2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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竹林一氏(以下、竹林):以前松波さんにもお話ししましたが、結婚情報誌の『ゼクシィ』で、「3時間の結婚式から60年の始まりの結婚式へ」とコンセプトをリフレームされた伊藤綾さんという方がいます。1,000人花嫁委員会を作って、1,000人の声を聞いたと言っておられました。
彼女たちが求めているのは、新しい生活への門出であって、3時間のためではない。二の腕が震えていたり、結婚式の筆が「見栄えはいいけど書きにくいで」というところから、インサイトを出していった。今日のお話の中で「複雑な問題と厄介な問題」がありましたが、この厄介な問題に相当している。僕は、最後は意志入れだと思うんですよね。
1,000人でアンケートを取って、「70パーセントがOKやからこれいけるで」といっても、ほんまのこと言わないんですよね。だから自分の意志入れ、ある種の仮説があってその中から考えていかないと、2次情報を分析しているだけになってくるじゃないですか。意志入れもポイントやなと思って聞いていたんです。
松波晴人氏(以下、松波):そうですね。最後は意志の問題になりますから。結局最後は世界観です。
竹林:そうですよね。それが出せるかどうかは、意志入れになってくるので。
松波:だから自分のやりたいこと、「自分ごと」をやらないと駄目ですね。例えば、電話を発明したベルも、お母さんと奥さんが耳の不自由な人で、とにかく情報を伝えるということが「自分ごと」でやっていたので、寝るのを忘れて研究することができた。だいたい成功している事例はそうなっていますね。
竹林:そこに最終的に行き着くかどうかですよね。
竹林:感想であったんですけど、リニア思考はなんとなく説得しやすいと。「リフレーム思考って説得しにくいんちゃうか」というような感想もあったんですけど。
松波:はい。リニア思考の人にリフレーム思考を説明しに行くと、それはわかってもらえないですよ。つまり定説でしか考えない。勉強で教えてもらったのは全部定説なので。隠れた真実と言っても「なんや、ようわからんぞ」となる。
竹林:さっきの松波先生のあるあるの中で、「データで証明してみろ」というのが、リニア思考の発想で、すべて見ているというイメージですよね。
松波:そうです。アポロ計画みたいに考えていくということですね。
竹林:そこで大事なのは、意志入れがあったら、今度は説得の仕方が変わってくると思うんですよね。会社や自分が、その世界観でビジネスをすることに対して、賛同する人を集めていくと、動き始めているかなと感じました。
松波:意志が一緒な人を集めるのが桃太郎ですよね。「鬼退治に行くぞ」という意志。西遊記なら「天竺目指すぞ」という意志。意志は一緒なんだけど、いろんな能力を持っている人たちを集める必要がありますね。
竹林:それが僕、とっても大事やなと聞いていましたね。その意志入れをするためにインサイトがあって、そこから出てきたのがフォーサイトとして「そうや」と心から思うから、じゃあどうやって売ろうかというチームが出てくる感じかなと思って聞いていたんですよね。
松波:そうです。そうです。
竹林:じゃあ並木さん、お待たせしました。
(一同笑)
並木洲太朗氏(以下、並木):いっぱいあって、何から聞こうかという感じですが(笑)。1つは、先ほど現場という話がありましたが、僕が大学院で研究を始めた時に、教わったこととすごく似ているなと思いました。現場に行ってまず1次情報に触れなさいと。
それから仮説を立てて、その仮説を検証して研究することを習ったんですけど、それがこのForesight Creation(フォーサイトクリエーション)のプロセスとすごく似ていて。フォーサイトを出すところ以外は、研究とほぼ一緒だなと思って本も読ませていただいていました。やはりクリエーションする過程で、研究的な方法論を身に着けるのが有効でしょうか。
松波:それはめちゃめちゃ鋭い指摘です。これまでのマーケティングは「調査」やったんですけど、僕が持ち込んだのが、「研究」というアプローチです。先ほど「アブダクション」でお見せしたあの図がまさに、研究としてやりましょうということを示しています。
最初は物理学でも化学でも何でも、現象の観察から始まりますよね。これが一次情報の取得です。あと研究活動では過去の研究をレビューしますが、これがナレッジの応用です。研究ではこの一次情報とナレッジを用いて、新しい仮説を立てます。
