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新生パイオニアが挑戦する製造業からサービス企業への変革 〜モノ x コトを支えるSaaS Technology Centerにおけるデジタル内製化〜(全3記事)

2022.09.29

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「攻めのIT」と「守りのIT」は真逆のカルチャー パイオニアCTOの“バイモーダルITの壁”の攻略法

提供:株式会社メンバーズ

モノからコト軸へと消費の主流が変わっている一方で、多くの企業が慣習・文化から、なかなか思うように組織を変えられないという課題を抱えています。株式会社メンバーズ主催の本セミナーでは、パイオニア株式会社執行役員CTO 兼 SaaS Technology Center センター長の岩田和宏氏に、大企業の組織課題や、内製化組織を立ち上げるまでの変革についてお話しいただきます。創業80年の老舗企業がなぜ、わずか2年ほどで製品開発まで行える内製化組織を作れたのでしょうか。本記事では、ベンダー依存やスペシャリスト人材不足などの課題に対して、どのような打ち手を取っていったのかを語りました(記事内容・役職は2022年5月当時のものです)。

スペシャリスト不在、外部ベンダーへの依存

岩田和宏氏(以下、岩田):技術的な課題は、ベンダーさんへの高い依存ですね。先ほど述べたように「手の内化」できていないので、ベンダーさんがどういったことをしているのか、このコストがなぜかかるのか分かっていない。だから私からみたら高コストなものがたくさんあって。

そんなものを含めて「やめましょう」と言ったことがあったんですけれども、アジャイル経験はもちろんないですし、技術的成熟度と言いますか、スペシャリストがいないんですよね。

基本的にはゼネラリストというか、いろんな部門を渡り歩いて成長していくという、大企業のパターンです。今で言うジョブ型の人材が少ないので「スペシャリスト不足」を挙げました。

その中で、ToBeやアクションとしては、人材の獲得と強化(内部シフト、外部採用)、開発体制変革・強化、サービス開発文化・思想の醸成と浸透を課題として挙げました。

そこで、ほとんど全職種なんですけれども、スペシャリスト人材が足りませんとか。内製化・技術と開発のスピードアップを含めて、こういうサービス開発体制が必要ですとか。開発文化は最後のところですけれども、特にアジャイルの開発・マインドの浸透、UXマインドがないので、そういったところをやっていかなきゃいけないと考えました。

最初に、「変革のステップとしてはこうしていきたい」という話をしました。パイオニアは今FY23なんですが、FY22で、まずはアジャイル開発体制への移行や実践ができるようになり、上流工程の手の内化体制をマストにしましょう、と。

その中で、スペシャリストの採用を含めて、できれば50人くらいは採用したいなというのがありましたし、チーム体制もだいたい5チームから10チームできたらいいねとか。あとは、3割くらいは内製化比率に持っていきたいなというのを掲げました。

その中でもウォーターフォール型から、アジャイルの要素を取り入れたイテレーション開発の移行や、事業部内の連携強化、PM/PL主導でのアジャイル開発を、いくつかのチームで進めました。

開発に関する、理想の内製化比率は「7割」

岩田:今期は自律型のチーム、マイクロサービス化を目指して、アーキテクチャを変更したり。採用でも100名、だからプラス60名くらい採りたいというところを含めて活動しています。そうすると内製化がだいたい5割強になるのかなというところです。

今度は改善型チームで実質的な改善ができて、マイクロサービスとチームが一致するようなチーム構成になって、30チームくらい作ることを目指しています。内製化比率は7割くらいを目指しています。なぜ100パーセントじゃないのかというと、やっぱり時期とかいろんな状況によって、開発人数は上下するんですよね。

なので、基本的な方針としては、だいたい10パーセントから30パーセントくらいは、外部の協力会社さんやベンダーさんを含めた、一緒にアジャイルをやってくれるような会社と協力体制を築いて、3割くらいは調整できるような体制にするのが理想だろうと考えています。

そういったこともありまして、去年ソニックスさんという外部ベンダーさんにも出資して、柔軟なリソース体制を供給できるようなかたちで進めています。

経営組織を作るステップとしては、最初に何をやったか。すごく当たり前の話なんですけれども、組織を作るというところでは、経験のあるリーダーがとても重要だと思っています。経験はないんだけど、なんとなくリーダーをあてがわれてやるというパターンの組織が絶対にうまくいかないのは、今まで経験した中では明らかでして。

やっぱりToBeでやるべきことが見えている、経験している人を立てるというのは、非常に重要かと思っています。これもSTCの場合だと、そういったところで見えている姿と今のギャップをしっかり洗い出して、どういうふうにやるのかというのが、とても大切かなと考えています。

