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経営者力診断スペシャルトークライブ:ポストコロナのリーダーシップ(全4記事)

均一に部門を経験しながら育った、ゼネラリストの「不安」 異動しながら出世する、「メンバーシップ型」が抱える課題

経営者やリーダー向けに、「経営」「マネジメント」をテーマとした各種セミナーを開催する経営者JPのイベントに、キャリア自律やリーダーシップ論を専門とし、『起業家のように企業で働く』『リーダーシップ3.0』など著書を多数出版している合同会社THS経営組織研究所の代表社員・小杉俊哉氏が登壇。経営者JPの代表・井上和幸氏と共に、日本企業で「完全ジョブ型」が難しい理由や、メンバーシップ型で育った人たちが抱える不安などを語りました。

『リーダーシップ3.0』の著者・小杉俊哉氏が登壇

井上和幸氏(以下、井上):みなさん、こんばんは。経営者JP代表の井上です。今日は小杉俊哉先生をお迎えして、現時点ではまだ「ポスト」とは言い難い状況ですが、ポストコロナを見据えたリーダーシップについて、1時間半ほどお話をうかがいながら進めていきます。小杉さん、今日はよろしくお願いいたします。

小杉俊哉氏(以下、小杉):よろしくお願いします。

井上:みなさんもぜひ、リラックスしてアフターファイブの時間をお過ごしください。今日はウェビナーですので、みなさんの顔や声は直接反映されませんが、ぜひチャットでいろいろ書き込んでください。なるべくみなさんからのコメントをいただきながら、進めていきたいと思います。最後にQ&Aの時間を取りますが、途中でもご意見・ご質問があればお願いします。

また、ZoomにはWeb投票というシステムがありますので、みなさんの状況や考え方をWeb投票でお聞きしながら進めていきたいと思います。ではあらためまして、小杉さん、今日はよろしくお願いいたします。

小杉:よろしくお願いします。

井上:ご存知の方も多いと思いますが、小杉さんはマッキンゼー、事業会社の人事を経て、現在は大学院で教鞭をとられたり、主に「リーダーシップ」に関する企業へのコンサルティングをされたりしています。実名を出していいのかわかりませんが、よく知られた大手企業さんの、社長になられた方を育成されたんですよね。今日はそんなお話もお聞きしていきたいと思います。

また、著書も多数ございます。『リーダーシップ3.0』は発刊はいつでしたっけ?

小杉:9年前になります。けっこう前ですね。

井上:9年経ちましたか! 2013年ですね。当時、「リーダーシップに関して整理しよう」ということで、当社にてワークショップなどもやっていただきながら体系化され、世に問うていかれました。「(リーダーシップ)3.0」の後の「4.0」のコンセプトも打ち出していただいていますよね。今日はそのお話も、みなさんと共有していきたいと思います。

コロナ3年目の企業の様子

本日のプログラムは、スライドに表示されているとおりです。5つほど柱を立てました。まず、みなさんの現況をお聞きした上で、「コロナ禍における経営者やリーダーの動き方」という話から始めます。

次に「経営者力診断に関連する5つの力」ですね。すでに受検された方も多数いらっしゃると思いますが、当社が昨年の秋にリリースした、マネジメント力を診断できる「経営者力診断」というWEB検査があります。今回は、こちらのリリース記念も兼ねたシリーズの第2弾となっています。

それから、リーダーシップの変遷や、どういう状況でどういうリーダーシップが必要か。後半はそれを踏まえて、「管理職・経営者の方の、今後の具体的な活躍の仕方」について話をしていきます。繰り返しになりますが、実践の場にいらっしゃる参加者のみなさんのご意見を積極的にいただながら進めたいと思います。では、さっそくテーマに入ります。小杉さん、あらためましてよろしくお願いします。

小杉:よろしくお願いします。

井上:小杉さんとは昨年、一昨年も、伊藤羊一さんとも一緒に「コロナ禍だけどがんばろう」とオンラインでイベントをやりましたよね。それにしても、なんだかんだでコロナも3年目に入りましたね。

小杉:そうですね。

井上:小杉さんのクライアントやお付き合い先企業をご覧になられていて、どんな様子でしょうか?

小杉:試行錯誤の域を出ていないですかね。

井上:オンラインの導入などは企業ごとに差があると思いますが、総じて「こんな感じなのかな」という状況でしょうか。

小杉:オンラインができる業種・職種に関してはかなり定着していると思います。ただ、それができない製造現場、リテールのさまざまな飲食等は、本当に振り回される状況が続いています。

井上:いくつかの調査によると、日本全国でリモートを導入している会社はだいたい4分の1ぐらい、20数パーセントだということがわかっています。逆に言うと、4分の3がリモートではない。東京だと50パーセントぐらいという統計も出ています。

小杉:大手の会社ではリモートがごく普通の状態になりつつある一方で、実はそうじゃない会社のほうが、数的・働く人の人口的に圧倒的に多いんですね。

オンライン化による環境変化を大きくした、「島型」レイアウト

井上:ではまず肩慣らしも兼ねて、みなさんの状況をお聞きしていきたいと思います。参加できる方はぜひWEB投票に参加ください。

まず1つ目、今日は経営者の方、リーダー、幹部の方々にご参加いただいていますが、「コロナ禍において、みなさんお悩みのことはありますか?」。

このような結果となりました。

「メンバーマネジメントがしにくくなった」53パーセント。けっこう多いですね。「コミュニケーション量が減った」が59パーセントで6割。「労働時間管理がしにくくなった」も41パーセントで4割。

あとは「自分の業務・タスク管理がしにくい」が18パーセント、「キャリアに関して見通しにくい」が12パーセント、「悩んでいることがない」という方も18パーセントいらっしゃいました。これを見て、小杉さん、いかがでしょうか?

