2024.11.29
“マニュアル作成が進まない問題”をAIで解決 管理者の負担も軽減できる、先進AIツール活用法
誰のためのDXなのか 考え抜いた先に、見つけた答え(全1記事)
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司会者:続きましては、エン・ジャパン株式会社事業推進統括部事業管理部部長の高橋淳也さんです。5年で売上3倍、急成長を続けるエン転職。その裏側には数々の業務変革プロジェクトがありました。「懸命に働く人を助けたい」、その思いがたどり着いた先とは。
(会場拍手)
高橋淳也氏(以下、高橋):初めまして、エン・ジャパンの高橋淳也と申します。本日は「誰のためのDXなのか 考え抜いた先に、見つけた答え」と題して、私のDXを乗り越えたエピソードをお話しいたします。
まず会社紹介をさせてください。エン・ジャパン株式会社は2000年設立、東証プライム上場企業です。連結売上高427億円、連結従業員数2,800名、日本最大級の総合転職サイト・エン転職などを運営しています。
現在注力しているのが「ソーシャルインパクト採用」です。中央省庁の幹部候補や、国際NPOのDX担当など、社会的なインパクトの大きな採用を支援しており、延べ100名以上が決定しています。
次に私の自己紹介をさせてください。私はエン・ジャパンの事業管理部に所属し、部長職を務めております。主力サイト「エン転職」や、新サービス「エンゲージ」に関わるデータの管理、DXプロジェクトを推進しています。過去実績としては年間26,000時間以上の業務削減、全社特別賞を3度受賞。クラウドサインやkintoneなどを使った業務改革を推進し、現在ユーザー会の会長も務めています。
41歳の今、社内外でとても重要な役割を任せていただいています。しかし昔は「お前の言葉では誰も動かない、動いてくれない」と言われていました。そんな私がどう変わっていったのか、2006年の新卒入社時代にさかのぼります。
高橋:最初の壁は「人を動かす広告をどう作るか」。私はエンに新卒で入社しました。職種は就活サイトのコピーライターです。企業を取材し、求人広告を作成する仕事です。
当時の上司にずっと「硬い」と言われていました。考え方が硬い、言葉遣いも硬い。「これは人が動いてくれる広告じゃない」と。私は理系の大学院出身で、それもあってIT業界の求人を任されることが多かったです。入社後のミスマッチがないように、正しい情報を伝えなければ……そう思えば思うほど専門用語が増え、悪循環に陥っていました。
その時出会ったのが、劇作家・井上ひさしさんの言葉です。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」。難しいことを難しいまま伝えるのは、自分のエゴでしかない。本当の賢さとは、相手に合わせて優しく、楽しく言葉を紡ぐことなんだ。
「相手のことを考え抜く」、この考えと出会って最初の壁を乗り越えることができました。そして現場で約10年、延べ2,000社以上の企業の新卒採用・中途採用をご支援することができました。
高橋:次の壁は「人を動かす企画をどう作るか」。2015年、私が35歳になった時に転機が訪れます。大規模なDXプロジェクトへの参画です。その前年、2014年に主力サイト・エン転職がリニューアルし、右肩上がりに業績が伸び続けました。一方で、この急激な事業成長に組織がついていけず、大規模な業務改革が急務だったのです。
SFAの導入など大規模プロジェクトが複数動く中で、私のミッションは分業化でした。従来の正社員の業務を分業化し、新規業務フローとシステムを構築。約半年でアシスタント50名の組織を立ち上げる。この特命に対し、私に与えられた期間は1ヶ月。待ったなしの状況でした。
現場でコピーライターを10年経験し、自信はありました。でも本格的な企画業務は初めてで、できる自信はありませんでした。でも、やろうと決めました。なぜか。仲間のためです。
エン転職が急成長し続ける中、多くの方に良い求人を届けたいと、コピーライターの仲間は業務量が増え続けながらもがんばっていました。自分も自分を育ててくれた古巣を救いたい、恩返しがしたいと考えたのです。
実はこの当時、私は仕事への情熱を失いかけていました。この数年前に、私が入社以来関わってきた就活サイトが終了し、事業がクローズになってしまいました。「何のために僕はがんばればいいんだろう」と、仕事の目的を見失っていたのです。
それであれば、自分のことは忘れて仲間のためにやり切ろう。それが今、自分のやりたいことなんだと、自分の思考を整理して、覚悟を決めました。
高橋:初の企画職、わずかな準備期間。どう目的を達成するか必死に考え、私は外部に知恵を求めました。分業化が高度に進んでいるのはどこか。それは自動車メーカーなどの製造業です。大型書店に入り浸って、品質管理や生産管理の書籍を読み漁りました。
