うんですが、もちろんスタートアップですから順風満帆じゃないですよね。
深井龍之介氏(以下、深井):そうですね。いろいろありますからね。
財前:ピンチを乗り越えてきた時に、「メタ的に捉える」や「歴史の学びからこういうことを使って乗り越えた」とか、なにか活用したことはあったんですか?
深井:個人的にはいろいろ活用しました。例えば、借金だけあってお金がなくなって、完全に事業ゼロになったりとか。実はそれはまだかわいいほうで、僕が取締役で参加している企業であったのが、資金がショートするやつですね。
財前:(スタートアップ)あるあるですね。
深井:スタートアップで、何千万円とか何億円を調達をしてランニングします。スタートアップ黎明期から僕は福岡でやっていて、まだ成功事例ゼロなんですね。先輩もいないし、最初は本当にむちゃくちゃな経営していたんですよ。今考えると、超稚拙な経営をしていて、信じられない失敗をする。僕たちが簡単に資金を溶かしていくわけです。
人を採用したけど全員いなくなるとか、人を採用したけどぜんぜん仕事ができないとか。さっき言ったように資金がなくなって、リストラクチャリン(企業や事業の再構築)しないといけない、ということが起こるわけです。
お金がなくなった時の人間の挙動ってすごくて(笑)。当たり前ですよね、生活が脅かされた時の人間はすごくて、ふだん言わないようなことを言うんですよ。本当に、ものすごいボロクソ言われる(笑)。
他人事みたいに言うけど、当時はボロクソ言われてめちゃくちゃ傷つきますし、自分にも絶望しますし、そもそも自分の生活もどうしたらいいかわからない。こんなふうに乗り越えていかないといけない経験を、実は3回くらいしてるんですよ。
「信じられない派手な失敗」を何度も経験
深井:スタートアップの黎明期に、信じられない派手な失敗を3回くらいしていて。そのたびに、個人的に歴史思考を使ったんですね。僕が歴史に詳しいからできるだけだと思うんですが。こういう状況下では、やっぱり恐怖心が湧くんですよ。
財前:怖いですよね。
深井:当たり前なんですが、「潰れるかも」みたいになるわけですよ。潰れたら、いろんなことが起こるわけです。ベンチャーキャピタルから資金調達しているから、その人たちも怒っているんですよね。
潰れそうだから怒っているし、社員からも信頼を失うし、お客さんも怒る。「この状況って何?」ということを、恐怖から逃れた状態でメタ認知することは、歴史を勉強していてすごく役立った。
財前:恐怖で覆われているじゃないですか。なかなか正常な判断ができないですよね。
深井:みなさんの中でも、起業していらっしゃる方や、もしかしたらすでに経験された方もいらっしゃるかもしれないんですが、極限状態に置かれた時の恐怖って本当にすごいんですよ。
人に状況を言えなくなるし、逃げたくなる。僕は社長ではなかったから夜逃げまでは行かないけど、社長は本気で夜逃げまで考えるわけですよね。
借金をしているし、生活の崩壊や今後の人生の崩壊を想像するんだけど、この時に「恐怖を捨てられるかどうか」がめっちゃ大事です。恐怖心を捨てないと、経営者として適正な判断ができないんですよ。だけど、めっちゃ怖いじゃないですか。(恐怖心を)切り離すのにすごくエネルギーを使いました。今なら笑えますが(笑)。
財前:お話だけ聞いていると、本当に極限ですね。
深井:本当に極限です。
偉人と比べて「この人よりマシ」と思うと、勇気が出る
財前:具体的には、切り離す時に参考にした歴史的なエピソードはあるんですか?
深井:「この人よりマシ」みたいな感じです(笑)。
財前:命を取られるわけじゃないし、(歴史的な偉人が)追い込まれた時に比べたらマシということですね(笑)。
深井:「死にはしないな」という境地ですね。役に立ちました。勇気をもらえるんですよね。命はあるし、究極、すべてを失うだけというか。
財前:最後はそこにすがったというか。
深井:そうです。その時に、「奥さんが離れそう」「家族も失いそう」という恐怖に駆られている起業家もいるし、「家族が支えてくれている」という人もいるので分岐するんですが、「家族を失いそう」の時は本当にしんどいですよ。僕は支えてくれるほうだったので、ぜんぜん大丈夫だったんですが。
あの心境をメタ認知できるようになると、経営者としてはすごく適切な判断ができるし、僕は社長じゃなかったんでギリギリ乗り越えられたけど、社長であれを経験したくないですよね。自分も取締役だから責任追及はあるんだけど、トップである責任とは違うと思います。
財前:トップの責任とそれ以外の人の責任は、重みがぜんぜん違いますよね。
深井:COTENで資金をショートしたことないので。しそうではあったんですが、その時は社員がいなくて1人だったので。だから、あれはすごい経験です。当時の社長を見ていたら、すごかったですね。
財前:今、その社長はどうされているのですか?
