2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
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竹﨑由佳氏(以下、竹﨑):ご自身が変化する中で、代表監督としては周りを巻き込んで改革を行うことになると思います。周りと調整していく中で波風が立ってしまったり、大変なことはありますか?
井上:これは非常に大変ですね。組織の形態や歴史の深さなどの要因だけではなく、人間社会の中でいろんなものを動かしていくということは、人と人との関わり合いの部分が大きいですよね。いろんなものがこれに左右されることを、あらためて感じながら、今なお苦しみながら仕事をさせてもらっています。監督をやっていた時も、いかに選手たち、またコーチやスタッフが一丸になっていけるかを考えました。
またもう1つ、選手たちにはそれぞれの所属があり、コーチにも所属がある。そして柔道界にはいろんな方々がいらっしゃいます。その方々に、できるだけ全日本のチームを応援してもらえるようにするんです。いかにして協力体制を築くかという目線で、常にバランスを考えながら、いろんな取り組みをしましたね。それも大変でした。
竹﨑:バランスを取ることは本当に難しいと思います。具体的には、どの団体とも積極的にコミュニケーションを取っていくということですか?
井上:そうですね。「コミュニケーション」が大きなキーワードになります。やっぱり相手に話をしていかないと伝わらないし、接近していかないと信頼関係は生まれない。そこは積極的に行いました。
例えば練習場等に足を運んで、選手や所属の方々とのコミュニケーションを取っていく。またさまざまな大会等で協力してくださる方々に対しても、よりご理解をいただくために、足を運んでお話をさせていただきました。これは私だけが行ったのではなく、私の上の強化委員長、強化副委員長も、こうしたことに全力で動いてくださいました。まさにチームでしたね。
この「人間関係」「つながり」「信頼」といったことは、これからも柔道界のレガシーの1つとして、しっかりと持ち続けていきたいですね。そうすることで、さらなる発展へとつながっていくと強く思います。
竹﨑:井上さんの率先して動かれる姿が、みなさんを引っ張り上げたんじゃないかなと想像してしまいますね。
井上:そんなことないですよ(笑)。
竹﨑:日本柔道の意識改革、行動改革を進めた井上ジャパンは、2016年のリオデジャネイロオリンピックで金メダル2個を含む、全7階級でのメダル獲得という快挙を成し遂げました。当時の心境はどうでしたか? 満足な結果でしたよね?
井上:そうですね。柔道が初めてオリンピック競技になった1964年の東京オリンピック以来初めて、全7階級でのメダル獲得となりました。まさに偉業だったと思います。あえて「偉業」と申し上げた理由としては、選手たちのがんばりはもちろんのこと、スタッフやコーチなど所属の方々、またそれを取り巻く柔道関係のみなさま、応援してくださったたくさんの方々のおかげだなと心から思っているからなんですね。
でも一監督として、冷静にあの時のメンバーの力を考えると、さらにメダルの色を変えることもできたと思います。だから、大成功とはまったく思っていなくて。
竹﨑:そうなんですか!?
井上:振り返ってみると、「まだまだ課題がたくさんあるな」という思いが強かった大会でした。
竹﨑:すごくストイックなんですね。日本中が大いに盛り上がりましたし、素晴らしい結果だと思いますが、「次はこうしていこう」という考えが浮かんでいたんですね。
井上:別に謙遜しているわけではないんですよ。データや状況を客観的に見ても、色を変えるチャンスはあったんです。私は2012年から監督をやっていました。そこからリオまでの4年間に、しっかりチーム作りの基盤を築き上げることができたんですね。ここでしっかり土台ができたからこその、その後の東京オリンピックでの結果があったと私は思っています。
リオ組ももちろんですが、それ以外の選手たちも、いろんな変化がある中で、信じて一緒に戦ってくれた。だからこそ、かたちが作れたんだなと強く思いますね。リオ組は、東京オリンピック組が目立ちすぎたこともあって、「我々が忘れられているんじゃないか」と言っていましたが、「そんなことないよ。お前たちのおかげだよ」と、この場で伝えさせてもらいます(笑)。
竹﨑:もちろんリオでの飛躍が東京につながっているんだと思います。そのリオの後に、「『負けた集団』というものを意識し続ける」という言葉を目にしました。リオでこれだけ結果を残しながらも「負けたもの」という考えに至るのは、どういうことなんですか?