ここで学んだのが「自分が直面する課題は人類初ではない」ということです。類似する問題は、これまでの人類の歴史の中で誰かが直面し、模索し、解決策を導き出してくれています。アシスタント組織50名の立ち上げもそうでした。外部の事例をヒントに、企画を組んでいきました。
そして実行です。実行において、業務フローの変更で一番難航するのが「部署間の連携」です。「コピーライターが所属する制作部の改善のために、営業部はこれを変えるべきだ」、そう正論を伝えるのは簡単です。でも正論では人は動かない。どうするか。
私は営業部門の勉強を始めました。ランチミーティングなどを通じて、営業部の現状と課題をたくさんの人に聞いていきました。結果「困っているのは制作部だけじゃない、営業部も困っているんだ」と理解し、両組織の共通する課題を見つけ、「営業部も救いたいんです」と訴えてプロジェクトを推進していきました。
その結果、分業化が無事に成功しました。私自身も全社MVPを受賞し、1メンバーから課長に昇格することができました。より多くのミッションを任せていただき、以降も数々のシステム導入を進めております。自分のことを忘れ、仲間である制作部のため、そして関わる営業部のため、「誰かのため」に懸命に努力をすれば、結果はあとからついてくる。誰かはちゃんと見てくれている。これがこの時の学びです。
高橋:今日お伝えする最後の壁は、「全社を巻き込むDXをどう進めるか」です。2020年の3月、39歳の時に、新たな試練に直面しました。コロナ対応です。社会も経済も激動し、エン・ジャパンも事業継続と社員の健康を守るため、約1ヶ月で完全在宅にシフトしました。
再び急速な業務改革に巻き込まれる中で、考えていたことが2つあります。「失ったことより、得たものを考えよう」、そして「やまない雨はない。未来に備えようということです」。
コロナ禍で業績も悪化しました。ピンチはチャンス、何かないかと活路を探しました。その1つが紙や印鑑の廃止です。社内に紙の事務手続きが残っていました。申込書を紙で取り交わしたり、印刷してチェックしたりと、不便なことはわかりつつ「今変えなくていいんじゃないの?」と言われやすいものです。
しかし完全在宅ではそれが通じません。100パーセントのペーパーレスを推進する御旗が立ったのです。電子契約、クラウドサイン推進もその1つです。やるなら今しかない。
また、経済は低迷してもいつか必ず復活します。リーマンショックの時もそうでした。その時の業績に耐えられる仕組みを今から作る必要があると考えました。大変な状況だからこそ、転んでもただでは起きないと、決意を新たにしました。
この時の具体的な改革は2つ、「顧客との契約締結」「社内との承認手続き」です。内部統制に関わりますので、法務側との調整が必須です。また承認ワークフローの構築では、情報システムとの調整も必要でした。
高橋:乗り越えたポイントは「ゴール設定」です。各部署との共通ゴールを設定しました。例えば法務側とのディスカッションでは、事業部の状況を伝え「印鑑をなくしたい、紙の書類をなくしたい」と相談しました。中には私が入社した2006年以前から継続している申請書もあったのです。法務からの一時回答は「難しい」でした。
そこで一歩踏み込んで「勉強させてください」と伝えました。「なぜ契約書の印鑑を押す行為が必要なんですか?」「法律上の根拠は何なんですか?」と。これは求人広告の取材をするイメージです。弁護士資格を持つ法務担当に食らいついて、たくさんたくさん教わりました。そこで気づいたのは「法務も会社を守りたい」という当たり前の事実でした。
さらに深堀ると、法務側も紙の非効率な業務に困っていました。業務改善をしたいけれども、法律遵守とリスク回避のために、あえて手間をかけてくれていたんです。「ここにも困っている人がいたんだ」「私はまだ事業部のことしか考えられていなかった、視野が狭かった」と反省しました。
業績を最大化する、リスクを最小化する、関わる全員が笑顔になる。全部叶えたいなと思ったんです。会社の経営では攻めと守りの両方が必要です。紙の契約書は手段です。なので、他の手段でこれを実現すればいい。事業部の要望、法務側のリスクを書き出し、1つずつ検討し、取締役にプレゼンし、承認を得ました。
そうして関わるすべての人の協力を得て、紙の書類の完全廃止を実現しました。すべての契約で電子契約、クラウドサインを利用できるようになり、現在利用率は97パーセントにのぼります。顧客との締結スピードも5営業日から2時間と、圧倒的な短期化を実現し、営業生産性も大きく向上しました。
高橋:今回の変革では、社外からも多くの喜びの声をいただきました。1つは弊社の代理店です。弊社の取引で紙の書類が残っていたので、コロナ禍でも定期出社が必要でした。それが完全オンラインになり、「歴史が変わった」と感謝されました。
もう1つは、エン転職の掲載企業です。弊社がクラウドサインを推進して、便利さに気づいていただけました。「初めて使ったけど楽だね。クラウドサイン、うちでも入れることにしたよ」という声をいただきました。
