現代社会は「トラウマ社会」になっている

駒野宏人氏(以下、駒野):今、なぜ慈悲が必要かというと、昔は成長社会だったものが、今はあきらかに成熟社会に向かっていることも関係あると思います。

だって、もう十分便利だと思いませんか? 今までは、車などいろいろな物を作って成長していく時代でしたが、今から人口密度も、これ以上地球には収まらないという状況ですよね。このように、成熟社会を迎えていることも1つの要因だとも思うんです。

これによって、心にどういう(影響を及ぼすか)ということを説いている人もいます。昔はストレス社会だったのが、今はトラウマ社会なんだそうです。

要するに、昔は戦う社会で、何かあれば家出するんですね。今は何をやってもどうにもならないので、家にこもって引きこもりになってしまう。そのように変わっている時代ですよね。僕は、それを癒すのに慈悲がとても役立つのではないかと感じています。いかがでしょうか?

それともう1つ、組織についてですね。今は組織のあり方も変わってきていますよね。昔は「組織は戦う集団」でしたが、今はそうじゃなくて「ともに何かを作っていく集団」になっている。その点について、若杉さんどう思われますか。

若杉忠弘氏(以下、若杉):そうですね。組織の観点でいうと、「組織の意思決定者が誰か」というテーマが露呈している状況だと思います。

「共感力」の落ちた人が、組織内で意思決定権を持っている

若杉:じゃあみなさん、組織の中で意思決定するのは誰でしょうか? これはまず第一にパワーを持っている人ですよね。ピラミッドの上に立っているCEOなどが、意思決定権を持っているわけです。

そういう人たちは、全員が全員ではないにせよ、エリートである傾向が強いですよね。これが1つ目の特徴です。それから2つ目の特徴としては、富を持っている。3つ目、そういう人たちは忙しい。時間がないんですね。

駒野:本当のトップってけっこう暇じゃないの? 僕は知らないけど(笑)。

若杉:いや、忙しいと思いますよ(笑)。

駒野:ごめんなさい(笑)。

若杉:この3つの特徴を持つ人は、共感力・コンパッション力・慈悲心が落ちるということが心理学的に言われています。これ、冷静に考えるとけっこう恐ろしいことですよね。誰が意思決定しているのか。社会を動かしているのか。要は、共感力が落ちている人たちが意思決定をしているわけなんです。

駒野:だから今、いろいろな問題が起きているのですね。

社員が「気づき」を得ても、寄り添ってくれるトップ層がいない

若杉:従業員のバーンアウト、地球環境の問題など、いろんな問題が起きる。こう考えると「慈悲心」とは、まさに今、現代社会の課題を解決する時のセンターピンですよね。ボウリングでいうと「ど真ん中にある課題」なんです。

ありとあらゆる人が、慈悲心を10パーセント上げたとすると、孤独の問題、平等の問題、不公平の問題、環境問題、ダイバーシティの問題、戦争の問題、かなりの問題が解決すると思います。

駒野:それはすごくおもしろい発想ですね。川野先生、いかがですか?

川野泰周氏(以下、川野):本当にそのとおりだと思います。確かに最近では、組織の一員として第一線で活躍していらっしゃる方たちの中には、マインドフルネスを実践したり、慈悲心に着目してさまざまな自己啓発本を読んだりなさる方もいらっしゃします。

でも結局、その組織のトップの方たちが作ってきた組織風土は容易には変わりません。結果的に、瞑想や慈悲の実践によってマインドフルな気づきを得た人の多くは、その会社を辞めていくんですね。

たとえその社員さんが大切な気づきを得たとしても、それに寄り添ってくれるトップがいない状況だということです。特に大企業であるほどその傾向が強く、「結局はこの会社を辞めないと解決しない」というレベルから先へ進むことができないでいるのです。

まさに、先ほど若杉先生がおっしゃったとおりだと思います。そうなると次の課題は、慈悲の心をどのように植え込んでいくか。仕組み、仕掛けをどうするかですよね。

駒野:そうですね。後でまたお話ししていきたいですね。そんなことを想像したこともなかったです。1人が10パーセントといわず、5パーセント慈悲心が上がるだけでも世界は変わるかもしれませんね。