そのまま箱を作って、組織的な人格をしっかり作ったり、ミッション・ビジョンを作るというのは当たり前ですし。その上で戦略・戦術、ロードマップを描いています。

異なる開発の組織形態を取り入れる「バイモーダルIT」の壁

岩田:当然、箱を作ってもしょうがないので、最適な人材を集めたり教育したり、要員計画・採用戦略の策定を行ったり。ハード面の制度もしっかり変えていかないと、ソフトのマインド面だけ「変われ、変われ」と言っても、変わりづらい。特に年功序列的な制度ではなくて、スペシャリティを持った人材や技術がある人材には、若手でもきちんと報酬を含めて評価できるような制度を作ることも考えています。

そうやって人が集まって文化を創るというところで、カルチャーをどんどん良くしていければなと思います。ここもPDCAをしっかり回しながら、例えばミッション・ビジョン・バリューのところは今、STCの若手も含めて「我々STCの人間はどういう行動をすべきなのか」という議論をしてもらい、バリューもみんなで決めようという活動を行っています。

組織もPDCAを回しながらどんどん成長していくのが大事なんだということを、よく話し合っています。

その中で「バイモーダル(2つの流儀のIT)」というのは、ガートナーが2015年あたりくらいからよく話していた話なんですけれども、今のパイオニアもまさしくそんなフェーズなので、ご紹介できればと思います。

AWSさんがすごくいい資料を持っていたので、許可をいただいて使わせてもらっているんですけれども。

「モード1」「モード2」というのが、2つの異なる組織形態を企業内に取り入れること、という意味です。「モード1」は旧来の思考で、予測可能でよく理解されている領域向けに最適化されていて、従来の環境をデジタル世界に適した状態に刷新しながら、既知のものを活用することに重点を置くような組織形態です。

「モード2」は探索的で、新しい問題を解決するための実験や、不確実性の高い領域に最適化されているところで、要はMVP(Minimum Viable Product:必要最低限の機能を備えたプロダクト)アプローチを採用する可能性があるところ。

「攻めのIT」と「守りのIT」の垣根をなくすための策

岩田:「モード1」「モード2」というものがあって、その融合をしようとしていることをはっきり伝えたかったので、こんな絵を使ってよく話をしています。「モード1」は安定性と守りのITとか、「モード2」はスピード重視の攻めのITと言われています。

カルチャー的なところで言うと、お互いに「モード2」の人に対しては、「茶髪」「ちゃらちゃら」とか「責任感がない」と言われていたり。実際、私が採用したメンバーも、デザイナーさんなども含めて髪の色はピンクや緑の人がいたり。生え抜きの旧来のシステム系のメンバーは、みなさんまだ作業着を着ているような文化があって、ここをいかに崩していくかが重要でした。

より詳細にいくと、特に「モード1」では、ウォーターフォールやアプリとインフラチームに分かれていたり。「モード2」はアジャイル、Try&Errorの思考だったり。どっちがいい・悪いではなくて、モノ作り系はどうしてもこちら(モード1)なんです。

これはこれで正しいんですけれども、実際はモノ作りのメンバーも、「モード2」にシフトしていかなきゃいけないというのは、会社の需要としてもあります。それで、こういった状況の違いをまず認識してもらって、移行するためにこんな取り組みをしています。

これはより詳細に書いてあるところで、システム要件や開発手法、規模やマインドを含めて、評価も加点方式とは違いますとか。なので、ここをいかに融合するのかという取り組みをやっています。

まずは、これがSTCに当たるんですけれども、CTOやCIOというところで少数精鋭チームを作りました。そこで今も成果を上げられるようなMVPのプロダクトを、3チームくらいで作っていったりしています。

「モード2」の領域を拡大していきながら、「モード1」を取り込んでいって、グラデーション組織化を目指し、最終的には垣根をなくそうとしているんだということを、日々伝えています。

「逆コンウェイの法則」に則った組織作り

岩田:次は、私が話した「逆コンウェイの法則」(チームを機能単位で集約しようという試み)を紹介したいと思います。組織の構造がシステムの構造に自然に反映されるのが一般的というか、逆に言うと望ましいアーキテクチャに一致するように、アジャイルなフローを実現するための組織・チームを設計することが重要です。

今、STC自体もそういった組織・チーム設計をしていて、「Piomatix(パイオマティクス。モビリティAIプラットフォーム)」というパイオニアの技術アセットを基盤として「モノ(ハード)×コト(サービス)」をすべての事業に全方位展開できる体制を目指しています。

「攻めのIT」のための外部人材登用のプロセス

西澤直樹氏(以下、西澤):ありがとうございます。お話を聞いていて、先ほどのバイモーダルというところが、非常に印象に残りました。いわゆる既存の開発手法と新しい開発手法を混ぜるのではなく、いったん別々で走らせて、ゆくゆくは融合させていく、というやり方を取られていると思います。

まさしく「両利きの経営」と言われたりもする領域だと思うんですけれども。新しい「モード2」を実行していくにあたって、今まで社内にいらっしゃった方を一部、「モード2」側に移行させたのか。それとも、採用を含めて新規でチームを作られたのか。そこのプロセスをもう少し教えていただけますか?