自分のために。自分が所属してきた制作部のために。ともに事業を進める営業部のために。事業を支える法務や情シスのために。そして取引先やパートナー企業のために。業務改革の輪がどんどん広がっていきました。その輪が広がれば広がるほど、できることが増え、成果が大きくなっていったのです。
「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければみんなで進め」。アフリカのことわざです。本当だなと痛感しております。そのために必要なことは、相手に関心を持つということです。大切なのは感謝と尊敬の念です。人と人はわかり合えないと思っています。だからこそ知る努力、伝える努力が必要であると、改めて理解しました。
高橋:今後の展望として、社外の変革をもご支援していきたいと思っております。弊社内で実験してきた業務改革のノウハウを企業さまに提供することで、企業のDXを支援する。この目的で新規事業「エンSX」が生まれました。「SX」は「セールストランスフォーメーション」の略です。まずセールス分野のDXからご支援していきます。
誰かのために、社会のために、懸命になる人を増やし世界を良くする。これが私たちエン・ジャパンの掲げるパーパス、社会における存在意義です。この実現に向けて、誰かのために、私自身も懸命に努力をし続けたいと思っております。ご清聴ありがとうございました。
(会場拍手)
司会者:高橋さん、ありがとうございました。個人的に私も井上ひさしさんが大好きなので「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」、非常にそうだなと思いながら聞いておりました。たくさんご質問をいただいてますので、お時間の許す限りお答えいただければと思います。
高橋:ありがとうございます。
司会者:まず「DX系人材の発掘に困っております。どう育成すればよいでしょうか」というご質問です。
高橋:「変革の種」は各社さんにあると思います。まだ芽吹いていないけれども、デジタルのものが好き、勉強することが好き、実験が好きという人は必ず組織内にいます。その人たちをちゃんと見つけてあげて、ちゃんと土壌を与えてあげれば、勝手に育つんです。大事なのはタレントマネジメント、人をちゃんと発掘するところかなと思っています。
司会者:そのためにはやはり、常日頃からコミュニケーションをとることが大事なんですか。
高橋:そうです。弊社には「日報」を大事にしている文化があります。全社員で1,000人以上いるんですが、私は500人ぐらいの日報を毎日見ています。
司会者:えっ!?(笑)。
高橋:本当です。そうすると「この子賢いなあ」とか「この子センスいいな、ちゃんと感度高いな」とかわかるんです。あと弊社では適性テストを運用していて、全社員、毎年テストを受けています。私も毎年受けてるんですが、そうすると変革人材や主体性が高い人がピックアップできるんですよね。そして狙って育てるんです。
司会者:まずピンポイントに「この人だな」と見定めて、その人をどんどん育成していくんですね。
高橋:そうですね。やはり全員を一気に育てるのは難しく、先に行く人が必要だなと思っています。なので私自身が常に前に行き続けて、後ろに続く人の踏み台になりたいなと思っています。そのあとでメンバーがちゃんとついていけるように引っ張っていくことを大事にしてます。
司会者:ありがとうございます。もう1問いいでしょうか。「私も『誰かのために』を意識できる組織を作りたいです。そんな組織づくりのヒントが欲しいです」といったご質問です。
高橋:シンプルに言うと「結果と感謝を他部署に伝える」ことです。「協力をしてください」とみんなお願いはするんですけど、その結果は言わないんですよね。
司会者:確かにそうですね。
高橋:システム導入をして一緒に作ってくださったシステム会社さんに、「日報でこんな声出てますよ」と伝えたんですよ。そうしたら「こんなの初めてです」「わかってなかったです、こんなに喜ばれるんですね」「また一緒にやりましょう」となるんです。
「結果と感謝を伝える」って簡単ですよね。自分の先にいる人はちゃんと感情がある人で、やはりその後は気になっている。そこにに寄り添うだけで、味方はどんどん増えていくんじゃないかなと思っています。
司会者:一方的ではなく、相互的にフィードバックをして、どんどん次につなげていくということなんですね。ありがとうございました。500人ぶんの日報とはすごいなと、今でもちょっと動揺しております(笑)。
高橋:(笑)。
司会者:ではここで当セッションを終了とさせていただきます。高橋さん、ありがとうございました。大きな拍手をお送りください。
高橋:ありがとうございました。
(会場拍手)
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