小杉:「メンバーマネジメント」「コミュニケーション」「管理」が高いですよね。つまり「『マネジメントとして当然やるべきこと』がしにくくなっている」と感じられている。

先ほどのお話では、すべての会社がリモート環境とは限らない状況ですが、おそらく回答されている方は、以前との変化があるということですよね。リモート環境などで、毎日出勤しなくていい方が多く、その中で感じる課題ということだと思います。

井上:対面だとその場にいるだけで、しゃべらなくても情報を共有している部分がありますよね。

小杉:そうですね。特に管理職としては、メンバーがそこにいることで様子が見えるし、電話で会話をしているのが聞こえてきたりもします。

井上:また、黙々と1人でPCに向かうのが寂しく感じてしまう方もいますよね。個人差はあれど、若手や中堅に多いのかもしれません。しゃべっていなくても、周りに同僚や上司、先輩や後輩がいれば寂しくなかったり。私もそういう環境のほうが、本当は好きです(笑)。

小杉:外資系企業や海外の企業では、出社してもブースで仕事をするんですね。だから、基本的に立たない限り周りは見えません。一方、日本の場合はたいてい大部屋で仕事をしていることが多い。管理職の方が島の一番前にいて、みんなが横並びに座っているという(笑)。その違いは相当大きいですよね。

もともとブースだったとしたら、リモートになっても物理的にもそんなに違和感がないかもしれない。でも、管理職の方が大部屋でメンバーを見ていたのがオンラインになると、様子がわからないし、環境的にも変化量が大きいですよね。

井上:そのあたり、後半の「どういうスタイルで今後リーダーをやっていくのか」という話につながると思います。どちらが良い・悪いではなく、このような状況になっているのだと思います。

日本企業で「完全ジョブ型」が難しい理由

続けて質問をさせていただきます。リモートワーク等と場合によっては紐づけられたり、広義には「働き方改革」とも関係があるかもしれませんが。

「メンバーシップ型」と「ジョブ型」というものがあり、今ジョブ型に移行をしているのはみなさんもご存知だと思います。みなさんの働き方としては、現時点でどちらでしょうか? 

投票ありがとうございます。

メンバーシップ型が39パーセントで、4割ですね。ハイブリッドでメンバーシップ型寄りが28パーセント。ハイブリッドでジョブ型寄りが同じく28パーセント。完璧なジョブ型は6パーセントでした。小杉さん、こちらをご覧になって、率直にいかがでしょうか?

小杉:ハイブリッドというのは、例えばメンバーシップ型寄りだと、ちょっとジョブ型の入ったメンバーシップ型ということですよね? ハイブリッドのジョブ型寄りだと、メンバーシップ型が含まれたジョブ型という感じですか? 井上さんがお詳しいと思いますので、逆に解説いただけないですか? 

井上:そうだと思います。みなさん、もし違ってたらぜひチャットでご意見ください。新卒や中途採用の若手が、メンバーシップ型であることが多いと思います。ハイブリッドでメンバーシップ型寄りというのは、配属する際にまったく重視しないということではないでしょうが、あまり専門性を重視せずにジョブローテーションを行うということだと思います。

ハイブリッドでジョブ型寄りというのは、新卒などでゼネラリストが入ってきて、最初にいくつかのローテーションをすると。その後ある程度、リーダーやマネジャーになって専門性が見えてきた時に、その見えてきた専門性を軸にその後の配属やキャリアパスを踏んで行ってもらうという。こういう日系企業もけっこうありますので、それを指しているんだと思います。

小杉:なるほど、ありがとうございます。新卒を採用する限り、「完全ジョブ型」はなかなか難しいですよね。ジョブ別を採用している大手企業も昔からありますが、入社後は結局、社命で異動しますよね。

井上:そうですよね(笑)。

小杉:つまり、会社に人事権があるってことですよね。だから「完全ジョブ型」は外資系じゃない限り、非常に難しいだろうなと思います。そういう意味で、ハイブリッドが多いのもわかりますね。

井上:そうですね。今日ご参加の方は、外資系の方もいらっしゃいますがが、日系企業に在籍されていらっしゃる方のほうがずっと多いです。そうすると、やっぱりベースは「メンバーシップ型」と呼ばれるゼネラリスト採用で、新卒か、中途でも若手を採用する会社が圧倒的に多いんだと思います。