天動説ではなくて地動説のほうが、うまく現象が説明できるのではないか、といった形です。新価値創造ではインサイト出しにあたります。このように、Foresight Creationは研究と一緒ですよね。
これまでは調査だったので、調べて「このあたりが落としどころじゃないか?」と枠の中で考えて、上の人が気に入りそうなアイデアはどれかな、みたいにやっていたんです。「問いを立てる」と「落としどころを探す」ではぜんぜん違う発想になります。調査だと「落としどころ探し」になるんですけど、研究でやると「ほんまに重要な問いは何だ」と、根底から考えます。この「問いを立てる」ことが新価値創造でも重要だという話です。
松波:ただ、大学で卒論とか修論とか書こうと思ったら、自分のオリジナルの仮説を立てる必要があるんですけど、それを実は大学で教えてもらっていないですよね。「仮説を先生からもらいました」というパターンが多いです。
並木:確かに。
竹林:なるほど。
松波:なので自分で仮説が立てられない。仮説の立て方というか研究の仕方、インサイトの出し方はもちろんあるんですけど、それは日本ではまったく教えられていないんですよね。これは大阪大学でいろんな先生に聞いてもそうです。そこを「教えてない」と先生方もおっしゃっています。
ものすごく優秀な研究者であっても、「自分はできるけどよう教えられない」とおっしゃる。一方僕は、ありがたいことに留学をさせてもらった時に、リサーチメソッドという講義があって、研究とは何か、仮説とは何かを徹底的に教えてくれはったんですよ。それが今も一番役に立っています。
そのリサーチメソッド、仮説の立て方という講義を、大学もしくは企業でもやると、だいぶ日本が変わってくるんじゃないかと思っています。そもそも研究とは何やねんというところから。
並木:そのプロセスで、「8つの能力(玉)」で言われている統合やリフレームが、かなり重要なキーワードになってくるなと思って読んでいました。
松波:ああ、そうです。おっしゃるとおりです。
竹林:大学にリサーチメソッドを持ってくるだけでも変わるかもしれないですね。
松波:だいぶ変わると思いますね。今、高校とかでもアクティブラーニングとか言って、生徒さんが考えるのをやっているじゃないですか。僕、ある高校でフォーサイトスクールをやってみたんですけどね。
その時わかったのは、「そもそも研究って何?」ってことがみなさんわかってない。言語化して共有していないので、生徒さんに「新しい発想」と言っても教えにくいところがあります。リサーチメソッドを高校で教えるのでもいいと思うんです。
竹林:実は今回、ある高校の副校長とか、その学校の先生や保護者の方に見ていただいているんですね。
松波:おお。
竹林:従来の「進学進学!」だけではなくて、起業するとか、単位もどちらかと言うと外の世界に目を向ける。「京大生にポイントが付くんですよ」と言うたら、「高校生もポイント付けていいんちゃうか」と、今回見てくれはるんですね。
この話を聞いていて、凝り固まっていくよりも、高校生の時からこんな話聞いたほうが、リフレームしやすいんちゃうかなって思うんですけど、それはいかがですか?
松波:そこは、まだよくわからない面が多々あるんですけど、チャレンジする値打ちはめっちゃあると思いますね。最近塾でも勉強を教えない塾が出てきています。「君は何をしたいんだ」と問う塾が出てきていて。「僕は裁判官になりたいです」「じゃあ、何を勉強しないといけないんだ」みたいな、意志を明確にする塾とか出てきているんですね。
竹林:ほう。
松波:大学の学部に入る段階で、だいたい進路が決まってしまう面があるじゃないですか。医学部に入ったら医者になるわけで。高校生の時に自分は何をしたいのか、自分はどういう人間になりたいのかを考えられて、目標に向けて勉強できたら一番いいと思うんですけどね。
竹林:松波先生と話していて、どのへんでリフレームを学んだらええのかを聞いた時に、社会人やったら新入社員の時やと。既存の事業をやり始めると、どんどんフレームが固くなってくると、さっきのThink out of the boxの箱が大きくなっていくという話をされていたんですけど。
松波:ちょっとそれはどのへんかわからないですけど、僕の思いとしては中学生でやりたかったんですけどね。フォーサイトスクールをシャーロック・ホームズ教室くらいに簡易にして。意外な真相を出しましょうというのは、ぜんぜんやってもいいんじゃないかなと思うんですけどね。
竹林:ですよね。
並木:本の中で、「誰でも幼児の時はリフレームする能力を持っている」とおっしゃっていましたね。
松波:そうそう。「リフレームとかめちゃめちゃ高度過ぎてできませんわ」「スティーブ・ジョブズとか特別な人の話なんじゃないですか」とよく言われるんですけど、安心してくださいという話です。