若杉:変わるかもしれないですよね。

駒野:本当に変わりますよね。

権威が高くなればなるほど「共感力」が下がる

若杉:川野先生がこの後、そのための手法を教えてくださると思います。駒野先生もいろいろやられていると思いますが、瞑想などは、慈悲心を鍛える手段や方法論が確立されているところに希望がありますよね。

このコンパッション・慈悲に着目することの最大のベネフィットは、アイデアやコンセプト、理想論に終わらず、(きちんと)実践できるところなんです。

駒野:なるほどね。すごいですね。今日ご参加のみなさん、全員でさらに(慈悲心を)5パーセント、10パーセント上げたら変わりますよ。

若杉:絶対に変わると思います。

駒野:変わるけど、なかなかそこに気づかないんでしょうね。

若杉:そのために駒野先生が、今回この企画を開催されているんじゃないですか?

駒野:そうそう! 実はそういうことなんですよ。さっきの話に戻りますが、私的な考え方だと、組織は「人に与える」「人を守る」というオキシトシン野作用があることが大切なんですよ。

人間は集団で戦ってきたので、それは全部進化の過程で必要だったものなんですね。自分の集団が他の集団に負けたら困るわけですよ。だから、他の集団に対して、敵意(を持って)やっつける。これが集団を守るバソプレシンです。

今までのリーダーは、戦うための集団のリーダーでした。だから、部下の言うことは聞いちゃいけない。先ほど若杉さんが言ったように、権威が高くなればなるほど、共感力、あるいは慈悲が下がるんです。論文では「共感力」としていましたが、権力があると、共感力が下がる・なくなる。だって、共感があったら戦えないですからね。

ところが、今は集団が協力して、他の集団と新しいものを作っていく。だから、社会が成長していく時代から、集団みんなで協力して成熟していく時代に変わってきた。それで、慈悲心が大事になってきたんじゃないかと思います。

慈悲の心は、職場における「燃え尽き症候群」も改善する

駒野:「人からやる気を引き出す」「みんなでやっていこうとする」ということは、やっぱり慈悲の心を持っていないとできないんですね。「お前ダメだろ」と決めつけて言うと、しょげちゃいますもんね。そういう意味で、今はまさに、人を慈しむ「慈悲の心」が必要なのだと思います。他に、社会のことに関して何かありますでしょうか?

川野:駒野先生がおっしゃったオキシトシンに関して、医学や、特に介護の分野で大切にされてきたタッチングケアというものがあります。駒野先生もご存知だと思いますが。

患者さんに何かの治療を提供するほどのことでなくても、単に優しく触れたりするだけでオキシトシンの分泌は増えるんですね。例えば、認知症の患者さんには「周辺症状」といって、暴言を叫んだり、暴れたりしてしまうといった症状が出てきたりしますが、そうした興奮状態がタッチングケアによって緩和するなど、さまざまな良い効果が以前から知られています。

でも残念ながらこの数年は、人が人に直接的に触れることができない世の中になってしまいましたね……。

駒野:まさにそうですね。

川野:ソーシャルディスタンスとフィジカルディスタンスという時代ですから。

駒野:「3密」を避けるというのは、人間らしい生活をする上で疑問ですね。

川野:握手もハグもできないということ自体、多くの人たちにおいてオキシトシンの分泌低下を招いているのではないでしょうか。

駒野:そうですよね。先ほど川野先生が、「コンパッションは人を幸せにすることと結びついている」とおっしゃいましたが、まさにそうなんですよ。コンパッションの気持ちを持つと、血液中にオキシトシンが出てくるんですね。

オキシトシンというものは、ストレスを緩和して自律神経を整える。つまり、健康になるんですよ。脳科学的には、幸せな気持ちとは「安心安全な気持ち」「つながっているという気持ち」「ワクワクした気持ち」といった脳内物質が(分泌されること)なんです。若杉さんの調べによると、慈悲心を持つと幸せ感が高まるわけですよね。