深井:だいぶその会社は大きくなりましたよ。(従業員数)100人くらいまで。
財前:ちゃんとV字で回復して素晴らしい。
深井:だいぶ回復しました。やっぱりあの時、社長がすごかったです。諦めなかったですからね。
財前:なるほど。諦めなかったから今がある。スタートアップ立ち上げ時のすごく濃いお話だったかなと思います。
人間は「自分より意思が強い人」に引き寄せられる
財前:これもみなさん気になっているところではあると思うんですが、「仲間をどうやって集めるか」というところです。
COTENにはいろんな方がジョインされていて、みなさんもご存知かと思うんですが、COTEN RADIOのパーソナリティをされているヤンヤンさん(楊睿之氏)。例えば、ヤンヤンさんはどうやって招き入れたというか、一緒にやってもらうことになったんですか?
深井:「どれくらい影響を与えられるか」だと思っていて。人間は、決めている人に引っ張られるんです。
財前:磁石みたいな感じですか。
深井:そうですね。基本的に、自分より意志が強い人に引っ張られるんです。それぞれの意志をすごく尊重する経営をしようとしているんですが、仲間集めは、僕が「データベースを作る!」と完全に決めているからできることであって、「もしかしてデータベース作らないほうがいいかな?」とか思っていたら、たぶん人は集まらないですね。
財前:なるほど。意志に加えて、行間というか、そこを含めてにじみ出てくるものに影響を受けるんですかね。
深井:それが、すごく起業家の雰囲気になるんですよ。雰囲気だけだと人は集まらないんですが、意志を決めていると共感する人が絶対に出てきてくれるので、集まると思います。
財前:ヤンヤンさんのインタビューを見ましたが、「シンプルに、何よりも深井くんと一緒に仕事しているのが楽しいんだ」と。
深井:継続できている理由は、そこ(一緒に仕事がするのが楽しいこと)だと思います。
財前:大事ですね。
「人間関係をぶっ壊すのは、お互いの『恐怖心』」
財前:ちなみに仲間集めは、覚悟を持って決めて、佇まいを含めて社員に伝わっていくというところがポイントだと思うんですが、チーム作りとか、最終的には社員がどう成果を出していくかというところは、何か工夫されていることはありますか?
深井:めちゃくちゃド派手にいろんな失敗をしましたので、チームづくりでは10億円くらいまでの売上のスタートアップがする「失敗」の全パターンをやっていて。それをやらないようにしています。
財前:失敗しないようにしている、ということですかね。
深井:でも、基本的には「すごく正直である」とか、一番大事なのは恐れないこと。基本的に、人間関係をぶっ壊すのは、お互いの「恐怖心」なんですよね。
財前:「嫌われるんじゃないか」とかですか?