井上:そうですね。負けたものというか……。私自身もロンドンオリンピックを経験したり、選手時代にも負けを経験する中で思うところがありまして。人間は、何か物事を過信していたり、おごりが出たりする時に、ゆるみが出てしまうんですね。
自己肯定力を持ち続けることも間違いなく大事ですが、その半面、常に危機感や危機意識、不安や恐怖を持つことによって甘えや隙を埋められるんじゃないかと。ですから、常にそういう意識を持ちながら戦わせてもらった部分はありますね。
でもリオで全階級メダルを取ったという現状は変えることはできないので、そこから東京オリンピックに向けて、より一層の成果を上げるために何をすべきかを考えました。物事をゼロベースで考えず、そこからどうアップデートさせて東京に臨むのか。こう考えながらやっていましたね。
竹﨑:本当に、ストイックさが進化につながっているんだと思います。東京オリンピックは、日本の柔道界にとって別格のプレッシャーだったとお聞きしました。今振り返ってみて、どんな大会でしたか?
井上:やっぱりプレッシャーはありましたね(笑)。
竹﨑:そうですよね。
井上:非常に大きな期待をいただいていたので、プレッシャーや恐怖を感じながら日々過ごしていたところもありますが、代表監督としてこれほどの生きがい、やりがいを感じられる時期もないだろうと思いましたね。プレッシャーが嫌で逃げ出したいのであれば、そもそも監督を引き受けるべきじゃないと割り切っていました。戦っていくためには、覚悟を決める、腹を決めるということが非常に大事だと思います。
「東京オリンピックまで自分が代表監督をやらせてもらう」と決めた以上は、「言い訳は一切無用。もう覚悟を決めてやる」という気持ちで戦っていましたね。
竹﨑:そんな覚悟を決めて臨まれた東京オリンピックでは、柔道男子史上最多となる5個の金メダルをはじめ、集大成と言える輝かしい結果を残されました。選手ではなく、監督としてその頂点を経験されて、どんな心境になりましたか?
井上:金メダルを取った5名の選手もいれば、敗れた2名の選手もいる。また団体戦では銀メダルに終わってしまいました。「選手たちはよくがんばったな」と、戦いを終えた気持ちもある一方で、「もっともっとやれることがあった」という思いも、正直なところありました。
でも、それをすべて吹き飛ばしてくれるような出来事があったんですね。選手たちが胴上げしてくれて。その瞬間、もうすべてが吹き飛んでしまって、めちゃめちゃ泣いてしまいましたね(笑)。
竹﨑:そうですよね。
井上:本当にうれしいというか、「この選手たち、スタッフたちと戦えて幸せだったな」と思いましたね。
竹﨑:育て上げてきた選手たちが、輝かしい舞台に立ったこと。本当に感動的ですね。
井上:そうですね。ともに成長できて、ともに戦えて。そこが一番でしたね。
竹﨑:お子さんたちから、手作りの金メダルをもらったということですが、それもうれしいですよね。
井上:いやぁ、うれしかったですね。帰ってきて子どもたちがひと言、「パパ、げっそりしてるね」と(笑)。
竹﨑:(笑)。
井上:それほどの状況だったんだなと。「子どもたちもわかっていたんだな」と思いました。その後、子どもたちからもらった特大の金メダルが、私にとって何よりの報酬、プレゼントでした。うれしかったです。
竹﨑:お子さんたちもよく見ていますね(笑)。
井上:そうですね。よく見ていますね。うれしかったです。
竹﨑:井上さんは選手と一緒になって戦う、寄り添うイメージがあります。理想のリーダー像などは、何かございますか?