若杉:これは確実に高まりますね。組織においてだと、「ジョブサティスファクション」、つまり仕事の満足度が高まる。それから「ワークエンゲージメント」、仕事にのめり込む感覚も高まります。すなわち、エナジーを感じるようになるんですね。

それから職場におけるバーンアウト、つまり燃え尽き症候群も緩和するというエビデンスもたくさん出てきていますね。

駒野:すごい。

脳科学の視点から見る、「慈悲心」と「健康」の関係性

駒野:質問事項の3番目に移りますが、(慈悲の)効果としては、やっぱり幸せになるんですね。もう1つ脳科学的にいうと、慈悲の心を持って人に接すると、人に安心安全を与えるということもわかってきたんですね。

「そのままのあなたでいいんですよ」と言われると、人は安心安全な気持ちになって、より遊び心が生まれて、協力的になる。「あなたはダメです」だと、競争心や劣等感が出てきてしまう。

慈悲の心で人に接すると、人を安心安全な気持ちにさせることができます。これが、組織がうまく機能するための一番のポイントだと思うんですね。組織が安心安全な場所じゃないと、怖くては冒険できないですよね。「とにかく相手を潰す」という戦いには、競争心を煽るやり方が有効なんです。

もう1つは、慈悲心を持つと健康になるんですね。オキシトシンが出ると、免疫力が高まり、がん細胞を壊すナチュラルキラー細胞が増えるんです。

ポジティブ心理学者のフレドリクソンという方が、「慈悲の瞑想」をやった時に血液中のホルモンを調べてみたんですね。するとまず、体にあまりよくない炎症物質が減るという事を始めて報告しました。その後、幸せ物質であるオキシトシンが上がるという研究も出てきています。精神医学、あるいは仏教の観点からもそうですよね?

川野:そうですよね。慈悲、安心安全を与えるということですよね。仏教の世界では、「智恵と方便」という言い方をします。そういったことを知識として知っていく「智恵」を享受することも大事なんですが、実際に行動に移して何かをやってみる「方便」も不可欠であると。

コンパッショネイトな行動をしてみる、利他的な行動をしてみることが、自分自身の幸せを高めていくことにつながる。これは心理学的にももちろん示されています。ですが、自分自身の生活もままならなくて、精神的にも、金銭的にもひっ迫している人には、そんなことをする余裕はないのではないかという話もあります。

仏教の世界の「7つの施し」とは?

川野:例えば、海外のハリウッドスターとか大富豪の人が、基金を作って寄付することは素晴らしいことではあるのですが、一生かかっても使いきれないくらいお金があれば、そうした行動は比較的抵抗なくできることのようにも思われます。

でも仏教の世界では、お金がなくてもできる7つの施しの「無財の七施」というものがあります。私はこれこそが真なる慈悲に基づく行動だと思うので、参考までにその7つを簡単にご紹介しますね。

全部、本当にシンプルなことなんですよ。1つ目は「眼施(げんせ)」といって、優しい眼差しで人を見ることです。つまり、にこやかに優しく見る人になるということですね。2つ目は「和顔施(わげんせ)」。にこにこ顔で、和の顔で、人に接するということです。

3つ目が「言辞施(ごんじせ)」、しゃべるという意味の言辞ですね。思いやりに満ちた言葉を使うということ。4つ目は「身施(しんせ)」といって、困っている人がいたら「大丈夫ですか?」と荷物を持つのを手伝ってあげたりする。これは体のほうの「身施」ですが、5つ目として心の「心施(しんせ)」もあって、気配りをするだけでも施しになります。

そして6つ目は「床座施(しょうざせ」。ちょっと舌を噛んじゃいそうですけど(笑)。目上の方やお年寄りに「どうぞ、ここに座ってくださいね」と、席を譲ることですね。

それから最後、7つ目は「房舎施(ぼうじゃせ)」です。「房」というのは房舎、自分が住んでいる場所という意味です。「一宿一飯お泊りください」とか「ちょっと疲れたらうちの軒先で休んでいってください」ということですね。