岩田:そこは、基本的には新規にマネージャーも含めて、トップレイヤーを採用しています。厳密には1人、部長クラスでアジャイルに精通している人材がいましたので、その人は立てましたが、データインテリジェンス部門やモバイル開発部門を含めて、そこは外部採用でトップをしっかり雇用しています。

今、SaaSテクノロジーセンターの中にあるSaaS統括部のメンバーは8割くらいが外部登用人材になっています。そのメンバーが今までなかったアジャイル系の記述標準などのいろんなルールを決めていって、まず下地を整えていく。

モノ作り系からスキルシフトしなければいけない人材がいますので、準備ができたらそこのメンバーを徐々に移していく。教育環境を含めて、そんな流れでやっています。

西澤:先ほど、もともと「モード1」と「モード2」だと、カルチャーや制度も含めて、まったく違うものができあがっていくということだと思うんですけれども。SaaSテクノロジーセンターで「モード2」を立ち上げた際は、今までの人事制度や評価制度とはまた別のものを作られたんでしょうか?

岩田:答えはちょっと難しいんですが、一部イエス、一部ノーみたいなかたちです。柔軟にできる制度は柔軟に変更しているんですけれども、今チャレンジしているのは、既存の制度を変えずにアドオンすることです。例えばスキル手当でカバーしたり。

あとは、特別な人材は、専門型の職種人材の採用みたいなかたちで、基本は有期契約で2年ごとに契約変更したりと柔軟にやっています。

評価制度を変えられなければ、採用した人材が離れてしまう

西澤:なかなか一気に全部変えるわけにはいかないので、できることから柔軟にやっていくスタイルを取られているということですね。

岩田:そうですね。まずは評価制度から変えようとしています。評価制度も旧来のやり方ではなくて、STCの中だけはOKR制度をきちんと設けて、半期に1回しっかりと評価をしています。ただ評価しても報酬制度が変わらないんだったら意味がないので、そこに向けて話し合っているところです。

制度が来年も再来年も変わらないようだと、たぶん今年採った人材をアトラクトできないので、そこは私のミッションとしてやっています。

西澤:なるほど。まさに今、そこが実践の最中だというお話ですね。

塚本洋氏(以下、塚本):「あえて別会社にせず、本体そのものを変えていくんだ」とおっしゃっていたので、かなり強い決意でやられているんだとは思いました。

西澤:会社別にする企業さんも多いと思うんですが、あえて同じ企業の中で組織を分け、その中で柔軟にやっていく選択肢を取られたのはどうしてなんでしょうか?

岩田:もし別会社にするなら、事業もセットで持ってこないと、結局は受発注的構造になってしまいます。会社や組織が違うと、どうしても受託会社になってしまうんです。

受託会社になると、本当の意味での最高のスピードはたぶん出ないんです。そこを考えると、最高のスピードを出すためには、組織を中から健全に変えていくほうが本当はいいのではないかと思っています。

エンジニアドリブンのカルチャーで、「パイオニアなんとかテクノロジー」というふうに分けて作ったほうがいいのかと思う時もあるんですけれども。そうすると結局は受発注になるし、サービスを中心として一緒に事業をやるとなると、難しくなるのかなと思っています。今はまだチャレンジ中です。

塚本:会社を分けたら、カスタマーと開発との距離がいかに近いかといったマインド的にも溝ができてしまうので、一緒にやることをかなり大事にしているんですね。

岩田:7〜8人くらいのチームが、事業のPdMとエンジニアが一体になってやるのが理想だと思います。

塚本:ありがとうございます。次の採用のお話はみなさんも気になると思うので、ぜひお願いします。

SaaS人材を確保するための採用戦略

岩田:採用ですと、今はSaaS人材の確保です。短期的には中途採用でカバーしていかなければならないですが、中期的には中にいる職種転換、特に組み込み系のエンジニアリングの経験者の職種転換があって、長期的には新卒や、職種転換の中でも未経験者で確保していくのが戦略的だろうということでやっています。

