本当にダイバーシティは創造性を生むのか?

曽和利光氏(以下、曽和):みなさんこんにちは。人事コンサルティング会社人材研究所の代表をしております、曽和と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

本日は「逆説!『人事と採用のセオリー』」と題しまして、人事の方あるいは経営者の方が信じているいろんな「持論」がありますよね。それが実際にさまざまな研究によってどのように明らかになっているのか、正しいのか、それとも違う結果が出ているのか、お話しさせていただきます。

それでは1つ目です。神話とありますけども、「ダイバーシティは創造性を生む!?」。みなさんはどう思われますでしょうか。ダイバーシティとはご存知のとおり、多様性が高いことですよね。いろんな人がいれば、いろんな人がいるからこそ、いろんな価値観がつながって、新しいものが生まれてくる、創造性を生む。

これは「当たり前じゃないか」と思われる方も多いと思います。ところが、どんな状況になってるかといいますと、実は一貫した研究結果は得られていません。

創造性につながらない「多様性」に欠けている視点

ダイバーシティと創造性に対してはさまざまな研究がなされているんですけれども、「創造性をダイバーシティが生むんだ」という研究結果もあれば、「関係ない」もしくは、「(創造性を)下げる」というような研究結果もあるんですね。

これは私の考え方なんですけれども、「ダイバーシティ」というものを雑多に捉えてるところがあると思っています。要は、多様性というだけだと単に「価値観が違う」ということだけですので、本当に嫌いな相手とかもいるわけですよね。そうすると、嫌いな相手や自分と意見の合わない相手と作業をした時に、それが創造性につながるかというと、そんなことはない。

ところが相性の合う人とやると、これはクリエイティビティにつながるんですね。単純にダイバーシティを高めれば創造性が生まれるのではなくて、その間に人と人との相性を考えなきゃいけないという視点が欠けていると、このような結果になるんじゃないかなと思います。

人事制度の「事例主義」の落とし穴

それでは、2つ目です。「他社の人事制度は模倣できる!?」。これはよく人事の方が制度を作る時に「他社事例はないのか」といろいろな事例を探して、それを参考に制度を作られる。こうすることによって良い制度ができあがるという考え方はありますよね。

ところが研究であったり、私が思ってることで言いますと、事例主義であり正当性を確保しているだけにすぎないのではないかな、というのが私の意見です。

といいますのも、基本的には人事制度の事例をよく見ていただくと、かなり細かいことは省かれています。「細かいこと」は何かといいますと、その会社の置かれている本当のドロドロとした制約条件ですね。

この人とこの人が仲が悪いとか、こういう事業の赤字が生まれて大変になっているという、そういうことが抜けていたり。いろんな隠れた条件が何もないわけですね。

人事を流行でやってはいけない

ある会社で成立した事例は、別の会社ではその隠れた制約条件が違うことによって、制約しないというケースがものすごく散見されます。

ですから、私の考えなんですけれども、「人事を流行でやってはいけない」と思います。結局、事例を大事にやっていくことは、「今こういう制度が多いから我々も入れよう」とかですね。

これはマネージメントバイブックや、マネージメントファッションと揶揄する言葉があるぐらい、やや世の中でもまずいこととされてるわけです。こと人事においても、こういうことが起こってるんじゃないかと思います。

そうではなくて、自社の人事はやはり自社の制約条件に基づいて、原理原則をもとに決めていくことが大事なことなんではないかと私は思います。

エリートコースの「選抜」は、実は最初の1年で決まっている

これもよくみなさんも思われると思うんですけれども、日本企業の「選抜」ですね。その人を将来の社長にしようとかいう話ですけれども。そういう「選抜」は遅いと。

つまりしばらくの間はよーいドンで、横一列で出世していくんですけれども、だいぶ経ってから、例えば40歳とか50歳ぐらいになってからようやく「選抜」が行われていくというのが、世の中では信じられていると思います。

ところが実際にどうなってるかというと、そうではないわけですね。実は最初の1年である程度決まっている、という結果が出ています。これはものすごく意外な結果かもしれないんですけれど。

「いやいや、うちの会社ではそんなことはない」「40歳ぐらいまでは育成期間としているので、そこで選抜を行っていることはない」と、意識では思われてるかもしれないんですけれども。