井上:理想のリーダー像はあまりないですね。「こうあるべきだ!」みたいなものは実はそんなになくて。状況に応じて柔軟に、ふらりふらりと(いろんなやり方を)使いこなしています。
監督として、また一人間として何事に対しても持ち続けたいのは「熱意と創意と誠意」ですね。この軸を持ちながら、世の中のいろんなものが変わっていく時代ですので、柔軟に対応しながら取り組んでいきたいと思っています。
竹﨑:「熱意と創意と誠意」は、どんな職業においても必要なことですよね。では、私からの最後の質問となります。今はどのように過ごされていて、今後どんなことに挑戦したいですか?
井上:今現在は監督としての活動を終えて、全日本柔道連盟の強化委員会の副委員長として、「強化の現場」で戦わせていただいています。また、その他にも普及活動などさまざまなことを行っています。一柔道家として、これからも柔道の魅力や価値をもっともっと感じ取ってもらいたい。そのために、できることは何でも協力していきたいですね。
またその先は、「柔道の修行によって得たことを活かして、社会に還元できる人間になっていく」という理想を持っています。これは柔道の創設者である嘉納治五郎先生が説いていらっしゃる言葉なんですね。「これが柔道の究極の目的なんだ」とお話しされています。
私の今の現場での活動、そして今後の活動が、みなさんの心の活力となるように、またかたちとしても何か社会に還元できるものを作っていきたいと思っています。柔道というもの、スポーツを通じて、社会に何かを伝えていきたいですね。
竹﨑:我々も、柔道の魅力を社会に伝える、その一端を担うことができたらいいなと思っています。
井上:ぜひよろしくお願いします。
竹﨑:今回はたくさんの方が見てくださっていて、質問もお受けしていますので、時間の許す限り井上さんにお答えいただきたいと思います。最初の質問は「選手のどこを見て、かける言葉を変えているのでしょうか。会社の部下の声掛けに活かしたいです」というものですね。
井上:そうですね。選手一人ひとりのキャラクターを見ていかなきゃいけないのが1つと、あとは状況ですね。キャラクターだけで判断してしまうことなく、状況も見極める。今は明るい状況なのか、暗い状況なのかで掛ける言葉はまったく変わってくるので、そこをしっかり見て言葉選びをしていましたね。
また本人に伝わらないと意味がないので、もちろんカーブを投げることもあるけど、大事な部分はできるだけ直球で話すことを心がけていました。まだまだ、この部分において自分は勉強不足なので、もっともっと言葉の力を付けていきたいですね。
竹﨑:そうなんですね。負けた試合の後など、ちょっと気遣う場面も多いと思いますが、状況とキャラクターを見ながら言葉選びをしていくということですね。
井上:そうですね。
竹﨑:では続いての質問です。「指導する際、参考になった他のスポーツの取り組みや異分野の考え方などはありましたか」ということですね。
井上:他のスポーツにも学ぶことがたくさんありました。またスポーツに限らずゲームや企業など、いろんな分野にも我々と共通することは多いですね。ですから、全日本としてもそういう活動を取り入れていきながら、選手に共有してスキルアップにつなげていきました。
私は、これからの時代、より他分野から学ぶ姿勢が求められてくると思います。また私もスポーツ側の人間として、柔道家として、先ほど言ったように何か世の中に発信することができればうれしいですね。
竹﨑:何事も経験してみないとわからないですもんね。
井上:そうですね。経験はやっぱり力ですよね。
竹﨑:いろんなことに興味を持って、試してみることは必要ですね。では最後に、本日見てくださっているたくさんのビジネスパーソンの方へ、井上さんからメッセージをいただきたいと思います。
井上:本日は、本当にありがとうございました。また日頃より柔道家、スポーツ界に多大なご声援をいただきましてありがとうございます。これからもみなさまとともにスポーツを、柔道を盛り上げていきながら、この社会に何かの力となっていけるように活動していきたいと思っています。引き続き応援のほど、よろしくお願いします。
竹﨑:応援しております。今回はご登壇いただきまして、誠にありがとうございました。井上康生さんでした。
井上:ありがとうございました。
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