もうこれだけのことなんです。「これが本当の施しである」と、仏教では昔から教えているんです。今の世界で普通にできることなのに、なかなかそれをやる勇気が持てなかったりしいます。

10〜20代の若い世代が「慈悲の心」を盛り返すキーパーソン

川野:特に私たち日本人は、見知らぬ困っている人に声をかけるのが苦手ですよね。そういう意味では最近の10~20代の若い方たちは、電車の中や、あるいは私の診察室にいらっしゃる時なども、そういったことを気さくにやっているんですね。そういうものが、次の時代を担う世代の心根に浸透していることを嬉しく感じるんです。

だから、日本の次の世代の方たちが、今後は慈悲の心を盛り返してくださるんじゃないかと感じていて、実は希望を持つ部分もあるんです。

駒野:なるほど。これについておもしろい話があるんです。実は人間が今、遺伝子レベルで家畜化しているそうなんです。

川野:そうなんですか?

駒野:そうなんです。また別途、対談を考えているんですが。それによって、人懐っこくなるそうなんですね。そういうことが、遺伝子レベルで起こっていることがわかりつつあって。やっぱり、進化の必然性から起きているんですかね。「慈悲の心が必要だ」ということと併せて、若い世代がそっちの方向に向かって進化しているのでしょうか。

だって、若い世代は昔の人と顔つきもぜんぜん違いますよね。昔はどう見ても「戦うモード」の顔をしていましたよね(笑)。今はみんな柔和になっているじゃないですか。これこそ人の遺伝子が家畜化しているということに関係しているような気がします。今、ふとそんなことを考えてしまいました。でも確かに、若い世代は慈善活動などを積極的にされている方が多いですよね。

多くの人が悩んでいる「アイデンティティ・クライシス」とは?

川野:でも実は、「単に優しくなってよかったね」ということでは終わらない部分もあるんですよね。

駒野:そうなんですか。

川野:やはり、アイデンティティ・クライシスに悩んでいる方たちが多いと感じます。「自分は世の中でどういう役割を担うことができるのか」「自分は生きていて価値があるのかどうか」といったことに悩んでいる人も少なくないように思うんです。

以前より内向的で、優しさを持っているけれども、どのように表現していいかわからなかったり。また、その優しさを表現できたとしても、「果たしてそういう人生で合っているのだろうか?」と、迷いを抱えている方たちもいらっしゃいます。だから世代に合ったケアが必要だと我々は考えているんです。

私は40代ですが、同世代の患者さんに相対する時と若い世代に接する時とでは、少し対応を変えています。そうしないと、効果的なカウンセリングにならない実感があるんですよ。

駒野:やっぱり、社会そのものが変わってきているんですね。だって、僕らが生まれた時とは時代背景がぜんぜん違っているとなると、育ち方もぜんぜん違いますよね。僕らは「がんばれ、がんばれ」と言われて育った時代でした。今は「がんばれ、がんばれ」と言われても、「がんばっても何があるの?」という感じですよね。

川野:そうなんですよね。若杉さんは、社員研修などで企業に関わっておられますよね。最近の若い世代の新入社員さんに向けては、やはり伝える言葉を変えていますか?

若杉:そこは明確に変わりますね。まさに今出ていた「がんばれ、がんばれ」的な、「自分をもっと追い込んで、もう1歩がんばろう」というやり方は通用しませんね。

「慈悲」と「組織」は、一見すると真逆な存在

若杉:どちらかというとパーパスであったり、「なぜこれをやるのか」「何がやりがいになるのか」「何が生きがいなのか」「どういう表現ができるのか」「どういう貢献ができるのか」「どういうつながりがあるのか」といったことが、非常に大事なトピックになってきています。でも俯瞰して見ると、ある意味、社会は健全な方向に向かっていますよね。

駒野:そうなんですね。

川野:理解と納得の上でがんばるということでしょうか?