ゼネラリストで育った人たちが抱える不安

小杉:「完全メンバーシップ」と言い切っているところが一番多いのが現状なのは、なるほどと思いました。

井上:4割ですからね。

小杉:いろいろな動きがあると言われる中、やっぱりまだメンバーシップなんですね。

井上:そうですね。先日、私どものエグゼクティブサーチ事業に40代半ばの方から相談をいただきまして。その方の経歴は、営業、製造、経理、人事、物流と、ものの見事に3年ごとに異動をされているんですね。私は浴びるようにみなさんの経歴を見てきていますが、ここまで完璧に3年ローテで40代半ばまできているのは珍しいですね。その方は会社に非常に期待されていて、経営に向けて育成されているんだろうなと思いました。

本人としては、「育成してもらっているのを感じるんだけど、やはりT型(ジェネラリストの「一型」とスペシャリストの「I型」の2つの特徴をあわせ持つ人材タイプ)というか縦に1本刺さる深掘りをしたくて。さすがにまた別部門に行くのはどうかと思うんですよね」ということで、ご相談をいただきました。

小杉:ご本人としては、自分のキャリアに「1本の柱がない」と、どちらかというとネガティブに捉えているんですね。

井上:やっぱり「不安だ」とおっしゃっていました。ここまでこの会社できちんとやってきて、ファンクションもいろいろ見てきている。でも、ここからリーダー・マネジメントとして、どこの専門なのかというと、自分としては希望するところがあるものの、そこだと言い切れるほど専念してきていないと。

これまでの経歴からすると、そろそろ次の異動の時期なんですよね。それで、「思い切って社外に飛び出してみようか」とお考えなんです。逆に言うと、今やっていることを続けたい気持ちがあって、それをロックインしていけるような外の場を求めておられるということで。

小杉:なるほどね。典型的な「メンバーシップ型」の、その中のまた典型的なゼネラリストですよね。

私は社外取締役として銀行にも関わっているんです。その銀行だけではなく一般的な話ですが、銀行員はゼネラリストなんですね。本当にまんべんなく、いろんな支店を回り、企画をやり、人事も経験して、グルグル回って出世していく。これをずっとやってきたんですね。

ところが、最近いろいろ話を聞いてみると、例えば「自分の柱が1本しっかりと立っていない」ということへの不安感が逆にあるようなんですね。昔は亜流だった「投資」や「市場」などをやっている人のほうが専門性があって市場価値がある。だから外資系などへの転職もしやすいという。

従来の王道「メンバーシップ型」で育った人たちが、逆に不安を覚えるようになってしまった。そんな印象がありますね。

若手・中堅は「適材適所」、リーダー・マネジメントは「適所適材」

井上:今、小杉さんがおっしゃったとおり業界特性的な差もすごく出てきているような気もします。また、同じ業界でも会社ごとにそのあたりの取り組み方に差が出てきていますね。

私は、あくまで個人的にですが、入り口としてはメンバーシップ型のほうが絶対にいいと思っているんです。若手の時って「自分探し」をよくしたがり(させたがり)ますが、「自分を探したって何もないよ」と私はずっと言ってきている人間で(笑)。自分もそうだったんでね。

小杉:なるほど(笑)。

井上:何も経験がない時にいくら自分を探しても、あるわけないんですよ。だから、自分探しではなく「自分創り」として、若い時はいろんな経験をしてみて、ヒットが出ることが大事だと思うんですよね。「おお、これ! これ!」みたいな。

いろんな経験をした中で、だいたい30代に入るぐらいまでにそういうのが見つかるといいと思います。最初の職場でヒットが出れば、それでいいと思いますが、なかなかそうもいかない。だから、若手から中堅まではいろんな経験をすることですね。マネジメントクラスになったら、必ずしも全員をグルグル回す必要もないと思っていますが。

よく「適材適所か、適所適材か」という話をします。若手の時はある程度、企業も「適材」をきちんと見てあげて、それを「適所」に置いてあげるのがいいと思います。ただ、ある程度みなさんが経験を積んで、柱が見えてきたら、今度は「適所適材」のほうがいいと思います。しかるべき場所に、その方をアサインしていく。

若手・中堅からリーダー・マネジメントに移行していく時に、こうしたスイッチングをしていくことがすごく大事だと思います。

小杉:だから、先ほどの40代まで3年ごとに異動された方は、さすがに自分の落とし所を決めて、そこで深掘っていくことが必要なのかもしれない。とはいえ、会社がいろいろやらせてくれるというのは、いわゆるメンバーシップ型の良さでもありますよね。例えば新卒でジョブ別に入っても、本当にそれが自分の適性や興味・関心に合うかどうか。経験がないまっさらな状態だと、本当はわからないですよね。

井上:そうなんですよね。やってみないとわからない。また、企業の中でキャリアを積んで経営者になった方から一番聞くのは「自分の軸はマーケティングだったけど、オペレーションを見ていた時期や、管理部門にいた時期もあった。そういうことが、経営層になった時にすごくありがたかった」ということなんです。

ずっと1つの職種だけで、他は触ったことがないのでは、事業全体を見ていく必要が出てきた時にちょっとつらいのかなと思います。

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