深井:「嫌われるんじゃないか」「評価されてないんじゃないか」とか。例えば、仮にヤンヤンが僕に対して「自分を評価してくれないんじゃないか」という恐怖心を持っているとすると、大していいことができないんですよ。
財前:「これを言っちゃったらまずいかな」みたいに、ラジオでも言えなくなっちゃったりするんですね。
深井:そうです。僕が「ヤンヤンに辞められたらめちゃくちゃ困るけど、ヤンヤンは辞めるかもしれない」という恐怖心を抱えていると、人間関係はうまくいかないんですよ。彼の人生だから辞めてもいいし、「ついてきてくれる間は付いてきてほしいよね」という感じでいると、うまくいくんですよね。
それは依存もしていないし、依存もされていないからです。依存状態じゃない関係性で、win-winの状態をメンバーと一緒に築けると、すごくいいチームができる。すごく依存させてしまったり依存してしまうことは、本当にやっちゃだめなやつです。
メンバー同士の「恐怖心」や「依存」は、事業の妨げになる
深井:例えば、「この人がいなかったらデータベースが作れない」と思っていたら、よくないですね。僕、今から全員がいなくなってもデータベースは作ります。
財前:例えばですけど、極論、深井さんが「実はまた違うことをしたくなっちゃった」と株式会社COTENの代表を辞めたとしても、世界史のベータベースは作り続けることをみなさんに共有しているということですか。
深井:それはまだですね。僕が発起人だから、僕がいなくなったらみんなはやらなくなっちゃうと思うんですが。いなくなってほしくないんだけど、仮に誰かがいなくなっても、僕は普通に続ける。
財前:それでもやり続けるんですね。
深井:はい。向こうもそうなんですよ。そういう状態を、お互いが認識した状態でやっているといいと思います。
財前:認識していることが大事なんですね。
深井:そうです。変な期待されてもないし、変な依存もされていないから、ナチュラルになれるんですよね。ナチュラルになるというのが、さっき言った恐怖心を持たないということになります。依存すると恐怖心が出るんですよ。その関係を維持しないと、維持することが目的になってしまいます。
でも、人間関係やチームは流転するものなので、「流転前提でいる」という感覚を互いに共有する状態が、恐怖心をなくす。恐怖心がない状態が、全員で事業に集中できる状態です。
例えば、事業が成功することよりも評価されることを優先するメンバーが出てきたり、僕も「社長として立派だと思われたい」とかいうことが起こると、大した成果が出ない。
財前:「もっとオレを褒めてよ」とか。
深井:辞められたくないから、本当は「辞めないで」と言いたいけど言わない。これが、僕が学んできた一番核の部分ですね。
財前:なるほど。
深井:チーム形成でいうと、恐怖心を捨てる、お互いに思っていることをちゃんと言い合える仲を作ることが大事です。
財前:そこがやっぱり、今まで散々深井さんが取り組まれたことですね。
深井:散々やりました。怖いので、すごく難しいんですよ。実際、辞められたら困るし。
財前:やっぱりそうですね。サービスも立ち行かなくなったりしますし。
深井:そうですね。メンバーのみんなも、僕から「クビ」と言われたら怖いし嫌ですよね。でも、怖がらない関係性と共通認識を取っていくということです。
財前:非常に重要なお話ですね。
深井氏が最も参考にしている「偉人」とは?
財前:じゃあ最後の質問で、「起業する際に、参考とすると良い歴史上の人物」が、もしいらっしゃいましたら。
深井:「あまりいない」というのが答えになっちゃうんですが、自分が好きな人を探すのがすごくいいと思います。2~3人くらい探すと、その人が何をして、どうなったかが見えるじゃないですか。自分に似ていて好きな人がどうなっていくかがわかることは、すごく参考になる。
財前:経営者は、坂本龍馬とかが多いイメージですけどね。
深井:「経営者がどうあるといいか」ということ自体、時代によってめちゃくちゃ変わるし、まさに今、変わろうとしていると思います。
財前:その点においては、参考にするのはあまり意味がないのかな。
深井:だと思います。例えば、今は評価されている経営者が30年後に評価されるかどうかは、かなり微妙です。めちゃくちゃ失礼ですけど。なので、あまり参考にしなくていいかと思います。
財前:「こういうところが好きだな」「こういう考えや行動がいいな」と思うような人を目標にするとか、自分がどう学ぶかということですね。ちなみに深井さんは、(参考にしている歴史上の人物は)誰かいらっしゃるんですか。
深井:ちょっとずつ参考にしているというか。僕が今、一番参考にしていて学びになったのは墨子という人です。
財前:なかなか渋い。
深井:彼は、現実とはかけ離れた理想論をちゃんと持っているんです。それと、現実社会で発揮する圧倒的スキルを持っているんですよね。その2つを持つのはすごく難しいと思っていて、だいたい人間はどっちかに寄るんですよ。
財前:そうですね。「ビジョナリー型」か「実務型」か、というところですよね。
深井:ビジョナリーになると、世の中でやらないといけないことを疎かにしたりするし、いろんな経験して世の中の現実を知っちゃうと、ビジョンを捨てちゃったりすることがあるじゃないですか。世の中に迎合しちゃうから。
財前:ありますよね。
深井:墨子はものすごい理想を掲げながら、圧倒的スキルを身に付けている人だったので、すごく参考にしています。
達成不可能そうな「それ、できるの?」みたいなでっかいビジョンを掲げることも大切にしている一方で、ちゃんと現実を見て対処して、現実的な思考を走らせることもすごく大事にしているというので、墨子ですかね。誰を参考にしたいかは、人によると思います。
財前:ありがとうございます。