若杉:そう、理解と納得の上で、社会的に貢献をしていきたいという。そういう方々が増えているのは、社会としては非常に健全に発達している(と言えます)。そこに寄り添うパワーとして、必要なものとして、慈悲、コンパッションを合わせて育んでいくといいと思います。

駒野:なるほどね。打ち合わせの時に若杉さんが「慈悲とは組織と真逆だ」とおっしゃいました。

川野:印象的でしたね。

駒野:それをお話いただけますか?

若杉:組織の力学の中で、慈悲の心を体現すると、いろいろ不都合が出てくるわけですよね(笑)。例えば、大きなリストラをし、ビジネスの利益を出さなきゃいけない時に、毎回慈悲の心を感じていたら、そういう意思決定ができなくなります。

ですから(慈悲の心は)ある種、ビジネスとは相反する局面があるわけですよ。例えば昇進したい、業績を出したい、会社を成功させたいということと、コンパッションは相反します。でも、これは「一見」なんですね。

駒野:一見なんですね。

若杉:一見なんです。ここはしっかり伝えていきたいと思います。一見、相反するようにみえませんか?

駒野:はい、真逆ですよ。

次世代のビジネスのカギを握るのは「コンパッション」

駒野:僕はさっき言ったように、「競争社会が終わったから」という話をしたんですけど。それで、実のところどうなんですか?

若杉:でも、先ほど言ったように若い世代は「つながり」「やりがい」「社会貢献」を求めるんですね。たぶん、川野先生がおっしゃりたいことと重なってくると思うんですが、次世代のビジネスにとっては、コンパッションを中核に据えたほうが伸びていく。これが1つのポイントだと思います。

LinkedIn(リンクトイン)の前社長、ジェフ・ウェイナーという方がいます。彼は以前Yahooに勤めていて、まさにITのコンペティティブな企業を渡り歩いてきた猛者なわけです。彼は「今、リーダーにとって一番必要なものは『コンパッション』である」と言っています。また「僕が22歳に戻れるとしたら、自分に『コンパッションを鍛えなさい』と言う」という発言もあって。

駒野:でも、たぶん彼はコンパッションを犠牲にして、そこまで成功してきたのではないですか?

若杉:彼は「今のLinkedInの成功は『コンパッションのおかげだ』」と言っているんです。なぜかというと、コンパッションとは相手の本質的な苦しみに気づいて、それを助けてあげることですよね。これ、冷静に考えたらビジネスそのものなんです。

要は顧客のニーズ、苦しみを特定し、それを本当の意味で応えていく。商品やサービスによって、実はビジネスそのものなんですよね。

ビジネスの本質は、顧客のニーズを把握して、それを解決することです。この観点に立つと、慈悲とビジネスは完全に一致していることに気づくわけですよ(笑)。なので、本当に王道のビジネスをやろうとすると、リーダーは絶対にコンパッションに回帰せざるを得ないということになるんです。

本質的にビジネスを成功させたいなら、慈悲の心は有効

若杉:「テクニックで儲けよう」「小賢しく儲けよう」「自分のエゴのためにビジネスを成功させよう」といった動機の場合は、確かにコンパッションは邪魔になります。

でも、本質的にビジネスを成功させたいと考えたら、慈悲・コンパッションが非常に有効になります。実際、これはデータとしても出ているんですよ。コンパッションのあるカルチャーを作った企業のほうが、財務的な収益も高いんです。

川野:そうなんですね。

駒野:なるほど。

若杉:ですから、これは理想論じゃなくて現実論なんです。ビジネスとしても、コンパッションを持ったほうが、語弊があるかもしれませんけど「儲かる」と(笑)。

駒野:それが出てくると、またコンパッション力が弱くなっちゃうんじゃないかな。

若杉:そうですね。ここが難しいんですよね。「儲けること」と「コンパッション」が目的と手段の関係になってしまうと、本来的なコンパッションにならなくなるので、確かに難しいところですね。

駒野:でも、コンパッションを中核にするのはいいですよね。住職としてもやりがいがありますよね。

川野:住職としてですか(笑)。

駒野:だって、「実は会社が儲かるんだ」となれば、みんなコンパッションを養いにお寺に行くんじゃないですかね(笑)。

川野:なるほど、そういう影響もあるのでしょうか(笑)。