モノ作りで養った技術を活かしたIoTソリューションサービスを目指す姿として、組み込み技術者も一定数必要となるところで、モノ作りも必要になってくるので、組み込みは組み込みでしっかりとそのままやることにもなっています。

ここは短期か中期ということで、スペシャリストを中途で採用することもありますし、バランスです。中途採用でスペシャリストの外部採用が進んでくれば、職種転換の研修も進みます。研修制度も設けて実習と配属をしています。

具体的には、スキルシフト人材に対して研修・実習を取り入れています。その中で本人の指向性やレベルに応じて、実践で慣れが必要と判断したエンジニアは、いったんQAに行っていただいて、開発のフローに慣れてもらったり、自己学習を続けていただく。そこで伸びてきたら、簡単ではないんですけれども比較的学習しやすいモバイル系に行ってもらったり。

研修・実習でOKと判断した点線のエンジニアは、直接フロントエンド・バックエンド・ITとか含めて配属したりしています。

採用での認知獲得から教育までの仕組みを構築

岩田:課題はいろいろあるんですけれども、まずはパイオニアがクラウド・モバイル人材を募集していることすら知らないということがありました。そこも1年かけていろんなことにチャレンジしてきているんですけれども、もともと新卒中心のエンタープライズの人材確保だったので、会社自体が中途採用に慣れていないこともあります。

そこで、一般的な施策ですが、ITエンジニアの認知度向上として最近よくnoteで発信したり、イベントに登壇したり、PR専用の方を雇ったりしています。

1年間でエンジニアとしては30名くらいのスペシャリスト人材を確保していまして、今年は60名くらいの採用を目標として動いています。

情報発信として、オウンドメディアのnoteを月最低3本と決めて、いろんなコンテンツを発信しています。noteを見てイメージがついてというところで、だんだん入社が増えるということも実際に表れています。

採用活動は、人事と連携しながら、ダイレクトリクルーティングやエージェント経由での採用活動をおこなっています。「Meety」というカジュアル面談の媒体も活用していて、いろんなエンジニアが積極的に登録してくれて、カジュアル面談の実施やリファラル採用にしっかりと力を入れています。

どう教育するのかもSTCの中で作っています。例えばWeb系の開発に必要なスキルマップを、Web一般とかRESTの知識、セキュリティとかデータベースを含めて、どういう状況にあるのか。

各々が自分のレベルを知らないとわからないので、例えばレベル1からレベル5くらいは今作っていて、レベル1・レベル2・レベル3と認識してもらって、レベル2からレベル3に行くためにはどうすればいいのか。

例えば、ここの知識が足りないなら、Udemyなどの講座でこれを聞いてくださいとか。本などもスキルマップ化して学習できるものを独自に作っています。

今後はWebだけではなくて、ネイティブやプロダクトデザイナーを含めて、いろんなものを同じような形態で作っています。駆け足だったんですけれども、採用のところは以上になります。

欲しい人材が転職を考えた時、いかに第一想起してもらうか

西澤:ありがとうございます。ここでいったん切らせていただきます。さまざまなチャネルを活用しながら、包括的に採用活動をされてらっしゃるということなんですけれども。一般的に企業さんからすると、デジタル人材は採用がしづらい状況だったり、そもそも採用マーケット自体が非常に取り合いになっていると思います。

パイオニアさんが苦労されている点や、むしろそこは自分たちにとってはチャンスなんだという点、現状の採用自体は順調なのか、どういう工夫をされてらっしゃるのか。そういった点を、ぜひお伺いできればと思うんですけれども。

岩田:立ち上がりはけっこう時間かかりました。例えば大手IT企業みたいな会社のソフトエンジニアが「そろそろ転職しようか」と思った時に、たぶん第一想起に入らないというか、ぜんぜんイメージがないことが圧倒的に大きな課題だったんです。

まずはパイオニアが今、SaaSなどを含めたソリューションカンパニーを目指しているところを知っていただくために、Webメディアなども含めた認知活動が一番の課題だったというのがあります。

ようやく今年くらいに入ってから、多いと月5人くらい決まるようになってきたんですけれども、半年くらいは準備に時間がかかりました。

塚本:もちろんご苦労はされているんでしょうけれども、成果もそれなりに出ていると思っていて。他の企業さんも「エンジニアを採用したい」とおっしゃるんですけれども、「僕らはIT企業ではないし」とか「無理だ」と嘆かれているので、たぶん勇気が出る結果ではないかとは思うんです。

あと、採用するということは、評価や育成をしていくということなので、そこも含めてきちっと整備されていることがまた採用にもつながるし、採用した人の育成にもつながる。そうしたサイクルが回っていると感じましたし、取り組みがビシビシと伝わってくる感じだと思いました。

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