すべての人がリフレームしまくっている時期があって、それは幼児期の言葉を覚える段階ですね。どんどん新しい情報を仕入れて、どんどんリフレームすることができないと、言葉をしゃべられるようにならないです。みなさん普通に日本語をしゃべってらっしゃるのであれば、十分リフレームしたことがありますよという話です。
ただ社会に出ると、つまり保育園や幼稚園に行くと、周りとどう協調していくかということを学ばざるを得なくなって、リフレームしなくなっていくんですよね。
並木:自分でもう一度リフレームする能力を取り戻したり、自己主導型にしていくのは、エフェクチュエーションの飛行機のパイロットの原則とか、不確実性の中で、どうコントロールするかみたいな話とすごく共通するなと思いました。
並木:本の中で自己変容のステップの図があって、自己主導型から自己変容型に変わっていくという話があったんですけど、先ほどの個人として重要な「自己の世界観を持つ」「自己効力感を持つ」「腹を決める」「仲間を持つ」という4つのことをやっていくと自己変容になれるのか、もう少しポイントみたいなのがあったらお聞きしたいなと思います。
松波:いくつかあるんですけど、一番簡単なのは「認知的不協和に耐える」ことですね。例えば、みなさんそれぞれ生きてきた中で、意見や考え方を持つに至って、「俺はAが正しいと思う」と考えるわけじゃないですか。
例えば、わかりやすい例えで言うと、「ニュートン力学はめっちゃ正しい」と思っている人と、「いやいや、ニュートン力学で説明できない物理現象いっぱいあるよ」という人たちがいたら、何でもそうですけどネット上でもやたら燃えますよね。
AかBかで議論するんですけど、これはまったく不毛です。AとBは両方本当なんですよ。ニュートン力学は正しいし、ニュートン力学で説明できない現象もいっぱいあります。どっちが正しいかという議論を延々とやってしまうんですけど、そうじゃなくて統合する必要がある。この2つを統合できへんかという考え方が必要ですね。
AとBを統合してCという別の理論を打ち立てようと。そういうかたちで相対性理論が生まれているわけですよね。だけど、Aが正しいと思っている人からしたら、Bの言っていることはウザいじゃないですか。
竹林:うん。
松波:認知的不協和が生じるからですね。認知の上で協和しない。「気持ち悪い。俺はAが正しい言うてるのにBが正しいと言うやつがおる。これはウザい」と。それは認知的不協和ですけど、だいたいどうなるかというと「Bはアホな理論や」と自分が安心して、認知的不協和から逃れようとします。
でも、そうするのではなくて、認知的不協和が起こるような違和感のある事実から学んで、Cを生み出していく必要がある。それができればリフレームはいくらでもできるようになると思いますね。
並木:自分の知っている知識や理論で説明できないものに出会った時こそが、自己変容のチャンスということですね。
松波:はい、そうです。ただ、要注意ですよ。「地球が丸い」と思っている人が、「地球は平らだ」という話に違和感を生じた時には、統合する必要はありません。「地球は平ら」は事実じゃないので。
竹林:(笑)。
松波:ほんまに「どっちもある」という時には統合する必要があるということですね。でも今はフィルターバブルと言って、我々個人のことをGoogleの方がよく知っていて、その人に気持ちのいい情報しか提示しないので、AやったらAにどんどん固まっていくことが起こるんですよ。
竹林:うん。なるほど。
松波:だからもっと異論に触れることを、したほうがいいんです。でもネット社会になると逆にそれが凝り固まっていくほうに進んでいくという、フィルターバブルが起こるので、話がややこしくなっている感じがします。なので、やたら論破したがりますよね。「Aが正しいと論破した」と論破しても何の意味もないんですけど。
竹林:論破するのも楽しくないですし、AとBをガッチャンコして真ん中くらいを取るのも正しくないですよね。
松波:落としどころ(笑)。
竹林:「真ん中を取ってというのは何やねん」という(笑)。落としどころを探って、可もなく不可もなく。「ええ!?」みたいな。たぶん1回俯瞰するんでしょうね。
松波:そうですね。メタに上がるということです。
竹林:具体化して、松波さんの本にも書かれていますけど、メタ化する。1回抽象化して俯瞰して、それぞれを見た時に何が起こってんねんとか、共通するもんは何やねんというところから見てはるんでしょうね。
松波:そうです。そうです。
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