結果、1年目の評価であったりそのパフォーマンスだったりと、例えば部課長だったりとか社長だったり経営陣とかに最終的に抜擢される人との相関を見ていくと、明らかに強いと出てるんですね。

ということは、実は無意識のうちに日本企業も、表面的にはやってないかもしれないんですけれども、初期の頃に「選抜」を行って、そういう方々に対してキャリアだったりとか、ある種のエリートコースを提供している可能性があるというのが、現状わかっているということです。

キャリア意識を高めると、逆に離職意識は下がる

これもかなりみなさんそう思っているんじゃないかなと思うんですけれども。「キャリア意識を高めると離職につながる!?」。これどう思いますか。

要はキャリアに対する意識を高めると、「あ、俺はもっとこんなことができるんじゃないか」と覚醒させてしまって、「こんなところにいる場合じゃないから、転職しよう。新しい仕事しよう」と。よく経営者の方はこれをものすごく恐れます。実際コンサルティングしててもそうなんです。

実際はどうか。結論から言いますと、いろんな研究の結果、実はキャリア自律の重視をしていろいろキャリアのことを考えさせる機会を与えてあげて、よく「キャリアパースペクティブ」と言うんですけれども、自分のキャリアの見通しをちゃんとわかるようにさせてあげることによって、実は定着率は高まる方向になるとわかっています。

つまり、よそを見せないようにする行為は、むしろ逆効果です。まあ当たり前といえば当たり前ですよね。社内でよそを見せないようにしても、これだけ転職情報やいろんな会社の働き方の情報が出てる中で、自社だけで見せないようにしても、いろんなところで触れるわけですね。

そういったことを考えると、会社が自分のキャリアを大事にしてくれていることは、結局離職意思が下がることに働くんだというのが、実は事実なんです。

「モチベーションを上げれば成果が上がる」の勘違い

では、最後の神話です。これも驚きといいますか、ちょっとショックな話かもしれません。みなさん信じられているものでいいますと、モチベーションを上げれば、パフォーマンスや売上、成果は上がるんだと。これのどこが間違いなんだというお話なんですけれども。

実態はこういう状況です。実は明確な一貫した関係は見出されていないということです。つまりややこしいんですけれども、いろんな研究があって。「モチベーションを上げればパフォーマンスが上がった」という研究もあれば、そうじゃない研究もあるんですね。

結局何かというと、「モチベーション自体を上げたからといってパフォーマンスに直結しない」というのは、よくよく考えてみれば、例えば「モチベーション×能力」が成果・パフォーマンスだとすれば、能力開発もしておかないと(いけません)。

例えば能力が低い人のモチベーションがむちゃくちゃ上がれば、ダメなことをむちゃくちゃがんばってやるわけですね。間違った方向に一生懸命ガーッて進むみたいなことっていうのもあるわけですよね。

あるいは、モチベーションがすごく上がると、本当であればミスマッチを起こしていて、社外に出て別の仕事をしたほうがいい方でも、社内に定着してがんばるっていうことにもつながるわけですね。そうすると、最終的なパフォーマンスっていうのが低くなるってのもありうるわけですね。

「条件」を考えなければ、期待している効果が得られない

これは先ほど言いました「ダイバーシティ」と似てるかもしれません。モチベーションだけを最終目標として上げようとしている行為に問題があるということです。

モチベーションが高いこと自体に、まったく問題はないと思います。ただ、誰のモチベーションを上げるのかとか、どのようにしてモチベーションを上げるのかという条件を考えることなしに、「単純にモチベーションだけ上げていると、パフォーマンスが上がるんじゃないか」という考え方でいけば、結局、期待される効果が得られないことにもつながるということで、ご注意いただかなければいけないポイントかなと思います。

本日お伝えしたかったのは、日頃信じられている持論でも、実は間違っていることがたくさんあるんだということでございました。

理論という、要は心理学や組織論をきちんと学ぶことによって、日頃から信じていることの何が正しくて何がそうではないのかをきちんと頭に入れて、経営者の方や人事の方は人事の施策を行っていただきたいと思っております。

『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)